『メイドインアビス 闇を目指した連星』レビュー。過酷で不条理だからこそハマる、ファン納得の度し難さ【ファミ通.com】
- 文
- 電撃オンライン 小林白菜
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こちらの記事はファミ通.comで7月29日に掲載された記事の転載になります。
スパイク・チュンソフトより2022年9月1日(木)発売予定のNintendo Switch、プレイステーション4、Steam(※)向け3DアクションRPG『メイドインアビス 闇を目指した連星』。発売に先駆け、本作のレビューをお届けします。
※Steam版は2022年9月3日(土)発売予定
先日公開した記事では原作のストーリーを追体験できる“HELLO ABYSSモード”を中心に、ゲーム序盤のインプレッションをお届けしました。しかし、このゲームが持つ“深み”は、この“HELLO ABYSSモード”クリアー後に解禁される“DEEP IN ABYSSモード”にあったのです。
今回はこちらの“DEEP IN ABYSSモード”にもガッツリ触れた上でのレビューとなっています。ゲーム内容を深く知りたい方は、ぜひ最後まで読んでみてください。
“HELLO ABYSSモード”をクリアーすると“DEEP IN ABYSSモード”が解禁
先に“HELLO ABYSSモード”について、前回の記事では触れていなかったボリューム面の補足から。改めて説明すると、こちらはリコを操作して原作マンガとアニメのストーリーをなぞりつつ、モード名の通り“アビス”に初めて潜ることになるプレイヤーがゲームの基本を覚えるためのモード。
ネタバレになるため詳細は伏せますが、 “HELLO ABYSSモード”のボリュームは今回紹介する“DEEP IN ABYSSモード”に比べると控えめです。
本作におけるリコたちの物語は、あくまでそのあと体験することになる誰も見たことのない冒険の前に、この“アビス”の世界へとプレイヤーに慣れてもらうために用意されたモードということなのでしょう。この“HELLO ABYSSモード”を最後までプレイすると、オリジナルストーリーが展開される“DEEP IN ABYSSモード”がプレイできるようになります。
オリジナル主人公をキャラクタークリエイト
“DEEP IN ABYSSモード”でプレイヤーの分身となるオリジナルキャラクターは、リコやレグがアビスの深淵へと旅立っていったあとでベルチェロ孤児院に迎え入れられ、探窟家見習いになった子ども。
同じころに孤児院へとやってきた同期組の仲間たちといっしょに、原作・アニメにも登場したリコたちの友だちのシギーやナットらと交流しながら立派な探窟家を目指します。
“DEEP IN ABYSSモード”を始めると最初に行うことになるのがキャラクタークリエイト。いくつかの選択項目を組み合わせて、自分だけの主人公を作れます。多くの項目にいわゆる“男の子っぽいもの”と“女の子っぽいもの”が用意されているのですが、特筆すべきはそれらが分け隔てられておらず、自由に組み合わせることができる点。
ボイスは鬼頭明里さんが担当していて、“音声A”は少年っぽい低めの声、“音声B”は高めの可愛らしい声と演じ分けているのですが、たとえば音声Aでも私服はワンピースにすることもできるし、音声BでもTシャツ+パンツスタイルにもできます。
なお、主人公の外見は“DEEP IN ABYSSモード”開始後も、主人公の部屋でいつでも変更可能です。
レベルやスキルをはじめ、数多くの要素が解禁される“DEEP IN ABYSSモード”
そうして納得のいく外見にしたら、ゲーム本編がスタート。主人公は同期の子どもたちといっしょに、探窟家たちのリーダー・ジルオの指示に従ってアビスを調査していきます。さまざまな依頼をこなしていくことで、アビス未体験の“鈴付き”から“赤笛”、そして“蒼笛”、“月笛”、“黒笛”、“白笛”と、上の階級への昇級を目指すのです。
“HELLO ABYSSモード”ではストーリーが進展するイベントが起きる場所までほぼ一本道でしたが、“DEEP IN ABYSSモード”はより自由度の高い進行となっているぶん、目的地へのルートは自分で決めなければいけません。どの区画とどの区画がつながっているかなど、マップで確認しながら探索することも少なくないはず。プレイヤーのアビスに対する知見が増えれば、そのぶんさまざまな依頼を効率よく達成できるようになっていくのが楽しいです。
