『トライアングルストラテジー』大人のための骨太群像劇、その開発秘話に迫る【ネタバレ超ロングインタビュー1】

タダツグ
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 スクウェア・エニックスからNintendo Switch用ソフトとして発売されたタクティクスRPG『トライアングルストラテジー』。重厚な世界観と高い戦略性バトルで話題を呼んだ本作の開発者インタビューを、計3回に渡ってお届けします。

 今回のインタビューのコンセプトは“世界観とキャラクターの掘り下げ”。リリースから約100日が経過したということで、ネタバレを網羅した内容となっています。エンディングに関するお話などもおうかがいしていますので、まだゲームを未クリアの方はご注意ください。

 お話をお聞かせいただいたのは、プロデューサーである新井靖明氏と、シナリオを手掛けた山本尚基氏のお2人。第1回となる今回は、本作が生まれることになった経緯と、ゲームの基幹となる“信念の天秤”を用いた説得と投票システムについて掘り下げます。

目指したのは「大人が楽しめる群像劇」── 『トライアングルストラテジー』が生まれた理由

──まずは本作が生み出されることになった最初の起点を教えてもらえればと思います。

新井靖明氏(以下、新井。敬称略):『トライアングルストラテジー』は、浅野チームの完全新作として立ち上げることになったオリジナルタイトルです。開発の起点となったのは、HD-2Dというグラフィックスタイルを使ったRPG『オクトパストラベラー』の成功が大きいですね。『オクトパストラベラー』は多くのお客様からたいへんなご好評をいただき、売り上げがよかったこともあって、会社的にこのHD-2Dに力を入れていこうという流れができました。

──完全新作を生み出すってところに浅野チームの意欲の高さがうかがえますね。

新井:浅野チームとしては『オクトパストラベラー』、そして『ブレイブリーデフォルト』とスタンダードなRPGシリーズを2本作っていたこともあり、せっかく新作を作るなら、これまでにやったことがない「タクティクスRPG」というジャンルに挑戦しようという話になりました。浅野さんのなかにはずっと「大人向けの骨太な群像劇」を世に送り出したいという想いがあったらしく、その物語を表現するのに適したフォーマットとして、タクティクスRPGはピッタリだったという側面もあります。

──たくさんのキャラクターにスポットを当てるというのは、普通のRPGよりはタクティクスRPGのほうが馴染みがよさそうに思えます。

新井:Aというキャラが前線で戦っているとき、お城にいるBというキャラはどういうことを考えているのか。どうしてこういう状況になってしまったのか? そういったさまざまな視点での物語展開は、タクティクスRPGのフォーマットだと描きやすいんですよ。言い換えると、『トライアングルストラテジー』の物語は、今まで作ってきたスタンダードなRPGのシステムでは表現することができなかったと思います。

──たくさんのキャラの心理にスポットを当てる大人の群像劇。すべてのルートをクリアしている自分としても、想定されている年齢層はかなり高めだと納得しています。本作の大きな軸として「正義と信念」ってキーワードが据えられていると思うのですが、この王道なテーマに挑戦しようと思った意図をお聞かせいただけますか?

新井:本作においては“そもそも「正義」とはなんなのか”をプレイヤーのみなさん自身にも考えていただこうというのがテーマになっています。大人の鑑賞に耐えうる群像劇とはどういうものなのかを考えたとき、それはおそらく勧善懲悪な物語ではなく、もっと生々しいものであるべきだと。

──たしかに、経済政策の違いや貧富の格差、民族間の弾圧、宗教の違いによる軋轢など、じつに生々しい問題にスポットが当てられていますね……。

新井:はい、大人向け、というところでリアリティラインの高さを意識して、ノゼリアという架空世界の設定を構築していきました。様々な思惑を持った登場人物たちが主張する「正義」とプレイヤー自身の「信念」が向き合った時、物語がどのような結末を迎えるのかを楽しんでいただければと思っています。

プレイヤーが貫く「信念」は構想時は8つ存在していた?

──勢力ごとに違った正義があるなかで、プレイヤーは「Moral(モラル)」、「Benefit(ベネフィット)」、「Freedom(フリーダム)」という3つの信念のどれを貫いて生きていくのか……コンセプトからしてすでに骨太ですね。

新井:ちなみに今回、開発はアートディンクさんにお願いしているんですけど、彼らに作ってもらった初期の企画書には、信念は8つ存在していました。

──8つですか? それはなんだか多すぎて、想像がつかないですね(笑)。

新井:はい。群像劇ということで、ただでさえさまざまなキャラにスポットが当たるなか、ゲームとして8つの信念は捉えずらく、制御や差別化も難しそう、という結論になりまして…。企画を精査する過程でいろいろと調べたところ、本作で掲げる「正義」という概念には大きく大別して三つのアプローチがある、というのを目にしまして、「MORAL」「BENEFIT」「FREEDOM」の3つに絞ることとなりました。

──倫理や道徳を重んじる「モラル」。利益や恩恵を重んじる「ベネフィット」。先の2つよりも感情を優先する「フリーダム」。たしかに、人間の心理を突き詰めてシンプルにしていくと、この3つに大別されていく気はします。では、本作のシナリオや世界観を固めていくにあたって重視したものはなんでしょうか?

