『RPGタイム!』レビュー。鉛筆とノートが遊び道具だった思い出とゲーム体験を繋ぐ小学生ケンタくんの存在感

キャナ☆メン
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 アニプレックスから発売されたインディーゲーム『RPGタイム!~ライトの伝説~』(以下、RPGタイム!)について、Xbox SeriesX | S/Xbox One版とWindows版(マイクロソフトストア配信)が販売されているうち、Windows版をプレイしてのレビューをお届けします。

小学生の“手作りRPG”を本気でゲームにする遊び心。作り込まれた“手作り感”が世界観に引き込む

 皆さんは小学生のころ、ノートや鉛筆など身の回りのモノを遊び道具にして、漫画やすごろく、迷路に○×ゲーム、あるいはオリジナルゲームなど、手作りの遊びで休み時間を過ごした思い出はあるでしょうか?

 そんな“手作りゲームで遊んだ小学生の思い出”を、本気でゲームにしてしまった作品が今回レビューする『RPGタイム!』です。

 本作は、小学生のケンタくんが手作りしたRPG“ライトの伝説”を学校で一緒に遊ぶという舞台設定のもと、彼が鉛筆でゲームを描き込んだノートを机の上に広げ、遊び心にあふれるアイデア満載の冒険を楽しんでいきます。

 まず特筆すべきは、細部に至るまでこだわりを感じる作り込み。ノートを開けば、鉛筆の温かみあるイラストが隙間なく描き込まれており、しかもそれは“ライトの伝説”かつ『RPGタイム!』のゲーム画面になっているので絵が細かくアニメーションします。

  • ▲ケンタくんの夢はゲームクリエイター。
  • ▲序盤中の序盤であるゲーム画面ですが、初めからすごい描き込みの量。
  • ▲タイミング勝負のアクションゲームもすべて鉛筆画がアニメーションします。

 『RPGタイム!』の大部分は、開発元であるデスクワークスの藤井トムさんと南場ナムさんの2人で手掛けていて、鉛筆風アニメーション画は、南場さんがすべて1枚1枚手描きしたそう。まさに設定だけでなく本当に“手作りの世界”を体験できるわけです。

 ちなみに、ゲームの概要を知ることができる“説明書ダンジョン”を遊んでラクガキ鉛筆を入手しておくと、1つ興味深いことが。ゲーム内の“解説モード”と呼ばれる自由にページ内を観察できるモードで、アイテム名の通りラクガキをすることができます!

 味のある鉛筆画の世界を汚すのは憚られますが、その自由度には拍手を送りたいところ。絵心のある人は、ラクガキ鉛筆も使って自由に遊んでみては?


  • ▲解説モードは殆どのページで使えるので、つまりラクガキできるページは多いということ。懐が広い!
  • ▲ちなみに解説モードは、ミニニンと呼ばれる小さな忍者を探す実績解除に繋がる要素もあります。

  • ▲説明書ダンジョンは遊べる説明書。“見るだけじゃなくプレイできる”は『RPGタイム!』全体に共通する合い言葉な気もします。

 さらにノートの周囲へ目を向けると、ケンタくんが工作した小道具がセットとして並び、おもしろいことに机の上がUIやメニューの役割を果たしています。

 ボタンやアイコンを模した段ボール細工や粘土細工、机に直接書き込まれた鉛筆の文字などを見ていると、そこに遊び心を感じて思わず目に留まります。身近にあるものでUIまで表現する小学生らしい柔軟な発想は、『RPGタイム!』の世界観に最適だと膝を打ちました。

 また、小道具や机の文字を細かく見ると、少し歪な造形だったり文字の絶妙な汚れ具合だったり、ノートの周囲に散らばった切れ端だったりにアナログ感があって、画面全体の雰囲気にケンタくんの“手作り感”があふれています。これが素晴らしい!

  • ▲タイトル画面からして、机の上に描かれた鉛筆画。なんと芸が細かい……!
  • ▲数少ない既製品の音楽プレイヤーはBGMを鳴らすための道具。その機転を利かせたアイデア自体にも手作り感が出ているなぁと。
  • ▲ゲームをある程度まで進めると、ケンタくんが工作した立体的なポーズメニューを開けるようになります。CGだけど不揃いな手作り感がいい。
  • ▲鉛筆が剣になる本作では、鍛冶屋が鉛筆削りというユニークさ!

 同様の作り込みはゲーム本編であるノートの中にも感じることができ、プレイするたびに新たな発見がある細部の作り込みは“神は細部に宿る”という言葉がぴったりです。

 ゲーム全体でくまなく味わえる手作り感は懐かしい雰囲気を演出し、プレイしていると、まるで小学生の思い出を疑似体験するかのような不思議な気分に。机の上というミニマムな世界に、ケンタくんと一緒にゲームを遊ぶ確かな世界観が存在しています。

 本作の場合、細部に違和感を覚えて現実に引き戻されることはなく、それと真逆に細部の作り込みに感動するたび『RPGタイム!』の世界に引き込まれていく感じがありますね。

  • ▲発見という意味では、以前の試遊では気づかなかったゲーム進行に必須でないイベントもチラホラと存在しました。まったりプレイするのが吉。

ジャンルの枠を超えた多彩なゲームはアイデアの宝庫。そこに込められた“ケンタくんらしさ”を感じるほどゲーム体験が深まる

 『RPGタイム!』が放つ“手作り感”のすごさは、画像の雰囲気からでも想像できる部分があると思いますが、本作はゲームプレイの面でもユニークな作りをしています。


 ライトの伝説のストーリーとしては、プレイヤーは勇者ライトを操作して、さらわれた姫を救い魔王を倒すため冒険します。ゲーム自体は、わかりやすく書くとノートの見開きに描き込まれた絵が、1つのステージになっているような仕組みです。

