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『FFXIV』吉田氏&織田氏gamescom 2019インタビュー!イデア、影の王など『漆黒編』世界設定について尋ねる

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 先日ドイツのケルンで開催された欧州最大のゲームイベントgamescom 2019。現地では『FFXIV』プロデューサー兼ディレクター・吉田直樹氏と世界設定/メインシナリオライター・織田万里氏による開発者パネルも配信され、『漆黒のヴィランズ』世界設定にまつわる裏話が明かされました。そんななか今回は、その前日に行われたお2方のインタビューをお届け! 第一世界制作時のお話や古代人についてなどなど濃く語っていただいています。

大反響の『漆黒のヴィランズ』
リリース前後の状況について

――パッチ5.0のリリースから、もうすぐ2カ月が経過します。『漆黒編』メインストーリーについてプレイヤーさんからかなり好意的な感想が届いているかと思いますが、まずはお2人の率直な感想をお聞かせください。

吉田直樹氏(以下、敬称略):そこは素直に「うれしい」のひとことですね。

織田万里氏(以下、敬称略):そうですね、ただただうれしいです。

――プレイヤーさんの声を受けて、逆に「あ、こういう反応があるんだ」と驚いた部分はありますか?

吉田:そもそも、評価の反響が想像以上で驚きました。今回の反響について先日織田と話していたのが「最近はこういう物語のほうが好まれるのかな?」ということです。我々としては政治劇や人間の醜い部分、歴史・民族・宗教の違いによる争いを描くのも『FFXIV』だと思っていますが、今回の5.0メインストーリーでは、メオルやテスリーンの一件のようなダークな雰囲気がありつつも、“完全な悪人”はほぼいませんでしたよね。物語の展開としても、各地で問題を解決し、その道のりで出会った人たちがのちに全員集まって巨大タロースを起動し、ノルヴラントの人々全員で協力して闇の戦士の後押しをしてくれる……。少年漫画でいう“友情・努力・勝利”のような王道展開でした。もちろん今回はそういうストーリーとして作ったのですが、予想以上に評価が高かったので……意外と、今回のようなストレートな物語が受け入れられる時代なんだな、という感想を持ちましたね。

――たしかに。ただ個人的には、そういった展開に感動できたのもこれまでの積み重ねがあったればこそだったように思っています。これまで政治的な部分は暁の面々がうまく請け負ってくれていたけど、今回は政治的な画策がないぶん彼らとともに全員で目的に邁進することができて……「ついに一緒に戦えた」という感動が強かったのかなと。チーム感というか。フェイスの存在も大きかったように思います。ちなみに、gamescomに来場しているファンの反応はいかがでしたか?

吉田:じつはまだgamescom会場に出ることができていなくて……。なので、概ね今は現地メディアの方々の反応を見て察している状態です。彼らも『FFXIV』プレイヤーであることが多いので、みなさん興奮して、プレイヤー代表のように接してくださいました。「エキサイトしてくれたんだな」と、ダイレクトに感じましたね(笑)。

 全世界のフィードバックとしては、さきほどの答えがすべてです。僕らが想像していた以上に、すごくポジティブな反応をしていただきました。ゲームを作っている人間として、自分たちが一生懸命作ったものを「楽しい」と言って遊んでいただけるのは、とても幸せなことだと感じます。

織田:自分的には懸念のある部分もなくはなかったので、そこを含めて評価が高かったというのは、ホッとすると同時に素直にうれしかったですね。

――その懸念というのは、どういった部分だったのでしょうか?

織田:例えば、ロールクエストやミーン工芸館クエストです。これらは見方によっては“今までジョブ・クラス固有だったものが統合されてしまった”という印象を与えかねないですので……。ですが、そうしたところでも非常にいい反応が返ってきてくれていて、安心しました。

――それぞれでオリジナルストーリーが展開しつつ、濃いキャラクターも登場していておもしろかったです。とくにロールクエストは闇の戦士たちのその後を語りつつ“影の王”についての新事実もあって、非常に興味深く体験できました。

織田:“第一世界の物語を描くならば、闇の戦士一行についても語らなくてはいけないだろう”という思いはもちろん最初にありました。ですが、全メンバーをメインクエストでフォローしようとすると、1人ひとりに対しての扱いが薄くなってしまいます。それは避けたいなと。そこで、石川(夏子氏/メインシナリオライター)と相談のうえで、まずはメインストーリーではアルバート1人に集中して、そこで彼をしっかりと描き、重要な役割を背負わせるということを決めました。そこは、うまくできたと感じています。そのうえで、ほかのメンバーについてはロールクエストで補完することによって、それぞれのキャラクターの物語をフォローしていった形です。

――今回『漆黒のヴィランズ』の発売前からプレイヤー人口がかなり増えていったとのことですが、直近の人口はどのようになっているのでしょう?

