『LOOP8(ループエイト)』を手掛ける芝村裕吏氏にインタビュー前編。ファンを虜にする世界設定のこだわりは?
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- アツゴロウ
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マーベラスから2022年発売予定のPS4/Nintendo Switch/Xbox One用の完全新作ジュブナイルRPG『LOOP8(ループエイト)』の開発者インタビューをお届けします。
『LOOP8(ループエイト)』は、古来からの厄災・ケガイによって人類の希望が打ち砕かれた世界で生きる主人公・ニニの日常と非日常を描くジュブナイルRPG。『高機動幻想ガンパレード・マーチ』など、AIを活用したゲームを世に贈り出した芝村裕吏さんが、ゲームデザインとシナリオを手がけることでも注目を集めています。
発表されるやいなや話題の本作を手掛ける、芝村さんへのインタビューを実施。前後半の2回にわけて掲載し、前半では『LOOP8(ループエイト)』誕生の経緯や現在の状況、後半ではシステムなどの開発秘話などについて語っていただきました。
芝村裕吏さん
ゲーム制作以外にも小説や漫画原作、コラム、テーブルトークRPGなど、多彩な分野で活躍するマルチクリエイター。ゲームの代表作は『高機動幻想ガンパレード・マーチ』、『刀剣乱舞-ONLINE-』など。小説は『マージナル・オペレーション』、『やがて僕は大軍師と呼ばれるらしい』などを手がける。
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ノスタルジックな日本の夏を描く。『LOOP8(ループエイト)』の開発経緯とは?
──まず『LOOP8(ループエイト)』が制作されることになった経緯からお願いします。
きっかけはある日、宮路さん(※)がやって来て、「一緒にゲームを作りましょう」と誘ってきたことですね。私は当時、作家業やコンサルタント業が忙しくて、ゲーム作りは表立ってやっておらず、「後進に道を譲ろうか?」みたいなスタンスでいたのです。ですが、宮路さんが私を勧誘するにあたって連れて来たスタッフが昔懐かしのメンバーでして、思わず「じゃあやりましょう」という感じで始めちゃったんです(笑)。
そもそも私がこの仕事を受ける受けない以前に、宮路さんから「AIを利用したゲームを作りたい」というお話をいただき、そのためのシステム提供自体はしていたんです。その流れで「スタッフに加わってくれませんか?」と誘われたわけです。具体的にどう勧誘されたかは、あまりにも暑っ苦しいので詳しく話すのは止めておきますね。
※宮路洋一さん:『LOOP8(ループエイト)』開発統括プロデューサーであり、ジーク ゲームズの代表取締役社長。かつてはゲームアーツにて『グランディア』シリーズなどを手がけた。
──マーベラスを含めた取り組みにすることは、どの段階で決まったのでしょうか?
プロジェクトが始動してから1カ月後くらいの段階で、マーベラスさんに相談に行っており、その時からの付き合いになります。マーベラスさんが参加される前の段階でやったことは、企画提案書を作ったくらいなので、それこそプロジェクトの最初期から一緒にやっています。正式な企画書も、マーベラスさんが入ったあとで作られたくらいですから。
──こちらのプロジェクトはいつごろにスタートしたのでしょうか?
宮路さんが言うには、4年くらい前から稼働していたとのことですが、当人が「こういうゲームを作りたい!」みたいなことを語っているのを聞いたのは、3年ほど前の飲み会でのことでした。
構想●年とかいうとすごく男らしい感じがしますけど、実際はもうちょっとモヤッとした段階が1、2年あって、形を結びだしたのが今から2年ほど前で、そこから本格的にスタートしたイメージです。
──宮路さんから「AIを使ったゲームを作りたい」と聞いた時は、どのような感想を抱かれましたか?