山本尚基氏(以下、山本。敬称略):私がプロジェクトに参加したのは実テキストを書く段階からで、その時には物語のコンセプトや世界観は、一緒にシナリオを書いたライターの波多野大さんやシナリオプランニングを担当された熱中日和さんの手でほぼ固まっていました。人間が生きていくうえでなくてはならないものである塩が、経済の中枢として重要視されていて、それによって様々な問題が生まれてしまっている世界というのは、誰が聞いてもわかりやすいですよね。そこに政治ですとか、宗教や民族問題などが絡まることで大きな戦いに発展していくというのは、プレイヤーさんにもしっくり来てもらえるだろうと思いました。

──経済のみならず、さまざまな問題が絡み合っているわけで、これをシナリオに落とし込むのはたいへんだったのでは?

山本:その辺は新井とも話し合い、足りない設定などを埋め合わせたりしながら固めていきました。塩税の仕組みなども具体的な数字で設定を考えたのですが、複雑すぎて直感的に理解しがたくなってしまったので、とある国でしか塩が取れず、それに重たい税がかかって苦労している国があり、そこに格差が生じることで軋轢が生まれて……というレベルで、あえてフワッとした表現にまとめました。まずは世界観を理解していただき、それを土台にたくさんのキャラたちの生き方や考えを乗せていくことで、プレイヤーさんに感情移入していただけるようにシナリオを書いていきました。

──「トライアングルストラテジー 公式コンプリートガイド」も読ませていただいたのですが、ここにも出てないような裏設定とかって結構あったりするのでしょうか?

新井:はい。世界設定資料は色々とありますが、開発向けの内部資料なので、ガイドブックへの掲載はしませんでした。ゲーム内で描いた世界設定については、あくまでも「大人が本当に楽しめるお話」のために必要な部分を何度も精査して、今の着地になっています。

──キャラクターの裏設定についてはいかがでしょうか?

新井:キャラクター設定や心情描写については、ゲーム内で描いたことが全てかと思っています。今回のインタビューでもキャラクターの発言の真意や、背景設定について熱意あるご質問をたくさんご準備頂きましたが、こういった場で答えてしまうと、それが正解になってしまいますよね…。開発中は「プレイヤーのプレイイングによる異なるシナリオ体験」というワードで企画意図の統一を図っていたくらいで、プレイヤーさんが歩んだ物語の数だけ解釈の違いがあるのはむしろ本意です。描かなかった部分は、その歩みを振り返って想像して楽しんでいただければ嬉しいです。

──プレイヤーごとに解釈の違いが生まれ、それが議論のきっかけになるというのも、大人向けというコンセプトにはピッタリかもしれませんね。

新井:世界を巻き込む大きな戦いの渦中にあって、あくまでもキャラの心理にスポットを当てたかったので、ものすごく詳細な設定を知っていないと楽しめないものにはしたくありませんでした。あとはメインユーザーとして設定した大人の方々は、お仕事などでお忙しい方が多いでしょうから、端的に、捉えやすく、というのは意識して何度もテキストをブラッシュアップしました。

山本:自分としてもメインストーリーについては、HD-2Dというデフォルメされた世界観を活かして、あえて表現しないことで想像の余地を広げられる形で構築したつもりです。それでもテキスト量としてはどうしても多めになってしまっており、プレイヤーさんに苦労をおかけしたかもしれませんが……(苦笑)。

新井:物語の本筋を理解するために必要なものはメインストーリーとして見て頂き、物語世界をより深く楽しむためのものはサブイベントや挿話という形で任意に楽しんでいただく、という設計意図があります。

山本:加えて、サブイベント以外にも、探索パートやショップで入手できる手記、探索パート中のキャラ会話などのフレーバーテキストにも、世界背景やキャラの人となりがわかる情報を書きました。特に手記は世界観を深堀りする内容が多いので、本編クリア後にでもお読みいただけたらうれしいですね。

──ストーリーを進めることに注力しすぎて、手記の存在をすっかり忘れていました……。あとでしっかり読ませてもらおうと思います。

プレイヤーの進む道を定める「信念の天秤」が生まれたきっかけ

──物語を進めていくうえで大切な役割を担う「信念の天秤」ですが、こちらのアイデアについては、ストーリーが描き進められるにあたって生まれたものなのでしょうか。それとも、この天秤ありきでストーリーが考えられたのでしょうか? どちらのアプローチなのかが気になっています。

