『RPGタイム!』手作り感に圧倒されたプレイレポ。キャラクターの“作家性”すら感じる作り込みに驚愕
- 文
- キャナ☆メン
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アニプレックスから3月10日に発売されるインディーゲーム『RPGタイム!~ライトの伝説~』(以下、RPGタイム!)について、最新バージョンを試遊する機会をいただきましたので、そのプレイレポートをお届けします。
『RPGタイム!~ライトの伝説~』は、“プログラムが少し書けるプランナー”こと藤井トムさんと“絵が少し描けるプランナー”こと南場ナムさんの2人が立ち上げた国内インディデベロッパー・デスクワークスが開発するタイトルです。
ゲームクリエイターを目指しているゲーム大好き小学生のケンタくんがノートに描いた“手作り”のRPGをゲーム化したら……という舞台設定をゲームとして完全再現し、ジャンルに捕らわれない遊び心あふれるステージの数々に挑戦しながら冒険を繰り広げていきます。
東京ゲームショウやインディーゲームイベントで数々のゲーム賞を受賞し、多くのメディアで取り上げられてきた作品なので、内容について知識のある方もいると思いますが、ここでは既出のことも新規のことも織り交ぜて紹介していきたいと思います。
机の上は小さいが没入感は深い。圧倒的な作り込みがケンタくんと一緒に遊ぶ体験を生む
誰もが口を揃えることではありますが、プレイして最初に衝撃を受けたのは、机の上に広がるゲームの“手作り感”、それを画面から伝える“作り込み”のすごさです。
付け加えると、ケンタくんが手作りした小物にも触れるおもしろさがあることで、より舞台への没入感が増してくると思いました。
ゲーム本編となるノートの中身は追々説明するとして、それを広げる机はUIの役割を果たしており、鉛筆の書き込みや段ボール細工、粘土細工などが並んでいます。
無意識にでも目に入るのが細部の作り込み。鉛筆絵の細かさと汚し具合、散らばる紙の切れ端、角が欠けた消しゴムケース、段ボールの微妙なよれ、細工の絶妙な不揃い加減など、手作りの質感と温かみがダイレクトに伝わってくるんですよ。
だから、思わず手を伸ばしたくなってしまう。実際、ボタンや細工などにカーソルを合わせてRBを押すと、眺めるだけでなく触ってみることができます。
やはりコントローラを動かしてこそのゲームであり、机の上にある世界が心理的にグッと近づきます。手に取るように感じられる舞台は、手作り感の1つ1つに感動できて“小学生が作ったゲームそのもの”なんですよね。
実際にノートを開いてゲームを始めた後も、ケンタくんの“手作りゲーム”をカタチにした作り込みに対する驚きは止まず、出てくるもの1つ1つに「作り込みがすごい!」と口に出して圧倒されていました。
そうした驚きに小学生時代の記憶を刺激され、だんだんと現実とゲームの垣根が曖昧になっていくような錯覚も。果たして自分は画面越しにゲームをしているのか、ケンタくんと一緒に遊んでいるのか……?
世界を救うゲームと比べたら、机の上というミニマムな舞台ですが、没入感の深さは負けていません。細かな作り込みが現実に戻る隙間を埋めるが如く、画面の中に自身の意識が引き寄せられていきます。
さらに、ケンタくんはゲームマスター(ゲームの進行役)としてつねに話しかけてくるので、その演出もゲームに入り込む“いい後押し”です。真っ直ぐな反応がかわいらしく、だんだんと親近感が湧いてくるんですよ。
フィクションと現実を隔てる第4の壁という言葉がありますが、本作ではプレイヤーが自分自身として“ライトの伝説”を遊び、プレイヤーに話しかけてくるケンタくんはこちらを認識しているわけです。そのデザインと上で述べた没入感も手伝って、第4の壁を越えて遊んでいるような感覚がありました。
ゲーム性まで変わって次々と新しい体験に放り込まれる! アイデア満載の“おもしろければ何でもあり”な方向性だけがブレない
今回の試遊でプレイできた範囲は、序章と第1章となります。物語の構成は下の画像でノート右横の目次に書かれているように、序章、第1~7章、終章(+外伝)となっており、第2章の冒頭を見た感じ、そこから本格的にゲームが始まっていく様子でした。
終章までのクリア想定時間は、これまで各所で10時間くらいと語られていたものの、そこはゲーム内容を知っている人のプレイ時間ということもあって、初見だと概ね15~20時間くらいになるそうです。
