レトロゲーム談義 千夜一夜 第4夜:日本ファルコム 後編『イースII』

池田英世
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 不惑(40歳にして迷いがなくなること)に至ってまだ悩んだり、知命(50歳にして天命を知ること)を過ぎてもなお明日が見えず、ふと枕を濡らす夜がある。そんな時は、気の合う仲間と昔(のゲームの)話に花を咲かせたっていいじゃない。


 本コーナーでは、いわゆるレトロゲームをちょっと変わった切り口で紹介しています。ベースにはもちろん、筆者の記憶と思いこみ、それと業界で身に付いた多少の知識や考察などがありますが、基本的にはゆるく曖昧なフィクションの形式を取っています。だって思い出話をする時って、記憶があやふやだからこそ楽しいってこと、ないですか?

 前回に引き続き、『イースII』のお話をお届けします。

2022年。シリーズ生誕35周年を記念して、出るかファン待望の最新情報!?

『イース』の歴史、日本のRPGの歴史

翔:そういえば『イース』って今も続いているシリーズ作品でしたね。最新作は…9でしたっけ? ずいぶん長いですよね。

村井:そうだね。『イース』は来年2022年でちょうどシリーズ生誕35周年。『ドラクエ』とか『FF』、ペルソナを含む『メガテン』シリーズと比べても全く引けを取らない由緒ある作品だよ。そういえば、確か35周年に向けて何か動きがありそうだ、なんて匂わせが少し前にあった気がするけど…。

※繰り返しになりますが、本作中での日時はまだ2021年の12月31日です。

翔:2月に『イースVIII』と『イースIX』の新価格版が出るみたいですけど、さすがにそのことじゃないですよね。

村井:そうだと信じたいねぇ。たまに大きく間が空くこともあったけど、だいたいは2~3年おきに1作のペースで新作がリリースされてるタイトルだし、『イースVIII -Lacrimosa of DANA-』が2016年、『イースIX -Monstrum NOX-』が2019年だったことを踏まえれば、2022年は何かあっても全然おかしくない年だからね。

岸田:『ドラクエ』や『FF』、『メガテン』シリーズと比較して、『イース』にはひとつ変わった特徴がある。わかるか? それは極一部の例外を除けば、主人公が常にアドル=クリスティンであることだ。

翔:へぇ、そうなんだね。

村井:それは『イース』シリーズが「稀代の冒険家であったアドル=クリスティンが後世に残した百余冊にものぼる旅の手記を、物語(ゲーム)の形で再編した作品」という設定があるからだよね。『イース』は発売当時、大人気だった同社の『ドラゴンスレイヤー』シリーズが一方であまりに高難度すぎたから、そのアンチテーゼとして「誰でも頑張ればエンディングまでたどり着ける」ゲームデザインを目指して作られたって話もあるけど、名前の付いた主人公、アドルの設定もその辺を意識して作られたのかね?

岸田:どうだろうな、ただ試みは面白いとして、RPGとしては余計な問題を抱えることにはなっただろうな。

翔:余計な問題?

岸田:RPGなんだ、戦ってレベルアップするだろ? 終盤に向けて進むにつれ武器や防具だって当然強くなっていく。これを合理的な理由で新作が出るたびに毎回リセットするのは、なかなか難儀なことだと思わないか?

翔:確かに。それはどうやって解決を?

村井:だいたいは乗ってた船が難破したとかの理由で、ご丁寧に持ち物をすべて失ったうえで、気を失ってどこかの砂浜に打ち上げらてるところから始まる、かな?
(村井の言い様にはやや誇張がある。実際に「漂着スタート」をするのは『I』『II』を除けばあとは『VI』と『VIII』しかない。その点、すべてを没収され、監獄に収監されて始まるという『イースIX -Monstrum NOX-』の設定はかなり秀逸なアイデアだった)

翔:え、それはあまりに強引な気が…。

岸田:なに、最初の『イース』『イースII』からしてそうだったんだ。プレイヤー側にもとっくにお約束として認知されてる。

 翔が「信じられない、本当に?」という顔で村井に顔を向けるが、村井は「うんうん」と、にこにこしながら頷くばかりである。

数千年を積み重ねてきたファンタジー世界

村井:冒険家アドルのお約束と言えば、話はちょっとずれるんだけど、最近のゲームって主人公は名もなき冒険者。最初は冒険者ギルドに登録して、薬草摘みから始める。最初に出会う人型モンスターはコボルトかゴブリン。みたいな設定、多すぎない?

翔:はは、ゲームだけじゃないですけどね。

 珍しく翔が破顔一笑して答えた。

村井:制作する上で便利なのはわかるよ。説明しなくても分かってもらえる、ゴブリンって単語だけでなんとなくどんなモンスターか想像してもらえるってのは楽だと思うから。でもあまりにもみんな安易に乗っかっりすぎてるんじゃないかなぁ、ってね。なんか最近ちょっと食傷気味なわけ。

翔:僕はもう慣れちゃったかなぁ…。

由芽:うん、というかおかしく感じたことがないというか。

 由芽はもうキーボードから手を放していた。変わって画面内のアドルを操作しているのは岸田だ。

 ひとしきり満足した由芽の後を岸田が継いだのか、あるいは岸田が無理やり交代を迫ったのかまでは村井からは確認できなかった。

翔:具体的に言うとどの辺に違和感が?