吉田:先日の株主総会で社長の口から数字が出ましたが、あれは2年前の数字なので、じつはそれがピークではありません。今はもっと人数が増えているので、どこかでその数字を上書きしたものを発表したい気もします。とはいえ、最近も依然としてプレイヤー人口は増え続けておりますので、もっと人数が増えてからでもいいかなと思っているのが正直なところです。

 アクティブプレイヤーは100万人を超えましたし、課金者数も前人未到な領域に突入しています。中国版と韓国版を加えるともっと伸びます。『蒼天編』『紅蓮編』のときは、拡張後にピークを迎えて以降、そこからじょじょに人口が減っていきました。というのも、拡張のタイミングというのは、新規・復帰問わずプレイヤー人口が一気に増えます。その後、ストーリーをクリアしたら次の拡張を待とうというプレイヤーが一定数いるので、拡張リリース1カ月後の課金が切れるタイミングで、課金者数が減るのは普通のことなんです。

 ですが、今回はそうなっていません。もちろん休止者がいないわけではないのですが、それと同時にパッチ5.0の評判を聞いた方が続々と新規で始めてくれていて、そのバランスが取れている状態です。数の動きを見てみると、通常ではなかなか見ないパターンになっていますね。

――事前の想定よりも多くの方に遊んでもらえている状態なんですね。

吉田:それは間違いないです。もはや、予測不能な領域に片足を入れている状態かもしれません。そうなった要因としては、今の時代のコミュニティの力といいますか……。僕らの声ではなく、SNSで発信される“実際に遊んでいる人の声”のほうが信頼性が高くなってきているんだと感じています。僕らがいくら「すごいゲームを作ったよ」と話しても、「でも、PRなんでしょ?」と受け取られてしまいます。ですが、身近な友だちや家族が話すコメントは誰よりも信頼性が高く、そこがポジティブな声を発してくれていることはとても心強いですね。

 100人の声が1000人になると、10倍以上の効果をもたらします。それが数百万人ともなると、計り知れない力を発揮するんです。そこが、とてもいい相乗効果を発揮していて、そういう意味で予測ができない状態になってきています。

――SNSの反響は、日本だけでなく世界でという意味ですか?

吉田:そうですね。Reddit(海外で最大級のソーシャルニュースサイト)も含めて見ています。ちょっと照れくさいくらい好意的な反応もありますね。僕らとしては、拡張パッケージを毎回同じ思いで作っていますので、『漆黒のヴィランズ』がなにか特別なのかと言われても、僕らとしては“いつもどおりがんばって作った”だけなんです。もちろん、新生してから6年の想いが、シナリオの面でも消化された拡張パッケージだと思っていますし、これまでに培った経験値のすべてが詰め込まれています。そういったものと、ワールド間テレポなども含めてこれまで少しずつ準備してきたシステム的な強化が一気に噛み合った結果だと思っています。

――新規プレイヤーさんが増えてきたというお話の流れで、『新生編』について質問させてください。5.0メインストーリーの感動は『新生編』から遊んできたからこそという感慨があるので、個人的にはそこをスキップしてまで最新に追いつくべきとは絶対に言いたくはないのですが……現実問題として、これから新たに始める人にとって『新生編』のストーリーがやや長く感じるであろうなという懸念も否定できません。そういったところを対応するというお話は以前からされていましたが、どんな形で行われるのか、あらためて現時点でのお考えを聞かせてください。

吉田:現時点では、その手の入れ方の準備をしているところですね。『新生編』のメインストーリーを調整し、よりテンポよく『蒼天編』につなげられるような形で、パッチ5.X中には対応する予定です。また、それに合わせたいろいろな施策も考えているので、より多くの人にスムーズなゲーム体験をお届けできるよう調整していきます。

――クエストの総数なども調整されると思いますが、今後、“既存のプレイヤーだけが知っているNPCのセリフ”なども出てくるのでしょうか?