AIのシステム自体は、問い合わせがあれば資料なりを提供するようにしています。ですので、『LOOP8(ループエイト)』もシステムを提供するだけのパターンかと思っていたのですが、先方から「もっと『高機動幻想ガンパレード・マーチ』や『絢爛舞踏祭』、あるいは『新世紀エヴァンゲリオン2』に搭載されたAIっぽくしてほしい」と強い要望をいただきました。
それであれば私も参加したほうがいいのでは、となったわけです。これも私が制作に参加するきっかけと言えますね。
──ゲームのベースである“AIシステムとストーリーを組み合わせる”というのは、宮路さんのアイデアになるのですね。
そうですね。お話を見せる方法として、決まった展開というか、毎回同じようなものを出したくない、できれば多層的に見せたいという思いが宮路さんにはあるようでした。「アドベンチャーゲームが悪いわけじゃないけど、アドベンチャーゲームを作りたいんじゃないんだよ」ともおっしゃってました。
そういうことだったら、確かにAIみたいなものを使ったほうがプレイの幅ができる、という感じで、企画が進行していったと記憶しています。
──本作のコンセプトや、制作の際にこだわっていることを教えてください。
ゲーム制作においては、スタッフそれぞれに夢というか、やりたいことがあります。そういった「あれが作りたい、これが作りたい」という思いを持ち寄ってものを作っていくのがゲーム作りだと思うのですが、今回はそれぞれの頭のなかにあるイメージが、わりとみんな同じようなもので固まっていたんです。
ですから「日本の夏を描きたい」や「1つの町を舞台にしたい」ということは、すぐに決定しました。舞台決めは、普通は2、30回は話し合って、もっと喧々諤々(けんけんがくがく)としたことになることもあるんですが(笑)。
どんなゲームでもそうだと思いますが、やはり舞台ありきだと思うんです。キャラクターがメインなのは当然ですが、実際の画面に映っている比率は、キャラクターよりも背景のほうが大きいわけで、背景=舞台こそがものをいうわけです。それがここまでもめずに進められたのは本当に珍しいですね。
話し合いも「今はないような、ノスタルジックな日本の風景を描きたい」という話が出たら、「ちょっと古びた感じがいい」とか「昭和の風景はどうだろう」という反応がすぐ出て、トントン拍子で決まっていった覚えがあります。
そこからイメージボードが揃いはじめ、そのままスムーズに進んでいきました。
架空の町や世界設定に説得力を持たせる手法とは?
──舞台である“葦原中つ町”を作るに際して、どのような流れがありましたか? どこかの町をモデルにしているのでしょうか?
町を作るにあたって、まずはみんなからの要望を集めました。すると「列車を出したい」とか「海と山だったら海がいい」とか、いろんな要望が出てきたので、そういったものに一番近い場所を探して、何カ所かでロケをしたんです。
ですが、すべての要望に合致するような場所はなかったので、架空の町を作ろうという話になり、町の地図を作るところからスタートしました。架空の町となると、どうしてもウソ臭くなってしまうので、なるべくウソ臭くならないよう、町の歴史を作るなどいろいろ努力しました。
日本の古い町ってどこもそうなんですけれど、千年や二千年くらい昔から人が住んでいるんです。ごく最近作られた町って、言い方を変えると“これまで人が住めなかった場所”で、技術の進化でようやく人が住めるようになった場所なんです。
ですから、昔から人が住んでいる町には歴史があって、食料や水はこうやって供給していたとか、農地はこれぐらいあるとか、生活基盤がちゃんとしているわけです。そこらへんをしっかり考えて、架空の町作りを頑張りました。
とはいえ、参考にした場所は当然あるので、そういったモデルがわかるようには作りたいと思っています。
──そうして作られた葦原中つ町は、具体的にどのくらいの広さですか?
ゲーム内で歩ける範囲というのは、そんなに広いわけではないです。『LOOP8(ループエイト)』では他のキャラクターと会って話をしたり、その行動を注視できたりするように、マップの範囲をギュッと縮めているというか、密度を高めて構成しています。
実際の範囲面積で言いますと、10km×10kmくらいを設定していて、そこから商店街のようなおもしろそうな場所を中心にピックアップして配置するイメージです。
ちなみに公開している1stトレーラーでは電車に乗っている主人公が描かれていますが、あれは主人公が葦原中つ町にやってくる装置として使っています。
──装置ですか?
少し深い話をすると、『LOOP8(ループエイト)』では1つの町の“閉塞感”みたいなものを描きたいと思っているのです。主人公は葦原中つ町にやってきますが、ここから出て行けず、他に行けるところもなく、帰るところもない。こういうシチュエーションでプレイしたいなと。
ですから電車や駅、踏切りなどはマップ上にあるものの、交通機関として利用して他の町に移動するようなことはできないようになっています。
──主人公・ニニの親戚というコノハをはじめ、何人かのキャラクターの存在が明らかにされていますが、実際に交流できるのは何人くらい存在するのでしょうか?
12人です。彼らは主人公との交流や日常生活を通して、それぞれのパラメータが上がったり下がったりしていきます。もちろんバトルにも、1人を除けば“ある意味”全員参加できます。ちょっと意味深な表現で申し訳ないのですが、このあたりは実際にやってみてのお楽しみということで。
──宇宙ステーションの存在やメインビジュアルに描かれている空に浮かぶ球体、敵であるケガイなど、世界設定を示す情報があちこちにちりばめられていますが、どんな世界なのでしょうか?
