『ミステリー案内』シリーズの物語の作り方は? ロゴまで作ってタイトルが変更に!?【ADVインタビュー】
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フライハイワークスから発売中のNintedo Switch用ソフト『大分・別府ミステリー案内 歪んだ竹灯篭』の開発者インタビューを掲載します。
『ミステリー案内』シリーズは、相棒の後輩刑事・開明寺ケン(かいめいじけん)とともに、殺人事件の真相に迫っていくコマンド選択式旅情ミステリーアドベンチャーゲーム。レトロゲームを思わせるグラフィックやサウンドが特徴です。
これまでに、『伊勢志摩ミステリー案内 偽りの黒真珠』(2019年01月24日発売)、『秋田・男鹿ミステリー案内 凍える銀鈴花』(2020年12月24日発売)、『大分・別府ミステリー案内 歪んだ竹灯篭』(2022年07月07日発売)と3タイトルが発売されています。
本作の開発を手掛けるハッピーミールの関純治さんと、原案を担当する臣ヤスユキさんへのインタビューを実施。物語やキャラクターなどを作る際に意識されていることや、開発時の印象的な出来事などをお伺いしました。
なお、インタビューの一部には、設定や状況など世界観にまつわるネタバレが含まれているため、ご注意ください。
また、インタビュー中は敬称略。
憧れていた荒井清和先生のキャラに命を吹き込める!
──最初に8bitテイストのアドベンチャーについてお聞きになった時の印象は?
臣:6~7年くらい前の話なので記憶があやふやですが、8bitでアドベンチャーを作ることを聞いた時、「今さらドット絵なの?」という感想はまったくありませんでした。というのも、自分は今でもNintendo Switch Onlineで『アイスクライマー』や『ファミコンウォーズ』をプレイしたり、『ディグダグII』が配信されたのを大喜びしているほど、レトロなゲームが好きだからです(笑)。
今だからこそ8bitテイストでできる表現があり、作る意味はあるだろうと当時から思っていました。8bit時代にゲームを遊んでいた方々に喜んでもらうことを想像するのは楽しかったです。ドット絵による世界観の構築は想像する余地が多いこともあり、意義深いプロジェクトだと感じ、参加させていただきました。
──そもそもお二人はどのようなきっかけで知り合われたのですか?
臣:2004年くらいから交流がありました。当時は携帯電話のi-modeの全盛期。関さんの前職時代に、同じタイトルのプロジェクトで携わったことがきっかけですね。
関:臣さんは当時、コンサル会社に所属されていました。話をしていてゲームが好きなメンバーが集まっていると感じたので、打ち合わせが終わってからボードゲームをしたり、プロジェクト以外のゲームの話をしたりと、交流があったんです。私が前職を辞めてから連絡を取っていなかったのですが、1作目の『偽りの黒真珠』を作る際にシナリオを書ける人を探すことになり、連絡したことで再びご一緒することになりました。
──臣さんはコンサル業務だけでなく、テキストの執筆もされていたのですか?
臣:いえ……昔から小説やゲームブックを読んだり書いたりするのが好きだっただけで、特に執筆活動と言えるほどの実績は残していません。当時、仕事上の共通の知り合いにすすめてもらったことから開発に参加したのですが、昔から知っていて、憧れていた荒井清和先生のキャラに、自分たちで命を吹き込めることに対しては、今でも強いモチベーションを感じています。
関:ゲームへの知識があり、コンサルをしていたので分析などもできるということで、自分ができないことを任せられます。シナリオをお願いできなかったとしても、監修くらいはお願いしたいと考えていました。プロジェクトが走り出すと、刑事ドラマに明るいことなどもあり、「チームから外せない人だ」と思うようになりました。
タイトルを決めた後に問題が!? 最初のタイトル名は?
──本シリーズのシナリオ展開は、どのようにして作られているのでしょうか?
