『真の仲間』作者のざっぽんが語る“ゲームだけの表現方法”とは?
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今やゲームは、複数のメディアを横断した作品展開が当たり前となりました。
人気アニメを原作としたゲーム版が制作されることも、その逆にオリジナルタイトルからコミカライズやアニメ版が派生するケースも、数えられないほどあります。更には、最初から他のメディアとの並行を前提とした展開も、昨今では珍しくない状況です。
2022年からは、Web小説サイト・カクヨムとゲーム制作ソフト・Maker(ツクール)が共同で、一般からゲーム原案を募集して、優秀作をゲーム化するという新たな試みも始まりました。
そんなゲームとメディアミックスの世界は、クリエイターの目線からどのように見えているのでしょうか? 本記事では、自身の原点を“フリーゲーム制作”と語り、代表作がゲーム化された経験も持つ小説家・ざっぽん氏にインタビューを行いました。
ざっぽん氏は2017年より「小説家になろう」へ投稿した『真の仲間じゃないと勇者のパーティーを追い出されたので、辺境でスローライフすることにしました』が人気を博し、2018年に小説家デビューしました。同作は2021年にアニメ化され、ゲーム版も発売されるなど、一つの作品が様々なメディアで派生展開された経験をもとに、「ゲームならではの表現方法とはなにか」というテーマについて語っていただきます。
物語を進める権利をプレイヤーに委ねる面白さ──コミカライズ・アニメ化・ゲーム化を経験した小説家ざっぽんが語る「ゲームだけの表現方法」とは?
──代表作『真の仲間じゃないと勇者のパーティーを追い出されたので、辺境でスローライフすることにしました』は、元々「小説家になろう」へ投稿された作品でした。そこから本作が多くの人に受け入れられ、広まっていく上で、ここが重要だったと思う作品のキーポイントはどこだと考えていますか?
ざっぽん:そうですね、色々なポイントはありますが、一番重要だったのは序盤に読者が理解と共感できる展開にすることだと思います。WEB小説という媒体限れば、それこそ最初の1話5000字の時点で、物語のテーマと舞台と主人公のキャラクターを理解し共感してもらうよう心がけた点が、多くの人に楽しんでもらえた要因かな、と。
真の仲間で言うなら、不遇な主人公がスローライフをするというテーマ、RPG風の魔王と勇者のいる舞台、主人公はRPGの序盤で外れるキャラクター。特にこのRPGの序盤で外れる報われないキャラクターという要素が、現代を生きる私達にも努力と貢献が必ず報われるわけではないという共感を得られたのではないかと思います。
『真の仲間じゃないと勇者のパーティーを追い出されたので、辺境でスローライフすることにしました』
『真の仲間じゃないと勇者のパーティーを追い出されたので、辺境でスローライフすることにしました』は、角川スニーカー文庫(KADOKAWA)より書籍化されたハイファンタジーノベルです。略称は「真の仲間」。コミカライズ、ドラマCD、ゲーム、アニメ化などマルチにメディアミックス展開されています。
戦力外通告を受けて、自ら勇者のパーティーを抜けることにした青年ギデオンは、レッドと名前を変えて、辺境の地で薬草採りの冒険者として新しい人生を送ることを決意します。
念願の薬草店を開店して早々、かつて共に戦ったお姫様リットが押しかけてくるのでした。レッドとリット、意気投合したふたりは、薬草店を営みながらスローライフをはじめることになります。
──小説家を目指す上で、新人賞などへの応募ではなく、WEBへの投稿を選んだ理由を教えてください。また、WEBで作品を出すにあたって心がけた点などお聞かせください。
ざっぽん:WEB小説の一番の利点は投稿すれば反応がすぐに帰ってくるところです。感想だったりPVだったり、自分の書いた小説がどう受け取られたか、1話ごとに見ることができるのは新人賞では得られない情報です。
これは自分の小説をより面白くするためにもなりますし、毎日毎日1人で小説を書き続けることへのモチベーションにもなります。
もちろんポジティブな反応だけではなく、酷評されたり、全然読まれなかったり、序盤で多くの読者が読むのを止めている現実だったりといった反応もあります。そのネガティブな反応どう変えていくか、それとも変えずに進めるか……どの経験もWEB小説を投稿したから得られた良い経験だったと思います。
最初からできたわけではなく失敗も経験してから、今作の真の仲間で心がけるように点なのですが、常に読者の反応を意識するということですね。
読者に読んで欲しい盛り上がる部分での反応を想像するのは当然なんですが、そこへ向かうための途中の物語や溜め回や説明回でも読者がどういう反応をして、どうすれば続きを読みたくなるか考えながら書くようにしていました。WEB小説は面白くないと思われたら、すぐに小説を閉じて別のWEB小説を読むことができますので。
──ご自身の作品を通して様々なメディアミックスを経験されましたが、「ゲーム」という媒体の一番の特徴は、ほかと比べてどの部分にあると感じられましたか?
