17言語のローカライズを余裕で引き受ける理由……ゲーム制作の頼れる相棒Keywords Studiosとは?

カワチ
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 全世界24カ国・地域で事業を展開するゲーム制作スタジオのリーディングカンパニーであるKeywords Studios(本社:アイルランド・ダブリン)の、日本支社であるキーワーズ・インターナショナル(以下、キーワーズ)。ここではその具体的な業務内容を実績のあるクラップハンズさんとの対談という形で、開発現場におけるキーワーズさんの役割を紹介していきます。

 クラップハンズさんの手掛ける『CLAP HANZ GOLF』は日本語も含めて17言語でローカライズされていますが、どのようにしてこれだけの言語をローカライズできたのかはゲーム開発者だけでなく、ゲームファンの読者も気になるハズ。おもしろい話がたくさん聞けたのでぜひチェックしてみてください。

  • ▲『CLAP HANZ GOLF』のNintendo Switch版が『いつでもGOLF』のタイトルで絶賛配信中です。
  • ▲左からキーワーズの中西一彦氏、黄光盛氏、三澤豪克氏、『CLAP HANZ GOLF』を手掛けた秋山徹浩氏、八木宏之氏。

ワールドワイドだからこその強み

――まずはみなさんの自己紹介からよろしくお願いします。

中西:キーワーズで営業担当をしている中西です。

三澤:キーワーズの翻訳部門のアシスタントマネージャーをしている三澤と申します。翻訳チームの総監督という形で作品に携わらせていただいています。

:黄と申します。キーワーズのLQA(※言語デバッグ)部門のマネージャーをしています。私が直接お客さんと関わることはあまりなく、プロジェクトマネージャーの後ろにいる黒子のような形で、開発をサポートする立場になっています。

八木:八木と申します。クラップハンズで開発サポート課という部署でソフト開発以外のセッションを主に担当しています。

秋山:もともとはクラップハンズ所属で現在はフリーランスで関わっている秋山です。ローカライズディレクターという形で、翻訳のコーディネーションをさせていただきました。

――キーワーズさんはクラップハンズさんの『CLAP HANZ GOLF』のローカライズを担当されたということですが、どのような流れでお願いすることになったのでしょうか?

秋山:わたしはローカライズの仕事を10年以上やっているので業界のことは把握しているつもりなのですが、そんななか今回の『CLAP HANZ GOLF』は収録する言語数も多くて、LQAも大変になることは分かっていました。

そのすべてを対応できるというところで最初に頭に浮かんだのがキーワーズさんだったので、社内で推薦させていただきました。

八木:キーワーズさんは老舗で信頼できますし、ワールドワイドにも展開していて頼りになるのでお願いすることになりました。

――『CLAP HANZ GOLF』は17言語も搭載しているので、それだけのローカライズを社内で作業したり個人や小さい会社に依頼するのは難しいでしょうね。そこはキーワーズさんの強みだったのでしょうか。

中西:そうですね。言語の数はクラップハンズさんからのリクエストでしたが、弊社では可能だったのでお引き受けすることになりました。対応可能なことをお伝えしてからはトントン拍子に話は進んでいきましたね。

――17言語というのはクラップハンズさんがお決めになられたということですが、これはゴルフが世界的に人気があり需要があると考えたためでしょうか?

秋山:もともとはApple Arcadeで展開をはじめたサービスなので世界中の人にプレイしてもらえることになるだろうなと思っていました。また、過去に手掛けていたゴルフゲームも日本がいちばんプレイされているということはなく、多くの国がプレイしているなかのひとつという感じでした。今後、マーケット的にもできるだけ多くの国の人に楽しんでいただけるようにする必要があると考えました。

八木:自分としてもマーケットを広げることは賛成でした。

――多くの言語でローカライズしたことで、とくにこだわった点や喜ばれた点などはありますか?

