『FF16』召喚獣合戦は毎回ゲームデザインが違う!! 物語や戦闘に迫る吉田直樹プロデューサーインタビュー

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 1987年に第1作が発売されて以降、日本、そして世界のゲームシーンを牽引し続けている『ファイナルファンタジー(以下、FF)』シリーズ。その35周年となる今年、6月3日に放送されたソニー・インタラクティブエンタテインメント(以下、SIE)の情報番組“State of Play”にて、シリーズ最新作『ファイナルファンタジーXVI(以下、FF16)』の最新セカンドトレーラーと、発売が2023年夏であるという情報が公開された。



 それにあわせて今回、『FF16』では初となる吉田直樹プロデューサーへのインタビューを実施。2016年に発売された『FF15』以来となるシリーズ最新作のコンセプトや、開発の背景、そして作品に込めた意気込みを存分に語っていただいた(インタビューは6月7日に実施したもの)。

  • ▲吉田直樹氏:スクウェア・エニックス取締役兼執行役員、第三開発事業本部 本部長。『FF16』のプロデューサーを務めるほか、『ファイナルファンタジーXIV(以下、FF14)』のプロデューサー兼ディレクターも担う。

コマンドやオープンワールドの不採用など
まず“無理にやらなくていいこと”を決めた『FF16』の開発

――ついにセカンドトレーラーが公開されましたが、その反響はいかがですか?

吉田:公開してから数日が経過しましたが、思っていたよりはポジティブな感想が多い印象でほっとしています。最適化やクオリティアップは現在進行系で続けているものの、まずはこの段階でゲーマーの皆さんに、ある程度の期待を持っていただける映像をお届けできたかな、と思っています。今回のトレーラーは、“システムはまだよくわからないけどなんだかスゴそう”ということと、“召喚獣合戦というキーワード”が伝わればいいというトレーラーコンセプトなので、それを軸にいろいろな要素を詰め込みました。

――実際にクライヴや召喚獣同士のバトルシーンが多く挿入されていて、ド派手でカッコイイアクションに見惚れました。

吉田:ありがとうございます。……本当は3月には公開できる状態になっていたのですが、同時期にロシアのウクライナ侵攻により世界情勢が不安定な状況になりました。ゲーム業界に限らず、各社どういった表明を出すのか揺れている時期でもありました。『FF16』は物語としてかなり重いテーマを扱っていることもあり、このタイミングでセカンドトレーラーを公開したところで、ゲーマーのみなさんにとって心の底から楽しみにしてもらえるのだろうかと考えたのです。その気持ちをSIEさんに伝えたところ、SIEさんも同じように悩んでいらしたので、しっかり協議の上で公開の延期を決断しました。

 今回トレーラーを公開したことで我々が「世界情勢は落ち着いた」と考えているかというと、もちろんそうではありません。先日の“State of Play”内では、SIEさんの計らいでトレーラー公開の前にコメントを出させていただきました。そこでお話ししたように、このような情勢下でも“最高の物語とともにゲーマーのみなさんに心の底から楽しんでもらえるようにゲームを作ること”が僕らにできる世界貢献だろうと考えたのです。そのメッセージで伝えたうえであれば……ということで、ようやくセカンドトレーラーを公開できることになりました。

――吉田さんなりの決意の表れということですね。では改めまして、いよいよ『FF16』がいかなるゲームなのかをうかがっていきます。まずは第三開発事業本部として、『FF』の最新作を手掛けることになった経緯をお聞かせいただけますか?

吉田:発端としては、『FF14』の拡張パッケージ『蒼天のイシュガルド』の開発中に、弊社社長から「『FF16』は吉田くんのところで作れないか?」と打診を受けたことがきっかけです。『蒼天のイシュガルド』がリリースされた2015年は『FFVIIリメイク(以下、FF7R)』の制作が発表された年でもあり、これまで多くの『FF』シリーズを手掛けてきた第一開発事業本部はそちらに注力していました。そのため1つの開発事業本部で2つのビッグタイトルの開発を並走するのは無理があり、そういった判断なのだろう、と思いました。それと同時に、『FF14』における事業の立て直しや、それを支えてくださったプレイヤーのみなさんの熱量もあり、それらの貢献も大きかったのだと感じました。ありがとうございます。

 もちろん、第三開発事業本部にも『FF14』の継続開発と運営があり、明確な回答は保留させてもらい、まずは『FF14』に集中することから始めています。部内で会社からの打診を話し合い、どういった開発手法やマネージメントならそれが達成できるのかを検討しました。『蒼天のイシュガルド』の開発が終わったのち、「極少人数でジワジワ進める」という形式であれば、少しずつ可能になるのではないかという方針を決め、最初は髙井浩、前廣和豊、権代光俊の3人(※)を兼任という形にしてスタートしています。

