映画『あなたの番です』を見たら、あのゲームを思い出しました(ネタバレなし…のはず)

そみん
公開日時

 いやあ、『あなたの番です 劇場版』、面白かったっす!

 約2時間という尺で『あな番』のテンポのよさや謎解き・考察の楽しさが損なわれないか、ちょっと心配でしたが……自分的には杞憂でした! ぎゅぎゅっと『あな番』らしさが圧縮されてました。

 で、ゲーマー視点でちょっとした雑談をさせていただこうと思います。作品の直接的なネタバレはありませんが、間接的にネタバレになってしまうことはありうるので、『あな番』のテレビ版や映画版を見ていない方はご注意くださいませ。

映画『あなたの番です』を見たら、あのゲームを思い出しました

 さて、自分が映画『あなたの番です』を見終えて脳裏をよぎったのは、とあるゲームでした。

 なんて書くと、「それって、『逆転裁判』とか『ダンガンロンパ』とか謎解きアドベンチャーゲームのことでしょ」とか思われそうですが、ちょっと違います。

 テレビ版『あなたの番です』自体は交換殺人をテーマとしたデスゲーム的な内容となっていますが、そういった物語概要がどうこうということはありません。そもそも劇場版『あなたの番です』は船上での結婚式から始まる殺人事件という感じで、テレビ版とはいろいろと味わいが異なる部分がありますしね。

実写作品のアニメ・ゲーム的な演出って、クオリティが高くなってますよね

 ちょっと寄り道ですが、この10年くらいで実写ドラマのアニメ演出的なクオリティって、めちゃくちゃ上がりましたよね。2009年公開の映画『のだめカンタービレ 最終楽章』のいい意味でリアリティを無視したアニメ的な演出は面白かったですし、2012年にテレビ放送された堺雅人さん主演のドラマ『リーガル・ハイ』のテンポがよすぎる演出はまさにゲーム的かつアニメ的な大傑作でした。

 CG演出や特殊なカメラワーク・撮影技術などによって、実写作品においてもアニメ・ゲームファンがニヤニヤできちゃう作品はたくさんあります。そして、『あなたの番です』なんかはその白眉たる例のひとつかと。クセモノぞろいの登場人物とか、オランウータンタイムみたいなインパクトがある主人公のルーチンとか、いい意味でアニメ・ゲーム的。

 絵の見せ方や音の使い方、伏線の張り方やさりげない小ネタの盛り込み方とか、本当にエンターテイメント作品だなあと思います。謎解きミステリーとしての意外性や驚かせ方も、もちろん魅力ですけどね。

劇場版『あな番』は“物語分岐”の見せ方がうまい! そして、“ゲームの2周目を遊ぶ感覚”に似ている

 そろそろ話を本題に戻しましょう。結論から言いまして、劇場版『あな番』は“物語分岐”の見せ方がうまい! ということが、とあるゲームの思い出につながっていきます。

 ループ世界や行動の違いが物語の分岐につながる構造はゲームだけのものでなく、アニメでもおなじみです。実写作品でもそういった仕掛けはおなじみになってきていますが、今回の劇場版『あな番』は、その描き方が本当にうまいんですね。

 これは映画公開前から告知されていたことなので、大きなネタバレではないという認識ですが、劇場版は「あの“交換殺人ゲーム”が始まらなかったら……」という、もしもの世界を描く作品です。

 具体的には、テレビ版1話でのマンションの住民会に菜奈ちゃんではなく翔太くんが参加したことにより、交換殺人ゲームが起こらなくなっちゃったんですね。

 で、誰も殺されずに2年がたち、翔太と菜奈の結婚式を船上で行うことになり……と物語が進んでいきます。

 ここで視聴者視点では、いろいろと不思議な感覚があるというか、いわゆる“物語の結末を知っている2周目視点”を味わえるわけですね。

 劇場版では交換殺人は起こらないものの、視聴者である我々は、そこで起きた殺し合いを知っている。登場人物たちが表沙汰にしていない、隠された恥部や罪、愛や憎しみを知っているわけで。

 このへん、ループというより、1周目の記憶をともなって、かつ登場人物ではない外の世界から物語を見るという流れとなるので、“ゲームの2周目を遊ぶ感覚”に非常に似ているわけですね。

 1周目(テレビ版)だとこいつがこいつを殺したけど、2周目(劇場版)だとどうなる? 事件をきっかけに出会った、あの人とあの人が出会わなくなっちゃったけど、どうなるの? という、1つの結末を知っているからこそのワクワク感を楽しめるわけですね。これ、ほんと楽しい。

 もちろん、すべてがすべて1周目をなぞるわけではないのですが、むしろ、そこがいい! このへん、絶対にわざと脚本や演出を考えていると思いますが、「あ! この展開ということは次は……!」と誘導(ミスリード含む)されたり、1周目の重要アイテムが2周目の意外な場面で活躍したりしなかったりと、そういう“1周目を知っているからこそ楽しめる小ネタ”が満載なんですよ、劇場版『あな番』って。

 あ、一応フォローしておくと、テレビ版を見ずに劇場版から見始めても作品は楽しめると思います。単体作品として物語が完結しているので。

 でもですね、絶対にテレビ版→劇場版という順番がおすすめです。テレビ版では引っ張った伏線や謎について、劇場版では序盤からばんばんと見せちゃいますので。そういう意味では、先に劇場版を見ちゃうのは損だと断言したいです。通じるかわかりませんが、『逆転裁判2』を遊んだ後に『逆転裁判1』を遊ぶと、「ああああ、もったいなかった!」と思うこともあるかと思います。

 おっと、また横道にずれそうだったので、本題の続きをば。この“ゲームの2周目を遊ぶ感覚”として大きなポイントになってくるのが、テレビ版を見た視聴者は真犯人、いわばラスボスを知っているということです。

 このシチュエーション、燃えません? だって、劇場版の世界では殺人犯が一般人として普通にふるまってるのに、我々2周目プレイヤーは真犯人を知っているわけですよ?