秋山:そうですね。今回は英語のなかでも、アメリカ英語のほかにイギリス英語やオーストラリア英語も採用しています。とくにゴルフはイギリスだととくに人気のイメージがあるのでイギリス英語は押さえておきたいと思いました。たとえば日本で海外のゲームを日本語で遊んでいるときもフォントが違ったりして違和感を持つことがありますよね。英語もイギリスやオーストラリアで綴りが違ったりするのですが、できるだけネイティブのユーザーさんがプレイしても違和感が無いようなものにして、気持ちよくプレイできるようにしたいと思いました。

――今回のローカライズはゴルフの知識も必要となってくると思うのですが、キーワーズさんはスタッフの人数の多さと国籍の多さでカバーできたのでしょうか?

三澤:はい。弊社の一番の強みは世界各国にグループ会社があり、各地に専門知識を持ったリソース翻訳者たちがいるところです。今回のお話をいただいたときも、ゴルフの知識の高い翻訳チームを構成する必要があると思い、チームを組んで制作に取り掛かりました。

――キーワーズさんは設定言語の数を増やすメリットはどこにあると思いますか?

三澤:世界中の多くのユーザーさんにプレイしていただいたほうが、タイトルの認知度も上がると思っています。

――翻訳の依頼は多いと思いますが、需要が多いのはどの言語でしょうか?

三澤:一番依頼が多く、需要が高いのは英語で、ほかにもフランス語やイタリア語、ドイツ語、スペイン語、ポルトガル語もありますね。アジア言語だと中国語と韓国語あたりが需要が高いですね。

――それぞれ専門にローカライズする人間がいるということですね。実際の見積についてはお答えできないと思いますが、この記事を読んでキーワーズさんのことが気になっているメーカーさんも多いと思うので、どのように契約が進んでいくのかぜひお聞かせください。

秋山:私はローカライズのプロジェクトマネ―ジャーをやっていたので基礎知識があり、ローカライズではたとえば翻訳者さんのコストやその国の経済状況によって、各言語の翻訳単価が違うことなどもある程度承知していました。とはいえ、キーワーズさんから出していただいたお見積りは、私が事前にイメージしていたものにも近く、社内での承認などもスムーズに進められました。

――契約後のやり取りはいかがでしょうか?

秋山:最初はこちらが用意したテキストをまとめてお願いする形で、開発中に更新があった場合はバッチ単位でお願いするという流れでした。そのため、プロジェクト全体でトータルの予算を切るというわけではなく、「今回の更新分はこのぐらいのボリュームになっているので、このスケジュールと予算でいかがでしょうか?」というように、まとまりごとに予定を立てて進めていく感じでしたね。

中西:最初は開発を進められているなかで翻訳の依頼をいただいたので、バッチ単位でデータを頂戴する形になりました。今回は17言語もご依頼いただいたので、日本語から翻訳するものは文字単価で計算をして、英語に翻訳されたものをカウントして英語から翻訳するものはワード単価で計算して見積書をお渡ししました。

秋山:お手数をおかけしました(笑)。

中西:開発が落ち着いたあとやサービスイン後は、月単位で作業が終わった後にご請求をする形をとらせていただきました。

秋山:そうですね。最初は開発が7割くらいの段階でお願いして、その後は、大体1カ月に1回ぐらいなにかしらのバッチをお願いする形でした。

――秋山さんはローカライズに詳しく、自分で概算の見積も出せるということですが、キーワーズさんのほうから見積を出すこともできるのでしょうか?

三澤:はい。通常はテキストを受け取って文字数をカウントして見積書を提出しますが、今回の様にクライアントさんが概算の見積を算出されて予算を提示していただく場合もあります。

秋山:ちなみに、自分も賃金の高そうな言語だったら、このぐらいの金額というイメージはできるものの、「この言語はいくらで、あの言語はいくらでお願いします」と、こまかく依頼したわけではありません。基本的には言語数とボリュームの概算の見積を算出して予算としてお願いしました。

