春アニメ『エスタブライフ』の感想。谷口悟朗の新企画は“逃げる”がカギの小気味よいシティアクション
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現在、フジテレビ“+Ultra”ほか各局で放送中のTVアニメ『エスタブライフ グレイトエスケープ』の感想をお届けします。FODで1話が無料公開(2話も4月21日まで無料公開)されています。
『コード・ギアス』などで知られる谷口悟朗さんのオリジナル企画である『エスタブライフ』。本作『エスタブライフ グレイトエスケープ』は、アニメ・スマートフォンゲーム・映画といろいろな形で展開予定な『エスタブライフ』シリーズの、アニメにあたる作品です。
監督は『ご注文はうさぎですか?』の橋本裕之さん、シリーズ構成・脚本は小説『フルメタル・パニック!』の作者・賀東招二さん、が手掛けます。
舞台となるのは、壁に囲まれた“クラスタ”と呼ばれる多様な街で構成された、遠い未来の東京。“逃がし屋”という裏仕事に就いた少女たちが、悩みを抱える人々の依頼を受け、閉鎖された未来都市“クラスタ”からの脱出を手掛ける物語です。
『エスタブライフ』の世界とは――
遠い未来の時代。世界人口がピークを迎え、減少傾向に転じていた。
人類は種の繁栄のため生態系を管理するAIを作り、“人類の多様化実験”を実行。常人・獣人・魔族などの遺伝子改造による“多様な人種”と、壁に囲まれた“クラスタ”と呼ばれる“多様な街”を創造した。
数多存在する“クラスタ”は、それぞれ独自の文化を有し、そこに適正をもつ人類が生活している。そして、滅びることがないよう、常にAIに管理されながら暮らしているのである──。
この記事では、1~2話を見た感想をお届けしていきます。世界観はSFファンタジー色が強いものの、ストーリー展開やキャラクターの境遇などは、視聴者が生きる現代の現実世界に通ずるものがあるので、さまざまな形で視聴者の心に刺さるな、と思いました。
“逃げる”って悪いことじゃない
本作の舞台は今よりはるか未来。獣人・サイボーグ・魔族など多様な姿の人々が存在しており、東京はAIによって厳しく管理された“クラスタ”となりました。
新たな世界になったことで、新しい常識が生まれる中、そこでの暮らしに不自由を感じる人々もいます。その上、この“クラスタ”では都市と都市の移動が厳しく制限されており、許可なく脱出しようものなら、あらゆる警備システムが襲い掛かってきます。
そんな環境でも、どうしても現状から逃げたいと思う人がいます。その人々の依頼を受け、現状からの脱出を助けるのが、本作のメインキャラクターである“逃がし屋”の5人の仕事です。
世界観は遠い未来の話で、アニメらしいSFファンタジー的な設定なのですが“現状から脱出する”というテーマには社会風刺があり、その部分は本作の大きな特徴だと感じました。
冒頭で、現代の現実世界に通ずるものがあると書きましたが、その大きな要因は、この世界の人が住む“クラスタ”は、我々が生きる世界に容易に置き換えできるからです。
例えば、付き合いたくなくても嫌々続けるしかない交友関係。本当はやりたいことがあるのに周りのしがらみに捕らわれて動けずにいる状況など。世の中には、自分の気持ちに嘘をつかなければならないことが多くあります。
本作では、そうした悩みを抱えた人々が“逃がし屋”に依頼をします。「逃がしてくれ」と。だからこそ、彼らと同じように周りの環境にモヤモヤを抱える人々にこそ、本作はある種の“癒し”を与えてくれる作品ではないかと思うのです。
PVなんかにもそれが表れています。開幕1秒で出てくるワードが「死にたい……でも」です。正直、ドキッとするとともにそんな気分になったこともあるよな……と思いました。そのアンサーのひとつは、この作品に描かれている“逃げる”なのかもしれません。
※ここからは1・2話のネタバレになる部分もあるのでご注意を
第1話で登場する依頼主は、職場で自分の存在意義を見いだせない教師。第2話では、自分の夢を諦められない極道の組長。どちらも、自分の正直な気持ちに向き合うことにした人々が“逃がし屋”に仕事を依頼します。
“逃げる”という言葉には、どこかマイナスイメージがつきまといます。しかし、自分のために環境を変えるのがそんなに悪いことなのか。ただ自分に合う場所へ移動するだけではないのか。
その手助けを行う彼らの名前を“逃がし屋”にしたのは、そういったマイナスイメージを壊したいというメッセージを感じました。
“逃がし屋”の面々は、依頼人の想いを肯定して手を差し伸べます。その様子を見ていると、我々に対しても「自分の気持ちに嘘を付く必要はない」と言ってくれているようで、周りの目線や常識に捕らわれてしまい、凝り固まった考え方を溶かしてくれるような感覚になります。
筆者はそこまでアニメは考察して見るタイプではないのですが、本作では「こういったメッセージ性があるんだな」というのがとてもわかりやすく伝わってきます。
そのわかりやすさを実現しながらも、安っぽくならない絶妙なバランスが実現しているのが、本作のすごいところ。よく作られていると感じる構成ですが、この豪華スタッフ陣を見ていれば納得です。