そしてプレイヤーだけでなく、その分身となる主人公も成長していくことに。“DEEP IN ABYSSモード”では“レベル”と“スキル”の概念が解禁となり、主人公の能力を少しずつ高めていくゲーム性が加わります。
レベルを上げるために必要な経験値を獲得する方法は“依頼の達成”と“遺物を回収して街にある鑑定所に鑑定してもらう”のふたつ。アビスの探索によってこれらをくり返すことで主人公は成長。攻撃力や防御力が上がり、始めは苦戦していた原生生物にも善戦できるようになるのです。
レベルが上がるたびにスキルポイントも獲得。これを消費してスキルを覚えていきます。スキルは戦闘・探索・クラフトの3つに分類され、いずれもゲームプレイの幅が広がるものばかり。蒼笛・月笛・黒笛……と階級が上がるたびに覚えられるスキルも増えます。
このスキルとも密接に関わっているのが“クラフト”の要素。“HELLO ABYSSモード”でも料理・道具・武器のクラフトは可能でしたが、ここに銃と弓矢で使う“矢弾”、より防御力の高い服を作れるようになる“衣服”が追加。特定のスキルを習得していくことで、既存カテゴリも作れるアイテムの幅が大きく広がり、アビスで手に入るあらゆる素材が重要なものとなるのです。
こうなってくると、持ち物の重量制限に頭を悩ませることも増えます。主人公の部屋にはアイテムボックスが設置され、何をアビス内に持ち込み、何を保管しておくか? アビスに潜るたびに生じるこうした前準備も、悩ましいながらリアリティが感じられておもしろいところ。ちなみに持ち運べる重量とボックスに預けられるアイテムの個数は、これまたスキルによって増やしていくことが可能です。
こうして“DEEP IN ABYSSモード”で解禁となる要素を挙げていくと、“HELLO ABYSSモード”では多くの要素が取り除かれ、より取っつきやすいゲーム性になっていたことがわかります。
最終的に覚えるべきシステムは多岐にわたる“DEEP IN ABYSSモード”。とはいえ土台となるシステムは“HELLO ABYSSモード”で学んできているうえ、新たな要素にはそれぞれに丁寧なチュートリアルがあるので、多くのプレイヤーは自然とこれらに慣れていくことができるはず。
ゲームをあまりプレイしないマンガ・アニメファンも触れるであろう本作において、こうした点がしっかり意識され、ゲームの展開に落とし込まれているのはとてもすばらしいことだと思います。
やはり手強い“上昇負荷”とその対策……戦闘、素材採取、食事に原生生物の観察と、アビスではやるべきことが盛りだくさん!
“DEEP IN ABYSSモード”から解禁されるさまざまな要素により、アビス内の探索はより奥深いものとなります。
より困難で手探りな探索が増えるため、前回の記事でも紹介した『メイドインアビス』を象徴する現象“上昇負荷”も、効果は変わらないものの、いっそう注意深く対処することが求められます。本作において上昇負荷による苦しみは、主人公が地上に一定距離近づくたび、ゲーム画面の周囲に紫色のエフェクトがにじむことで表現されるのですが、このときイヤ~な効果音とともに、BGMが遠のいていくのも不快感が募る演出。
それでも構わずさらに上方への移動を続けると、やがて主人公は嘔吐してしまいます。こうなると、食べたものを戻してしまうためか、満腹ゲージが減少。満腹ゲージがゼロになっているあいだはスタミナゲージもゼロになるので、攻撃や回避行動を取ることもできず、走ることも不可能。原生生物に襲われた場合は反撃も全力で逃げることもできません。崖を登っている途中だったら、そのまま落下死してしまう恐れも……。
もしものときのために、リュックの中には食べ物を常備しておいたほうがよいでしょう。なお、嘔吐時に減少する満腹ゲージの量は、より深い階層であるほどに増加する模様です。