――なるほど。

秋山:そもそもローカライズの手順としては、まず日本語があり、その後にアメリカ英語に翻訳することになります。

 アジア言語は日本語を元に翻訳されるものの、フランス語やドイツ語は英語に翻訳したものからさらに翻訳します。最後はカナダフランス語というのがあるのですが、これはフランス語から翻訳することになります。

 そのため、日本語→英語→フランス語→カナダフランス語という手順になります。だから日本語の文字数と価格は把握はできても、英語以降になったときにどのくらいのワード数になるのかは正確には分かりません。そのため、今回は英語を基準としてお任せしました。

――今回はゴルフゲームでしたが、キーワーズさんはアドベンチャーゲームのようなテキストが多いジャンルの翻訳も依頼できるのでしょうか?

三澤:はい。アドベンチャー以外にもアクションだったりロールプレイングだったりパズルゲームだったりと、さまざまなジャンルを取り扱っています。

――ローカライズの重要さはどこにあると思いますか? ローカライズのクオリティをあげるメリットなども教えてください。

秋山:ソーシャルゲームは日本とアジアを中心に展開したりもしますが、コンソールやPCに目を向けると日本市場の規模は1割ぐらいになっていると思います。もちろん、タイトルやプラットフォームの種類にもよりますが、日本のマーケットは小さくなっているので、成果を上げるには、海外に向けて展開するのは必要不可欠だと思います。海外展開を前提で考えないと、ビジネスとして成功できないケースも結構多いんじゃないかなと思っています。

――中西さんはゲーム業界のキャリアも長いですが、ローカライズの重要さを感じますか?

中西:そうですね。私もかつてパブリッシャーにいたころは、日本で売れたタイトルを北米の方々にも遊んで欲しくて、英語に翻訳して発売しようとしましたが、あまりいい評価を得られず発売することができませんでした。当時は我々が今やっているようなビジネスもほぼ存在しなかったので、翻訳のクオリティの部分も今のように満足できるものにできなかったのかも知れないです。

――やはり翻訳のクオリティも重要だと。

中西:そうですね。あと、海外展開をする重要性でいうと、国境を越えるのが簡単になったことも影響していると思います。昔はパッケージを船に積んで到着に何日もかかっていたのが、今はインターネットがあればすぐにダウンロードして遊べます。そういう点からもローカライズの必要性やニーズというのは、もうすごい勢いで増えていると感じています。

――キーワーズさんはさまざまな業務を請け負っていますが、やはりローカライズの依頼の割合は大きいのでしょうか?

三澤:そうですね。

中西:ルーツとしてローカライズからはじまったので、ほかの業務よりも認知されていますね。

――続いてキーワーズさんにローカライズの依頼したあとの実際の流れを教えてください。

秋山:自分の場合は、お願いするにあたっての準備が最初にありました。翻訳では「こういうところでこういう意味で使われています」という説明のテキストを実際に翻訳するテキスト以外にも用意する必要があるのですが、さっき申し上げたように、本作は日本語から英語に翻訳して、英語から次の言語に翻訳するというプロセスがあります。

 開発は説明のテキストを日本語で用意するのですが、英語以降の翻訳者は日本語の説明が読めないのでさっぱりわからない状態になってしまいます。そのため、私が日本語のコメントを英語に翻訳するという作業をしました。もしかしたら、会社さんによっては、そこも含めてお願いしするのかもしれませんが、今回はコストと時間の節約のために自分でやりました。

 翻訳して欲しいテキストをお渡ししたあとは、英語だけ先にくださいとお願いして、実装して確認してみるという作業を行いました。ただ、そういったことをやっているとこちらの確認待ちで時間を取らせてしまうので、最近では日本語と英語の説明だけをお渡ししてお任せしています。納期もこちらから「このぐらいまでに欲しいです」とお伝えしていますが、とくに問題なく……というか何度も何度もピンチを救ってもらいました(笑)。

――大きな会社でやっているからこそ、納期に関しても柔軟に対応できるのでしょうか?