吉田:クエストの数自体は減らしますが、メインストーリーを進めるうえで“知っていなければいけない情報は絶対に削らない”という点は、シナリオ班がものすごく気を使って調整してくれています。ただ、例えば“悪い子シルフが暁の面々に化けるクエストが、メインストーリー上で本当に必要なのか”と言われれば、答えはNOですよね。そういったものは、ザクッと切っていくと思います。

――アクティブプレイヤーの数が明らかに増えていますが、5.0ではいっさい大きな障害を伴わずにプレイできました。人口の増加に伴うアクセス増加への対策は、どのような施策を採ったのでしょうか?

吉田:これは『蒼天編』から意識的に行ってきていることなのですが、じつはシステム的なものだけでなく、シナリオ側でも対策をしているんですよ。

織田:シナリオ的には、拡張パッケージのアップデート実装直後に混雑を解消するためのアイデアとして、“冒頭でシナリオを2ルートに分ける”“クエストインスタンスバトルの位置を調整する”といった工夫を行っています。エリアを複数のインスタンスに分けたり、クエストのインスタンスバトルが詰まらないように順番待ちの処理を入れていたり、といったシステム面でのさまざまな支えがある一方で、クエストの順番などの設定部分でも綿密に計算を行っているんですよ。

吉田:『漆黒編』で言えばアルフィノルートとアリゼールート、『蒼天編』ではフォルタン家の兄と弟ルートがそれにあたります。拡張の初期マップというのは一気に人が雪崩込んでくるので、シナリオ側でも工夫してAルートとBルートを並行して進められるようにしてもらいました。その際、どちらに進んでも得られるものは完全に同じで、“○○のほうがオイシイ”という状況は絶対に避けてくれと、無茶なお願いをしています。

――企画段階で、そういった対策を講じられていたんですね。

織田:それでも、『紅蓮編』ではいわゆる“ラウバーン討滅戦”と呼ばれる現象を引き起こしてしまったのは事実です。それを受けて今回は“シナリオの早い段階で、人が詰まるようなインスタンスバトルを入れるのはやめよう”というつくりにしています。こういった工夫は、まさに過去の経験値から得たものですね。

吉田:僕らは、これまで不測の事態を何度か経験してきています。その失敗は失敗として反省したうえで、「シナリオとして譲れない部分があるならシステムでサポートする方法を考えよう」と動いていました。そういう背景があり、じつはパッチ4.5でクエストインスタンスバトルへの突入申請を裏で順番に処理する仕組みを導入して、テストを行っていたんです。

 そのシステムが正常に動いていることを確認したうえで、5.0ではサーバー班にプレイヤーの動きをヒートマップとして想定してもらいました。プレイの進行速度は人によってバラバラなので、シナリオが進むほど、エリアの密度は下がっていきますよね。それを踏まえて、例えば序盤のコンテンツには10000のインスタンスを割り当てておいて、どんなに混雑してもサーバーダウンしないように……といった対策をしておきました。逆にラストダンジョンに人が殺到することはないので、極限までインスタンス数を絞って、そのぶんを序盤の方に回すといった具合です。それをパッチ5.0エリア全域で綿密に計算した結果、想定通りキレイに働いたということですね。

織田:それでも、サーバー使用率的にはけっこうギリギリの水際だったので、ヒヤヒヤしていました(笑)。

吉田:正直なところ、織田が言ったとおりでして。『新生編』のときをはるかに超えるアクティブプレイヤー数なので、本当にギリギリのギリギリで、限界値のラインにビッタリ張り付いたまま……たまにわずかに超えたりもしつつ推移していました。もし、プレイヤー数があと1.2倍いたら、破綻していたと思います。

――それはハラハラしますね。

吉田:プレイヤーのみなさんには申し訳ないと思いますが、リアルタイムで24時間張り付いて、アクセス制限やロビー待機の人数を調整しながらギリギリのラインを保っていました。ここは、運に助けられたところもあったと思います。あれ以上は、物理サーバーの限界値を超えてしまうので……そこまで行かなくてよかったです。