村井:どこと言われてもさっき説明したそのままなんだけど…。例えばそうだな、流行りの異世界転生系コミックで考えてみようか。あの分野って玉石混交ではあるけど、今ものすごく量が多いじゃない?

由芽:売れてますよね~。

翔:売れてる作品も売れてない作品もあるけど、ジャンルとしてものすごく勢いがあるってのが正解かな。まさに流行りですよね。

村井:もう本屋さんなんか行くと、新刊本の半分以上を占めてるような感じさえするよね。でもよく考えたらそれらってさ、全部別の作者の描いた別の物語だよね? それなのに主人公たちが転生する先の世界は全部似たり寄ったり。共通点どころか、ほぼみんな同じ常識の上で成り立ってる。ヨーロッパ風の街並みで、剣と魔法があって、科学技術が遅れてて、料理がまずくてマヨネーズがなくて…って。

由芽:ははは、マヨネーズ!

村井:ね、それってどうなんだろう? って思わない?

翔:売れてるっていうことは、受け入れられてるってことだとは思いますが。

岸田:それは今に始まったことじゃないんじゃないか? それこそTRPGにだって、エルフは耳が長い、ってのは冗談としてもスケルトンやゴブリンが雑魚で、ドラゴンが最強でみたいな、ある程度のファンタジー・コモン・センスみたいなものはあるだろう。

●エルフの耳

 エルフの耳には当初「尖っている」という特徴はあっても「長い」という特徴はなく、この「尖っている」が「長く尖っている」に置き換わったのは、『ロードス島戦記』に登場する「ディードリット」というキャラクターが最初だった、というのは実際の真偽はともかく、日本のファンタジー好きにはよく知られた話だ。

 実際、映画『ロード・オブ・ザ・リング』(原作『指輪物語』の発刊は1954年)に登場するエルフの耳は尖っているだけで長くは見えない。

 もし真実だとすれば、げに恐るべきは「ディードリット」の魅力と人気だろう。並大抵の作品に登場する並大抵のキャラクターでは、このような「上書き」はとても起こせないのは明白なのだから。

●ファンタジー世界の魅力

 RPGの原点として、TRPGのD&D(1974年)があることは前回述べた通りだが、ファンタジー世界の設定そのもので考えた場合、上記『指輪物語』もあれば、そのアイデアの基になった『ベーオウルフ』(8~10世紀くらいの成立と言われている)や、紀元前の『ガリア戦記』にまで遡ることができ、果てしがない。要は相当の昔から愛され、語り継がれてきた物語の世界であり、近年になって突然生まれてきたものではないということだ。

 さらに言うならば、その連綿と受け継がれるファンタジー世界観は今なお着実に進歩と更新、淘汰と積層を続けている。流行りの異世界転生系作品群の中でも、日々新しいアイデアや新しい設定が生まれ、時に一般化し、さらに定着しそうな概念が生まれていたりするのだ。

 例えば「スタンピード」。Stampedeは本来「突発的で無秩序に近い暴動」などを指す言葉だが、それがいつしか「モンスターの大群による人間居住区を脅かすような集団行動」として使われ、さらに最近では「ダンジョンから溢れ出たモンスターが大挙して街に押し寄せる大海嘯(だいかいしょう)のような現象」を指す言葉として使用されているのを、(特に関連性のない複数の作品で)目にするようになった。

 ゆるく曖昧な、しかし十分に魅力的なフォーマットを基に、複数の作家が、それぞれ自分の解釈で好き勝手に物語を作り、それゆえ時に矛盾する概念があったとしても決して直接は衝突せず、世界(読者)がより魅力的な方向へと自然進化を促していく。それはある意味『クトゥルー神話』などにも似た組成である。

村井:そうなんだけどね。世界設定はともかくとして、それぞれの世界に住む人間の生き方みたいなのは、もう少し掘り下げてこだわってもいいんじゃないかってね。実際それができている作品は他とは一線を画すレベルで売れてると思うし。

翔:なるほど。

『イース』シリーズの説得力

村井:そもそもの発端はさ、『イース』シリーズには冒険者や冒険家ってほぼアドルしか出ないんだよ。しかもそれ自称だからね。多分あの世界一般の認知としてはアドルって圧倒的に「伝説の赤毛の剣士」の方で覚えられてて、冒険家だと思ってるの多分本人含めてたった数人だけだと思うよ。

岸田:そう言われてみればそうだな。

村井:それで、みんながみんな「今日から俺は冒険者だっ!」ていうのに拒否感が出てきちゃった感じかな。モンスターがいて、生きていくだけでも一生懸命な世界ならなおさら、冒険者なんて職業なり手がなさそうな気がしない? 武芸自慢は軍人か傭兵か騎士みたいなものになると思うんだよね。実際『ロードス島戦記』にだって冒険者は出ないでしょ? 大冒険を成功させる主人公のパーンは騎士だしね。

由芽:リアリティってことですかねぇ?