三澤:そうですね。納期を守るように作業を進めておりますし、なんらかのトラブルがあった場合もリソースを追加するといった、さまざまな対応をすることができます。そこは弊社の強みですね。

――秋山さんはローカライズを理解したプロフェッショナルですが、なかにはローカライズの制作の仕組みが分からないインディゲームの制作者などもいると思います。そういった方が依頼することもできますか?

三澤:はい。もちろん可能です。現にそういった依頼もたくさん受けています。

――小さい会社からお願いされることもあると思うのですが、そういったときも細かく見積は出してもらえるのでしょうか?

三澤:そうですね。基本の情報をいただいてから見積書を出して、どのように一緒に進めていくか作業プロセスをご相談していく形です。

――クラップハンズさんが実際にお願いしたテキスト量はどれぐらいだったのでしょうか。

秋山:ざっくり数えたところ、6万字ぐらいでした。ただ、翻訳していただいて戻ってきたあとに、テキスト中の用語が変わったり、仕様を変更したため説明のテキストを変えたり加えたりするケースもあったので、数字的にはもっと多いと思います。ストーリーなどが入っていないシンプルなスポーツゲームにしては、ビックリするぐらい多くなりましたね。

――作業はずっと続いているとは思いますが、『CLAP HANZ GOLF』のリリースまでは、どれぐらいの時間やり取りをされていたのでしょうか?

秋山:リリースが2021年の4月で、作業がはじまったのが2020年の初夏でしたね。

中西:最初にご連絡いただいたのは、まだ新型コロナの前でした。2019年の年末ぐらいにお話をいただいて、もろもろの準備を進めつつ初夏に作業を開始したという流れです。

秋山:ユーザーさんが遊び始めるリリースのときには、もうアップデートの準備を裏で進めている状態でした。2021年の春くらいまでは大きめのバッチをお願いすることもありましたが、その後は1,000文字ぐらいの分量を依頼することが多くなっていきました。

――仕様の変更などもあったようですが、大きなトラブルはなかったのですか?

秋山:そうですね。リリースまでは要素の追加によってテキストを追加するといったことがあったので、物量と時間との兼ね合いはありましたが、とくに問題なく進みました。リリース後はアップデートで新しい説明を入れたりしましたが、古いテキストと説明の内容が矛盾してしまうということが起こりました。そういうところはコメントなどで補足しているのですが、私が実際に作業をするキーワーズさんみたいな立場だったらかなり大変だったろうなと思います。キーワーズさんにはいろいろなことをお頼みして申し訳ないと思っています(苦笑)。

八木:結構バタバタしましたね(苦笑)。

秋山:A案からC案ぐらいまであったとき、対応するテキストの翻訳がないと実装ができないので、どれを使うか決まっていないけど、まとめてお願いしちゃうというケースもありました。

――日々仕様が変更されるなか、キーワーズさんとは密にやり取りをしなければいけなかったと思いますが、どのようなツールを使われていたのでしょうか?

秋山:リリース後は基本的にメールベースでやり取りをしました。翻訳のテキストがあるエクセルのファイルにコメントで説明する以外に、ややこしいだろうというところは、私のほうで補足するようにしていました。リリース前の段階はキーワーズさんの“XLOC”を使わせてもらっていました。

 エクセルファイルをデータベース上にインポートすることができ、それを翻訳者さんやLQAの担当の方と共有することができました。テキストが変更になったことや間違いがあったことなどを編集できるのですが、誰がいつどこを編集したのか分かりますし、それが1カ所で管理されているのでとてもやりやすかったです。

――キーワーズさんは依頼されるメーカーによって、やり取りの方法も変わるのでしょうか?