 で、ここが僕の感じた「あのゲームを思い出した」につながるわけです。

 そのゲームは……『Fate/stay night』(フェイト・ステイナイト)です!

同じ世界(人間関係・登場人物)を使った物語分岐が面白すぎる!

 勘が鋭い方なら、ここまでの説明で『Fate/stay night』との関連性がわかっていただけるかと思いますが、もうちょっと説明を続けます。

 ここから先、ちょっとだけ『Fate/stay night』のネタバレになりうる部分がありますが、そんなに物語のネタバレにはならないはず。

 さて、ゲーム『Fate/stay night』には3つの物語ルートが用意されており、主人公や登場人物が同じ世界でありながら、ルートごとにちょっと(でもないけど)違いが生じ、まったく異なる結末へと進んでいきます。

 この、同じ世界(人間関係・登場人物)というのがミソ。先ほど説明した『あな番』も同じ構図と言えるわけですね。

 なんといいますか、同じカードやコマで始めたはずなのに、行動の違いによって人々の関係性にも変化が生じ、物語が変わっていく。あるルートでは敵だったのに、あるルートでは味方になる!? なんて、マルチストーリーの楽しさですねえ。

 おっと、このへんで「そんなマルチストーリーのゲームなんて、もっと昔からあるでしょ」というツッコミが来る前に、もう少し補足をば。

 もしかしたら、アニメなどで『Fate/stay night』を知って、ゲームを遊んでいない方にはピンとこないかもしれませんが、『Fate/stay night』は3つのルートを好きな順番で遊べるわけでなく、ルートクリアによって新たなルートが開いていくルート順番固定型のストーリーだったんです。
(Fate(セイバールート)→Unlimited Blade Works(遠坂凛ルート)→Heaven's Feel(間桐桜ルート))

 こここそが、自分が劇場版『あな番』を見て、『Fate/stay night』を思い出した由縁であります。

 テレビ版の知識があるうえで劇場版を見るから物語を100%以上楽しめる。セイバールートの結末(ラスボス)やサーヴァントの動きを知っているからこそ、凛ルートで「えええええええ!?」ってなる感覚ですね。

 前述したように、テレビ版の真犯人が劇場版で、周りには気付かれずに別の人たちと行動している……この「俺だけが知っている事実を踏まえて、この物語はどうなっちゃうの!? 今回もラスボスになるの? それとも!?」みたいなワクワク感がすごいわけですね。

 そんなカタルシスをメインディッシュにしつつ、1周目とは異なる物語展開でありながらも“変わらない運命・因果”がちらほら見え隠れするのも、2周目プレイヤーならではのニヤニヤポイントです。

 交換殺人ゲームが起こらなかったからこそ、テレビ版では出会った人々が出会わないまま2年が過ぎていたりするわけですが……でも、運命って不思議ですよねっていう話。ネタバレになるから言わないけど。

 映画館で集中して見たものの、たぶん自分が見落とした小ネタもたくさんあるはず。そのうち答え合わせをせねば……!

 というわけで、物語のネタバレとは違う角度からの劇場版『あな番』の感想でした! 『あな番』はめっちゃ面白い作品なので、未見の方はぜひテレビドラマ番・劇場版とも履修してみてくださいませ!

劇場版を見る前に“空白の2年間”を見ておくのがおすすめ

 最後にちょっとだけアドバイスを。テレビ版と劇場版の“空白の2年間”については、『Hulu』で配信されている『あなたの番です 金曜ロードショー完全新撮スペシャル!!』で確認できます。
※2021年12月10日にテレビで放送されたもの。

 これ、ちょっとだけ不満なのですが、非常に重要なシーンだらけなので、この特番も劇場で放送してほしかったなあと。これまた、特番を見なくても劇場版は楽しめますが、特番を見てから劇場版を見るというのが、物語的に正しい順番かなと思います。

 余談ですが、自分は劇場版で尾野ちゃんが妊娠しているのは想像妊娠じゃないかと予測して映画館に行きました。特番時点でも驚きの展開が多いので、それらを宿題として自分なりの推理や考察をしたうえで劇場版を見に行くのが、ある意味でもっとも楽しい『あな番』の楽しみ方……かもしれません!

 あと、『あな番』スタッフが贈る最新作『真犯人フラグ』も、いよいよ後半戦に突入! ちょっと序盤は展開がゆっくりだった気がしますが、ここ数話でグググッと急展開。ぜひリアルタイムで考察をお楽しみください! ……これまた、みんな怪しいんだよなあ。


そみん:どんなゲームでも美味しくいただく雑食ゲーマー。相変わらず生瀬勝久さんが演じる田宮さんがいいキャラ過ぎて、ニヤニヤしながら楽しみました。


※画像は公式Twitterのものです。
©2021『あなたの番です 劇場版』製作委員会

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