村井:リアリティとは違うかな。強いて言うなら説得力だよね。結局はどれだけ没入できるかじゃない? 「ロール」「プレイング」なんだからさ。嘘くさい、とか、システム的な都合とかを感じると、急に覚めちゃったりすること、あるでしょ?

翔:ああ、そういう。

由芽:メインのストーリー進行にたいして関係も必要もなさそうな、お使いクエストみたいなのをひたすらやらされると「これなんか意味あるのかな?」とか思っちゃうあれですね?

村井:そうそう。

岸田:そういう意味ではこの『イースII』は、多少強引なところもあるが、基本的にはプレイヤーのやりたいと思うことと、クエストとして示されることが多くの場合一致していて(例えば仲良くなった女の子が姿を消したと聞けば、それを探しに行きたいと思うのが普通の感覚だろう)、最後まで没入して進められるのが良いな。誘導がうまくてテンポがいい。

村井:でも昔のゲームって大抵そうじゃなかった? いつからだろうね、ボリュームとかが気になりだして、かさ増しのサブクエストとかが出てきたのって。

翔:オンラインゲームとか、オープンワールドを謳うゲームが出始めたころ、ですかね? それか自由度って言葉が出始めたころ。

岸田:レビュー記事なんかに総プレイ時間が書かれ始めたころじゃないか?

村井:ゲームの値段も上がってきたからね、たまに気になることもあるよね、ボリューム。

岸田:いや、『FFVI』とか、既にスーパーファミコンで定価1万円超えてたろ。確か就職したばかりだった。初任給でゲームに1万払うのはなかなかキツかった思い出があるぞ。つまり家庭用ゲーム機のソフトの値段は、30年前と大して変わってないんだよ、実は。というより若干安くなってるとも言える。

村井:ああ、そうか。メディアがROMカートリッジからディスクになったとき、一度ゲームの価格破壊が起きたんだ。PlayStationとかSEGA SATURNの頃。っていうか今何時だ? ちょっと話がそれまくっちゃったね。

 腕時計を覗くと、短針が11を過ぎて0までもう少しというところまで進んでいた。

 いつの間にか放置されていたPCの中の『イースII』も、岸田と由芽が交代で進めたのだろう、そちらもある程度の箇所まで進んでいるようだ。

岸田:おまえらはもう帰れ、まだカウントダウンには間に合うだろう。

 まるで自分は帰る気がないかのような言い方だ。だが言葉に反して声色も表情も優しく感じる。

由芽:お邪魔ぁ、ですかね?

村井:お邪魔だよ。こっからは大人の時間。

 岸田が「ん? なんだ、お前も残るのか」という目で村井を見る。それを見た由芽と翔が顔を見合わせ、微笑みを交わした。

翔:じゃぁ、僕らは一足お先に帰ります。よいお年を。

由芽:今年は本当にお世話になりました。来年もぜひぜひ、よろしくお願いします!

岸田:翔。

翔:ん?

岸田:ありがとうな。

翔:ん。

 マスターはまだ片付けに入ろうともしていない。こんな日でも通常通り明け方まで営業を続けるつもりなのだろう。

村井:さて、どうしますかね。

岸田:俺は俺の気がすむまで飲むだけだ。

村井:じゃ、ボクもボクの気がすむまで付き合うとしますか。

 岸田は何か返そうとするが、返す言葉が出なかった。代わりに入り口のほうからなにやら不穏な会話が聞こえてくるが…。

由芽:さ、カウントダウン対戦と行きますか!

翔:本気ですかパイセン…

 これは二人とも聞かなかったことにした。

村井:そういえば感想聞けなかったな、由芽ちゃんの。『イースII』の。

岸田:ああ、そうだな。

村井:いい子たちだね。

岸田:誰か悪口でも言ってたか?

村井:言ってないけどね。

 ゴーン!

 遠くで除夜の鐘が響いたような気がした。

村井:お…。

岸田:…。

村井:『イースX』出るかな?

岸田:出ると思って待ってれば。

村井:ん?

岸田:今年を生きてく楽しみが増えるさ。

村井:確かに。そうだね。

『イースII』もプレイできる! プロジェクトEGGとは?

 懐かしのゲームをWindowsでプレイ! PC-9801、PC-8801、X68000、MSXなどで発売されたゲームソフトが、会員制で有料配信中。

『イースII』:Project EGG内のページ。PC-9801版。

著者プロフィール

池田英世

 シバルリージャパン代表。1990年代初頭から文筆業を開始し、その後雑誌の編集、ゲームやアニメの脚本、楽曲の作詞やゲームの開発、プロデュースなどを経験しながら前職では某外資系オンラインゲーム会社にHead of Marketingとして勤務。現在は主に海外のゲーム会社向けにマーケティングコンサル、PR、ASO、QA等のサービスを提供している。

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