三澤:そうですね。主にEメールが主流になりますが、会社様によってはスラックなどのコミュニケーションツールを使用しているケースもあるので柔軟に対応しています。

:キーワーズとやり取りをするためにキーワーズのツールを使わなければいけないという制約はまったくありません。案件を開始したときに打ち合わせをして、お客さん側の社内で利用しているツールを使用したい場合は、キーワーズの方からアカウントを提供して、そちらでやり取りすることも可能です。逆にツールをお持ちでなければキーワーズのツールをお貸しすることも可能です。翻訳作業はバージョン管理が一番大変で、何度もやり取りをしているうちに更新された最新の翻訳がなんらかの事故で元の翻訳に戻ってしまう先祖返りのリスクがあると思います。“XLOC”ならばそういったトラブルを防ぐことが可能ですね。

中西:ツールを探している方がいらっしゃるときは“XLOC”をオススメして、“XLOC”の担当に詳しく説明させていただいています。

:とくに17言語もあるような作品は頻繁にパッチが更新されるため、少しのミスですべてがダメになってしまうという可能性があります。

三澤:Excelだけで作業してしまうと、管理がとても大変になってしまいます。バージョンアップが何度もあった場合、テキスト量が増えてきて、どれが最新のものかごちゃごちゃしてしまうと思います。“XLOC”であればテキストの追跡もできるので、いつどこで更新があったのか、すぐ明確になるので先祖返りなどのミスはなくなると思います。

――『CLAP HANZ GOLF』でローカライズをお願いしたのはキャラクターの会話がメインだと思いますが、ほかにどのようなことをお願いしたのでしょうか。

秋山:キャラクターがしゃべる部分以外だと、ゲーム外に表示されるプライバシーポリシーやマーケティング系のものもお願いしました。あとはユーザーサポートの文面などもお願いしており、ユーザーさんの目に入るテキストに関しては、かなり多岐に渡ってお願いしています。

八木:プライバシーポリシーなどリーガル的な文章はしっかりしたかったので、キーワーズさんにお願いしました。

――キーワーズさんはLQA(言語デバッグ)も担当されています。ローカライズにおいてもっとも重要と言われるLQAですが、一般的には馴染みが薄いと思います。LQAとはなんなのか、どこが重要であるのか教えてください。

:確かにLQAは最近になって出てきたサービスで昔はぜんぜんなかったです。LQAは翻訳されたテキストを対象言語のネイティブスピーカーなどが実際にプレイして違和感がないか確認する作業で、とても大事なものです。

 自分は台湾出身ですが、小さいころに遊んだ当時のゲームには中国語がなくて、ぜんぶ日本語だったのでストーリーやメニューがわからず直感で遊んでいました。アクションは楽しかったけど、ちゃんとストーリーを知りたくて悔しかったです。とくにRPGなどはストーリーも重要なので、開発側が思いを込めて作っていると思いますし、世界中のゲームを愛する人たちに届けたいはずです。LQAはゲームの大事なものをちゃんと伝えられるか確認する作業で、すごく重要だと思っています。

 翻訳は文字ベースで作業することがほとんどですが、やはり、このセリフはどんなシナリオのなかで、どんなキャラクターが話しているのか、ゲームをプレイしながら確認するべきではないかと感じています。

 実装してから雰囲気が合わないとか直訳になっていておかしいと感じることがないように、リリース前にユーザー視点からちゃんとゲームをプレイして、ユーザーさんに正しく伝わっているのか確認し、間違っている場合は、こうすればちゃんと伝わるのではないかと提案しています。

 また、ゲームはテキストの表示範囲が決まっており、ウインドウに収める必要があるので、しっかり確認する必要もあります。

 日本語専用の表示範囲をドイツ語の内容にすると長くなって文字がはみ出したりするので、表示の範囲に合わせた修正を提案したりしました。こういったこともLQAのプロセスがないと、キャッチできないと思います。

中西:中国語などは改行の位置で意味が変わってきたりもするので、その確認も必要ですよね。

:そうですね。ほかにも韓国語はとくにスペースの位置がすごく大事で、スペースが違うだけでまったく異なる意味になってしまいます。やはり、これらは紙やファイルベースの翻訳作業ではキャッチできないので、実際のプレイが重要になります。

――LQA部門はスタッフが大勢いて、それぞれが対応しているのでしょうか?