臣:おおまかに言うと、舞台になる場所を決めて、そこにドラマを当てはめていく流れになっています。その舞台で何をするのかは、関さんが中心になってロケハンを行って調べていきます。
関:キーワードを集めて、そこに少し設定を乗せて臣さんに渡します。ただ、自分が入れたい要素については「竹細工を入れましょう」など最初に強めに伝えます。
それを深堀するべく、臣さんに調べていただき、さらにキーワードを加えていきます。もちろん要素は、おもしろくなければ変えたり外したりします。そうして、皆でもんでいくような流れです。
臣:土地ごとに「この場所だったらコレ!」という特産物や名所旧跡、伝統工芸などがあります。自分は、他にもその場所で起きた象徴的な事件も参考にします。ご当地要素をかき集めて、どれを採用して人情ものにするのか、パズルのように考えていくイメージです。
──これまでのシリーズで、後から加えた、もしくは外したもので具体的に言えるものはありますか?
関:ロケーションなどはあります。あたりをつけていった場所が適さない場所だったり、逆にマイナーでもおもしろい場所を見つけて入れたりすることはありますね。あとは、取材で見ていいと思ったことを加えていきます。
今回、大分に取材に行った日がたまたま雨だったんで、雨の雰囲気を全体にいれています。ある雨にまつわる話を聞いてその話を入れたのですが、あれは最初から用意していたのではなく、取材して仕入れられた際に「これはストーリーに入れよう」と思いプロットに追加したのです。
──そうだったんですね。
関:取材時期に新型コロナウイルスが猛威を振るっていたため、短いロケハンを何回か行ったのですが、なるべく雨の日を狙っていきました。ちゃんと雨が降ってくれたのでしっかり撮影できてよかったです。
──臣さんはロケハンには行かなかったのでしょうか?
臣:社会情勢もあって、『凍える銀鈴花』と『歪んだ竹灯篭』では行けていません。名所、旧跡の雰囲気などを含めて、写真で共有いただいています。ただ、開発中に名物などの写真を見ていると「やっぱり実際に行って味わいたいな」と思いますよね。
(一同笑)
関:それは申し訳ないです。遊ばれた人にも言えるのですが、行ったほうが絶対に楽しいですからね。
臣:そのため、料理のシーンは関さんにお願いしています。あのテキストを含めて、旅情感を出す要素は体験しないと書けないです!
関:臣さんにすべてのテキストをお願いしているのではなく、経験した人が分担して作業しています。
──タイトル名はどのようにして決めているのでしょうか?
臣:先ほどのように、皆で協議してシナリオの原案が固まっていくのですが、その中にシナリオの中核になるワードがあり、さらには象徴となるものがいくつかあるので、それらを組み合わせてタイトルの候補を何十個も出して決めていきます。
タイトルを決める際の会議には荒井先生も参加されているのですが、前のめりにいろいろな意見を出してもらっています。そうして集まったタイトル候補を全員で投票して、タイトルが決まります。いつも、決まるのは開発の終盤ですね。
──3つの中で、印象的なタイトルはどれでしょう。
関:自分は『凍える銀鈴花』が好きですね。
臣:自分も『凍える銀鈴花』が印象的です。ここらへんからタイトルの決め方などが固まってきました。ただ、このタイトルについては紆余曲折がありましたね。
そもそもは『氷雪の陽炎(ひょうせつのかげろう)』という少し難しいタイトルだったんです。ギリギリになって「“かげろう”を“ようえん”と間違えるのではないか」と荒井先生がおっしゃられたことで再考しました。タイトルを付けた時は最適だと思っていたのですが、時間が経過してから見てみると、確かに読みにくいなあと。
そこでもう一度推敲を重ねた結果、『凍える銀鈴花』になりました。荒井先生の感覚はするどくて、ありがたいと感じました。最終的に非常にいいタイトルになったと思っています。
関:『偽りの黒真珠』はテーマがハッキリしている分、使うワードがほぼ決まっていたんですね。ただ、『凍える銀鈴花』の話は複雑だったので、どれをチョイスするのか迷いました。
『氷雪の陽炎』で行こうとロゴを作り始めていたのですが、荒井先生のご指摘で「間違って読まれてしまうのはよくない」ということで作り直しました。
臣:当初のタイトル案は、氷と炎で対比になっているのが特色だったのですが、タイトルが変わったことで、炎を象徴とする要素……具体的には炎に関連するイベントや事件をすべて書き換えたという苦労もありましたね。
プレイヤーごとに選べる遊びの幅を用意
──個人的には2作目の『凍える銀鈴花』は重厚なところや、意外な展開が好みでした。その分、賛否があったと感じているのですが、あえてああいう展開にされたのでしょうか?
