企画の立て方は? 仲間は必要? インディーゲーム制作者がまずすべきこと:SIE吉田修平氏インタビュー連載【電撃インディー#297】

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 “PlayStation”で“インディーゲーム”を推進するインディーズ イニシアチブの代表として、現在さまざまな活動を行っている吉田修平氏。ゲーム好きなら名前を聞いたことがある有名人で、ゲームシーンのいろいろな場所で見かけた方も多いだろう。

 今回から始まるこのコーナーでは、そんな吉田氏に電撃ゲームメディア総編集長の西岡美道がインディーゲームに関するさまざまな質問を行い、吉田修平氏から見た世界のインディーゲーム事情や、今後“PlayStation”で発売予定の最新インディーゲームなど、ユーザーが気になる疑問やお得な情報を掲載していく予定だ。

 第1回は、今からインディーゲームクリエイターを目指す人に向けたアドバイスと、吉田氏がオススメするタイトルについてうかがってみた。

  • ▲ソニー・インタラクティブエンタテインメント インディーズ イニシアチブ代表の吉田修平氏(文中は敬称略)。

 なお、第1回は興味深いお話をたっぷりとお聞きすることができ、1つの記事にまとめるとかなりのボリュームになってしまうので、3つの記事に分けて公開中。

 この記事は2つ目の記事になるので、まだ1つ目の記事を読んでいなければ、そちらから読んでみて欲しい。

 また、3つ目の記事についても近日中に公開予定だ。

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PROFILE

吉田修平(よしだ しゅうへい)
ソニー・インタラクティブエンタテインメント
インディーズ イニシアチブ代表

 1986年ソニー株式会社に入社、1993年2月にソニー・コンピュータエンタテインメント(現ソニー・インタラクティブエンタテインメント)に参画。

 以降、“PlayStation”プラットフォーム向けに発売された数々のソフトウェアタイトルをプロデュースし、2008年よりゲーム制作部門であるSIE ワールドワイド・スタジオ プレジデントに就任。

 『ゴッド・オブ・ウォー』、『アンチャーテッド』各シリーズの制作などを担当。2016年10月に発売したバーチャルリアリティシステム『PlayStation VR』の開発にも携わる。

 2019年11月よりインディーズゲームを推進するインディーズ イニシアチブ代表に就任。

吉田さんから見たインディーゲームを作るためのポイント

──いざ、ゲームを作ろうと思っても悩むのが企画の立て方だと思います。インディーゲームを作る場合、どんな風に企画を考えるのがいいでしょうか?

吉田:自分の作りたいものを作るのが一番いいでしょう。インディーゲームの良さは、作り手の思いで突っ走れるところです。

 最初は、好きなゲームの真似でもいいんですよ。好きなゲームがどうやって出来ているのかと考えて、自分でも作ってみようという始まり方でもいいですし、そうやってスキルを上げていくことが大事だと思います。

 ゲームを作ることは大変なので、思い入れがないと続きません。売れるものを意識して企画を立てるのは、よほどスキルがあるか、チームができてファンドも得られて、そういった環境ができてからでもいいですね。

──ゲームを作る人は作ること自体が好きだと思いますが、プロデュースも悩みどころですよね。そこからどうすれば売れる、どうすれば世界で受ける、ということまで考えるのはなかなか難しいと思います。

吉田:そもそも、良い作品を作ることが先ですからね。

 売れることよりも、とりあえず完成するところまで行けるのか。まずは、そこをハードルとして考えなければいけません。

 では、どんなものを作れば売れるのかと言えば、やはりほかにない要素があると目につきやすいと思います。

 それこそ、今は世界中でたくさんのゲームが作られています。

 人気のジャンルはもう本当に大人数で、すごいお金をかけて作られていますから、そこと競争するのは非常に厳しい。

 もちろん、好きで作っているというだけならば全然いいと思うのですが、それを売りたいとなると「なぜ、有名なビッグタイトルではなく、あなたのゲームを遊ばなければいけないのですか? お金を出して買わないといけないのですか?」という疑問に対しての答えがないといけません。