:グローバルで数百人、東京オフィスで百人という規模ですが、シーズンによって忙しい時期は変わり、それによって正規の正社員のほかに契約社員やアルバイトの方の出入りがあるので人数は変わりますね。ただ、各言語には必ずベテランの方を2、3人ぐらい揃えて作業できる状態になっています。

――17言語もあったとしても高いクオリティでチェックできるというわけですね。

:そうですね。ただ、今までいちばん多いタイトルでも12~13言語だったので、17言語というのは珍しい機会でした。貴重な言語もあり、日本国内では対応できないので、グローバルで展開している強みを生かし、LQA部門の他の国や地域の担当者に連絡をして、一部の言語は海外のスタジオで担当してもらいました。

秋山:LQAは翻訳以上に人手が足りないと思います。私自身も個人で翻訳をしたりしていますが、LQAは開発機材なども必要になるので、個人が家でチェックするのは現実的に難しいのではないかと思います。

:ハードウェアの審査が通っていないリリース前のものは、開発機でなければ動きません。キーワーズもLQA部門はセキュリティを大事にしていて、LQAの部屋は関係者しか入れませんし、ここでは開発中の画像などが漏れないようにインターネットなども制限しています。そこまで対応しないと、お客さんから信頼してもらえないし、依頼も来ないのではないかと思います。

中西:私もLQAの部屋には入れません(笑)。

:そうですね。カードキーが違いますから(笑)。

――クラップハンズさんから見て、キーワーズさんのクオリティはいかがでしたか?

秋山:私自身英語は分かるものの、ネイティブではないので、どこまでネイティブの人に刺さる表現なのかは詳しくはわからないですが、それでも「こう来たか」とニヤリとするようないい表現が多いことは分かりました。

 ローカライズの質というのは悪いときには話題になるのですが、クオリティの高いいいローカライズに関してはスルーされる印象です。『CLAP HANZ GOLF』は不満などが聞こえてこないので、いいローカライズになっている証拠だと思います。

:キーワーズの自慢のポイントとしては、ゲーム専門のローカライゼーション(翻訳+LQA)部門があることだと思います。みんなゲームが好きなので、ゲーマーの視点で翻訳ができるところは、ほかと比べての強みだと思います。例えば、ハードウェアPCのマニュアルなど、一般的な翻訳をしている会社さんにゲームの翻訳を依頼すると、間違ってはいないけど違和感のある文章になってしまうと思うんです。

三澤:かなり固い文章になりますよね(苦笑)。

――翻訳者がゲームに理解があるのはすごくいいことですね。

秋山:本当にそう思います。ゲームはプラットフォームで用語が決まっているので、そこに理解があるのはありがたいです。最後の最後でプラットフォームのチェックが入り、リリースできなくなることもあるので、各社の商標などを理解してもらえているのは心強いです。

:また、LQAでは翻訳以外に文化的なこともチェックします。この国の文化や宗教的に、こういう表現はNGといったこともしっかりお伝えします。きちんとネイティブ出身のスタッフにプレイしてもらい、表現をチェックしてもらいます。

秋山:そうですね。そこは相談をさせていただきました。日本人も日本の文化以外のことはなかなか分からないと思うので、無意識に入れているセリフやポーズ、音楽が大変な問題に発展する可能性もあります。インターネットで調べるのにも限界があるので、ネイティブの人に指摘してもらえるのがいちばん安心ですね。

――Nintendo DirectでNintendo Switch版の『いつでもGOLF』を発表されましたが、こちらをキーワーズさんに引き続きお願いしているとのことですが、やはりスマホ版の評判がよかったからでしょうか。


秋山:そうですね。別のところにお願いするという考え自体がぜんぜんなかったです(笑)。

:同じ部署の同じ担当者なので、最初の説明を省いてすぐに作業できました。

――翻訳部分について詳しくお聞かせください。英語はアメリカ英語のほかにイギリス英語やオーストラリア英語も採用されているとのことですが、こだわりについてお聞かせください。