かみ砕いて説明すると、“ケガイ”というモンスターが跳梁跋扈する世界で、その関係で人類の領域がどんどん減っている、という背景がまずあります。ケガイというのは何千年も前から世界に出現して、人と戦い続けているんです。
その結果、アメリカなどもかなり浸食されてしまって、日本で英語教育がなくなりかけているくらいのタイミングが、ゲーム内の時間軸になります。
人がケガイに追い詰められている状況なのですが、田舎にひっそりとあるせいか、葦原中つ町だけはなぜかケガイの被害に一度もあったことがない場所です。だからこそ他の場所から逃げてきた人や、町に隠れ住んでいる人がいるんです。
主人公は他の場所から逃げてきたパターンで、いろいろな場所をたらい回しにされた挙句、最後に親戚を頼ってこの町にやって来たという設定になっています。
スマホどころかパソコンもない? 1983年という時代設定
──公式サイトにアクセスすると、最初に“1983.8.31”という数字が出て、徐々に“1983.8.01”という表示に戻っていく演出が見られますが、ゲーム内の時間軸としてはこの年の8月を繰り返すという認識でよろしいでしょうか?
そこは『LOOP8(ループエイト)』=“8月を繰り返す”というタイトル通りです。ゲームとしては8月の1カ月間がゲームの期間となります。もちろん途中でゲームオーバーすることもあり、1カ月を待たず終わってしまうこともあるんですけれど。プレイヤーはこの8月を繰り返して、お話の結末、あるいはよりよいエンディングを目指してプレイしていただきたいと思っています。
こういった目標を無視して、ひたすらハーレム展開を追求したり、自分以外の誰かと誰かをくっつけて甘酸っぱい思いをしたり……というプレイもできるので、そのあたりはプレイヤーの好きなようにプレイしていただければと思います。
──年代を1983年にしたのには、どのような理由があるのでしょう?
舞台を決める時に、「キャラクターにスマホを持たせたくない」、「スマホのなかった時代を体験してもらいたい」という意見が出ていました。私もスマホがない時代を長く体験した世代なのですが、今となってはその状況を思い出すのにまず苦労しました(笑)。
ともかくスマホがないので、当然誰かと手軽に連絡を取るコマンドは使えず、人を探して町中をうろちょろするプレイになります。そのぶんスマホがない不自由さというか、「すぐ連絡できないから待ち合わせ時間には遅れないように注意しよう」みたいな感覚を楽しんでもらえると思います。
──この世界の1983年における文明レベルはどの程度のものになっているのでしょうか。
基本的には、現実の1983年と似たり寄ったりを設定しています。実際はファミリーコンピュータが発売されたぐらいの時代ですが、ゲーム内ではケガイ相手の戦時下なので、それよりも若干遅れているかもしれません。とりあえずテレビは、チャンネルをガチャガチャ回すタイプです(笑)。
また設定として、宇宙と地上で時間の進み方が違っているというものがあります。主人公はもともとは宇宙ステーションに住んでいた設定で、宇宙にはそれが可能なレベルの技術はあります。人類が月に到達したのは1969年ですから、1983年の文明レベルなら人類が宇宙に進出していたり、ステーションを作っていたりしても不思議はないですよね。
もちろん、使われているコンピュータは古いもので、現代のスマホにはまったく及ばないようなスペックです。
そういえば1つ思い出しました。シナリオ中で“パソコン”という単語を使っていたのですが、1983年だとまだ普及していないんですよね。ですからあとで、すべてのパソコンという単語を“ワープロ”に置き換えました(涙)。世代的にワープロという単語を知らないプレイヤーが出てくるかもしれませんが、今ならみんなスマホで調べると出てくるので、そういう意味では現代ってホントに便利でいいですよね。
苦難の末に決定した『LOOP8(ループエイト)』というタイトル名
──タイトル名が『LOOP8(ループエイト)』に決まった経緯について教えてください。
タイトル案はいろいろありました。というか決まるまで大もめでした(笑)。全員が、よりよいタイトルを付けたいと思うあまり喧々諤々で、正式に決まるまで、確か5、6カ月はかかったと思います。
私やマーベラスさんを含めたスタッフが集まって、タイトルミーティングを何度かやったのですが、みんなが頭をひねってなんとかひねり出したタイトルでも「いや、もっといいタイトルがあるはずだ」みたいな感じでなかなか決まらないという流れが何度もありました。
最終的に『LOOP8(ループエイト)』というタイトルで行こうとなった時は、「ともかく決まってくれてよかった……」という感慨しかなかったです(笑)。
──なぜ長くかかってしまったのですか?