――オンラインゲームの拡張時はサーバー関係のアクシデントが付きものというイメージはありますが、そういったことがまったく発生しないのは本当にスゴイと感じました。

吉田:開発・運営チームの努力の賜物ですね。作る側も運営する側もいい意味でプライドが高くて、“ラウバーン討滅戦”のようなことを2回も繰り返してしまったら本当に恥ずかしいという思いがありました。ただ、そこまでやってなお何があってもおかしくはない状況だったので、すべてを徹底して調整してきたのが、ギリギリのところでうまくいったんだと思います。

――僕らが安定して遊べている裏には、そういった細かい調整や努力の積み重ねがあったんですね。

吉田:そういう意味でよかったなと思ったのは、みなさんが“安定して遊べる”と認識してくださったので、寝るときはちゃんとログアウトしてくれたことですね(笑)。プレイヤーのみなさんが協力してくださったので、強制再起動みたいなことはしなくて済みました。

じつはボスのHPがいつもより控えめ!
希望の園エデン零式:覚醒編制作秘話

――希望の園エデン零式:覚醒編は、海外チームが約14時間で踏破していました。今回は、大型拡張後初の零式ということで、難易度を抑えめにしたのでしょうか?

吉田:じつは、拡張後の初レイドは通常時よりもHPを10%ほど下げるのが通例だったのですが、今回は全層のHPを15%下げることにしました。これは、今回のジョブ調整でロールごとの役割を大きく変えたので、おそらく多くの人がスキルローテーションを整えていないだろうという考えが1つあります。別の理由としては、『FFXIV』は高難度レイドバトルに挑戦する人口が、ほかのオンラインRPGと比べて明らかに多いことです。なので、今回は拡張後初のレイドということもあり、よりたくさんの人にクリアしてもらおうという意図がありました。そうしないと、次のレイドにチャレンジする人が減ってしまいますので。

――なるほど。間口を広げていたんですね。

吉田:トッププレイヤーの人たちには零式の上の“絶”がありますから、零式の場合、我々はもう何時間・何日でクリアされるというのは考えておらず、これぐらいだったらみんなが楽しめるだろうという難易度にしてあります。開発チームでは「4層はもうひと晩保つかな」と話していたのですが、今回も早かったですね(笑)。

――前後半制でなかったのも大きかった気がしますね。

吉田:前後半にすると、毎週消化するのがきついというフィードバックが少なからずあったので……零式にしかない要素はちゃんと用意しつつ、前後半を分けない形にしました。同じパターンの繰り返しはマンネリを生んでしまいますし。であれば、今回は実験的に1バトル通して挑む長めのものを作って、プレイヤーのみなさんの反応を見てみようと。「やっぱり前後半がいい」というフィードバックが多ければ、次以降の制作に活かしていけばいいかなと思っています

――設定的な話になりますが、1層ではエデン・プライムが登場し、3~4層では光の戦士の妄想力が試されるなど、ボスそのものがとても興味深かったです。今回のボスは、どういった経緯で決定されていったのかを教えてください。

吉田:もともと、以前からストックされていたレイドバトル案の1つとして、「『FFXIV』以外の、過去シリーズ作品の召喚獣と戦う」というものがありました。『紅蓮のリベレーター』をリリースした直後に、僕が“5.0は第一世界に行って光を切り裂き闇を取り戻す戦いである”という概要を決めた際、「似て非なる世界へ行くのだから、その地域なりのイフリートやタイタンが出てきてもいいのでは?」という構想が使えるな、と。ただ、そこからしばらくは進展がありませんでした。

織田:次に話が進んだのが、シナリオ合宿(吉田氏とシナリオ班で行う次回拡張パッケージの物語の大枠を決める会議)でパッチ5.0ラストの展開が決まったときです。その結末が決まった際に、8人レイドは光の氾濫で失われた大地を取り戻すストーリーがいいのではという流れになり、テーマとして楽園という意味を持つ『FFVIII』のG.F.(ガーディアンフォース)“エデン”がマッチするだろうという案が出てきました。

 とはいえ『FFVIII』のエデンには深いロアがあったわけではないので、そこに関しては自由に定義できるという解釈のもと、“失われた属性を元に戻す”というシナリオ上のアイデアと、さきほどの異なる世界の召喚獣というアイデアを組み合わせれば、1つのストーリーを作れそうだと考えました。