 とにかく『FF14』に大きな影響がでないよう、お客様に失礼にならないよう、しっかりと準備をすることが重要でした。そこから1年ほどかけてその3人の『FF14』の引き継ぎを行い、プロデューサー1人、開発者3人という状況からゆっくりと制作がスタートしました。

※髙井浩氏=『FF16』メインディレクター、元『FF14』アシスタントディレクター。
※前廣和豊氏=『FF16』クリエイティブディレクター&原作・脚本、元『FF14』シナリオセクション:マネージャー。
※権代光俊氏=『FF16』ゲームデザイナー、『FF14』リードゲームデザイナー。

――『紅蓮のリベレーター』のスタッフロールでは、その皆さんの役職が“スペシャルサンクス”になっていたことが話題になっていましたが、そんなに前から動いていたのですね。よろしければ髙井さんがディレクターを務めることになった経緯もお聞かせください。

吉田:『FF』のナンバリングタイトルを背負うことのプレッシャーは、みなさんの想像以上に尋常ではありません。僕は楽観主義者でもあり、なんとかなっていますが、社外からの“圧”だけでなく内部のスタッフからの“圧”もかなりかかってきます。とくにディレクターはゲームに関するあらゆる事項を決めていかなければならないですし、逆に問題があれば決めたことを覆す判断もしなくてはなりません。このように、あらゆる責任が付いて回ります。

 僕は『FF14』でプロデューサー兼ディレクターを担っている以上、『FF16』のディレクターを兼任するわけにはいきません。これは社長から打診があった際にも、「僕がディレクターをやることはないです。『FF14』のお客様にも、『FF16』のお客様にも、どちらにも失礼になります」と伝えていたからです。

 そこで、僕の大先輩であり心から信頼している髙井なら……という思いで本人に相談したところ、「そう言ってもらえるなら、がんばるよ」と二つ返事で受け止めてくれました。その後、彼ら3人に「プロデューサーとして支えるから、思いきって髙井、前廣、権代の『FF』を作ってね」と伝えたのが、厳密に言えば『FF16』の開発スタートとなります。そこからは、ベースとなるゲームデザインや方向性を決め、「RPGである以上、まずシナリオを最初に完成させるべきだ」という考えのもと、しばらくは前廣がひたすらシナリオを書き、僕が内容を確認する、という作業に終始していました。

――その時点で、吉田さんとしては『FF16』をどのような作品にしようと考えていたのでしょうか?

吉田:“考えていた”というよりも、いろいろな考えのうえで、“世界一スリルのあるジェットコースター”のような『FF』となりました。

 僕が『FF14』を担当するとき、北瀬さん(北瀬佳範氏。『FF』シリーズブランドマネージャー)から「その時々のディレクターが考えた最強のゲームに『FF』という名前が付いているだけだから、作りたいものを作ればいいんだよ」とアドバイスをもらいました。これは僕にとって、とても支えになった言葉で、だからこそ僕は『FF14』を“「『FF』のテーマパークであり、ファンサービスタイトルにしたい」と考えて開発を続けてきました。その結果、世界中のゲームファンと直接会話をする多くの機会に恵まれ、その経験は誰よりも多いと自負しています。そして彼らとの会話を重ねる中で、彼らの持つ『FF』という作品のイメージについて、危機感を持つようにもなりました。

――それはどのような危機感ですか?

吉田:『FF』は、作品ごとに世界設定もキャラクターもシステムも違います。これ自体は「『FF』とは常に挑戦するタイトルだ」というテーマもあり、とても良いことです。しかし、その反面『FF』のファンの皆さんの多くは“シリーズではなく『FF6』や『FF10』などといったタイトルごとに分かれている”のも事実です。結果、『FF』に期待している内容もバラバラになっています。加えて、この15年ほどはナンバリング作品の発売間隔が長期化しており、“一番多感な10代前半~後半という時期に、思い出として『FF』シリーズが刺さっていない”方々が多いのが実情です。

 その結果、かつては日本のプレイヤーにとっての”コア体験”として、『FF』シリーズの名前を挙げていただくことが多かったと思います。ですが、いまは『モンスターハンター』などのほうが当たり前に出てくるキーワードになっています。そういう意味で、今後の新作は『FF』ファン以外も含めた全世代のゲームファンに、「すごそうなゲームが出るからチェックしないと!」と思ってもらわないと……という危機感です。

