『トライアングルストラテジー』塩の女神教の起源は? 秘められた裏設定を紐解く【ネタバレ超ロングインタビュー3】

タダツグ
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 スクウェア・エニックスからNintendo Switch用ソフトとして発売されたタクティクスRPG『トライアングルストラテジー』。重厚な世界観と高い戦略性バトルで話題を呼んだ本作の開発者インタビューを、計3回に渡ってお届けします。

 今回のインタビューのコンセプトは“世界観とキャラクターの掘り下げ”。リリースから約100日が経過したということで、ネタバレを網羅した内容となっています。エンディングに関するお話などもおうかがいしていますので、まだゲームを未クリアの方はご注意ください。

 お話をお聞かせいただいたのは、プロデューサーである新井靖明氏と、シナリオを手掛けた山本尚基氏のお2人。第3回となる今回は、世界観に惹かれたプレイヤーが気になるであろう、さまざまな設定部分を掘り下げていきます。

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知らなくてもメインストーリーを楽しむには支障なし? ゲーム内では明かされない細かな設定の数々

──それでは、ここからはゲームを遊んでいて疑問に思った点をお聞きさせていただきます。細かい部分ではあるのですが、塩の女神教というものにはどれくらいの歴史があり、いつ頃から今のような形になったのかを教えていただけますか?

新井靖明氏(以下、新井。敬称略):こちらの設定周りは私が担当したのでお答えします。その発祥は、現実世界でいう紀元前、という言い方でシナリオ班には共有しました。

──具体的な成立の年などはあえて定めていない形ですか?

新井:はい。「大人が本当に楽しめるお話」として、必要十分な設定にとどめました。その誕生の地はセントラリア、という設定です。

──そうなんですか? てっきり、ハイサンドによって立ち上げられたものだと思っていました。最初はローゼル族が信仰していた宗教なんですね。

新井:外的脅威によりセントラリアを追われたローゼル族、信仰の象徴である大塩柱と共に放浪の末辿り着いた安息の地ハイサンド、ここに教皇家始祖が現れ、塩湖を支配し、自らを「塩の女神の子孫。この地は女神が我に与えた地」と宣言し、ローゼル族の奴隷支配開始、という設定資料を共有しました。

──まさかローゼル族の信仰していた宗教が、形を変えてハイサンドの支配に利用されていたとは。そんななか一部のローゼル族だけが真の教義を覚えていて、秘かに反抗の機会をうかがっていたわけですね。その旗手となるのが、フレデリカの母親であるオルレアだと。

新井:はい。オルレアは塩の女神像の中に、大塩柱が隠されていることを知ったからこそ、革命のきっかけにするために女神像を破壊しようとしたわけです。ハイサンドが掲げる偽りの教義に都合の悪い書物や伝承なども、ノゼリアに流れ着いています。

山本尚基氏(以下、山本。敬称略):なのでハイサンド側は彼らを罪人として塩湖に縛り付け使役する傍ら、それが外に漏れることのないよう見張っていたんです。ハイサンド側にとっては都合が悪すぎる過去ですから、情報統制のためにローゼル族の残した書物などを焚書(本を焼き捨てること)するなどしていた、という設定もあります。ただ、ここで焼かれることを免れた一部の書物がエスフロストの大書院に収められており、ドラガンやグスタドルフはそれに目を通したことで、岩塩が存在する可能性に気づいていたわけです。

──なるほど。それらの設定は一部、ゲーム内で語られますけど……。骨格を教えていただいたことで理解が深まった気がします。

新井:先ほどもお話したとおり、ゲーム中で出す情報については楽しんでいただくために必要十分な量になるよう、かなり意識して精査しています。ハイサンドに伝わる塩の女神教は何やら怪しいというのを取っ掛かりとし、岩塩の存在やオルレアの手記などでその偽りがあらわとなり、ルートによってはその偽りを突くことでハイサンドが崩壊していく契機になる。これくらいをご理解いただいていれば、お話がわからなくなることはないと思います。