ざっぽん:小説、漫画、ドラマCD、アニメ、ゲームと様々なメディアミックスに恵まれ、本当に良い経験をさせていただいています。その中でもゲームという媒体の一番の特徴は、物語を進める権利がプレイヤーにあるという部分だと感じました。
たとえば扉を開けてその先にいる男に話しかけるような一本道のシナリオだとしても、プレイヤーは最初の部屋にとどまっても良いし、男を無視して部屋の中を調べても良い。プレイヤーが望んで物語を進めなければ先へは進まない。この特徴によって、プレイヤーは読者ではなく主人公と一緒に歩く当事者として物語に参加できる。これが、小説とは違う一番気をつけるべき部分だと思います。
逆にアニメは、視聴者が何もしなくても、それこそ見ていなくても物語は進んでいってしまうので、情報の出し方や登場人物の感情がどう変わったかなど、どうやったら面白く伝わるのかが脚本の腕の見せ所だと感じました。どの媒体もそれぞれに創作する醍醐味がありますね。
──『真の仲間~』ゲーム版では、原作者として開発にもご参加されたと伺いました。おもにどういった作業や調整をご担当されましたか?
ざっぽん:シナリオ監修ということで、プロットとクエスト内容が決まった後のテキストを担当しました。また制作中のゲームをプレイしての意見と提案も行っています。
原作のあるゲームということで最初にクリエイターさんからいただいたシナリオプロットも原作の流れに沿ったものだったのですが、メインヒロインであるルーティの登場がゲームクリア後になりそうだったり、原作の事件と薬草店経営というゲームパートがつながらないものになりそうだったのでかなり手を加えさせていただきました。
原作を知っているプレイヤーにとって、原作と物語が違うことが違和感なく受け入れられるにはどうすればいいか、原作とキャラクター達の登場のタイミングが違うことへの統一性をどう解決するか、プロットもテキストも結構な量を書きましたね。小説1冊分以上の文量は書いたと思います。
原作があるということをベースにしつつ、原作とは別の物語を展開するというのを自分でやるのは中々面白い創作でした。ここまで原作の流れを崩せるのも原作者本人だからということで、シナリオ監修を担当して良かったのかなと思います。
ゲーム部分の監修については、純粋に原作を知っているプレイヤーという立場で意見を出していました。
提案で修正されたところもあればそのまま進んだところもあり……アップデートの度に武器の耐久度について文句を言っていた気がします(笑)。
耐久度は少しずつ上げてはもらったのですが、こういう思想の違いがあるのも共同で創作する楽しさですね。
PCゲーム版『Slow living with Princess』
小説版のストーリーをベースに、ざっぽん氏完全監修の元『Slow living with Princess』としてゲーム化。お姫様のリット、妹である勇者ルーティたちと森やダンジョンを探索して素材を集めて、薬草店を経営していくスローライフRPGです。
ゲーム独自の展開はあるものの、小説版のシーンを追体験できるイベントも用意されており、レッドとなって「真の仲間」の世界での生活を楽しむことができます。
ゲームはSteam上でアーリーアクセス(早期アクセスゲーム)中で、現在もアップデートを重ねながらストーリーが追加されています(2022年9月時点)。
──ご自身の創作にまつわるバックボーンを教えてください。創作を始めたきっかけはなんでしたか?