――『FF』である以上に、現在のゲームファンにとって“すごいゲーム”である必要があると。

吉田:『FF14』の開発と運営をしながら、そんな風に考えていたところに、『FF16』の開発を、というお話が出たので、「うう、これはディレクターが相当しんどいぞ」と思ったのです。今回、僕の役割はプロデューサーだったので、「こういう『FF』にしよう」と決める前に、プロデューサーとして“迷うくらいなら、無理にやらなくてもいいこと”を書き出すことにしました。その中でも、とくに大きい決め事は、「オープンワールド」と「コマンド」については、ディレクターや開発チームが、トライするべきかしないべきか、責任感のようなもので悩むくらいなら、なしになっても構わない、ということでした。もちろん、すばらしいアイデアがあり、その実現性が高いのであれば、無理になくす必要もありません。ポイントは「どっちつかずになり、誰が作りたいシステムなのか、誰に届けたいゲームなのか、わからなくなるくらいなら、いっそなしでいい」ということです。

――『FF』としては、かなり思い切った決断ですね。

吉田:僕の想いとして『FF』は“世界を救う物語”であってほしかったのです。そして世界規模のスケールで物語が展開するとなったときに、当時の第三開発事業本部や、会社全体の戦力を考えると、オープンワールドでは作り切ることが難しいだろうと思ったのです。一方で、できる限り早く発売し、どんどん次の作品の開発へ進んで行くことで、いつかはそれにも到達するだろう、と。もちろん『FF16』の開発期間を15年とすれば、できる気もしますが、その場合は時代の移り変わりに対して、ゲームが古くなってしまう可能性もありますし……。

 たとえば、僕にとって史上最大規模のスタンドアローンのRPGは、いまでも『FF7』だと思っているのです。それを現在のゲームクオリティを維持した状態で作ろうとすると、やはり1本では作りきれません。それは、クオリティだけでなく収支やスケジュールも含まれます。『FF7R』が分作であるのは、分けてでも『FF7』を完璧にリメイクしよう、という決意の表れでもあると思います。だからといって、ベースの存在する『FF7』と違い、最新のナンバリング作品を分作にするわけにもいきません。できるだけ早くみなさまの手にお届けしたいという思いもありますから、悩んで開発の手が止まり、右往左往してしまうくらいなら、オープンワールドにはしなくていいと話しました。

 オープンワールドは『FF15』でもある程度挑戦しましたし、時代的にもオープンワールドの訴求力は少なからずあります。ですがそれ以前に『FF』は、まずストーリーが壮大でなければいけないと考えました。これに関しては『FF16』チームを立ち上げる際に全世界でリサーチも行ったのですが、ストーリーや圧倒的なグラフィック、おもしろいバトルについての要望は多かったものの、そこに“オープンワールドがいい”という回答は少数だった、という要因もあります。


――たしかに、世界各地を飛び回る物語をオープンワールドで描くのは、コストがとんでもないことになりそうです。

吉田:続いてコマンドに関してですが、こちらも若い世代のゲーマーや、海外のゲームファンと会話したときに印象的だったこととして、彼らは「コマンドの意味がよくわからない」と言うのです。よいとか悪いではなく、「ターン制やコマンドのことをどう思う?」と聞くと、「ターン制はボードゲームなどにもあるからわかるが、コマンドは意味がわからない」と。そして「意味がわからないとは?」と返すと、「だって、(ほかのゲームでは)ボタンを押せば剣を振ったり銃を撃ったりできるのに、なぜわざわざ文字を選ぶの?」ということでした。

 振り返ってみると、コンピュータRPGはテーブルトークをベースにしており、コンピュータにゲームマスターをやってもらうことでゲームが成り立っています。そしてコマンド制RPGが主流だったころは、ゲーム機のメモリも容量も足りなかったので、キャラクターそのものに多彩な行動をさせるわけにはいかなかった。そこで、テーブルトークのやりとりと同じように“言葉を選ぶことで行動させる”という考え方が、コマンドのスタートラインになったのだと思います。ですが、いまの家庭用ゲーム機は高性能パソコン並のパワーを持つようになり、すべてリアルタイムで処理できるようになりました。

 その結果、とくに“『GTA』世代”と呼ばれる人たち以降のゲーマーからすれば、いちいち“コマンドを選ぶ”という操作を挟む意図や、“コマンド”という言葉そのものの意味もつかみにくいようでした。例えば「攻撃するためには“たたかう”を選ぶ必要があるが、そもそもすでに戦闘状態なのに“たたかう”とは?」といった感じで、純粋に意図がわからない、ということなのだなと思ったのです。