ちなみにページ総数は200ページ強という話ですが、これはすべてが手書き(つまり流用ゼロ)であることを考えると恐ろしい……。開発は2012年から始まって10年に差し掛かる頃合いですが、実際にプレイすると頷けるポイントが幾つもあります。
筆者は『RPGタイム!』初プレイになりますが、ゲーム本編を遊んで気に入ったのは、1つ1つのページにアイデアが数多く詰まっていて、操作の手を休める暇がないということです。
まるで回転寿司で片っ端から皿を取り続けるように、テンポがよくて展開もゲーム性も次々と変わる。おまけに流用やパターンという言葉とはおよそ無縁で、つねに新鮮味があって幅広いゲームプレイを楽しめました。
そのため、体感のプレイ時間が実際の倍以上に感じるほど、遊んだ後に満足感があります。試遊が1時間半ちょいとは、まるで実感がなかったですね(笑)。
基本はアクション+アドベンチャーな感覚で、ノートだからか横スクロール風に進むことが多かったですが、シチュエーション次第で、見下ろし型の画面や一人称視点風の画面になるなど、画面の見せ方もゲーム性もガラリと変わってきます。
タイミングよくギミックを避けたり、ちょっとパズルチックな謎解きをしたり、敵と戦うにしてもモグラ叩きをしたり、戦車に乗って戦ったり、あるいはボクシングをしたり。むしろ端的に例を挙げるよりも、考える要素とアクションの混ざり合う状況が多かったです。
違う書き方をすれば、基幹のゲームシステムでゲームプレイの型が決まる多くのゲームとは方向性が違って、『RPGタイム!』はシチュエーションに沿ってゲームプレイが変わり続ける珍しいタイプの作品だと思います。
ゲーム的に1つブレない軸があるとするなら、“おもしろければ何でもあり”を徹底するスタイルに、ケンタくんの精神がよく現れていると感じるところでしょうか。
だからめくったページで、むしろ同じページでも、どんなゲームプレイになるか予測不能。「こういうゲームなんだ」と理解するまでは、飽きないどころか展開の振れ幅に驚いてばかりという感じでした(笑)。
けれどその驚きこそが、ゲームとしては楽しいところで、驚きは次第にワクワク感に変わって、試遊の後半になると「今度はこう来たか」とニヤリとしながら遊んでいましたね。
展開もゲーム性も二転三転するのに、ゲームとしては統一感があるのはケンタくんの存在に依るところが大きいと思います。単に多くのゲームを詰め込んだ作品ではない、多様性と一貫性が繊細なバランスで保たれているゲームだなと思いました。
初公開となる第1章の中盤から終わりまでをレポート!
今回の試遊では、東京ゲームショウ2021のタイミングでは未公開だった第1章“はじまりのどうくつ”の中盤以降も遊べたので、その部分について掘り下げたレポートもしたいと思います。
TGS2021で戦えた最初の敵であるファイヤーマンを倒した後は、伝説の剣……と思いきやスコップを手に入れ、洞窟のさらなる奥へ進みます。
第1章で期待してなかったとはいえ「スコップって!」と内心ツッコミを入れました。このように、いかにも小学生らしい発想は本当に盛りだくさんですよ。
洞窟の通路にはスコップで掘れる場所が10カ所以上と、地面に怪しい場所がビッシリ! 正直なところちょっと引き気味に「本当にページに詰め込まれたアイデアの数がすごっ!」と、むしろ笑いが漏れましたね。
とはいえ試遊は時間の都合もあるわけで。先を急いだら爆弾を掘り当ててしまい、あっさりとゲームオーバー。何がいけなかったのかヒントを眺めつつ、ここは慎重に進むことにします。心なしかケンタくんがうれしそう(たぶん気のせい)。
怪しい地面を掘り返すと、攻略のヒントから待ち受けるバトルへの伏線、何気ないお遊びまでいろいろ埋まっていることに気づきます。ゲーム的には特に制限時間がないので、自由に掘り返してみると楽しいはず。
ちなみに掘り返したヒントの1つに従うと、後ろのページに戻って宝箱から変なものを手に入れました。ナンジャコリャ! ……じゃなくてナンジャコーラという食事アイテム(回復&強化効果あり)を入手できました。
前に進むだけじゃないノートの仕掛けも楽しみつつ、洞窟の先に進むための攻略法を見つけると、これでページはクリアかと思いきや、巨大な敵“つちゾンビキング”とのバトルが発生!