秋山:オーストラリアなどは言い回し自体も変えていただいていますね。

中西:掛け声なども、同じ英語でも違うなと思いました。

八木:翻訳というよりも、ローカライゼーションですね。その地域の主流の言い回しだったり、流行しているスラングを取り入れたり。

三澤:おっしゃる通り、それぞれの地域の方がプレイして違和感のないようにローカライゼ―ションしています。オーストラリアの人もアメリカ英語でプレイできるとは思いますが、やはり馴染みのある言葉でプレイしたほうが楽しいでしょうし。

――先ほどお話に出てきたキーワーズさんの“XLOC”について、もう少し詳しく教えてください。

三澤:“XLOC”はゲームアセット・マネジメントツールと言いまして、翻訳の場合でしたら、翻訳テキストをすべて管理できるものになっています。例えば翻訳者さんからプロジェクトマネージャー、プロデューサー、ディレクター、開発チーム、テスティングチームと全員がアクセスすることができます。

 今までは開発チームからテキスト側の更新があったあと、実際の翻訳チームに行くまでに結構多くのプロセスがありましたが、“XLOC”なら途中のプロセスを一気に省けるので、すぐに翻訳の作業に取り掛かることができます。先祖返りの心配も無いですし、つねに最新のテキストで作業ができるのでマネージメントが簡単にできるツールになっています。

中西:有償のサービスになりますが、3カ月間のトライアルも用意していますので、これを読んでいる方も是非“XLOC”の採用を検討していただければと思います。

――秋山さんは使用してみていかがでしたか?

秋山:とても便利でした。開発側で作った複雑な資料を綺麗に取り込んで、自動化してくれるのでありがたかったです。

:さまざまな種類のファイルに対応しているので、インポートも容易にできます。また、専用のエンジニアは東京在住なのでカスタマイズの相談なども可能です。

秋山:大きいパブリッシャーさんだと、社内にそういった独自のシステムがあると思うのですが、普通はそこまでのコストをかけて用意するというのは難しいので、うれしいんじゃないかと思います。実際に使ってみないと便利さは分かりづらいと思うのでトライアルで試してみてほしいですね。

――ローカライズ以外だとどんなことを担当されたのでしょうか?

中西:先ほどお伝えしたカスタマーサポート以外ですと、最初のアートアセット制作もトライアルしていただきました。また、開発中のタイトルだったため、いわゆる普通のデバッグ(機能デバッグ)も担当しました。

 このタイトル以外だと音声収録もやっていますし、開発の受託もしているので、なにか困り事があったら気軽に相談していただきたいですね。現在は海外のパブリッシャーからの依頼が多いので、ぜひ日本のゲームメーカーのみなさんのお役にたちたいと思っています。

八木:今回はカスタマーサポートもお願いしていたのですが、それは『CLAP HANZ GOLF』が弊社のパブリッシャー第1弾だったので知見がなく、なにをどうしたらいいのか分からなかったこともあり、キーワーズさんに相談させていただきました。日本だけでなく海外もあったので、こういうお問い合わせをいただいたら、どのように返信をしたらいいのかといったことを逐一ご相談させていただきました。

 最初のパブリッシングということで、分からないことだらけで不安でしたが、すごく頼りになりました。

――クラップハンズさんは翻訳を中心にお願いされていましたが、キーワーズさんが力を入れているものや、こういうことで困ったら相談してほしいということがあったら教えてください。

:先ほど海外の文化や宗教的なチェックの話をしましたが、それ以外にも海外のマーケティングも担当できるので、トレーラーや広告の制作も請け負っています。こちらは海外ではすでに展開していて、日本国内ではまだやっていないので、ぜひ展開していきたいですね。

中西:グローバルでは8つのサービスラインがありますが、日本ではマーケティング以外の7つしか動いていないので、ぜひやりたいと思っています。

:とくに日本国内の人が海外展開をしたいというときはお力になれると思います。

秋山:ゲームだけは作ったけど、営業の仕方が分からないという人は多いと思うんですよね。そういった方はキーワーズさんに相談してみるといいのではないかと思います。

中西:そうですね。これまでは私たちも受け身でご依頼いただいたものを手掛ける形になっていましたが、今後はこちらからご提案やアドバイスをさせていただける形になればいいなと思っています。