──たしかにそれくらいのシンプルな情報量で、メインストーリーは十分理解できますね。

山本:これも先ほど申し上げましたが、手記を集めてお読みいただければ、メインストーリーでは明かされていたい情報にも行きつくことができると思います。ただ、この手記についてもすべてが事実であるとは限らないのですが……。

──えっ? それはどういう意味でしょう。

山本:手記はあくまで、誰かが書き記した情報でしかなく、その情報がすべて正しいと証明はされていないということです。「歴史は勝者によってつくられる」という言葉もありますが、まさにその通りで、手記についても誰かにとって都合がいい情報が書き記されているものも存在したりします。たとえば、ノゼリアにおいて最も歴史が古い国はグリンブルクであると記されている書もあれば、ハイサンドであると記しているものもあり、どちらが正確な情報なのか今となっては確かめようがなかったりもするんです。

──塩鉄大戦などの武力抗争もさることながら、すでに歴史や文化においても、各国のあいだにわだかまりはあったわけですね。一触即発とまでは言わないものの、争いの火種自体はいくらでもあったというか。

山本:複数の国が存在し、両国間で主張が異なるというのは現実世界でもよくある話ですし。ノゼリアに伝わる伝説や伝承についても、各国が自分たちの正当性を主張するための資料という側面もあったりします。そこらへんを加味し、都合がいいことを書いているなあと思いながら手記をお読みいただけると、また違った楽しみ方があるかもしれません。

──設定周りについて必要十分の情報にとどめておくという理由もわかった気がします。具体的な年数など数字を定めてしまうと、それが真実なのか施政者に歪められた情報なのかなど、思惑以上の意味を持ちすぎてしまう部分はありそうです。

山本:これはゲーム的な都合になってしまうんですけど、本作はHD-2Dによるドット絵を用いて、かなりデフォルメが利いた形で表現しているのも、具体的な設定表現を控えたい理由のひとつなんですよね。現代のゲームは等身大のリアル志向で作られているものが多いぶん、ドット絵による表現をプレイヤーさんたちがどう捉えるかというのがちょっと読みづらいというか。昔は世界地図の王国内に都市が1つしかなくても、他にもいろいろな町があるだろうと簡単に想像してもらえたのですが、今はなかなかそういう価値観が通用しづらくなっているんですよね……。

──ドット絵という表現方法が少なくなり、リアルさを追求したゲームが普及したがゆえの悩みかもしれませんね。

山本:逆に、HD-2Dのデフォルメされた表現だからこそ読み取ってもらえる部分というのもあるのですが、現実的な数字や具体的な設定とは相性が悪い場合があるんです。そのあたりのバランスを見ながら、設定を考え、その表現方法を判断していきました。

──プレイヤーからは見えないところでの苦労があったんですね。たしかに、ワールドマップで見ると塩湖はものすごく広く見えますけど、実際にハイサンドに入ってそこを訪れてみたら、思ったより小さくて驚いたりというのはありました。

新井:セレノアたちがマップとして訪れるのは、あくまでも広い塩湖の一部というか、中心部でしかなくて、外にはまだまだ塩湖が広がっていると思っていただければ。

──そうですよね。そして、その塩湖を取り巻く形で「女神の盾」という巨大な外壁を作るとなると……ハイサンドの広さはいったいどれほどのものになるのか。そこに具体的な数字を求め始めたら、とんでもないことになりそうですね。メインストーリーにとってノイズになりかねないというのも、理解できた気がします。

山本:ゲーム内ではどうしてもデフォルメされて表現されてしまいますから、ちょっとイメージしにくい部分はあるかもしれません。ただ、ハイサンドにはそれだけの外壁を作れる国力があり、長い時間をかけて作り上げた歴史があるということを感じとっていただければ。

新井:今回の物語を作り上げるにあたって、現実世界での塩を巡る争いや歴史についても色々と調べたりしたのですが、塩の供給元を塀で囲って支配して、国として成り立たせている、という歴史は見当たらなくて…本作ならではのファンタジーとしてご理解いただければと思います。そのうえで、我々が力を込めて描きたかったのは様々なキャラクターによる群像劇であり、ノゼリアについてはその舞台装置であると思っていただけたら。