タイトル決めのオーダーとしては、「ゲームの内容が明示されるようなもの、もしくは内容を象徴するようなもの」というものがありました。その他には「ワールドワイドでも通用するものにしたい」というリクエストもあって、初期に考えていた漢字を使ったタイトル名は使えませんでした。
今や世界はインターネットでつながっており、海外の人でもゲームの公式サイトや情報ページにアクセスすれば、翻訳してストーリーなり世界設定なりを読めてしまうわけです。そういった時に日本語独自のタイトルだと検索サイトで入力できなくて困るので、最終的にアルファベット表記のものになりました。
つくづくゲームもワールドワイドになって、いろいろな人の事情を考慮して作る時代になったと実感します。
海外ユーザーには「“日本の過ぎ去りし夏”を見てみたい」という思いが、結構あるらしいのです。これは、日本のアニメが大きく影響していると思います。
2007年あたりに、学園ものをはじめとする深夜アニメが大量に作られ、海外のケーブルテレビなどでガンガン流されたんですね。それが海外のギーク、いわゆるオタクな人たちに刺さって、学園もののフォーマット的なものが広く知られるようになりました。
ですが、そういったものをちゃんとやっているゲームは実はあんまりなくて、出してほしいという要望は確かにあるのです。そのため『LOOP8(ループエイト)』は、そんな彼らの要望に応えたタイトルとも言えます。
『LOOP8(ループエイト)』というタイトル名も、それこそ私の昔からのファンが「“芝村裕吏”で“ループ”で“8”となったらだいたいこんな感じかな?」というところから外れないように作っているので、そういう意味でもよくできたタイトル名だと思います。
──使われなかったタイトルにどのようなものがありますか?
個人的には『降神(おりがみ)』というのがよかったんですけどね(笑)。アジア向けに発売される『LOOP8(ループエイト)』には、サブタイトルとして“降神”とついていますが、それはこの名残です。
──本作のターゲットとしては、どんな層を想定しているのでしょうか?
今はさまざまなユーザーがいる時代ですし、特定の誰かを狙って作っている意識は薄いです。“芝村裕吏”というと、かつては“『高機動幻想ガンパレード・マーチ』の芝村”や“『絢爛舞踏祭』の芝村”という人が多かったのですが、今は、『マージナル・オペレーション』であったり、あるいは“『刀剣乱舞-ONLINE-』の芝村”だったりすると思うんです。
そういう意味だと、いろいろな人がいて、いろいろなファンが『LOOP8(ループエイト)』を手にするかもしれない。その人が私の名前を知っていても知らなくても、「このゲーム、おもしろいじゃん」と思ってもらえるようなものを作りたいと思っています。
決して特定の誰かに強いメッセージを届けよう、みたいなイメージは持っていないのですが、若いスタッフの中に私のゲームが大好きなままに大人になってしまった人が結構多くて(笑)。そのせいか、私がイメージしているよりも『高機動幻想ガンパレード・マーチ』っぽく作られたところが意外にあります。
──『高機動幻想ガンパレード・マーチ』は電撃としても縁の深いタイトルで、『LOOP8(ループエイト)』の情報が届いた時には、スタッフ間でザワッとしました。
こちらのスタッフもそんな感じですね。画面のUIなどが今風の作りではなくて「なぜこんな風にしてるの?」と聞いたところ、「こっちのほうが芝村さんのファンにはくると思うんですよ」と、自信満々に語ってきました。
「えぇ?」と思うこともないですが、最終的には「レトロ感があっていいかも」と思って今に至ります。若いスタッフの熱量が感じられて、結構楽しいですね。
──シナリオも芝村さんが手がけているとのことですが、そうすると世界設定などでこれまでの作品とのつながりがあるのでしょうか?
まったくつながりがないわけではないのですが、全体の話でいくと、私の作品の世界設定を古くから知っている人は、『LOOP8(ループエイト)』で想定しているユーザーの1%にも満たないくらいになると思います。そのため、世界設定を知らないとゲームをできない感じにはしていません。どちらかというとブランニュータイトルとして楽しんでもらえればと思います。
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LOOP8(ループエイト)
- メーカー: マーベラス
- 対応機種: PS4/Switch/Xbox One/Steam
- ジャンル: RPG
- 発売日: 2023年6月1日
- 希望小売価格: 5,980円