 売れるということを考える意味では、この分野では、このジャンルでは、このテーマでは世界一といった、ほかにない物が必要だと思います。

 この間も、イタリアのデベロッパー・Broken Arms Gamesが『Hundred Days - Winemaking Simulator(スマートフォン版のタイトルは醸造物語 Hundred Days)』というワインを制作するシミュレーションを出していましたが、それまで聞いたことがないテーマですよね。

 これだけたくさんのゲームが出ているのに、まだまだほかにないものはいくらでもあります。

──まだゲームになっていないテーマを探そうと思えばいくらでもあると。言われてみれば、今度出る『Stray』(PS5、PS4用/ Annapurna Interactive)も、ありそうでなかったゲームですよね。

吉田:猫になってサイバーパンクの世界を歩くアドベンチャーは、ありそうでなかった。

 想像力さえあれば、まだまだいくらでもあります。

 『ElecHead』でさえも、あのゲーム性だったらハード的にはファミコンでも出せたかもしれません。

 ですが、何十年間もあのアイデアはなかった。あれを発見するのはスゴイですよ。

 なので、ほかにないものを作ることができれば、売れる可能性は高まります。

  • ▲電気を流してパズルを解く2Dアクション『ElecHead』。誰でも遊べる直感的な作りと高い完成度で注目を浴びている1作。

──そうしたアイデアが浮かんで、いざ制作に移ろうとしたときに最初から個人で作るべきか、チームで作るべきなのか。どちらが良いと思いますか。そもそも、チームメンバーを集めるためにはどうすればいいのでしょうか?

吉田:日本だと個人で作る人が多いですが、それは参加者が少ないので出会いの場が少ないからだと考えています。

 1人でプログラムも絵も描けて企画も考えるのは、よほどの才能がないと出来ません。それに、1人だと全部やらなければいけないのでスピードも遅いですよね。

 だから、個人で作るよりもチームで作った方がいいと思いますよ。

 ある程度自分は何が得意で、何ができるかということをわかったうえで、バンドのメンバーを集めるような感じで、必要な人を集めましょう。

 私が若いころは音楽をやっている人がメンバーを募集するには、ライブハウスに募集を張ってバンドメンバーを集めていましたが、今なら、それこそソーシャルメディアで出会ったり、インディーデベロッパーの集まりに顔を出して「自分はこういうものを作っています」と名刺代わりに持っていき、知り合いを増やす方法が良いと思います。

──“asobu(渋谷にあるインディーゲームクリエイターのためのワーキングスペース)”も、そういった場所ですよね。

吉田:asobuはいいですよ。まさにそのためにある場所ですから。

 日本でのインディーズコミュニティを作り、個人でやっている人たちがいろいろな人と知り合うことを目指して活動されているので、本当に素晴らしいですね。

 物凄くオープンにやられているので、asobuさんに連絡して顔を出してみるといいと思います。

 asobuは個人で作っているゲームも、定期的にオンラインで紹介してくれますから。

 それから、インディーゲーム開発者向けの本『インディーゲーム・サバイバルガイド』を出された一條貴彰さんもDiscordのコミュニティをやられています。

 そういったところに参加すれば無料ですし、知り合いができるのではないでしょうか。

 “集英社ゲームクリエイターズCAMP”に登録して自分に合った仲間を探したり、自分の出来ることをアピールしたりするのも良い方法と思います。

──最近は、開発サイドからも積極的にインディーゲーム開発者をサポートする動きが出てきているのはいい傾向ですよね。あとは、ゲームジャム(開発者が集まって短期間でゲームを作り上げるイベント)に参加するのも良さそうですよね。日本でもUnityが“1週間ゲームジャム”を開催していますし、海外ほどではないですがゲームジャムの開催が年々増えてきているような気がします。

