電撃文庫『この△ラブコメは幸せになる義務がある。』榛名千紘先生が書き上げたいと思ったシーンは?
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電撃文庫で活躍する作家陣のメールインタビューをお届けする“Spot the 電撃文庫”。今回は、『この△ラブコメは幸せになる義務がある。』を執筆した榛名千紘先生のインタビューを掲載します。
本作は平凡な高校生“矢代天馬”が、ふとしたきっかけで同じクラスのクール美少女“皇凛華”と幼馴染の清楚系美少女“椿木麗良”と三角関係になってしまうラブコメディです。
電撃小説大賞《金賞》受賞の榛名千紘先生がラブコメ作品の信条を語ってくれました。
──この作品を書いたキッカケを教えてください。
失恋と呼ぶのも憚られる、苦い経験がきっかけです。
当時の交際相手に別れを切り出したら「まだ続いてると思ってたんだ?」と言われた上に、「あんたって本気で人を好きになったことないでしょ」という即死級のコンボを食らってしまい。人を愛する意味について真剣に考えた私は、気が付けば甘々なラブコメを執筆していました。
答えは未だに出ません。紅茶のありかはわかります。
──作品の特徴やセールスポイントを教えてください。
一貫して優しい世界というか、あからさまな悪役やヘイトを集めるようなキャラがほぼ出てこないです。胸が苦しくなるようなシリアス展開もないので、そういうのが苦手な人でも安心して読んでいただけるかな、とは思います。タイトル通り、ラブコメのヒロインは幸せになるべきだと本気で考えていますから。
……偉そうに言いましたが、すみません。ぶっちゃけると、未だに何が面白いのか何が受けたのか自分でも理解できずにいるので、多くを語れないのが本音です。
──作品を書くうえで悩んだところは?
内容的には、悩まずにすんなり最後まで書けました。
それとは別の部分になりますが、新人賞に応募される作品のほとんどは落選して、日の目を見ずに終わるわけですよね。箸にも棒にもかからないのが大多数。その現実が不意に襲い掛かってくるのが怖い。「これはいったい誰のために書いているんだろう?」って、そのたびに筆が止まる。だけど自分を騙してまた書き始める。延々そのループでした。
あえて鈍感なふりをする、もしくは馬鹿にならないと書けないですね、小説って。
──執筆にかかった期間はどれくらいですか?
最初の構想から最後の細かい推敲まで含めて、三か月くらい?
自分一人で好き勝手に書くだけでもこれですから。編集様との打ち合わせやその他もろもろのお仕事も込みで四か月おきくらいに発売されるラノベって、冷静に考えるとかなりクレイジーだと思います。
──執筆中のエピソードはありますか?
弁護士になるのが昔からの夢で、事務員をしながら合格を目指しています。その勉強が嫌すぎて「もうどうにでもなれぇー!」とヤケになっていましたね。いわゆる現実逃避です。
ちなみに電撃大賞の締め切りが四月。司法試験は五月。結果はご想像にお任せしますが、応援してくれている事務所の先生には大変申し訳ないです。この場を借り、懺悔を。
──本作の主人公やヒロインについて、生まれた経緯や思うところをお聞かせください。
「嫌われる勇気」という言葉があります。それに真っ向から反発。嫌われるのが嫌すぎてそういう要素を全て排除した結果、没個性になったのが本作の主人公です。その分、感情移入しやすいという長所はあるのかもしれません。ヒロイン二人についても同様で、かっこよく書こうとか綺麗に書こうとか、愛されようと必死になりすぎてちょっと怪しかったのですが、そこら辺は刊行に向けての改稿でかなり是正されていると思います。
──特にお気に入りのシーンはどこですか?
ラストの告白シーン。この場面が当初から頭にあって、映像と音声付きでイメージできていたくらいです。ここを書き上げたいがために全てが始まったといっても過言ではありません。終盤に入ってからは書くスピードも滅茶苦茶速かったのを覚えています。そこへ至るまでの200ページ以上は正直、全部おまけみたいなものじゃないかと考えています。
──今後の予定について簡単に教えてください。
担当「プロットを作ってください!」
馬鹿「ぷろっとってなんですか……?」
担当「特典のSSを書いてください!」
馬鹿「えすえすってなんですか……?」
担当「2巻の内容を考えてください!」
馬鹿「にかんってなんですか……?」←今ここ。
(怒られるので補足しますが、少なくとも2巻はちゃんと出ます)
──小説を書く時に、特にこだわっているところは?