新井:天秤ありきではないですね。まずはストーリーが先にあり、それを生かす形として天秤による投票システムが構築された、という順番です。物語の要所で悩ましい選択肢が出るというのはタクティクスRPGの王道なのですが、プレイヤーさんが頭を抱えるであろうこの選択パートをもっとゲーム的に面白くできないものか、プランナーたちと一緒に考えていった結果、投票による意思決定というアイデアが生まれました。

──なるほど。最初は天秤すら存在しなかったというわけですか。

新井:はい。本作の舞台設定は13世紀くらいをイメージしておりまして、その時代に投票を行うとしたらどのような形になっていただろうというのを考えていった結果、天秤を使うのはどうだろうというアイデアが出てきました。最終的にGOサインを出したのは浅野さんだったと記憶しています。

──プレイヤーの分身である主人公のセレノアが、肝心の投票には参加できないというのも斬新ですよね。

新井:ただ選択肢を選んでいくだけの作品にはしたくないというのが浅野さんの考えとしてあったので、それをゲームのなかに落とし込むにあたり、説得と投票という形に辿り着きました。

──人によっては「こちらの選択肢に導けるよう仲間を説得したいけど、うまくいかない」って局面もありえますよね?

新井:はい。物語の要所でセレノアの信念パラメータが上昇していくのですが、このパラメータが一定以上ないと説得に失敗することはありえます。つまり、自分の進みたいルートを選べない可能性も存在するわけです。それこそが説得と天秤を使った投票の醍醐味ではあるのですが、他にはないシステムでもあるだけに、リリース前はプレイヤーさんに受け入れてもらえるかどうか少し心配もしていました。

──正直、そうは言っても説得に失敗して進みたいルートに行けなくなることはないだろうとタカをくくっていたら、全然そんなことはなくてビックリしたんですよね。実際にリリースして、プレイヤーさんからのリアクションはいかがでしたか? 

新井:今までにないゲーム性として、多くの方に受け入れていただけている手ごたえはあります。もし説得に失敗して思い通りの投票結果にならなかったとしても、状況を考えると仕方ないよなって納得してもらえる物語にしたいというのがありまして、山本さんと何度も話をして詰めていきました。

山本:天秤を用いての投票と説得に関しては、ゲームシステムの根幹でもありましたので、逐一、企画チームと連動しながら物語を構成していきました。シナリオ的にいうと、説得パートは答弁の場でもあるので、セレノアを通して物語を見ているプレイヤーにはなかなか気づきにくいこと、重視していなかった部分などを様々なキャラたちが補足してくれるようにしたんです。これによりキャラの個性や世界観の厚みを表現できましたし、自分も書いていて面白かったです。

──たとえばヒューエットが、ロランへの忠誠心を最も重んじる形の選択肢を選んでいたりとか、各自の個性が出ていました。それを説得によってどう変えていくかが、プレイヤーの腕の見せどころというか。

山本:各キャラは置かれた状況のみならず、自分の信念や過去の体験、そして他のキャラとの関係性も含めてその立場を決めています。たとえば、豪快で猪突猛進に見えるエラドールが、じつはものすごく現実的でシビアな意見をもっていたり。それは彼が、かつての塩鉄大戦でとても厳しい戦場を生き抜いてきたからという背景がそうさせているんです。

──物語の序盤と終盤では考え方がガラリと変わったりするキャラもいて。でも、歩んできた道のりを思い返せばその心変わりも納得出来たり……。こういうアプローチで登場人物を掘り下げるというのは、なかなか珍しいというか、新鮮でした。

山本:そうおっしゃっていただけるとうれしいですね。各キャラの発言内容にはかなり悩みましたので。たとえば、あまり感情的な発言をさせてしまうと、選択が受け入れられなかった場合、そのキャラは納得できないのでは……とプレイヤーさんは気になると思うんです。

──プレイヤーとしても、いろいろ察してしまう部分はありましたよ。この選択、ベネディクトは納得してないのでは……みたいなことを考えてしまう局面はありました。

山本:懸念は当然なのですが、問題点として引きずりすぎるのは避けたかったので、キャラの感情表現のコントロールには特に気を遣いました。天秤による選択とはいえ、すべてのキャラが結果を全肯定するのは難しいと思うんですよ。それでも、決まったからにはそこへ一緒に向かっていかなければならない。ノゼリアというファンタジー世界でありながら、そこは現実社会と一緒なんですよね。社会のなかで生きていくうえで、自分の主張とは違うことでも理性的に受け入れていくのは、ある種当たり前なことですから。

