道は厳しいが環境は良い! インディーゲームクリエイターになる方法:SIE吉田修平氏インタビュー連載【電撃インディー#294】
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“PlayStation”で“インディーゲーム”を推進するインディーズ イニシアチブの代表として、現在さまざまな活動を行っている吉田修平氏。ゲーム好きなら名前を聞いたことがある有名人で、ゲームシーンのいろいろな場所で見かけた方も多いだろう。
今回から始まるこのコーナーでは、そんな吉田氏に電撃ゲームメディア総編集長の西岡美道がインディーゲームに関するさまざまな質問を行い、吉田修平氏から見た世界のインディーゲーム事情や、今後“PlayStation”で発売予定の最新インディーゲームなど、ユーザーが気になる疑問やお得な情報を掲載していく予定だ。
第1回は、今からインディーゲームクリエイターを目指す人に向けたアドバイスと、吉田氏がオススメするタイトルについてうかがってみた。
なお、第1回は興味深いお話をたっぷりとお聞きすることができ、1つの記事にまとめるとかなりのボリュームになってしまうので、3つの記事に分けて公開していく。
2つ目以降の記事も近日中に公開予定なので、ぜひチェックして欲しい。
PROFILE
吉田修平(よしだ しゅうへい)
ソニー・インタラクティブエンタテインメント
インディーズ イニシアチブ代表
1986年ソニー株式会社に入社、1993年2月にソニー・コンピュータエンタテインメント(現ソニー・インタラクティブエンタテインメント)に参画。
以降、“PlayStation”プラットフォーム向けに発売された数々のソフトウェアタイトルをプロデュースし、2008年よりゲーム制作部門であるSIE ワールドワイド・スタジオ プレジデントに就任。
『ゴッド・オブ・ウォー』、『アンチャーテッド』各シリーズの制作などを担当。2016年10月に発売したバーチャルリアリティシステム『PlayStation VR』の開発にも携わる。
2019年11月よりインディーズゲームを推進するインディーズ イニシアチブ代表に就任。
インディーゲームクリエイターを目指す若者に向けたアドバイス
──今回は第1回目ということで、いろいろな知見をお持ちの吉田さんから、日本でインディーゲームクリエイターを目指す人に向けたアドバイスをいただければと思います。
吉田:将来的に自分もゲームを作って、インディーゲームデベロッパーとしてやっていきたいと考えている高校生や大学生、専門学校生に向けた話でいいですか?
今は実況でインディーゲームの配信を見ている人たちも多いですし、そこから自分もインディーゲームのクリエイターになりたいと考える人もいると思います。
ところが、道は厳しい。もう大変厳しいです。ゲームを作ること自体は、誰にでもできます。世界のどこにいてもインターネットとパソコンさえあれば、作る環境がありますから。
UnityやGameMaker Studioといったミドルウェア(ゲーム制作ツール)をダウンロードすれば、いつでも作り始めることが出来ます。
日本は、海外よりもさらに環境がいいですよね。ただ、自分に「どのスキルと適正があるのか」ということまでは、若い人だとわからないかもしれません。
それを知るという意味でも、とにかく自分で何か作ってみてください。今は、これだけ作る環境があるので「クリエイターになりたい」と言いつつ作っていないのはあり得ないですし、言い訳にもなりません。
自分が何に向いているのか。例えば、絵が上手い人なのか。それとも、プログラムができる人なのか。それぞれに適正があると思いますが、まずは自分の得意そうな所で何かを作ってみて、できればそれを発表して、他の人の意見を聞いてみてください。
そうするとフィードバックも得られますし、知り合いが出来るかもしれません。
今の時代はソーシャルメディアで自分の作品を発表できますし、いろいろなチャンネルもありますよね。Twitterでもグループやコミュニティが作れますし、Facebookだってあります。
そういったところに参加するか、ハッシュタグの#indiedevや#indiegameをつけてツイートすると、世界中の人が見てくれますよ。