吉田:“BitSummit”の時もやっていますよね。ゲームジャムに個人で参加して、そこでほかの人とチームを組んで作ることもあるらしいです。

 チームメンバーを集めたり、知り合いを増やすのにいいかもしれません。

──世界で行われているどこかのゲームジャムから生まれて爆発的に人気が出るインディーゲームも多いですね。

吉田:すごく多いです。海外では、大手のインディーデベロッパーやスタジオも社員のためにゲームジャムを続けていると言っていました。

 なぜかと聞いたら「これまで発売したゲームのほとんどは、ゲームジャムから出たアイデアなんだ」と言っていたんですよ。

 私と一緒に仕事をしているグレグ・ライスが、以前所属していたインディーデベロッパー・Double Fine Productionsでも、ゲームジャムよりもう少しリソースをかけた全社員参加の形でコミッション(報奨金)を出していて、そこで出たゲームが本当に商品化されています。

──Superhot Teamの『SUPERHOT』(PS4用)も、もともとは7日間でFPSを作るゲームジャム“7DFPS”から生まれた物でした。Hempuli Oyの『Baba Is You』もゲームジャムが始まりですし、本当に名作が生まれる土壌になっていると思います。

吉田:作ること自体が楽しいので個人では参加しない人もいるかもしれませんが、ゲームジャムで発表をすると批評しあうことができるので、スキルを上げるのにいいですよ。

──個人で作っていても、イベント出展をすれば、プレイした人の意見も聞けますからね。客観的な人の意見を聞くことは重要だと思います。

吉田:この2年間は、COVID-19の影響でそれが出来なくなっていたのですごく可哀そうでした。

 オンラインイベントもたくさんありますが、オンラインだけだとどうしても記憶が薄いと思います。

 一方で、日本や欧米以外の普段、近くでインディイベントが開催されない国や地域のデベロッパーさんは、オンラインイベントがあることを喜んでいました。

 “GDC”(ゲームデベロッパーズカンファレンス。北米で開催される開発者向けのセミナーを中心としたイベント)に実際に行くと渡航費などでものすごいお金がかかるけれど、オンラインなら“GDC”はもちろんどこの国・地域のイベントでも参加できる。

 イタリアやブラジルのイベントなど、いろいろな国・地域のイベントに自分の作品を出して、それをShowに乗せてもらえると喜んでいましたね。

 今もオンラインイベントは続いているので、それができるのは強みだと思います。

──作っているゲームをいざ世間に発表するタイミングって、よく考えると難しいですよね。完成してからの方がいいのか、それとも制作途中でいいのか……。

吉田:作っている段階で見せるべきです。

 大手のプロでやっている人たちは新しいゲームの発表をすること自体が重要で、ある程度作り込んでから出しますが、個人や少人数でやられている場合はもうどんどん見せていって、知ってもらってからフィードバックを得る方がいいですよ。

 何より、今はSteamでも自分のコミュニティが作れます。Steamのページを立ち上げて自分のゲームを見せつつ、登録してもらうことを地道に続けるのがいいと思います。

──ゲームファン側としては、進捗を報告してもらうことが大切だと思っています。どんなに良いゲームでも、2年前や3年前に発表しただけで終わっていると忘れてしまいかねないので……。

吉田:そうですね。あまりにもゲームが多いですから。大手の場合は早く発表しないというのもありますが、インディーゲームは知ってもらうことが一番大変です。

 マーケティング費用をかけられるようなタイトルでない限りは、逆にどんどん見せていくほうが良いと思います。

 Steamでは昨年発売されたタイトル数が1万を越えました。本当にスゴイ数ですよね。

 良いゲームでも売れない物は多いですし、見せることでパブリッシャーさんに投資をしてもらえる可能性も出てきます。

──ほかの人に見せることで、作りきるモチベーションにもなりますよね。いざ作ろうと思っている人に取って、作りきることは最後の壁だと思います。アーリーアクセスでも、途中で放置されちゃうことがわりとあります。

吉田:その人の性格にもよりますが、最初にアイディアをいっぱい出している時や、最後の発売が見えたときはモチベーションが上がるのですが、途中でだらけてしまうこともありますよね。

 手間暇をかけてコミュニケーションを大事に取っていけば、フィードバックを得ながらモチベーションにもつながりますし、自分たちのゲームを「期待しています!」と言われれば、すごく元気になれます。

 1人で籠って作りきるのはなかなか難しいでしょう。そういった性格の人は、そんなにいないと思います。

──しかし、もしも作ったゲームが売れなかったとしたら?