──絆の形としては、学生時代の気の合う仲間たちと一緒にいるというよりは、もうちょっと大人な関係ですよね。まさにコンセプト通りなのでしょうが、関係値としては社会人に近い。

山本:各自が責任を背負った大人たちの集団であるということは、常に意識していました。遊んでいただくプレイヤーさんも、まさにそういう社会で生きている方々だと思っていたので、ただの仲間意識だけではない繋がりというのもご理解いただけるだろうと。何度も頭を悩ませたのですが、最終的にはウォルホート家が一丸となって同じ道を歩んでいくという雰囲気に落とし込めたかなと思っています。

1.5人称の主人公──セレノアは最初はしゃべらない設定だった

──そんな彼らを説得するにあたって、自分がものすごく打算的に考えてしまうのがすごく嫌になったりもしました(笑)。自分としてはこんなこと思っていないんだけど、このキャラを説得するために、あえてセレノアに“その人好みのセレノアを演じさせてしまう”局面なんかもありました。こんな葛藤、なかなかないですよね。

山本:その感じ方は、セレノアが1.5人称の主人公というのが大きいですね。セレノアの視点にプレイヤーさんの視点も交わる形になるので、当然ながら彼の言葉や行動にはプレイヤーさんの思惑が介入しますから。もちろん、遊び方はプレイヤーさん次第です。プレイヤーさんの意志を重視していただいてもいいですし、「セレノアだったらこうするだろう」という解釈を重視して、セレノアという人物そのものになりきっていただいてもいいと思います。

──自分にはそのロールプレイの視点は欠けていましたね。仲間を説得することにばかり注力しちゃって、結果、他ならぬ自分の分身のセレノアの気持ちをないがしろにしてしまっていたかも……。次はそこを重視して遊んでみようと思います。物語の受け止め方が、またちょっと違ってくる気がしますね。

新井:ちなみに、じつはセレノアって最初は“喋らない主人公”だったんですよ。つまりは無個性というか、完全にプレイヤーの分身で、名前も自由につけられるようにしようという案もありました。実際にそのバージョンも作ってはみたのですが、どうにも感情移入がしづらいという問題が発生しまして……。

──それはRPGとしては致命的かもしれません。でも、どうして感情移入しづらかったんですかね?

新井:この世界における立場や役割が、どうしても弱くなってしまったからだと思います。そこでセレノア・ウォルホートという名前と、若き領主で仲間たちのリーダーという肩書きと、バトルにおける強力なアタッカーという役割を与え、彼自身にも個性づけをしたことで、悩める主人公として感情移入できるようになってくれました。お話は少し脱線しちゃうのですが、戦闘における役割でも、その人物の性格を表現している部分はあります。

──戦闘における役割というと、アタッカーとかヒーラーとか、そういう意味ですか?

新井:はい。たとえばフレデリカは特殊な境遇で虐げられてきたお姫様ではあるのですが、戦闘では前線で炎を駆使して戦うバリバリの魔法アタッカーですよね。そんな彼女をユニットとして操作してきたからこそ、終盤で彼女が見せる個性というか、我の強さにも納得してもらえる部分はあるんじゃないかと思うんです。15話でいきなりローゼル族の村に一人で行きます。大丈夫ですって口にしても、大きな違和感はなかったのではないかと。

──彼女の芯の強さみたいなものはアタッカーとして運用してきたからこその納得感というか。たとえばこれがヒーラーだったりすると、少し受け止め方が違ってきたかもしれません。

新井:プレイヤーさんのご意見として、クラスチェンジのようなものが欲しかったというお声もちょうだいしてはいるのですが、「誰でもなんにでもなれる」だとキャラクターの個性が薄まってしまうという懸念がありました。バトルでも、物語でもキャラクターごとの個性を生かせる、という点では良い着地だったと思っています。

──戦闘での役割も含めて、キャラの個性になっているというのは面白いですね。

新井:先ほど山本さんが、エラドールが今の考え方に至ったのは塩鉄大戦での経験ありきだとお話しましたが、彼はかつて多くの仲間を目の前で失った経験があるからこそ、その身を張って仲間を守るタンクになったという背景があります。大きな戦いを経て生き残っているからこそ「戦争には絶対に負けちゃいけないんだ」という発言も説得力をもって描けたかと思っています。声優の白熊さんにも素晴らしい演技をしていただきました。

山本:これはバトルをプランニングしたアートディンクさんが、シナリオやキャラクターの設定をうまく紐づけたうえでバトルユニットとしての個性を構築してくれたことも大きいですね。そこを綿密に考えていただけたからこそ、キャラとストーリーが大きく乖離することもなく、相乗効果が生まれました。

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