――なるほど。

吉田:『FF14』のインタビューでもよく話すのですが、僕自身はコマンド制RPGを否定したいわけではありません。僕も初代『FF』からシリーズを遊んできている人間なので、コマンド制RPGにはコマンド制RPGのおもしろさがあるのは十分わかっています。もちろん「コマンド制のバトルで『FF』のシナリオをゆっくり楽しみたい」という方々の気持ちもよくわかります。ですが、若い人たちを中心にアクションゲームが全盛のいま、そこに刺さるものを作っていかないと、莫大な開発コストをかけた大作として、シリーズの維持が難しくなるのではないか、とも考えました。

――より全世代のゲームファンにプレイしてもらうための選択だったわけですね。

吉田:本当はアクションとコマンドの両方を選択できるようにするのが理想なのかもしれませんが、それを組み込もうとするとものすごく中途半端なものになるか、開発期間が恐ろしく長くなるのが目に見えていました。もちろん、それを成功させた名作もたくさんあることは承知しています。たとえば『FF7R』もその1つだと思いますが、あちらはリメイク作品ということでオリジナル版のシステムがベースにあって、そのうえでのチャレンジです。

しかし『FF16』は完全新作であり、また『FF』を遊んだことがない人にも手に取ってもらわなければならないタイトルです。そのためには、何かを突き詰めてクオリティを限界まで高めなければいけません。それがコマンド制を採用しなかった理由です。ここもオープンワールドと同様に開発チームが迷うポイントだと思ったので、その旨を伝えました。

――それらの“やらなくていいこと”を決めたうえで、次はどのような『FF』を目指したのでしょうか?

吉田:先ほどもお話しした全世界のユーザーリサーチの際に、『FF』シリーズに対するイメージとして、”伝説的なRPGシリーズ””最高のRPG”といった、嬉しい結果をたくさんいただきました。しかし、その一方でとくにシリーズを未プレイの層からは、「狂信的なファンが遊んでいる」「現代風ファンタジー」といったものも散見されました。これは海外だけでなく、海外ゲームに触れてきた日本の若い人たちにも同様の反応が見られます。

 この部分は個人の好みの問題もあるので良し悪しではないです。ただ、イメージが固定化されてきている、ということも感じました。そんな背景もあり、結果的にビジュアルも硬派な方向になったのですが、第三開発事業本部のコアスタッフは、こういった世界観が大好きでして……(笑)

――セカンドトレーラーにあった合戦シーンは、中世らしい無骨な雰囲気が出ていて、『FF』に新しい風を感じました。

吉田:そう感じていただけたなら幸いです。あとは、僕が初めて『FF3』のバトルで召喚獣を見たときの衝撃が忘れられなくて、そこも最初から取り入れたいと考えた要素でした。当時はドットで表現されていた召喚獣を、PlayStation 5の最新鋭グラフィックで表現したらどうなるのだろうと。そこで『FF16』では「召喚獣をフィーチャーし、召喚獣同士の決戦を描くのはどうだろう?」というアイデアをチームに伝えて、開発に挑んでもらいました。

――その集大成がセカンドトレーラーにもあった“召喚獣合戦”なんですね。

吉田:そしてそれらの要素をまとめた全体のコンセプトが、“世界一スリルのあるジェットコースター”になったのです。物語への没入感を高め、さらにシナリオとバトルと演出がいっさいのロードなくリアルタイムでつながっていく……そんなやめ時がわからない興奮を『FF16』を通じてお届けできればと思っています。

 またオープンワールドでないですが、探索要素も用意していて、ある程度の広さをもったエリアも4カ所ほど存在しています。そこではサイドクエストはもちろんですが、Sモブと呼ばれる強いモンスターをハントしたり、素材を集めて武器や防具を作るなどですね。ただシナリオがプレイヤーの心を強烈に引っ張っていくので、「(それらをやり込むのは)クリアしてからでいいかな」という気持ちになるかもしれません(笑)。

――それくらい、ジェットコースターのように物語とバトルが絡み合って進んでいくのですね。

吉田:最近のゲームの多くは、残念なことにクリア率があまり高くありません。ですので、開発者である僕らがグイグイ手を引っ張って、超特急で突っ走っていくゲームもありだろうと。そして、できるだけ多くのプレイヤーにしっかりエンドロールを見てもらおうと、開発チームは意気込んで作っています。

中世ファンタジーに日本人の空想力を詰め込んだ
無骨なシナリオ

――次に世界設定とシナリオについておうかがいします。現在公式サイトで確認できる世界設定は、先ほどのお話の通り中世ファンタジー的な印象が強いですが、このヴァリスゼアという世界を構築するにあたり、最も重視したことは何でしょうか。