脱出を手助けする“逃がし屋”の5人
それでは、続いてメインキャラクターの“逃がし屋”の5人に触れていきましょう。
リーダーであるエクアは、聞く人々の胸にジンと染み込むセリフをたびたび口にする少女で、作品の中でも主人公らしく存在感のあるキャラクターです。
彼女は少し天然気味のような性格ですが、時折物ごとの本質を捉えたような鋭さを見せるのが特徴。彼女なりの哲学があることがうかがえます。加えて、相手を否定しない優しさとポジティブさを持ち合わせています。周りから非難され兼ねない願望を持つ依頼主の気持ちにも優しく寄り添う姿が印象的でした。
その姿はまるで聖母のようで、彼女が優しく語りかける様子を見ている我々もほっと胸が温まります。ここまで清々しく自分のこと肯定してくれる人がいれば、間違いなく話を聞いてほしくなりますね。
ただ、あまりにポジティブな性格なので、危険な仕事中には度を超えた“なんとかなる精神”に周りが巻き込まれることもしばしば。持ち前の前向きな性格があの優しさに繋がっていると思うのですが、勢いあまって「はぁ、優し……いやヤベェなこいつ」という領域に片足を突っ込んでしまっている気がしなくもないですね(笑)。
“逃がし屋”には、エクアと同じ学校に通うフェレスとマルテースという2人の少女も所属しています。
フェレスは、銃と魔法を使いこなして仕事中の戦闘面のサポートを担当。その役回りもあって、エクアのポジティブムーブに振り回される毎日を送っています。
危ないことは絶対にやりたくないと言いつつも、何だかんだエクアに付き合ってあげるのがフェレスの優しいところ。普段はトゲのある強気な性格ですが、実は照れ屋でチョロい一面もある。ああ、これはいいツンデレですわ……。実にいい……。特に2話の最後は絶対見たほうがいいです。
金髪ツインテールで二面性有りという、人によってはピンズドに刺さってくるんじゃないかってキャラクターです。
3人目はマルテース。マイペースな性格で、ちょっと変わった体質を持つ少女です。
その体質もあってか、“逃がし屋”としては囮役になりがちなマルテース。1話ではかなり驚くシーンもあったりしました。
先輩であるエクアのことが大好きなようで、エクアの行動にそのままついていくことが多い印象。わりかし極端な思考のエクアと、それについていくマルテース。その2人に挟まれるフェレスの境遇には少し同情してしまいます。そう、いつだって苦労人は(ある程度)常識のある人なんですよ。
3人に加えて、狼の獣人のウルラと、AIロボットのアルガも“逃がし屋”のメンバーです。
この2名は、セリフが「わん」しかないウルラが三木眞一郎さん。妙におじさんくさいアルガを速水奨さんが演じており、こういうポジションでこの2人を出してくるのか……と驚かされました。でも「わん」でもなんとな~く伝わってくるものがあるんですよね。
見た後は非常にスッキリとした印象が残ります。テンポとスピード感が心地よく、アクション部分もほどよいハチャメチャ感と緊張感を両立した演出です。我々が生きる現代にも通じる内容であり、オチもしっかりとまとまっていて小気味いいですし、「見たな~!」という満足感もあり、なんだか見た後に心に残るものもあります。
筆者はFODで見ましたが、ここまでのストーリー構成は1話完結型となっており、サクッと見られるのも良いポイント。まずは、気軽に本作の魅力がギュッと詰まった1話を見ていただきたいところですね。
今なら最新話に追いつける!
冒頭でもお伝えしたように、本作はFODで1話が無料公開されており、また2話も4月21日まで無料公開されています。なおFODでは12話まで見られるようですね。
このタイミングで見ておけば、4月21日に放送される3話に追い付けます。3話は共産主義がテーマのひとつで、狙って制作したワケではないでしょうが「このタイミングにこのテーマの話が来るとは……」と、妙に現実とリンクしていて、ただ面白いというだけではなく不思議な気持ちになりました。
TVアニメ『エスタブライフ グレイトエスケープ』
【放送情報】
フジテレビ……毎週水曜日24:55~25:25
関西テレビ……毎週木曜日26:25~26:55
東海テレビ……毎週土曜日25:45~26:15
北海道文化放送……毎週日曜日25:10~25:40
テレビ西日本……毎週水曜日25:55~26:25
BSフジ……毎週水曜日24:00〜24:30
【配信情報】
FODにて先行独占配信中(第1話無料配信中)
FOD ・ TVer ・ GYAO! にて毎週1週間限定無料見逃配信
毎週水曜日25:25より最新話配信
【スタッフ】
原案・クリエイティブ統括:谷口悟朗
監督:橋本裕之
原作:SSF
シリーズ構成・脚本:賀東招二
キャラクターデザイン原案:コザキユースケ
コンセプトアート:富安健一郎(INEI)
音楽:藤澤慶昌
企画・プロデュース:スロウカーブ
アニメーション制作:ポリゴン・ピクチュアズ
【出演声優】
エクア:嶺内ともみ
フェレス:高橋李依
マルテース:長縄まりあ
アルガ:速水奨
ウルラ:三木眞一郎
©SSF/エスタブライフ製作委員会
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