本当に才能がある人だったらそこでスカウトされたり、自分の作ったゲームの映像を見て興味があるとパブリッシャーから声をかけられたり、そういう可能性すらあります。
まずは、“作って発表をする”、“人に見せてフィードバックを得る”、“知り合いを作る”。この、3つですね。
それから、その道の先輩や自分が尊敬するクリエイターがいたら、フォローをしてください。例えば、その人がDiscordチャンネルを開設しているならば、そこに入ってみるのも良いでしょう。
リアルイベントも(2022年6月時点では、国内でもCOVID-19対策に気を配りながら)再スタートするところが出てきましたから、ゲームを遊べるところまで作れる人なら出展してみてください。
イベントのなかには、良い作品であれば無料で出展させてくれるものもあります。秋葉原などでも年に何回かいろいろなイベントをやっていますので、そうした場所で出展してみて、知り合いを作ったり、フィードバックを得たり、まずはそういうことから始めるのが良いと思いますよ。
──今は、本当に学生や個人でもインディーゲームを作れる環境が揃っていますよね。
吉田:作ってみて自分の適正がわかってきたら、専門学校に入るというのも1つの手です。専門学校では「ゲーム制作とは?」といった基礎から教えてもらえますし、仲間を見つけてチームを作ることもできます。
卒業制作で良い作品が出来たら、自分の卒業制作がインディーゲームとして発売されるケースだってあり得ますよ。
私も毎年“BitSummit”(日本最大のインディーゲームイベント)を見に行くのですが、そこで学生さんが作ったゲームを「これはいい作品だね」と褒めていたら、次の年にNintendo Switchで発売されていたことがありました。ですから、専門学校に入るのは1つのやり方ですね。
プログラマーを目指す人ならば、どんな学校でもよいので理系のところで専門性を高めていく手もあります。ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)のスタジオに入ってきていたプログラマーも、いろいろな学校の卒業生でした。
それも良い方法だと思いますよ。アート関係の人であれば芸術系の大学でもよいですし、とにかく自分のプロファイルとなる作品を集めていけば、アピールできます。そこで作品を作っていくことが良いでしょう。
あと、若い人にぜひお勧めしたいのが英語の勉強! 英語がわかると、すごいお得ですよ。いろいろな情報もそうですし、ゲームのマーケットもそう。ゲームデベロッパーさんもパブリッシャーさんも、英語でいろいろな情報を出しています。
英語がわかれば、ありとあらゆる情報が得られるんですよ。GDC(Game Developers Conference。北米で行われている技術者向けの世界的なイベント)のプレゼンのなかには無料で見られるものもありますし、英語は基本です。
情報を得ることもそうですが、Twitterで自分が作った作品を発表する時も、英語でツイートをするともっと多くの人に見てもらえます。
日本の若いゲームクリエイターで成功しているもっぴんさん(『Downwell』作者)も生高橋さん(『ElecHead』作者)も、英語を使える人たちです。
ちゃんと英語でコミュニケーションをしていますし、自分のサイトを作ってアピールしています。英語の勉強は、本当にオススメです。
──言われてみると、海外製のゲーム制作ツールは英語でマニュアルが作られていますし、使い方の解説動画も英語で作られていることが多いですね。
吉田:多いですよ。サポートもそうですから、ぜひぜひ英語を学んでいただきたいと思います。高校生や大学生ならば、あとは最低限ゲームを作るツールがあれば作り始められると思います。
もっと若い人、小学生や中学生ならば、ゲーム制作ツールへ行く前にゲーム内で物を作れる作品に触れるといいですね。任天堂さんであれば、『スーパーマリオメーカー 2』。“PlayStation”なら『Dreams Universe』を遊ぶのが手っ取り早いと思います。
もちろん、『Minecraft』や『ROBLOX』なども良いですね。そうしたゲームのなかで、自分のクリエイティビティを表現してください。
──クリエイトの要素があるゲームで物作りを経験してから、実際のゲーム制作者になるようなパターンも多いのでしょうか?