吉田:僕らの世代はとくにそうですが、“指輪物語”を筆頭に“中世ファンタジー=ヨーロッパ”というイメージがあり、このイメージは全世界で共通です。一方では、PS5クラスのグラフィックでこの規模の中世ファンタジー世界を描いたゲームは、まだ存在していません。そこで今回は、中世ヨーロッパ的な様式美に徹底的にこだわりつつ、そこに僕らが考えたファンタジーを融合させる――ということを行いました。

――なるほど。

吉田:今回キャラクターの仕草や演技はヨーロッパの方に演じてもらっています。とはいえ、シナリオは我々日本人が作っているので、まず日本語でシナリオを作ったあと英語に翻訳し、そこから英語でフェイシャルキャプチャーをするといった形ですね。

 また、同じ英語でもアメリカ訛りは出さないように気をつけています。おもしろいことに、この点はアメリカの方々のほうが「中世ヨーロッパファンタジーを楽しみにしていたのに、なぜアメリカ訛りが出てくるんだ!」と怒るポイントだったりします(笑)。ですので、セリフはすべてイギリス英語で収録しています。

――日本人における方言のように、同じ言語だからこそ気になるポイントなのでしょうね。

吉田:そういったリアルな部分を下地にしながら、僕ら日本人の空想力を盛り込んだ世界を作っています。

――これまでの『FF』では、中世ファンタジーでありながら飛空艇が存在するといったオーバーテクノロジーの要素も登場していますが、『FF16』ではいかがですか?

吉田:かつてヴァリスゼアには、超オーバーテクノロジーの“空の文明”というものが存在していました。ですが、ゲームの舞台から1500年ほど前に大きな大戦があり、空の文明は崩壊。現在では各地にその遺跡が残っています。現世の人たちからすると、「あの地面に刺さっている遺跡、昔は空を飛んでいたらしいぜ」といった認識ですね。現時点の情報では中世ファンタジー色が強い自然の風景などを中心に公開していますが、これからの続報では少しずつそのあたりの情報も出していこうと思っています。

――どのような風景なのか楽しみです。

吉田:ちなみにゲーム全体の雰囲気について言及しますと、そもそも第三開発事業本部の開発するゲームには、あまり華がなく地味で……。色彩が濃くくすんでいるものが大好きで、作っている最中はアシスタントプロデューサーが、「本当に『FF』になるのか、すごく不安なんですけど……」と言っていました(苦笑)。それを「大丈夫、まかせとけ!」で押し通して、やっと実機で召喚獣たちがバリバリ動く、僕たちなりの『FF』らしい世界が形になってきました。

――ヴァリスゼアには6つの国家がありますが、クライヴの所属するロザリア公国以外の各国の情勢やドラマなども描かれるのでしょうか? 各国の主要人物が一部発表されたことで、群像劇的なドラマも期待してしまいます。

吉田:その点は期待していただいて大丈夫です。シナリオの谷間では、それぞれの陣営の動きやキャラクターの暗躍なども描かれます。世界情勢も目まぐるしく変化していくので、ゲーム内で読み物的な要素を用意してシナリオの補足もしました。よりロア(世界設定)や世界情勢に踏み込みたい方は、そういったものを参考にしていただけると、没入感が増すと思います。

――ということは、物語としては戦記もののような色合いもあるのでしょうか?

吉田:そうですね。それぞれの国には必ずマザークリスタルが存在します。このマザークリスタルは現実世界で言うところの油田のようなもので、人々はそこからあふれ出すエーテルをクリスタルに収め、それを使うことで魔法を発現させています。魔法によってヴァリスゼアの文明は維持されている形です。しかし、マザークリスタルのエーテルが枯渇し始めたことで、他国のマザークリスタルを奪取しようとする国が現れる……というのが物語の発端となる背景です。

 さらに、各国にはそれぞれドミナント(召喚獣をその内に宿し、自らの身体へと喚び降ろすことのできる者)がいるのですが、こちらは現実世界で例えるなら核兵器レベルの戦力となります。それゆえにドミナントによる召喚獣同士の戦いは“あってはならないこと”で、それが抑止力となってギリギリの均衡を保っていました。しかし、マザークリスタルのエーテル枯渇によってタガが外れて召喚獣合戦になだれ込んでいきます。

――そのドミナントについてですが、トレーラーでは「その力をわずかに行使するだけで身体を蝕み、召喚獣と呼ばれる存在……人ならざる者になってしまう」とありました。彼らは一度召喚獣になってしまうと、元に戻れないのか、それとも戦略的に何度も召喚獣となることが可能なのかを教えてください。