関:シリーズにしたいと思って1作目を作ったのですが、先のことを考える余裕はありませんでした。ただ、2作目を作る際にはその後のことも考えつつ、チャレンジしたいという気持ちがありました。
1作目と比べた時に単に場所替えをしているだけと思われてもつまらないじゃないですか。驚きの要素を入れたいと思い、力を入れすぎて長くなってしまったので、そこは賛否に繋がったのかなと。
臣:1作目を作る際のコンセプトは、“お手軽な値段で、1話完結の刑事ドラマのような物語を楽しめる”というものでした。ただ、低価格であるがゆえに、このスキームを続けていくのは難しいという課題もありました。価格的にも内容的にも納得できるものを一旦出してみようという話になり、1時間のドラマではなく、年末の2時間特番、もしくは2夜連続ドラマをやってみようと。物語が終わると思いきや、まだ始まりだったという驚きを出そうとしました。
ただ、シナリオの展開や、テンポについてはどちらも試行錯誤をしながらでした。ユーザーの方の意見を2作目でいただけてよかったと感じています。そこから、バランスが見えてきたと感じています。
関:1作目のボリュームだと短いので2作目で長くしたのですが、それだと少し長かった。それを踏まえて本作3作目ができています。
臣:プレイされた方の満足感は、価格帯と連関しています。我々がこのプロジェクトをきちんと進められる環境下でどのようにしてクオリティを上げていくのか、様子を見た意味も2作目にはあります。
関:あとご当地グルメについても、1作目同様に気合いを入れて用意しました。興味のある方は楽しんでいただけたのですが、事件を早く解決させたい人からは不満がありました。
とはいえ、ご当地グルメをなくすのは個人的に違うと思うので、3作目では必須フラグに組み込むのではなく、読まなくてもいいように改善しました。
臣:シナリオ原案の立場からしても、ご当地ものやグルメの要素が、捜査をするうえで邪魔な見せ方になってはいけないと思っています。そこかしこでご当地の人情や旅情感に触れつつ、捜査を順調に進めていける。
全部の要素を楽しんでもらってもいいですし、そうでなくてもしっかりと風情を感じられる……『歪んだ竹灯篭』ではそのバランスを保てるように少しは調整できたかなと思っています。
──感覚なので人それぞれだとは思うのですが、個人的には楽しんでしまうのがいいと思うんですが……。
関:こちらの意図もそうでした。ただ、求めているものはプレイヤーによって違います。旅行だったらいろいろな場所を観光してもいいのですが、事件の早期解決を求めると観光要素はいらないわけです。
また時短を求められる昨今、早く進めたい人がいるのも確か。ゆったり遊んでほしいと思っていても、全員に聞き入れてもらうのは難しいです。
臣:事件の早期解決を願う人でも楽しめるし、ゆっくり楽しみたい人も違う形で満足できる。すみ分けができるようにしたいというのは、『歪んだ竹灯篭』プロジェクトが始まる時に、何度も議論しました。
どちらかの遊び方でないとダメというのではなく、どちらのプレイスタイルでも楽しみ方を満喫できるのが理想。完全な正解ではないかもしれませんが、これからも反応を見つつ調整していければと思います。
『歪んだ竹灯篭』では女性のドラマ性を意識!
──物語についてもう少しお聞きします。シリーズとして、過去と現在の遺恨が交差する物語になっていると感じます。物語を作る際にどのようなことを意識されていますか?
臣:先ほどあったように、ご当地に根付いたいろいろな要素があります。それを参考にしつつ、現在と過去に起きた遺恨がどこかで交差するように考えていきます。
10年前の出来事があって、今がある……可能性をいろいろ考える必要があるので、そうせざるを得なかった事情や人間性などを背景として織り込めるか、考えつつキャラメイクをしています。
具体的に言うと、ほぼすべてのキャラの人生を年表にしています。そこを調整したり、整合性をとるために修正したりしてキャラクター像を構築しています。
──キャラ設定は他の方にも共有されるのですか?