文章はとにかくシンプルに、読みやすいのを一番に心がけています。何事も読んでもらえないと始まらないですし、一流作家さんのような技巧もありませんから。
ストーリー的には、全てを語ってしまわないように気を付けているというか。余韻を残して終わらせてこそ文学作品だと勝手に思っているので、最後のページをめくったときに哀愁や、名残惜しさ、もどかしさなど、心にくすぶる何かを感じ取って欲しいです。
以上は理想論、まだまだ力不足なので精進します。
──アイデアを出したり、集中力を高めたりするためにやっていることは?
物欲センサーみたいなものが本当に存在します。
じっと単座して考えていたら一行も書けないまま日が暮れる。かと思えば働いている最中にアイデアが降ってきて、メモ用紙に急いで書き殴る。布団の中で急に執筆意欲が湧きあがり、飛び起きてパソコンを起動したはいいがワードを開いた辺りで「何を書きたかったんだっけ?」と全て忘却していたり。
個人的に食器を洗っている最中に思いつくことが多いので、買ってきたお惣菜をわざわざ皿に盛りつけたりしていました。
──学生時代に影響を受けた人物・作品は?
影響と呼ぶのはおこがましいのですが、単純に尊敬しているのは脚本家の黒田洋介さん。
年の離れた姉がおり、その影響か上の世代の作品に触れる機会が多くありました。『無限のリヴァイアス』や『スクライド』など、放送当時は本当に小さかったのですが、それでも薄ら記憶に残っていて。中学生になってから改めて見返したら、なんだこれすげえ面白いぞと。おまけに脚本が同じ人。
その流れで、ちゃんと自我が芽生えたころに観たのが『機動戦士ガンダム00』だったわけですね。いや~、間違いなく私にとっての青春。劇場版、一回目観たときは割と普通だったのに、二回目でボロボロ泣いてしまったのは良い思い出です。
──今現在注目している作家・作品は?
週刊少年ジャンプを長いこと購読しております。競争主義というか、入れ替わりが本当に激しい雑誌なのですが。その中でも少し前に「すごく面白いけど、これは打ち切りになりそう。全然ジャンプっぽくないし……」と悲嘆に暮れていた作品が藤本タツキ先生の『チェンソーマン』でした。
素人の心配をよそに大ヒットですね。アニメやら学園編やらこれから始まる楽しみもあるので、まだまだ死ねないと思う今日この頃です。
──その他に今熱中しているものはありますか?
ニコニコ動画の配信で毎週、仮面ライダーアギトを観ているのですが。そこに登場する警察官のお姉さん、小沢さんという女性がすごく良い。サバサバで勝ち気でユーモアもあって、毎回笑っています。現実でいたら友達になって焼肉食べに行きたいタイプ。ああいう愛されキャラを、自分でもいつか書けるようになれたら最高です。
余談ですが、「平成ライダーで一番好きなのは?」と聞かれたら「迷うけど、終わり方ならブレイド」と答えるようにしております。
──最近熱中しているゲームはありますか?
最近ではないのですが、もう五年くらいやっているのは艦隊これくしょん。サービス開始は九年近く前なので、古参というほどではありませんけど。よもやここまで長い付き合いになるとは……以下、それを象徴する友人との会話。
「最近、忙しくて全然ゲームやれてないわー」
「でもお前、艦これはずっとやってるじゃん?」
「いやいや! あれはゲームじゃなくて日課だから!」
完全に異常者を見る目をされましたね。他のソシャゲとかは全く続かないのに、不思議でなりません。ちなみに嫁は金剛。さすがです、お姉さま!
──それでは最後に、電撃オンライン読者へメッセージをお願いします。
ここまで読んでくださった皆様はもしかしたら「こいつライトノベルについて全く語ってねーじゃん!」と思われるかもしれません。その認識は正しくて、私が小説に触れたのはおそらく人生の後半くらい。「小さな頃から本の虫でした」というタイプではありません。
そんな人間が試行錯誤を繰り返して、どうにかこうにか捻り出したのが本作ですので、気になった方は読んでいただければ大変喜びます。温かい目で見守ってくだされば、なおのこと嬉しいです。
決してタイトル詐欺になることがないよう邁進していく所存ですので、どうぞハッピーエンドをご期待ください。
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『この△ラブコメは幸せになる義務がある。』特設サイトはこちら
『この△ラブコメは幸せになる義務がある。』
- 著者:榛名千紘
- イラスト:てつぶた
- 発行:電撃文庫(KADOKAWA)
- 発売日:2022年3月10日
- ページ数:296ページ
- 定価:704円(税込)