吉田:一応、戻ることは可能です。ですが、戻ったとて重大なリスクを背負ってしまうなど、召喚獣になること自体が何かしらの犠牲を伴ってしまいます。ですので、気軽にポンポンと変身できるものではありません。このあたりに関しては、また別の機会に詳しく解説できればと思います。

 また、そのドミナントの扱いに関しても、各国で歴史があり扱いも変わってきます。例えばクライヴの出身であるロザリア公国では、必ず大公家の血筋にフェニックスが宿るという法則が存在します。ただし、必ずしも常にドミナントが存在しているわけではなく、不在の期間もあります。そして今回の物語では、大公家の長男であるクライヴでなく次男のジョシュアにフェニックスが宿りました。そんなロザリア公国では大公家にドミナントが生まれることもあり、国の守護神のような扱いを受けています。

 逆に、その隣にある鉄王国では完全に“兵器”として扱われており、ドミナントは蔑まれ、従属させられて戦場に駆り出されます。またダルメキア共和国の場合は、タイタンのドミナントが必ず評議会に組み込まれ、国政に参加します。先日発表したフーゴがこの国のドミナントですね。またドミナント全体のルールとして、それぞれの属性の召喚獣はこの世に1体ずつしか存在しないというものもあります。

――となると、同じ火属性のフェニックスとイフリートが存在しているのは……?

吉田:それが大きな謎のひとつでもあります。

――あとは、どれぐらいの数の召喚獣が登場するのかも気になります。

吉田:“FF 召喚獣”で検索すると、とんでもない数の召喚獣がヒットしますよね(笑)。今回は、僕らがクラシックな『FF』からずっと遊んでいることもあって、「このスケールで召喚獣を描くとしたら、各属性の召喚獣として馴染みの深いイフリート、シヴァ、タイタン、ラムウ、ガルーダはマストで……」というように、誰でも知っている召喚獣に集中して採用しています。

初心者も玄人も楽しめるものを目指した
スタイリッシュ召喚獣アクション

――続いて主人公キャラクターやシステムについても、おうかがいしていきます。スタンドアローンのRPGには、主人公=プレイヤーであることを重視して極力個性を薄めたものと、個性が確立したキャラクターの物語を追うものの2タイプがあります。本作のクライヴはどちらのタイプになるでしょうか?

吉田:それは後者です。『FF14』ではMMORPGですので“あなた自身が世界を救う英雄であり冒険者”という形を取っていますが、『FF16』は“クライヴ・ロズフィールドというひとりの男が歩む茨の道を最後まで見届けていただく”という物語です。本作では少年期・青年期・壮年期の3つの年代に分かれて彼の物語が進行していくのですが、そのすべてがクライヴに注がれていると思ってください。今後はもっとクライヴという人物を印象付ける情報を出していけたらと思っています。

――クライヴの冒険というより、クライヴの人生そのものを描く形なのですね。

吉田:クライヴ個人だけでなく、その過程で過酷な運命に翻弄されるドミナントたちの姿を、クライヴを通じて深堀りし、世界はどうあるべきなのかを問いかけながら進んでいくといったイメージです。

――今作でプレイヤーが操作することになるのはクライヴのみなのでしょうか?

吉田:プレイヤーが操作するのは基本的にクライヴです。シナリオの流れでほかのキャラクターを操作することもありますが、割合は少ないです。また、情報が多すぎて混乱が起きるのを避けるために公開していませんでしたが、旅の仲間も存在しているのでご安心ください。ただ、プレイヤーにはクライヴの操作に集中してほしいので、仲間たちはAIで行動しともに戦ってくれます。

――なんと! そうだったのですね。

吉田:クライヴの冒険の途中で、そのシナリオに応じた仲間たちが入れ替わります。彼らとはかなり豊富な掛け合いが用意されていて、シナリオ上の重要な会話をしながら進んでいく場面も相当数あります。ですので、たったひとりで戦っていくわけではないということはお伝えしておきます。

――“仲間との旅”という要素も、かなり強めなのですね。

吉田:はい。やはり、“人と人との絆”は僕らが描きたいテーマのひとつでもあるためです。また、詳しくはまだ言えませんが“バディ”という特別な存在がいて、ほとんどの場面でクライヴとともにバトルに参加してくれます。バディにはある程度の指示が出せますし、完全オートへの切り替えも可能です。

――バディはキャラクター性のある存在なのでしょうか?

吉田:はい、ちゃんとキャラクター性もあります。

――モーグリ的な……?