臣:3作目の『歪んだ竹灯篭』であれば、関さんや岐部昌幸さんにお見せしています。私がやっているのはあくまでシナリオの原案を作ること。メインストリーム以外のコマンドを選んだ際にキャラがどういう反応をするのかは、キャラの背景を理解したうえで用意しないと違和感が出てしまいます。そのため、年表を見て作ってもらっています。
その他、相手や自分の呼び方や口癖などについても、登場人物全員の総当たり表が作られています。
──物語を作る際に、毎回、大事にしている部分と、変えている部分を教えてください。
臣:変えているところは“ヒロイン”です。我々は第1ヒロイン、第2ヒロインと呼ぶのですが、彼女らの性格や境遇は、作品ごとに区別できるように設定を詰めています。似たような性格、似たような行動になるとどうしても同じような展開になってしまうんです。裏のテーマとして“ヒロインが成長していくこと”もあるので、それを感じられるようなものにしています。
変えないところは、これまでにもお話した旅情感です。旅情ミステリーとしてのフォーマットを変えないことは、プロジェクトメンバー間では硬く共有されている。刑事ものあるある、旅情ミステリーあるあるは、いい意味で今後もお約束を守っていきたいと思っています。
私は時代劇や刑事ドラマがすごく好きで、それらを見て育ってきました。時代劇の代表的なところで言うと『遠山の金さん』や『暴れん坊将軍』、『三匹が斬る!』とか……特に外せないのは『鬼平犯科帳』です。刑事ものですと『太陽にほえろ!』や『西部警察』、『あぶない刑事』、『相棒』などなどです。これらは物語を作るうえでかかせない、自分にとって背骨のような存在です。
ドラマにはお約束の展開があって、最終的にちゃんと成敗されるとかを楽しみにするのも見る動機にあると思います。それらをちゃんとふまえてくるのか、あえてお約束を外してくるのかも“あるある”ですが。
そんなお約束を堪能して育ってきたので、あるあるもシリーズに盛り込んでいきたいのです。自分の中で『ミステリー案内』シリーズは“令和における時代劇”だと思っています。
関:この時間になったら印籠が出るみたいな安心感ですね。
臣:「そろそろヒロインがお風呂に入るころだ」とか(笑)。グルメに舌鼓を打つのは『鬼平犯科帳』のいいところです。張り込み先で、部下の作った旬の料理をおいしそうに食べつつ、盗賊の人物像や犯行計画に関する情報を交わして捜査を進める。そういったところに人情や風情があります。そのようなお約束をちゃんと表現できれば、『ミステリー案内』シリーズもいい作品になるのではと思っています。
ちなみに説明すると『鬼平犯科帳』だけを意識しているわけではなく、旅情ものドラマも当然参考にしています。冒頭でご当地に向かい、観光や産業を楽しみながらそこでの人間模様や対立から起きた事件と遭遇し、それを解決する。また、それぞれの登場人物たちに思いをはせて、その後の日常生活や将来を気にかけたりできる人間ドラマにする。 そういうところを大事にして作っていきたいです。
──ちょっとネタバレにもつながるのですが、『歪んだ竹灯篭』において第1ヒロイン、第2ヒロインは誰になるのでしょうか?
臣:ここは難しいのですが、個人的には第1ヒロインは翠で、第2ヒロインは文花だと思っています。
関:作っていくうえで役割が変わっていったのですが、基本的にはその通りです。季子が一時期ヒロインになりかけたのですが、最終的には今の形にまとまりました。
臣:季子の存在感はありましたね。
関:テーマ曲の『あの未来へ』の歌詞を見ていただくと、1番が翠を、2番が文花を表しています。だから季子はヒロインではないんです。クリア後にもう一度曲を聞いていただいた際に、歌詞を意識していただくと受ける印象が変わってくると思います。
臣:我々の中で季子は『ルパン三世』の峰不二子のような存在。魅力的だけど、正体不明で信じていいのかわからない。ともすれば取り込まれてしまうほどに魅力があるキャラを出してみようとしました。
最終的には、季子も感情移入できる存在感になったと思うのですが……いろいろと迷いもあったキャラです。
──女性の描かれ方が重厚でこれまで以上に印象的でした。母親の久枝さんにしても、リポーターの平田さんにしても。
臣:今回はそれぞれの女性の人生、生き方が対比するように描けたらいいと思っていました。阿南翠、麻生文花、平田晒子、白石季子……誰の生き方も頭ごなしに否定することはできない。そうするしかなかった……そういう選択は他のキャラはできるのか、自分たちに置き換えたらどうなのか……いろいろな人間模様に思いをはせていただき、感慨深くなってもらえると、原案者冥利につきますね。
関:許せるわけではないんですが、どこか納得してしまうキャラ作りをしようとしています。基本的にサイコパスなキャラは今後も出てこないかなと。
臣:旅情ミステリーではシリアルキラーのキャラは作りにくいですね。
──他に『歪んだ竹灯篭』ならではの開発秘話はありますか?