吉田:それは、あると思います。実際に、パソコンでMODを作っていた人を会社が雇うなんて例もありますよね。
『Dreams Universe』開発元のMedia Moleculeも、『Dreams Universe』でオリジナルゲームを作っている人のなかから、ものすごく才能があると思った人を何人も社員として雇っています。
そうやって会社に入るだけではなく、自分の作品としてアピールする時にも使いやすいですよ。
──今は、小学生でもUnityがあればゲームを作れますよね。実際に、小学生が作ったゲームをNintendo Switchのニンテンドーeショップで売る例も出てきました。
吉田:小学生のクリエイター兄弟・千葉ブラザーズさんが作った『オッドドッグとイーヴンキャット』ですよね。私も買いましたが「すごい!」と驚きました。
ああいう人たちが出てくると、自分でも出来るのではないか、と考える人が増えると思います。良い先輩が増えてくるといいですし、そういう流れになってきている気がしますね。
今は、いろいろなファンド(複数の会社から出資を受ける形)やインキュベーションプログラム(新規事業をサポートするプログラム)も増えました。
インディーゲームを発表する場にメディアさんも興味を抱いていますし、実際に電撃さんも取り扱っていらっしゃいますよね。環境としては、どんどん良くなっています。
──本格的にインディーゲームを作ろうとした場合、資金面に関してはどうすればいいのでしょうか? インディーゲームを作ることだけに専念できている人は、なかなかいないというのが現状だと思います。
吉田:プロとしてやりたい場合は、まず貯金をしたり、親からお金を借りたり、それこそ集英社さんが始められた“集英社ゲームクリエイターズCAMP”や講談社さんの“クリエイターズラボ CREATORS' LAB.”などのプログラムや、ファンドに頼るのも手です。
ゲームを作る時間が出来るだけ増えるように、生活費をサポートしてもらえます。それくらい個人で作る場合は厳しいですし、難しい問題ですよね。日本では、ほかの仕事で収入を得ながら空いた時間にゲームを作ることが非常に多いです。
だから、まずはゲーム会社やスタジオに入るといいでしょう。そこでゲーム作りを学ぶことが正攻法です。将来的に独立したいという人でも、まずは基本を学びましょう。ゲームを作る流れはもちろん、発売されてからプロモーションをしてサポートをするという一連の流れがわかります。
大手じゃなくてもいいので、ゲーム会社に入ってみるべきですね。そこで仕事をしながら、空いた時間で自分の作りたいものを作ると一石二鳥です。生活費を得ながら経験値も得られますし、ファンドやパブリッシャーさんへの売り込みもできますよ。
ゲームを作る環境は年々良くなってきていますが、投資する側から見ると実績がなければなかなか投資することはできません。才能がある人だと思っても、ゲームを最後まで作り切った経験があるかどうかも見られています。
1人で出来ることは限られていますし、よほどの天才ではないと難しいですよね。例えば、生高橋さんの『ElecHead』は本当に天才的なゲームですが、あんなに良い作品はなかなか1人では作れません。だからこそ、ゲーム会社に入ってチームで実績を作ることが先に来ると思います。
それから“バーティカルスライス”と言うのですが、ひと通りの要素が揃っていて1ステージだけ遊べるような状態の物を作ることも大切です。それをもってコンテストやイベントに応募したり、展示してみて、プレイしてもらった人からフィードバックを得ましょう。
パブリッシャーさんも見に来ているので、そこで誰かのお眼鏡にかなうかもしれません。
昨年の“BitSummit”でも、会場でいきなり出展者に対して「投資をしたい」という会話が聞こえてきていましたし、あの場でパブリッシャーのサポートが決まっている現場を目撃もしました。とにかく、イベントに出展してみることが大事です。
──イベントに出展される作品は、年々クオリティが高くなっているように思います。
吉田:“BitSummit”を毎年見ていますが、行くたびにクオリティが上がっていると思います。この間も秋葉原で開催されたイベント、“TOKYO SANDBOX”に行きましたが、これまでの同人ゲームの展示会という印象から、今ではプロフェッショナルの集まりのような感じになっていました。
それだけハードルが上がっていますし、参加している人の母数が増えているんじゃないかと思います。
才能のある人たちが作ったものが、そういったところに選ばれて出てくるようになったのかもしれませんし、同じ人たちが好きで作り続けた結果、ハードルが上がってきたということもあるかもしれません。
© 2022 Sony Interactive Entertainment Inc.
©2020 Sony Interactive Entertainment Europe. Developed by Media Molecule.
©hennagames Published by Phoenixx Inc.
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