――ここまで読んでいただいた方々にメッセージをお願いします。

八木:『CLAP HANZ GOLF』ですが、Nintendo Switchではダウンロード専売コンテンツとして、『いつでもゴルフ』というタイトルで発売中です。より多くの人に楽しんでもらえればと思います。

秋山:今回キーワーズさんには17言語という膨大な数のローカライズを手掛けていただき、本当に助かりました。なかには右から左に読むアラビア語のような難しいものもありましたがLQAもしっかりしていただき、こちらの疑問や不安などもすぐに解決してくださったので、大変心強かったです。今後も末永くよろしくお願いします(笑)。

三澤:キーワーズはワンストップサービスプロバイダーとしてさまざまなサービスを提供しておりますので、翻訳に限らず、アートアセット制作や音声収録、カスタマーサポートなどのお手伝いがありましたら、いつでもご相談していただければと思いますので、よろしくお願いいたします。

:LQAは1つの言語から承っていますが、いろいろな言語を導入したいとき、キーワーズに一括でお願いするのは、時間の節約や、精神、体力の節約になると思います。

 連携もしやすく効率よく作業できるので、お客様には満足していただけるのではないかと思います。また、グローバルに展開しているので幅広い言語にも対応できます。

 ただ依頼を受けて納品するだけでなく、お客様に寄り添ってパートナーシップの関係でゲーム業界を盛り上げたいというサービスを目指していますので、ぜひよろしくお願いします。

中西:今回も完全に発注側と受注側というよりは、二人三脚のような感覚で作業に取り組みました。本日の対談でも話題になりましたが、ローカライズに関わらずなにか相談事があったら、ご相談をしていただきたいですね。

 グローバルでは8つめのサービスラインとしてマーケティングを始めましたが、日本でも対応していきたいと思っています。記事を読んで気になったパブリッシャーさんやクリエイターさんがいらっしゃいましたら、ぜひともご連絡いただければと思います。

Keywords Studiosについて

 Keywords Studiosは、全世界で11,000名以上のスタッフが在籍し、世界中のビデオゲーム関連企業に対し、専門性の高いサービスを提供しています。1998年の設立以来、アジア、北米、南米、欧州といった地域を戦略的拠点として広げ、現在では24カ国・地域の計70カ所にオフィスを構えています。アートアセット制作、ゲーム開発、デバッグ、翻訳、音声収録、カスタマーサポートといったサービスを50以上の言語および16のゲームプラットフォームに対応し、世界各地で約850の一流企業をクライアントとする事業を展開しています。

 各国・地域のゲーム市場での地位も確立し、ゲームソフトの売上ランキング世界トップ25社のうちの23社にサービスを提供しています。Keywords Studiosはロンドン証券取引所AIM 市場の上場企業です(KWS.L)。

キーワーズ・インターナショナル

 キーワーズ・インターナショナルは、Keywords Studiosとしては初となるアジアの拠点として2009年に設立された日本支社です。38か国籍400名以上のネイティブスタッフが在籍し、グローバルにゲームビジネスを展開する国内外の企業に対して、ゲームの開発から翻訳やカスタマーサポートに至るまでをワンストップで提供しています。

■日本国内主要取引先ゲームメーカー(50音順)
505 Games、エイチームエンターテインメント、カプコン、クラップハンズ、コーエーテクモゲームス、コナミデジタルエンタテインメント、Cygames、スクウェア・エニックス、スーパートリック・ゲームス、セガ、ディー・エヌ・エー、トイロジック、日本ファルコム、任天堂、ハピネット、バンダイナムコエンターテインメント、プラチナゲームズ、フロム・ソフトウェア、ユービーアイソフト 他

©2022 ClapHanz Limited

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