手のひら返しに納得がいかない……? 時代に翻弄されたグリンブルク国民の事情

──ちなみに、これも明確な数字が欲しいわけではないのですが。今回、セレノアたちが巻き込まれたグリンブルク、エスフロスト、ハイサンドの争乱って、どれくらいの期間で起こったことなのでしょうか。

新井:そうですね。ゲーム内では明確にしていませんが、それほど長い期間ではないイメージです。

山本:プレイヤーさんのプレイの仕方でも変わってくる気はしています。3日で一気に進めてクリアした方と、1カ月かけてじっくりプレイしクリアした方では、密度の違いは出てきますからね。なのでプレイヤーさんそれぞれの体感に基づいて考えてもらえればと思います。個人的にセレノアたちが歳を重ねるほどの期間ではないような気はしますね。

──自分のなかでもなんとなく、数カ月規模の戦いだろうなって思っていました。揚げ足取りになってしまったら恐縮なのですが、その規模の期間とするなら、グリンブルクの民衆の王家に対する手のひら返しだけはどうしても怒りと悲しみが拭えないんですよね。民衆から見ても侵略者であるはずのグスタドルフの政策にコロッと迎合していたり、あれだけ苦労してきたロランに対し、王国民を見捨てて逃げていた……みたいな陰口をたたいたりと。状況が状況だけに仕方ないのかもしれませんが、もう少しロランを温かく迎えてあげてほしかったです。……こうして考えると、自分はロランのこと、思っていた以上に好きなのかもしれません(笑)。

新井:ロランのことを真摯に考えていただき、本当にありがとうございます。

──すべての王国民がそう思っているわけではないとご説明いただきましたが、それでも思うところはありますね……。

山本:おっしゃっていることはごもっともです。ただ、一度与えられた自由や権限の拡大が、数カ月もしないうちにまた規制をかけられてしまったと考えたら、大きな反発が出るのは仕方ないとも思うんですよね。元々グリンブルクの王族による古い支配体制がベースとしてあるので、誰もが平等で自由な競争が一度認められてしまうと、なかなか元には戻れないのではないかと。

新井:ただ、その矢面に立たされてしまうロランは本当に不憫ですよね…。

山本:もちろん、せっかく与えられた自由をすぐに奪おうとする王家はどうなんだ……と感じる方もいらっしゃると思います。私としては、作品世界に感情移入して色々な意見をもってもらえること自体が嬉しいです。

──すごく気が早い話ではあるんですけど、僕らのめり込んだプレイヤー側としては、新しいタクティクスRPGとして打ち立てられたこの『トライアングルストラテジー』の続編を期待してしまいます。セレノアたちの戦いは本作で完結していると思いますが、少しさかのぼって塩鉄大戦時代のシモンたちを主人公にするとか、いくらでも切り出せると思うのですが、構想などはいかがでしょうか?

新井:ありがとうございます。実現に向け、是非引き続き応援をよろしくお願いいたします。

──最後に、一言ずつプレイヤーのみなさんに向けてメッセージをお願いします。

山本:はい。まずは本作を遊んでいただいた方には、感謝の気持ちしかありません。多くの方が、本作のキャラクターやノゼリアという世界に対して、感想や色々な意見を述べてくださっているのが、本当に励みになっています。今後も、多くのみなさんに楽しんでいただける世界と物語をつくっていきたいと思います。ちなみに、もしこれからゲームをプレイしようと思ってくれている方がおられるなら、一周目は出来るだけ攻略情報などを見ず、ご自身の信念に従って物語を進めていただければ幸いです。どうぞよろしくお願いいたします!

新井:このインタビューを読んでくださっている方というのは、ほとんどの方がゲームをやり込んで、たくさん遊んでいただけているのかなとも思っています。皆さんの楽しかったという声や、「ここは良くなかった」というご指摘など、声を上げていただくことが次につながるエネルギーになっていきます。

 素敵なイラストを描いてくださっている方や、ゲーム実況をしてくださっている方々も本当にありがとうございます。開発チームの励みになっております。今後とも『トライアングルストラテジー』、浅野チーム作品を応援頂ければとても嬉しいです。どうぞよろしくお願いいたします。

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