吉田:それは、残念ながらどうにもならないかもしれません。だからこそ、自分で食べていける伝手は残しながら作った方がいいですよ。

──あとは、どこまで見捨てずにアップデートしていくのかも悩みの種ですよね。

吉田:作ったゲームの内容が良くて、十分に知られていない段階でも遊んでくれた人が評価してくれることもあります。

 それならば、Steamなどでアップデートをしながらコミュニティを大事にし続けると、何らかのきっかけでバーンと跳ねる場合もあります。

 人気のインフルエンサーさんが取り上げてくれたことで、一気に大ヒットしたなんてことも。

──国内だと、TECOPARKが出している『PICO PARK』がまさにそうですよね。有名人による実況動画がバズッて一気に火がついていました。

吉田:あれは5年くらいずっとアップデートを続けていて、オンラインモードをつけたタイミングでしたね。

 最初はオフラインモードだけだったのが、オンラインに対応してバッと跳ねた。中国のbilibili動画のインフルエンサーやYouTubeのチャンネル登録者数が世界一のPewDiePieも実況していました。

 作り続けることで、そういう形になるといいですよね。そうではなくても作ったゲームは自分のプロファイルになりますし、それが1つの財産になると思います。

  • ▲オンラインモードの導入と動画をきっかけに、爆発的なヒットを記録した『PICO PARK』。

──ゲームを1本作って成功しても、そのあとはどうすればいいのかも難しいですよね。次の作品を作るべきか、違うことをするべきか。

吉田:さきほどの話にも繋がりますが、今はいろいろなプラットフォームがあります。移植しながら内容を追加しつつ、次のものを温めるケースが多いようです。

 2本目を当てるのは難しいという話も聞きますが、今はコミュニティをうまく作っていけば、そこの人たちに対して新しく作ったものを早めに提供してフィードバックを得ることもできます。

 最初の1本よりは、知ってもらうことも含めて作りやすくなると思いますよ。

 インディーゲームの良さは、自分たちで直接ユーザーさんとコミュニケーションを取れることです。

 Discordのチャンネルも作れますし、自分のコミュニティを育てていけば、次のタイトルに繋がります。IPも財産ですが、コミュニティも財産ですね。

──インディーゲームであっても、自分の感性だけで作っていると行き詰まりかねないですからね。外部からのさまざまな意見も重要になりそうです。

吉田:インディーゲームの凄さは、他のジャンルにおけるインディーのエンターテイメントと比べても、爆発的にヒットする場合があるんですよ。

 『Inscryption』も、“GDC”でゲーム・オブ・ザ・イヤーを取りながら、同時に開催されたIGF(Independent Games Festival Awards)でSeumas McNally Grand Prizeも受賞していました。

 それくらいゲームの爆発力はあるので、すごく夢がありますよね。

 “GDC”で『Inscryption』開発者のDaniel Mullinsさんに会ったのですが、彼はすごく良い人でした。

 インディーゲームのコミュニティはお互いに助け合っていてフレンドリーですよ。

 ものすごく情報交換もするし、他の人が作ったものも良いゲームだと思ったらプロモーションもする。

 インディーゲームデベロッパーをやっていて、それがパブリッシャーに転じることもあります。

 お金が入ったから、自分の気に入ったデベロッパーさんを助けてあげようという流れもあります。

  • ▲カードゲームと脱出ゲームが融合した奇妙なゲームと思いきや……ネタバレできない驚愕の作品『Inscryption』。

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