――そうやって、希望の園エデンという8人レイドが作られていったんですね。

吉田:エデン・プライムが1層ボスとなっている理由ですが……そもそもこれまでは「レイドのタイトルになっている対象は一番最後に戦うもの」という認識がありましたよね。バトル班的には“タイトルが発表されても、そいつと戦えるのは最後”という常識をひっくり返したかったんです。また、織田のほうから「どうしてもエデンを乗り物にしたい」という要望もあったので、サプライズ的にエデン・プライムと最初に戦う形になりました。

織田:これまではアレキサンダーにしろオメガにしろ、いずれも攻略の最終目標だったわけですが、今回のエデンはあくまで自分たちの力であると定義したほうが違いを出せるのではないかと。6年も続いているタイトルですので、やはりマンネリ化が怖いというところもあり、ちょっと変化球を投げた感じです。ただ、先にエデン・プライムを出したせいで、「ファンフェスティバルで発表するためのコンセプトアートをどうするんだ?」を決めるのがすごくたいへんでした。最終的には、無の大地に若葉が芽吹くというシンプルなものに落ち着きましたが。

吉田:今のレイドプレイヤーは「最後に待ち受ける敵は何なのか?」という部分を疑問に思っているはずです。それが、僕らの狙いの1つですね。ひねくれ者ぞろいの『FFXIV』開発チームですから、「みなさんの予想どおりにいくかな?」という意味も込めて、今後も楽しみにしてもらえればと(笑)。また、哲さん(野村哲也氏)に書いてもらったキャラクター“ガイア”が本格的に暴れ始めるのは次からになるので、そのあたりもストーリーとともに楽しみにしてもらえればと思います。

創造魔法は如何にして生まれたのか?
『漆黒のヴィランズ』にまつわる世界設定を語る

――ここからは世界設定面のお話を重点的に聞かせていただければと思います。まず根本的な部分の質問ですが、第一世界という新しい世界を作るにあたって、まずどういったところからどのように構築していったのでしょうか?

織田:第一世界という真新しい世界を作るとなるとどうしても語らなくてはいけない・作らなくてはいけない要素が膨大になってしまいますが、それを一気にプレイヤーのみなさんに提示してしまうと情報量がパンクしてしまうだろうということが懸念としてありました。なので、“本当に知っておいてほしい、伝えるべき重要な情報”をかなり絞って、メインストーリーとサイドクエストの両方で徹底的に伝えるということを意識し、まずはその“伝えるべき重要な情報は何か”を整理するところから始めています。

――その重要な情報とは、例えば“光の氾濫が起きて、生き残った人々が罪喰いと戦っている”という根幹の設定などですか?

織田:それも伝えるべき情報の1つですね。新しい世界を作るということは、想像をいくらでも膨らませられるというチャンスでもあります。凝ろうと思えばいくらでもできるのですが、凝りすぎてしまうと逆にわかりにくくなったり、伝えるべき情報が増えてしまいますので、“砂漠の街だったらこんなイメージだよね”というように、あえて一発で理解できる要素を意識して増やしています。こうすることで、本当に伝えたい“罪喰いの驚異”などとの住み分けを行っていました。

――分かたれた世界でありながら、似た歴史・国家などを連想させる作りになっているのは、あえて狙った部分なんですね。

織田:そうなります。例えば“砂漠には、貿易に特化したナバスアレンという都市がありました”という設定は、ウルダハという前例があるからこそ多くを語らずとも理解しやすいものになっています。ここをまるっきり違う歴史・特性のものにすることもできましたが、それはあえてやっていません。

――そんななかで、逆に意識して新しい試みを盛り込んだ要素としては何がありますか? 個人的にはイル・メグなどがそうなのかなという印象です。

織田:まさにイル・メグがそうですね。異なる歴史を歩んでいたという意味で、原初世界でクルザス地方にあたるイル・メグは、第七霊災を経ていないので寒冷化していません。そして、『旧FFXIV』のクルザスのような緑がある高山地帯をベースにしながら、特徴的なものとして“妖精”という要素を組み込みました。この妖精にしてみても、中世ヨーロッパやケルト神話の妖精文化をベースにすることで、わかりにくくなることを回避しています。