 例えば第1章“はじまりのどうくつ”なら、ダンジョンを舞台にしたページに、ギミックや謎解き、バトルなどを楽しむ多彩なイベントが詰め込まれています。

 そしてゲーム全体を通して、ゲームマスター(ゲームの進行役)であるケンタくんの導きで、次から次にイベントやハプニングに巻き込まれていく流れ。ストーリーは1本道ですが、唐突にゲームが始まったり、他のページに飛ばされたり、素直にページを進むようなゲームではありません。

  • ▲第1章のとある場面。1つのページで、バトル、穴掘り(ヒント探し)、ギミック、さらにバトルとイベントが盛り沢山です。

  • ▲ケンタくんが次から次にイベントを用意してくれるお陰で、ページの見た目よりだいぶボリュームがあります。

 小学生らしい柔軟な発想で二転三転する展開は、彼がゲームマスターとして語りかけてくるセリフと相まって、微笑ましくもクスッと笑える内容です。

 とはいえゲームの序盤で、洞窟でモグラのモンスターと敵対すると、野球をしたかと思えば戦車が登場し、見下ろし型の戦車アクションゲームにまで発展した時はさすがに驚きましたが(笑)。

  • ▲前のページの因縁で、なぜかハナモグラと野球対決。
  • ▲と思ったら戦車が登場し……

  • ▲その後にさまざまなイベントを経て、4ステージ構成のアクションが始まる!

 しかしそれは序の口で、『RPGタイム!』は頻繁にボタンの用途が切り替わり、待ち受ける展開が何であれジャンルに捕らわれずゲームになるところがユニークだと思いました。

 ちなみに“ゲーム”と書いているのは、単純にミニゲームなこともあれば、ステージ全体の構成に組み込まれたゲームなこともあるからです。記事内は前者も含めてゲームで統一しています。

  • ▲ケンタくんが工作したボタンの数々。これを付け替えるとボタンの用途が変わります。

 ゲーム自体が7章構成であるだけに、まるで7つのゲームがあるようにプレイフィールが七変化する作品ですが……実際はページごとにゲーム性が変わることもしばしば。軸になるゲームシステムに沿って展開があるのではなく、展開やアイデアありきで新しいゲームが登場します。

 特にゲーム後半は、ジャンルの枠を超えたゲームの多彩さに拍車がかかって、正直「ここまでやるのか!」と意外性があり過ぎて笑ってしまいました。ラストに関しては、それまでのゲームの印象が塗り変わるほどの展開でしたね。

 けれど、その意外性には“ケンタくんらしさ”がよく表れていると思います。

 『RPGタイム!』は、ケンタくんがつねにプレイヤーに語りかけ、プレイに反応してくれることで、ある種のコミュニケーションが成立しています。さらに細部の作り込みが想像力を刺激することもあって、世界観にもゲーㇺプレイにも彼の存在感が出ている作品です。


 彼がハプニングを用意した時の得意げな様子、プレイ中に種明かしをしたくてウズウズしてる感じ、1つページを攻略した時に見せるうれしそうな表情、ケンタくんのセリフには“自分の作ったゲームで楽しませたい”という思いがあふれているんですね。それはノートを離れて、UI代わりの小道具を触った時も同じです。

 そうしてプレイヤーの中でケンタくんの存在感が大きくなるほど、ライトの伝説を“ケンタくんが作った”認識や“一緒に遊ぶ”感覚が深くなり、ゲームの体験も深くなっていくようでした。

 『RPGタイム!』をプレイする時間が、ケンタくんと一緒に遊んで過ごす時間になるというか、ゲーム画面という境界線を越えて、ゲームプレイがコンセプトの体験そのものに変わっていく感じでしたね。

  • ▲ゲームを起動してタイトル画面から始まるのは最初だけで、2度目からは日を改めて放課後にまたライトの伝説を遊んでいる演出が入ります。

ケンタくんの存在感がノスタルジックな思い出と『RPGタイム!』の多彩なゲームを1つに繋ぐ

 公式サイトのジャンルを見ると“手作りノートアドベンチャー”となっていますが、筆者の勝手な想像では、この名称を考えるのに相当苦労したのではないかと思いました。冗談ですが、もし作品内に登場するゲームのジャンルをすべて並べたら、おそらく世界一長いジャンル名になったでしょう(笑)。


  • ▲ゲームは本当にいろいろ。基本的にはオリジナルゲームですが、リバーシなどポピュラーなものも稀にあり、時には机の上で遊ぶゲームもあります。

 一般的なタイトルがゲームシステムを幹にして成立しているとすれば、『RPGタイム!』はケンタくんの存在が幹になっていて、豊富なゲームとアイデアが盛り込まれた本作に、統一感や1本のゲームとしてのまとまりを生み出していると思います。

 言い換えるならケンタくんの存在感が、鉛筆とノートを遊び道具にしたノスタルジックな思い出と、『RPGタイム!』で遊べる多種多様なゲームを1つに繋ぎ、手作りのゲームを一緒に遊ぶ体験を与えてくれる。それは、細部に至る作り込みの賜物でもあります。

 『RPGタイム!』をプレイすることで、ケンタくんが手作りした“ライトの伝説”のページが、プレイヤーの遠い日の思い出に新たな1ページを加えてくれる……と書くのは狙いすぎでしょうか。けれど、童心に返った気分でゲームの体験を楽しむことができました。

©DeskWorks / Aniplex

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