臣:『歪んだ竹灯篭』では岐部さんに脚本のご協力をいただきました。そこで、岐部さんのプロフェッショナルな部分を発揮いただきました。特に平田の口ぶりや、山口代表の口癖、劇団長のキャラの立った言い回しなど、セリフ周りに生かされています。勉強になりましたし、キャラに彩(いろどり)を加える部分で非常に効果があったと思います。各キャラのセリフから岐部さんのセンスを感じつつ、楽しんでいただければと思います。
関:特にメディア関係の描写などは、岐部さんのテキストが色濃く反映されています。脚本だけでなくプロットの骨子を作る部分や最後のテストプレイにも、きちんと時間をとって参加していただきました。いろいろなご意見をいただき、ありがたかったですね。
もし日本国外を舞台に選べるとしたら? ユーザーの反応やイベントについても
──シナリオを手掛けている中で、書きやすい、動かしやすいキャラはいますか?
臣:ミステリーアドベンチャーということで、登場人物の行動や思惑は複雑にからみあいます。キャラが動くと、他の登場人物にも影響が出てしまうので。そのため、動かしやすいと言えるようなキャラはあまりいませんね。
ただ、あえて言うとしたら2人ほどあげられます。毎回やられ役で出てくる“あのキャラ”と、捜査に行き詰った時に出てきて、状況を打開するようなヒントを本人の意図しないところで出してくる“あるキャラ”……その2人はキャラが立っていることもあって、設定などで迷うことはなく書きやすいです。
メタな話をすると「ここで出した方が盛り上がる」や「ストーリーがうまく転がる」などの使いやすさが2人にあると思います。ただ、あまり複雑に入れ込んでしまうと他のキャラが連環して動くことになります。今回“あのキャラ”はいつもと違った名前でしたが事件に深めに関わってきているので、いつもほど使いやすかったわけではないですね。
関:ただ、彼らのようなお約束を、楽しめる人とそうでない人がいます。好みの部分にもなってくるのですが、理解していただけない方もいるので、そこについては悩んでいるところでもあります。
臣:個人的にはそのお約束をちゃんと伝えるようにしつつ、信じてやっていくことが大事かなと思っています。
──ユーザーからの意見でうれしかったことはなんでしょう。
臣:私は「クリアできた!」とSNSなどで報告していただけること自体がうれしいです。途中で挫折しないで最後までやっていただけたことに感謝しています。そのうえで、さらに詳しく感想を書いていただいたり、プレイヤーの皆さんにとって大切な人をキャラに重ねて「泣いた」などといった意見を見たりすると、頑張ってシナリオを書きあげてよかったと感じます。
関:一番うれしいのはクリアまでいってもらったことです。いい感想も悪い感想もあると思いますが、エンディングまで到達していただけることは何よりも貴重なことだと思っています。
あと、自分は現地の人の感想を気にしています。彼らから「これで間違っていない」や「方言が完璧!」などの感想をいただけるのはすごくうれしいです。もちろん現地の人の協力もあってのことですが。
余談になるのですが、我々のこだわりでキャラの苗字はご当地にいる人、なじみのあるものをチョイスしているんですね。麻生や荒金などは「完璧なチョイス」と言っていただけました。そういう話を聞けると、安心すると同時にうれしいと感じます。
臣:8bitということで文字の解像度の問題もあって、もっとも多い名前にはできなかったのですが、有名な苗字にしています。
関:他にも、「この場所をチョイスしたのか!」や、街の背景を見て「ここ、知っている」などと言っていただけるのもうれしいです。
──以前のインタビューで「セリフの表示速度は変えたくない」とコメントされていたのですが、『歪んだ竹灯篭』ではUIにもいろいろな変更がありました。こちらの経緯は?
