【ウマ娘が1.8倍楽しくなるお話 24】全ウマ娘が必ず走るあのレースにもドラマがある。そして粋なこだわりも
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- 柿ヶ瀬
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メインストーリー最終章に登場した新しいウマ娘はツルマルツヨシでした。スペシャルウィーク最大の敗北である京都大賞典にスポットを大きく当てる形にするんですねえ。元々意見が割れていましたが、前日にガチャ更新でメジロブライトが発表されたことにより、京都大賞典に焦点を当てるのではという見方が強くなり、その勝ち馬であるツルマルツヨシに傾いたところはありました。ビジュアル以外にもそんなところから見えたりすることもあります。柿ヶ瀬です。
新ウマ娘の正体が判明したり、それ以外にも驚くような情報も出たりして、『ウマ娘』の歴史が大きく動き出したのでは? という感じもあるのですが、当コラムでは最近そういう手の話ばかりしていましたので、今回は平常運転のコラムで行きたいと思います。
今回は、全ウマ娘が必ず走るレース――そう、“ジュニア級メイクデビュー”のお話をしようと思います。距離やレース場はウマ娘によってバラバラですがゲームの仕様上ジュニア級の6月後半に走ることになりますね。勝てば次のステップのレースへ進み、勝てなければ未勝利戦を勝たないと次へ行くことはできません。
現実の競馬においては“新馬戦”と呼ばれるレース(現在は競馬場の名前を取ってメイクデビュー東京やメイクデビュー新潟などとも呼ばれます)で、現在の規定ではダービー開催週の翌週から2歳新馬戦が始まり、翌年2月に3歳新馬戦の終了、以後は3歳では未勝利戦のみが9月頃まで行われることになっていますが、今後3歳の新馬戦の廃止も検討されていくと言われております。
一度走って勝てなかったら未勝利戦に回るのはゲームと同じ。ただし一応未勝利のまま1勝クラスやオープンレースに出ることもルール上可能ではあります。ちなみに新馬戦は未勝利戦よりも賞金が高いです。
ウマ娘のモデルの競走馬はみんなデビュー戦で勝っているのか?
ゲームでメイクデビューに負けるとガックリ来ますよね……。わかります。しかしゲームと違って現実の競馬において1つ勝つことはとても大変です。そうは言ってもウマ娘になっている競走馬は多くがGIを勝っているようないずれ劣らぬ名馬ぞろい。みんなデビューからいきなり勝ってるものなんじゃない? なんて思う方も多いでしょう。
実際どのくらい勝っているのか。現在名前が明かされているツルマルツヨシまでのウマ娘のモデル競走馬全78頭のうち、地方出身のオグリ、イナリ、ユキノ、ウララの4頭を除いた74頭中で“初戦の新馬戦”に勝利したのは43頭。勝率はだいたい58%ですね。どう感じますか? 思ったより勝ててないと思いませんか? そのくらい新馬戦で勝つというのは難しいものなんです。
勝てなかった理由は様々です。競馬に慣れていなかったり、調整不足だったり、本格化前だったり……。競馬においてその秘めた才能を発揮することがいかに難しいのか、現実を知ることができます。
さて“初戦の新馬戦”とあえて言ったのは、かつては新馬戦のルールも現在とは違っていたからです。実は2002年までは同開催(中央競馬は4週間8日間を同じ競馬場で行い、1開催としています)期間中の新馬戦には何度も出ることができたのです。例えばダイタクヘリオスなんて新馬戦に3度も出走しています。そして3戦目で勝利を飾りました。
その他にも現在では開催されていない“未出走戦(読んで字の如く、まだデビューしていない馬限定の未勝利戦のこと)”というレースに出走して勝利したメジロアルダンなどもいますし、初戦が未勝利戦だったタイキシャトルやツルマルツヨシなどもいます。故障や体質により新馬戦の行われる期間にデビューすることができなかった馬たちです。まずは無事にデビューすることすらも現実の競馬では大変な仕事なのだ、ということがおわかりいただけるかと思います。
新馬戦のドラマはゲームにどう落とし込まれているのか?