本作のバトルは普通に戦うだけでは勝てず、ケンタくんのアイデアが込められたモンスターの特徴を観察し、弱点やおかしな場所を見抜く着眼点が攻略のカギになってきます。
目には目を、アイデアにはアイデアで勝負! という感じですね。
正解が分かると「なるほど!」と思える攻略法でピンチを切り抜けられるので、バトルの度にケンタくんの遊び心を楽しめるのではないかと。
さらに先へ進むと、待ち受けるのはモグラたち。野球やモグラ叩きで勝負を繰り広げつつ、モグラから戦車を奪って巨大な用心棒モグラとの殴り合い! と話がドンドン転がっていきます。
展開が変わるごとにゲームプレイの目先もどんどん変わって、ジャンルの話を持ち出すのが野暮に思えるほど、バラエティに富んだシチュエーションの数々はもはや脱帽。ここ割とはしょって書いているので、ケンタイズムは本当に感心するアイデアの宝庫です。
状況を体験する1つ1つのゲームはコンパクトですが、それが連続して、ジェットコースターのように山あり谷あり、ややもすると脱線か!? と思うほど次々と新たな体験に放り込まれるゲームデザイン、何より“ケンタくんの目線の徹底ぶり”は素直にすごいオリジナリティだと思います。
そして、いよいよモグラとの戦いも山場を迎え、モグラの作ったゲーム“TANK TIME”に挑戦! “Indie Live Expo Winter 2021”でトレーラーが流れた、鉛筆絵を方眼紙に描き込んだドット絵ゲームをやるという場面です。
洞窟内は横スクロールで遊んできたのに対し、“TANK TIME”は見下ろし画面の戦車アクションゲームと、プレイ感が一新する感覚もあって楽しいところ。
しかも素直に戦車アクションだけで終わらず、ここでも奇をてらった展開やハプニングが尽きず、次々とユニークな仕掛けに挑戦していきます。
戦車を降りてさまざまなギミックを攻略していく場面あり、少しだけ頭を使いながらパズルゲームのように謎を解く場面もあり、洞窟を進んでいたころと完全に別ゲーの気分を味わいながら、いよいよ“TANK TIME”内のボス戦に!
ここでは、敵の弾を避けながら巨大なボスタンクとバトルを繰り広げ、王道なボス戦を楽しんだと思いきや……そこにも一捻りあるのが『RPGタイム!』というゲームで、最後までアイデアの尽きないケンタくんらしさを楽しませてもらいました。
長かったモグラとの戦いを終えると、ある意味で王道な(?)巨大鉄球が転がる坂道を走り抜けるギミックを乗り越え、ついに第1章のボスであるサイクロプスが登場!
サイクロプスとのバトルは一人称画面のような見せ方で展開し、右スティックで好きな軌跡で剣を振ってダメージを与える形式です。操作はアクション風ですが、ターン制なのでじっかり考えながら戦えます。
サイクロプスといえば弱点は? 敵の出方にどう対応するべき? など適宜、状況に合わせて攻略法を考えるのが楽しいところで、あの手この手で弱点を攻めさせまいとするサイクロプスの反応を観察して、ケンタくんのアイデアを見抜きながら、ボスを追い詰めていく展開を体験できます。
サイクロプスを倒した後は、カギを探して宝箱を開け、船に乗って洞窟を抜ければ第1章は終了。旅立ちの町にたどり着けば、第2章の始まり~! という流れで、町の冒頭だけ体験して試遊も終わりました。
旅立ちの町は、ガイドマップが追加され、行ける場所が任意で選べる模様。物語としては1本道のゲームですが、町に着いた途端クエストが2つ同時に発生するなど、攻略順は少し選べる場面もあるようです。
また、第2章でゲームが本格化していくのに合わせて、物語的にも勇者ライトの仲間が登場します。最後に彼らを画像で紹介しておきましょう!
ゲームのオリジナリティと作り込みに触れた経験がゲームライフの糧になると思う作品
第1章の試遊ではありますが、『RPGタイム!』は多くのことを感じるゲームでしたので、つい長々と語ってしまいました。
総じて思ったのは、“ケンタくんと一緒に遊ぶ”という体験と舞台設定が徹底して作り込まれているということ。
1つ奇妙な話を書くと、現実には『RPGタイム!』をデスクワークスのお2人が作ったことは知っているわけですが、ゲームを遊んでいた時に“ケンタくんの作家性”のようなものを感じたのです。
展開にしてもゲーム性にしても、ケンタくんの作ったものとして考えると腑に落ちる。そんな瞬間が何度かありました。そしてゲームマスターとしてプレイヤーを楽しませながら、言葉の端々で、ゲームに込めたアイデアに気づいてほしいという素振り。
“ゲームを遊ばせる行為”がケンタくんの投げるボールで、プレイヤー側は“ゲームをプレイする”という形でボールを投げ返す。そのキャッチボールが2人のコミュニケーションになって、『RPGタイム!』の“ケンタくんと一緒に遊ぶ”という体験が成立しているのかなと。
本作がどこまでおもしろいのか、最後まで遊んだわけではないので確かなことは言えませんが、それでも『RPGタイム!』の作り込みとオリジナリティには目を見張るものがあり、プレイすると想像以上に感嘆する気持ちが湧いてきます。そうした感動は、ゲームライフを彩る経験になると思いました。
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