関:本音は変えたくなかったのですが、本シリーズは作品であり商品でもあるので意地になってもしょうがないと思ったためです。あと、最近では動画再生でも、1.25倍再生や倍速再生がついているじゃないですか? 「人が作ったものを飛ばすなど何事だ!」などと言いつつ、時間がない時は自分も飛ばすわけです。自分がやっている以上、しょうがないし、選択できることは悪いことではないという考えから実装を決めました。
そのうえで我々がオススメする設定を明記しています。もちろん、好みで変えられるようになっています。
──国内については今後の展開もあると思うので、少し座組を広げて、もし世界中から自由に舞台を決められるとしたらどの場所を選びますか?
臣:先ほどもお話したように、個人的に『ミステリー案内』シリーズは“令和の時代劇”だと感じているため、海外を舞台にすることはあまり考えていません。ただ、あえてあげるならばロンドンかなと。シャーロック・ホームズの生まれた場所、雰囲気は日本とあうところもあると思います。ただ、もし時空を越えられるのであれば、江戸を舞台にしたいですね。
関:自分は海外も好きなのでどこでも描きたいのですが、荒井さんと臣さんには「旅情感が海外だと出ない」と反対されます。アメリカのロサンゼルス近郊の都市トーランスなどは日本人が多くいるので、そこで舞台が日本のように旅情ミステリーを展開するのもいいのかなと。
海外にある日本人街で事件が起きて解決をする。新しい展開ではないですが、国際的な舞台で日本人によるドラマが展開する。そういう形も選択としてあるかもですが、皆さんが納得いく形でやっていきたいと思っているので、それを作るのは今ではないかなと感じています。
臣:47都道府県を制覇したら、海外にいきますか。
関:もしくは外伝とかですかね?
臣:“ケン、ニューヨークに行く”とか、キャッチとしてもおもしろいですね(笑)。
──『ミステリー案内』シリーズにおける魅力はなんだと捕えていますか?
臣:舞台となる土地の雰囲気や料理を楽しみつつ、登場人物の数奇な運命に感情移入して、感動できる“旅情ミステリー”であること。その魅力がこのシリーズの柱だと思っています。
もう1つあって、8bitテイストでありつつ、現代社会の最新要素を取り込んでいる部分があります。そのギャップを楽しんでいただければと。レトロなドット絵で描いているのに本作にはドローンが登場したり、プロジェクションマッピングの要素が出てきたりします。
実は『歪んだ竹灯篭』の大まかな原案は2021年の3月にでき上がっていて、ストーリー上のイベントで無数のドローンを用いるという構想ができていたのですが、その年の夏に東京オリンピックが開催されて、開会式にLEDドローンが実際に使われていたのは本当に驚きました。ソフトが発売されたのはオリンピックの後なので、結果的に開会式をオマージュしたような形になったのですが、うれしくもあり、先を越されて悔しくもあり……といった感じでした。
関:やはり旅情と人間ドラマ、そして時代ですね。1つ言っておきたいのは、過去作の回顧として作っているのではなく、新たなものを作っている意識でやっています。ファミリーコンピューターがもし現役で展開していたら、このようになっていたんじゃないかという気持ちで開発しているのです。
──最近は、移植版に向けた作業をしているのでしょうか?
関:そうですね。Steam版を8月16日に配信して、PS4版はそう遠くないうちに出せるように動いています。
──他に言っておきたいことはありますか。
臣:個人的には、『歪んだ竹灯篭』のミニゲームの選定がすばらしいと思います! 今回ほど本編とミニゲームがリンクしていることはなかった。あと、ドローンに慣性が働いている操作性もいいですね。本編をクリアするまではミニゲーム中にボスが出ないんですが、クリア後にやるとボスが出るんですよ。そういう細かい部分まで味わってください。
関:ミニゲームもこだわって作っていますからね(笑)。
8月末には、『歪んだ竹灯篭』の舞台となった大分にてイベントを実施予定です。コロナ感染拡大の防止対策を万全にして実施予定です。屋外でのイベントもあるので晴れてほしいのですが、夏の九州は台風の通り道なので、どうなるか……。
──開催の可否はゲーム中の状況とも重なる部分ですね……開催されることを願っています。
関:イベントはゲームに登場した旧豊後森機関庫にて行われます。ぜひゲームをプレイしていただき、ご無理のない形で足を運んでいただければ幸いです。よろしくお願いします。
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Illustrated by Kiyokazu Arai
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