地上に戻るときに重度の上昇負荷を受けたくなければ、画面の周囲に紫色のエフェクトが表示されるたび、一度休憩してエフェクトが消えるのを待つのが単純ながら有効です。また、崖をよじ登ったり降りたりするのとは違って、ロープの昇降ではスタミナが減りません。高低差の大きい崖にはしっかりとロープを垂らしておいたほうがよいでしょう。でないと、降りるときは大丈夫でも、地上へと帰るときにたいへんな目に遭うかも……? 目的地についたら終わりではなく、「おうちに帰るまでが探窟」と覚えておきましょう。
戦闘ではピッケルやナタでの近距離攻撃のほか、弓矢や銃といった遠距離攻撃用の武器も選択肢に加わることに。近寄るのが危険な生物や、空を飛んでいる生物を相手にするときに有効です。
そこまで危険ではない生物も不用意に近づけば攻撃を仕掛けてくるので、しっかり対処することが重要。料理などの回復アイテムを切らしているときは、ちょっとしたダメージの蓄積が命取りになります。
また、アビスの中には凶悪な原生生物もいますが、彼らを倒せたときの達成感はなかなかのもの。回避中の無敵時間を利用して攻撃を避けるなどのテクニックを駆使すれば格上相手でも倒すことができるなど、アクションが得意ならばある程度のチャレンジは成り立つ作りになっています。
本作のセーブは基本的に孤児院にある主人公の部屋で行いますが、アビス内でエリア間を移動するときにもオートセーブが行われます。とはいえ、それぞれのエリアがけっこう広大なので、しばらく探索したあとで命を落としてしまうと、そのあいだの行動が水の泡になってしまうことに……。
これを防ぐために有効なのがアビス内のどこでもセーブできる“伝報船”というアイテム。原作における伝報船は地上へと自分の状況を伝える役割を持つ道具ですが、これを本作では“現状を記録に残す”セーブへと見立てているというわけです。消費アイテムなのでここぞというときのために温存しておくのも手ではあるものの、強敵と戦う前やスタミナが尽きてしまいそうな高い崖を登る前などに使っておくと、安心して無茶(?)ができます。
武器やロープ、伝報船などを含め、多くのアイテムは街にあるショップで買うこともできれば、アビス内で手に入る素材によって作り出すこともできます。ある程度幅のあるプレイスタイルに対応しているので、プレイしながら自分にあったやり方を模索していけるはず。
ほかにも、アビス内では“釣り”を行うことでしか手に入らない素材があり、こうした素材がないとクラフトで作れない料理も。また、原生生物たちは“単眼鏡”で観察することで、そのデータを“探窟手帳”に登録できます。アビスの探索は、やるべきこと、考えるべきことがたくさんあり、ゲームとしてのやり応えも抜群なのです。
人々との交流では“アビスを中心とした街”の文化的側面が掘り下げられる
“DEEP IN ABYSSモード”はストーリーも魅力的です。主人公とその同期の子どもたちは、リコたちがアビスの深淵へと旅立ったあとに孤児院にやってきたので、リコがどんな女の子だったかを知りません。同期の中ではリコが半ば“伝説の人”のように語られており、会ったことのないリコに強く憧れている者も。リコのことを知っている我々からすると、じつに微笑ましいです。
そんな同期たちも、探窟家としてアビスに出入りするということはつねに危険と隣合わせなわけで……。こちらの物語も、なかなかに“度し難い”展開が待ち受けています。
原作ではあまり描かれなかったオースの街に住む人々との交流も、作品のファンにとっては興味深い描写のひとつ。住人からの依頼を引き受けたり、街でショップを営む人たちとやりとりしたりすることで、“アビスのすぐそばで生活を営む人々”の日常が垣間見えます。
その立地によって他国からの介入も多いというオースの街。原作でのリコの視点では掘り下げられることのなかった、そうした文化的な側面が描かれるあたりも、好奇心を満たしてくれます。
ファストトラベルが解禁されると、階層まるごとスキップが可能に
さまざまな依頼をこなしてストーリーを進展させていくと、やがて主人公には昇級のチャンスが巡ってきます。無事により階級の高い笛の持ち主として認められると、前述した新たなスキルの解禁のほか、階級にあわせて“ファストトラベル”が使えるように。
本作のファストトラベルは、階層をまるまるスキップできる機能。階級が上がるたびにより深い階層をスキップできるようになります。これは地上に戻るときも同様で、帰り道でのリスクも下がり、階級が上がれば上がるほど深い場所の探索が容易になります。