吉田:「『ロード・オブ・ザ・リング』の裂け谷をそのまま作ればいいんだ」みたいなことを話していましたよ(笑)。そもそもオンラインRPGというのは設定が膨大で、一見さんお断りなイメージも少なからずあるので、そうやってわかりやすく作らないといけないんです。とくに、今回はストレートに物語を楽しんでもらうために、徹底的にわかりやすくしてくれたと思います。

――わかりやすいながらも、掘り下げればしっかりと深いところまで設定があって、世界設定好きとしても満足でした。

吉田:“興味を持って調べてもらえば情報が出てくるけど、ストーリーを素直に楽しみたいならむりしなくてもいい”というさじ加減は、織田が全体をコントロールしてくれています。そういった深い部分を無理に表面に出していないのが、織田の上手さだと思いますね。

――イル・メグの流れであえて、あえて聞いてしまうのですが……結局、ジャイアントビーバーって何だったんですか……?

織田:ビーバーの流れは僕が書いたのですが、多くは語りたくないですね(笑)。

吉田:……だそうです(笑)。

――さきほども少し話が出ていましたが、ロールクエストはかなり世界設定の深いところに踏み込んだ内容になっていました。そこで登場した、アルバートたちの敵“影の王”のストーリーについてや、影の王が自らを成長させた能力(光の戦士が“選ばなかった”心を拾って自らのものとし強くなった)の着想はどこからきたのかなどなど、ぜひ教えてください。

織田:そうですね……“暗黒騎士のジョブクエスト”というのは、“英雄とはなにか”というところにフィーチャーした物語になっていまして、あれは“何も捨てずに、すべてを得ようとした物語”でした。では“ほかの英雄たちはどうだったのか”というのが、今回の彼らの物語を作るうえで着想の1つになっています。

 英雄というのは、多くの人々を救ったという事実が大前提としてありますが、彼らとて冒険の過程ですべてを救えたわけではないと思っています。そんななかで、彼らは自分が果たしたかった願望を捨ててまで、他人のために何かを成し遂げました。それは一見するととてもいい行為ではあるのですが、英雄個人にとっては不幸であるという図式が成り立ちます。それを受け入れる覚悟、そしてそれを受け入れるために捨てた心には相応の力が宿っているはずだ……という構想が、影の王の能力や、それに関連するストーリーの始まりですね。

吉田:覚悟をもって捨てたものというのは、“想い”としては想像以上のパワーを持っていて、影の王はそれらを自らのものにすることによって力を得たということですね。

――闇の戦士たちが覚悟して切り捨てた想いを、影の王が拾っていったということですね。次に、古代人関係についてお伺いします。今回、古代人の“創造魔法”という要素が登場しましたが、光の戦士が使うアクションにもそれっぽいものがある気がするのですが……?

吉田:それは考えすぎです(笑)。そこを関連付けると制作のうえで足かせになりかねないので、明確に否定しておきます。

――なるほど。では、最後のエリアとして登場したアーモロートですが、あの舞台を作る際にアート班といろいろなやり取りがあったと思います。その際に、どういった外観・雰囲気にしてほしいとリクエストしたのでしょうか?

織田:もともと開発名称では“アトランティス”と呼んでいたのですが、その言葉から連想するのは超古代文明だと思います。“古代文明ではあるものの、マヤやアステカといった石造りの原始的なものではなく、今の文明よりもよほど進んでいた文明である”“ただ、SFにはなりすぎない”という微妙なさじ加減を、さまざまな作品の画像資料を用意して、“こういったエッセンスがいい”とアート班と共有しました。そのうえで、アート班の方々からもいろいろなアイデアを出してもらい、それをプリントアウトしたものを会議室に並べて、吉田やシナリオ班、BG班で話し合い、それらを組み合わせながら作っていきました。

吉田:アーモロートに関しては、それこそ創造魔法に近くて(笑)。僕らの情報を聞いたアート班が、それをどう解釈するかに賭けたほうがおもしろそうだなと思ったんです。今、まさに織田が言ったようなイメージに加え、“機械はやめてくれ”“一見して不思議な構造美を持っている”“シンプルで力強さがある”“解析不能な高硬度のもので作られている”といった無茶なオーダーを“ファンタジックに仕上げてくれ”と伝え、それを聞いたアート班が思いつくものをたくさん描いてもらった中から「これだ」というものを選びました。