吉田:モーグリではないです。横でクポクポ言っていたら世界観が壊れちゃいそうで(笑)。

――たしかに(笑)。次は、物語と並んで気になるバトルシステムについてお聞かせください。トレーラーを見て、さらに先ほどのお話をうかがうと、バトルはかなりアクション性が強いものになりそうです。そんな本作のバトルの特徴を教えてください。

吉田:まず、本作で掲げているバトルコンセプトには、大まかに分けて3つのスケールがあります。1つ目はノーマルな人間状態のクライヴを操作し、“召喚獣アクション”をリアルタイムで切り替えながら戦っていく“人対人”のバトル。ここに関しては、バトルスピードがかなり速いですし、やろうと思えばいろいろなアクションができるようになっています。

 また、手に入れた召喚獣の能力にコストを振り分けて、自分好みにカスタマイズすることも可能です。多彩な召喚獣アビリティやアクションを使い分けることもできますし、逆に“フェニックスにコストを集中する”ということもできるようになっており、自分の手に馴染んだセットアップを見つけていくおもしろさを用意しました。このポイントによる振り分けは、何度でもやり直しが可能ですので、お好みのセットアップを探してみてください。今回のトレーラーでも、ガルーダの能力で敵を打ち上げた後、タイタンに切り替えて叩き落とす、というシーンがありましたよね。ああいったことも、いろいろできるようになります。

 2つ目のスケールは、ドミナントとの戦いや、大型ボス、そして召喚獣になった敵ドミナントに対してクライヴが人の身で挑むというかなり熱いバトルです。こちらもかなりコストをかけ、多数のボスバトルが用意されています。

 そして3つ目には最上位のスケールとして、召喚獣対召喚獣の最大のボスバトルがあります。このスケールでは“1バトル1コンセプト”になっており、システムの使い回しをいっさい使わず、各バトルをフルスクラッチで開発しました。例えば、この召喚獣とのバトルでは3Dシューティング、別の召喚獣ではプロレス、次は召喚獣そのものがバトルフィールドになっている……など、各バトルを異なるスケールやコンセプトになっています。これが本作最大のウリです。

――それは聞いているだけでワクワクしてきます。

吉田:ストーリー、演出、リアルタイムバトルが、いっさいのローディングなしに完全シームレスでつながっていくので、これまでにない没入感を得られると思います。実際、いま僕も通しプレイをさせてもらっていますが、「よく作ったな」と感じます。やめ時がなかなか難しいゲームに仕上がっていると思います。

――セカンドトレーラーのバトルシーンを見ていて気づいたのですが、こちらの体力ゲージはクライヴのままなのにシヴァが現れ、敵のLiquid Flameを攻撃しているシーンがあります。本作では召喚獣の能力をアクションとして駆使するだけでなく、従来のシリーズ作品のように召喚獣を喚び出すこともできるのでしょうか?

吉田:それはまだ詳しくは言えませんが、あのシーンはドラマとバトルが一体となっているもので、そういったシチュエーションを含めて本作のバトルだと考えてください。

――召喚獣対召喚獣の1バトル1コンセプトのように、人対人でもさまざまなバリエーションがあるのでしょうか?

吉田:もちろん特殊なバトルもあります。そのあたりは、コスト度外視で使いまわしはしないようにしています(笑)。

――ちょっと細かい話なのですが、バトルでは敵のHPゲージの下に細いゲージが表示されていて、それがなくなると敵がよろけてダウンしていました。これはどういったシステムなのでしょうか?

吉田:敵を気絶、テイクダウンするためのゲージです。自分で編み出した最大火力コンボを叩き込みたい場合は、敵のテイクダウンに合わせて狙ったほうが決めやすくなっています。クライヴの攻撃には、そのゲージを多く減らせるアクションもあれば、HPへのダメージが大きいものもあります。また、テイクダウンに合わせるために召喚獣アクションを温存するという判断もアリです。このように、今回のバトルはやり込むほどにスタイリッシュに戦えるよう作ってあります。

 なお少し話が逸れますが、最初はできるだけUIをなしにしていたのですが、やはり非常にわかりにくく……。多くのアクションが用意されていて、それを使いこなしてほしいのであれば、プレイヤーが考えるための“情報”が絶対に必要になってきます。「必要なのであればわかりやすく見せたほうがいい」ということで、UIも試行錯誤が続いています。

――そういった部分が遊びやすさにつながるのだと思います。そういう意味では、あまりアクションが得意でない人へのフォローも気になります。

吉田:本作では、装備品の一種であるアクセサリーにさまざまなプログラムが仕込まれており、そのなかにはアクションが苦手な人をフォローするためのものも多く存在しています。例えば“敵の攻撃がヒットする直前に画面全体がスローになって、R1ボタンを押すだけでスタイリッシュに攻撃を避けるようになる”ものや、“敵の攻撃を自動で回避するようになる”、“ボタンを押しているだけでクライヴが鮮やかなコンボを叩き込む”といったものなど、サポート用のアクセサリーを数多く用意しました。