それではここからはウマ娘のモデルとなった競走馬たちのデビュー戦が、『ウマ娘』でどのように表現されていたのか、いくつかピックアップして紹介していこうと思います。
アドマイヤベガ
アドマイヤベガの新馬戦は単勝1.7倍の大本命でした。それはそうでしょう、牝馬二冠のベガの初仔で、しかも父は既に大種牡馬の評価を得たサンデーサイレンス。胎児の時は双子であったり、母ベガと同じように脚が曲がっていたりしましたが、それでもこの良血、当然の評価であったでしょう。結果は見事に1着入線……しかし、他馬の進路を妨害したため4着降着となってしまいます。
育成のレースにおいて降着は表現できません。なのでアドマイヤベガのウマ娘ストーリーでは、選抜レースの中であったこととして、新馬戦での降着がしっかりと描写されています。降着と言えばメジロマックイーンの天皇賞(秋)の18着降着もメインストーリーで描かれていましたね。
余談ですが、現実のアドマイヤベガは新馬戦降着のあと、未勝利戦には出ずそのまま500万下条件(現在の1勝クラス)のレースに出て勝利します。その後は重賞のラジオたんぱ杯3歳S(現在のホープフルSの前身)を勝つのですが、ルール上初勝利が1勝クラスであった場合は、もちろん1勝馬なので1勝クラスが自己条件となります。
メジロアルダン
メジロアルダンは先程もお話した通り、新馬戦ではなく未出走戦という現在では行われていない、デビューが遅れた馬のためのデビュー戦に出走しました。脚の問題か、番組的な問題かは筆者にもわかりませんが、メジロアルダンのデビュー戦の舞台は、東京ダート1200mでした。
ゲームにおけるメジロアルダンの適性と言えば、ダートFで短距離はE。これではメイクデビューを勝ち上がることはほとんど無理です。というわけでメジロアルダンもまた、デビュー戦はウマ娘ストーリーで描かれることになりました。
ちなみにゲームでのメジロアルダンのメイクデビューは東京芝1800に設定されているのですが、これは実は2戦目に走った山藤賞のシチュエーションだったりします。
ライスシャワー
菊花賞、そして天皇賞(春)を2勝と、ステイヤーとして名を馳せたライスシャワーですが、実は新馬戦はそのイメージとは全く違うレースを走っています。その舞台とは……新潟芝1000m。
ゲームにおいて短距離適性Eのライスシャワーにはあまりにも酷な距離。しかし現実のライスシャワーはしっかりその新馬戦を勝ち上がっています。実はライスシャワーが走った当時の新潟競馬場は現在の左回りで直線の長いコースではなく、右回りコースでした。しかしアニメ2期ではしっかり現在の左回りの新潟レース場として描写されています。『ウマ娘』の設定というか、世界観が垣間見えるシーンだと思います。ちなみに2戦目も短距離1200mの新潟3歳Sでした(11着)。
デビュー戦で期待されなかった、と言えば
先日メジロブライトが育成実装されました。メジロブライトは昨年11月11日の“そこそこぱかライブTV Vol.6”で新しく追加されると予告され、翌週18日にシルエットとプロフィールのみ発表される形で登場しました。
その際のプロフィールでメジロであること、誕生日が4月19日であること、そして周囲から期待されていなかった、という情報が出て、早々に「これはメジロブライトだ」とSNSなどでは看破されていました。その際、競馬初心者の人は「あ、プロフィールの誕生日見れば分かるんですね」と言っていましたが、競馬好きは「ごめん誕生日とか知らない……期待されてなかったっていうからブライトだと思っただけで……」となった笑い話がありました。
競走馬の誕生日を祝う習慣は、それまでまったくなかったわけではありませんが、競走馬は1月1日に全部馬齢が増えることもあり、そこまで意識されていませんでした。しかし『ウマ娘』がリリースされてから、それぞれの馬の誕生日をSNSなどでお祝いすることが増えた気がします。
少し話が脱線しましたが、メジロブライトが期待されていなかったというのはまさに新馬戦が関係しているのです。メジロブライトの新馬戦は6頭立ての少頭数(函館芝1800m)。そんな中でメジロブライトはなんと6番人気。そう、最低人気だったのです。
そのオッズは58.9倍。6頭立てとしたらかなりの高配当、つまりまったく期待されていなかった、ということです。メジロブライトはそんな低評価を覆して勝利を収めるのですが、その勝ちタイムは平凡どころか遅い2分1秒6(良馬場)。同じ年の同開催で行われた函館芝1800mの3歳未勝利戦(稍重)のタイムは1分52秒3であることを考えれば、いかに遅かったかおわかりいただけると思います。
この新馬戦もウマ娘ストーリーの選抜レースで描かれましたが、この異常な遅さのタイム、そしてそのズブさ(競馬用語で反応が遅い、エンジンの掛かりが遅いというような意味)を融合した結果……こののんびりおっとりしたメジロブライトのキャラクターになっていたのではないかと思われます。
さらに最近発表されたヤマニンゼファーも新馬戦では、メジロブライトに負けず劣らずの期待されなさでした。調整不足の中での出走だったため16頭立て(中山ダート1200m)で12番人気、そのオッズは69.1倍。しかし走ってみれば見事な末脚を見せての勝利。
調整不足でこれなら、しっかり調整したらどうなるのか? と、新馬戦を見ていた人たちが思ったかどうかはわかりませんが、結果としてはGI3勝馬へと駆け上がって行くのでした。ヤマニンゼファーが育成実装されるとき、この新馬戦がゲームでどのように描かれるのか。楽しみにしたいと思います。
というところで、それぞれのデビュー戦についてお話してきました。今回記事に掲載した画像に出ているそれぞれのゼッケン。この番号は現実の新馬戦で各ウマ娘がつけていた馬番のゼッケンなのです。ニッコリしちゃいますよね。こういうこだわりを見ると。
期待されていた馬も、期待されていなかった馬も。デビュー戦を勝利で飾った馬も、なかなか勝てなかった馬もいます。『ウマ娘』のゲームにおいては、1つ勝つことはとても簡単に見えてしまいます(現実では113連敗したハルウララですら!)。しかし現実の競馬に触れていくと、1つ勝つ、ということがいかに大変かというのは本当によくわかってくるのです。
ウマ娘になっている競走馬は多くがGIを勝っているような名馬です。しかしそんな馬にも必ず最初はデビュー戦があり、勝っていることもあれば、負けていることもある。期待されていることもあれば、そこまででもなかった馬もいる。しかしそのデビュー戦を経てこそ、その後の栄光に続いているのだなあと思っていただければ、ゲームにおけるジュニア級メイクデビューや、ウマ娘ストーリーで描かれる選抜レースの描写なども見る目が変わってくるのではないかと思います。
また次回もこういった“楽しみ方”を提示していければと思いますのでお時間ありましたらぜひご一読いただきたければ幸いです!
それではまた!
“まとめページ”でこのコラムをチェック!
連載コラム“ウマ娘が1.8倍楽しくなるお話”のまとめページはこちらです。過去に掲載してきたコラムをここで一気に読むことができます。いろいろな驚きや発見があると思いますので、ぜひチェックしてくださいね!!
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