そうして深界三層、深界四層と深く、深くに潜っていったときには、階層により風景がまるで違うこともあって、“とんでもない場所までたどり着いてしまった”という興奮と畏(おそ)れが混じったような感覚が味わえます。
もしかしたらリコたちも、アビスのより深い場所へとたどり着くたびにこうした気持ちになっていたのかもしれません。このように想いを馳せられるゲームになっている時点で、本作はマンガ・アニメを原作としたゲームとして大成功なのではないかと思うのです。
ちょっと気になる“かゆいところに手が届かない”部分も……
前回の記事はあくまでゲーム内容の紹介が中心でしたが、今回はレビューなので“HELLO ABYSSモード”、“DEEP IN ABYSSモード”に共通するゲームとしてのちょっと気になった点についても挙げていきましょう。
本作ではアビスから出るたび、アビス内部の状態はリセットされます。これにともない筆者が気になったのは、“崖の登り降りのために消費したロープもリセットされてしまう”ということ。
同じ場所を何度も行き来する必要が生じる探索要素のあるゲームには、二度目以降の探索でプレイヤーが手間を省けるよう、ショートカットなどが用意されているものも少なくありません。それと比べると、アビスに入るたびにロープを消費して取り付け直すのはわずらわしさを感じます。しばらくするとファストトラベルが使えるようになるとはいえ、それまでの試行回数だって少なくはないですから。
それから上記の理由もあって崖を登り降りする頻度が高いために、わずらわしさを強く感じるのが、一部の崖の登り降り中に倒しても倒しても湧いてくる蛾のような原生生物“ブスチラシ”の存在。攻撃により受けるダメージは少ないものの、登り降りの行動をキャンセルされることがあるので、ムダにスタミナを消耗して落下死につながる場合も……。地味に嫌らしい存在です。
原生生物が無限に湧いてくるポイントはほかにも多々あり、安全を確保した上で食事や回復、釣りや“伝報船”を浮かべてのセーブといった行動を取ろうとしたところを攻撃によって延々とキャンセルされることがときどきありました。敵を寄せ付けなくするアイテム“発煙筒”を使うなどの対処法はあるものの、重量制限がある中でわざわざこれを持ち運び、ちょっとしたことで消費するかというと悩ましい……。
メニュー画面でのアイテム登録やクラフトなどへのアクセスも、ゲームの性質上頻度が高くなるため、もっとショートカットなどが充実していれば便利だったなぁ~と感じる部分。
このように、快適さにおいて“かゆいところに手が届かない”と感じた部分はいくつか見受けられるものの、探索や成長要素による楽しさ、そして『メイドインアビス』の世界で探窟家になれるという魅力の前では瑣末ごとではあります。本作のゲーム内容に惹かれた人ならば、これらを理由にプレイするのをためらう必要などないことは付け加えておきます。
『メイドインアビス』の世界に魅入られた者ならば、手に取って損なし
原作を再現したストーリーによってプレイヤーを“アビスの深淵”の入口へといざなう“HELLO ABYSSモード”。そしてより奥深いゲーム性とまったく新しい物語でプレイヤーをアビスの虜にする“DEEP IN ABYSSモード”。このふたつのモードによって『メイドインアビス 闇を目指した連星』は、マンガ・アニメを原作としたゲームならではのニーズを押さえつつ、ゲームとしてもじつにやりがいのあるものに仕上がっています。
前述の通り、ゲームとしては気になる点もないわけではありません。けれど、いまどきマンガ・アニメを題材としたゲームが基本無料タイトルなどではなく据置ゲーム機・PC向けのフルプライスのタイトルとして、しかもかなりの作り込みと原作への理解が感じられる内容で発売されるというのは、じつに貴重なことだと思います。
原作ファン、とくにその作品世界に魅入られた者ならば、手に取って損はないゲームと言えるでしょう。
あなたが、ひとりの探窟家として――アビスの深く深くへと潜った先には、何が待っているのか? ぜひご自身の目で確かめてみてください。
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