――アーモロートや創造魔法を描くにあたって、重要になってくるのが“イデア(概念)”という設定だと思います。そもそも創造魔法における“イデア”の着想はどこから得たのかを教えてください。

織田:まず、古代人の文明を滅ぼした災厄とは何だったのか、という考察から始めています。石川が考えたラフ案のプロットで「神話的、黙示録的な災厄が起きて、文明が滅びそうになったときにゾディアークを召喚した」という流れがあり、その“災厄”とは何だったのかというロジックをつめていくにあたり、古代人の扱う蛮神召喚の原型となる術を掘り下げて紐づけることを世界設定班の側から提案しました。

 何でも生み出せる神の如き力があったところに、ちょっとした恐怖心や心の隙から意図しないものが生まれてしまい、それを見たものがさらなる恐怖心を抱く。それが連鎖的につながっていって恐怖がふくらみ、人類の集合的な無意識が出てきてしまう……。その現象を災厄と定義して、それに必要なものとして、正しく管理されていた時代の創造魔法の在り方としてイデアという設定が後から考案されました。このように、“災厄”から逆算して作ったアイデアがイデアになります。

吉田:ちなみに、アーモロートのデザインを発注している段階では、イデアという設定はありませんでした。僕らは短い開発期間で作っているので、「いいだろう」と思いついたアイデアと、世界設定側がその制約条件からひねり出したおもしろさというものをコンバインして作っていっているんです。先日のプロデューサーレターLIVEで「伏線はあとからでも作れる」というお話をしましたが……我々には想像力がありますので、散りばめられた事象から物語をあとから紡ぐこともできる……。そういったトリッキーさが、『FFXIV』チームの持ち味ですが……このようなゲームの作り方はあまり一般的ではないと思います。

――これまで積み重ねてきたノウハウがあるからこその手法ですね。

吉田:今日のいくつかのインタビューで「ストーリーはどうやって作っているのか?」という質問を受けましたが、じつはボイスがあるパートを優先してライティングしているんです。これは4言語収録する兼ね合いで、進行がとてつもなく早いからです。リリースよりもかなり前にボイスシーンをFIXしていないといけないので、細かいプロットができたらボイスシーンのセリフから書いていきます。それ以外のシーンは、まだ空白で「こんなことしゃべるかも」ぐらいしか書いてない。ですので、あとからボイスシーンが盛り上がるように、それ以外のシーンを構成していきます。

――それって、言ってしまえば、メインクエストラストのシーンを先に作っているということですよね?

織田:そういうことになります。

吉田:直前のボイスがないシーンとかは、収録時に何も書かれていません。なので、アーモロート市民の話は当時何ひとつなく、石川の頭の中にだけ。

――アーモロート市民のシーンがあるからこそ、エメトセルクのシーンの味が出ているとも思うので……その盛り上げ方は素直にスゴイと感じます。

織田:よかったです(笑)。

吉田:我々、わりと毎回綱渡りをしていますね(苦笑)。

――では最後に、日本のプレイヤーに向けてひとことずつお願いします。

織田:期待してくださっているところをいい意味で裏切っていけたらなと、これからも新しいチャレンジを続けていきたいと思っています。僕らも、ぼちぼち次のシナリオ合宿のことも考えなくてはいけない時期に近づいてきているので、それまでにいろいろとネタを仕込んでおきたいですね。

吉田:僕も、だいたいの構想は決めているのですが、9月中には次の拡張パッケージのオープニングムービーの字コンテを作らないといけません。また、織田が言ったとおり、これからは我々が今共有しているラストに向けて、「本当に今の構想でいいのか? もうちょっとひねるべきか?」といった部分をシナリオ合宿で喧々諤々やっていくことになります。

 それと同時に、『漆黒のヴィランズ』5.Xシリーズもまだまだ続いていきます。シナリオも楽しみにしていただきたいですし、ストーリーだけでなくゲーム体験の幅を広げる要素もパッチ5.Xシリーズで多く計画しており、もう1段『FFXIV』が成長するための仕掛けはゲーム内外でやっていくつもりです。「相変わらず、おもしろいことをするなぁ」と感じてもらえるようなことをいろいろやっていこうと思いますので、ぜひこれからもご注目していただけるとうれしいです。

――ありがとうございました!

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