 また本作は、ゲーム開始時に“ストーリーフォーカスモード”と“アクションフォーカスモード”という2つのモードが選べます。アクションが苦手だ、という方はストーリーフォーカスモードを選んでもらうことで、先ほどお話ししたアクセサリーをセットアップして、快適なストーリー体験をお届けします。「『FF』なのだからストーリーをまず楽しみたい」という人は、そちらを選んでいただけたらと思います。慣れてきたら、少しずつアクセサリーを外してみる、ということも可能です。いずれのモードでも、ストーリーの内容にはいっさい変化などはありません。

――最初からアクションフォーカスモードを選んだ場合、そのアクセサリーは手に入らないのでしょうか?

吉田:いえ、最初からセットアップされていないだけで、ゲーム内で入手できます。今回はアクションにシフトするにあたって“アクションが得意な人でも苦手な人でも100%楽しめるように”という部分は絶対にはずさないようこだわって作っています。アクションが苦手だという人でも、「こんなにかっこよく動かせるんだ」と感じられるように調整してあるので、安心して手にとってください。

 またクリア後には、やり込みとして高難度モードも追加されます。プレイを配信されたい方はぜひ挑戦してみてください(笑)。

――それは盛り上がりそうですね。

吉田:配信などでスコアアタックなどにチャレンジしてもらうために、ステージごとにスコアが表示されるようになっています。他にも特定の召喚獣アビリティだけで戦う特殊なバトルなどもありますし、現在どんなアクセサリーを装備しているかもUIからひと目でわかるようになっています。このように、配信する方や視聴する方用のサポートにもこだわっています。

――トレーラーでも、HPゲージの上に複数のアイコンが並んでいました。

吉田:そのアイコンでどのサポートアクセサリーを付けているかがわかるようになっており、配信中に口頭で説明しなくても画面を見れば視聴者に必要な情報が得られる形にしてあります。やりこみ勢の方は、ぜひ高難度の状況で楽しんでいただけると幸いです。

驚きの情報はこれから!
まだまだ隠し玉を秘めた『FF16』

――発売日が2023年夏と発表されましたが、これからどのようなスケジュールで情報公開を行っていくのでしょうか?

吉田:次の情報公開は秋ごろを予定していて、次のトレーラーの準備も進んでいる状態です。そこでは、世界観や物語側に寄った内容になる予定です。また、そのあたりからディレクターの髙井と、リードゲームデザイナー&シナリオ担当の前廣に、よりゲームの深いところを語ってもらおうと思っています。

 そのあとは、3スケールに分かれているバトルがどうつながっていくのか、どれぐらいの規模で行われていくのかといった部分も紹介していけたらと考えています。

――発売までに、一般プレイヤーがゲームに触れられる機会は用意されますか?

吉田:少なくとも、体験版は実施したいと考えています。さらに、いま年明けの計画を立てている最中なのでハッキリとは言えませんが、どこかのイベントなどでメディアのみなさんにバトルの手触りなどを体験できる機会を用意したいと思っています。

――最後に、従来の『FF』シリーズファンと、これまで『FF』シリーズに触れてこなかった方々の両方に向けて、それぞれ本作に期待してほしい点をお聞かせください。

吉田:まず『FF』シリーズのファンの皆さん、新情報までお待たせいたしました。先にお話しした北瀬さんの言葉にあるように、“『FF』は挑戦するタイトル”です。シリーズの生みの親である坂口さん(坂口博信氏)も、「その時々の人が、“俺が考えた最高のゲーム”として作り上げたのが『FF』だ」とおっしゃられています。そのうえで『FF16』は、とにかくアクション性やシナリオにこだわってきました。驚きとともに、「ここの開発、バカじゃないの!?(笑)」と言ってもらえるよう、開発チーム一丸でがんばっています。

 そして今年は『FF』シリーズ35周年という節目ですが、家庭用ゲーム機の発展とともに長く歩んできたシリーズである反面、『FF』にまったく触れてないという方も多くなっています。本作は、むしろそんな人たちにも「大作ゲームが出たな」と意識を向けてもらい、これを機に『FF』に触れていただけたらと思って作っています。現在公開している情報は、まだ本作のほんの一部にすぎません。これから発売に向けて1年ほどとなりますが、いろいろな情報を見て十分暖まってから『FF16』を手に取ってもらえたら幸いです。

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