ざっぽん:最初にした創作というと、それこそ小学生になる前から自作のゲームブックを書いていたりしていました。幼稚園の自由時間に外で遊ぶよりもノートに物語を書いている方が好きな子供でしたね。まぁ物語としてもゲームブックとしても成立していない、書いている本人しか分からないものでしたが、とても楽しい時間だと感じていた記憶があります。
それからもタイピングの練習ということで小説を書いてみたり、物語を作るのはずっと好きでしたが、最初に本気でやった創作活動というとフリーゲーム制作になります。
──はじめての創作自体がゲームだったのですね! そこからはどういった作品を創られていたのですか?
ざっぽん:RPGツクール3も遊んではいたのですが子供だった当時の私はファイナルファンタジーのような大作を作ろうとして挫折したりしていました。RPGツクール初心者キッズあるあるかなと思います。
それから中学生の頃にフリーソフトのカードワースというゲームに出会いました。カードワースは、イメージとしてはTRPGのシナリオ部分のゲーム制作ができるフリーソフトという感じでしょうか。ゲームとエディタとプラットフォームの関係が非常によくできていた名作フリーゲームだと思います。
初めてネットに自分の創作物を公開するという経験をして、ダウンロード数が増えていったり、自分の創作物に感想をもらうということも経験しました。自分の創作物を顔も知らない人達が楽しんでくれているということがすごく嬉しかったですね。あの感動は今の創作活動にもつながる感動だったと思います。
それに同じ世界観、同じツールでたくさんのクリエイターがシナリオを作っているというのがとても良い刺激となり、どうすれば評価されているクリエイターさんのシナリオのように自分のシナリオも面白いと思ってもらえるのか考える最初の一歩にもなりました。もう10年以上前に作ったものなのですが、今でもたまにSNSで感想を書いている方がいたり、You Tubeで実況してくれる方がいたりします。嬉しいですね。
それからTRPGにもハマって、事前にシナリオを書くこと、GMをしながら即興で物語を組み立てていくことという、ある種プロットを立てて、実際に小説を書くときには面白い方向に変えていくという今の創作スタイルに近い考え方になったのかなと思います。
そんな感じにずっと創作はしていたのですが小説家になろうを知って、色んな作品を読んで、また自分も小説を書いてみたくなり「真の仲間」の執筆に至ったという感じです。
──フリーゲーム、TRPG、小説と様々なワードが飛び交いましたが、現在の創作活動に繋がる、ご自身にとって重要な作品を5つあげるとしたら、どのようなタイトルが浮かびますか?
ざっぽん:5つに絞るのは難しいですが、強いてあげるなら……。
■ロードス島戦記
子供の頃に読んだ水野良先生のロードス島戦記やソード・ワールドが私のファンタジー好きの原点になりますね。幼い頃にどんな面白い本に出会えたかで人生すら変わると思います。
■ラヴクラフト全集
中二病がもっとも深刻だった時期、図書館で天使とか悪魔とか調べて「くくく」と笑っていた痛い中学生だった私が、クトゥルー神話の解説本をオカルト本だと思って借りたことがきっかけでラヴクラフト全集を読みはじめてその面白さに中二病を卒業し普通の本を読むようになったという思い出の本です。
クトゥルー神話というゆるく繋がったシェアワールドも大好きですね。知らない作品を読むキッカケになりますし、意外な作品で神話要素を見つけると嬉しくなります。
■カードワース
前の質問で語ったように私の創作活動の転機となった思い出のフリーゲームです。
■ドラゴンクエスト3
勇者と魔王というRPG風世界観のイメージソースとなったゲームです。一番面白かったゲームはと聞かれたら私はドラクエ3と答えます。何が良いかを語りだしたら止まらないくらい、今プレイしても掛け値なしに面白い名作ゲームですので、この記事を読んでおられる未プレイの方がいらっしゃったらぜひプレイしてみてください。
■盾の勇者の成り上がり
小説家になろうで最初に読んだ作品です。もしここで盾の勇者の成り上がりのような面白い作品に出会えていなかったら、小説家になろうで書こうと思わなかったかも知れないので、やはり読んで良かった重要な作品としてあげさせていただきます。
──現在Maker(ツクール)とカクヨムが共同で、一般から原案を募集してゲーム開発を行うプロジェクトを開催中です。もし、ご自分がゲームの原作(原案)を考えるとしたら、どんなアイデアをやってみたいですか?
ざっぽん:刀鍛冶シミュレーションとかどうでしょうか。
牧場物語のようなスローライフよりの雰囲気で、山で砂鉄や薪を集め、山の山菜や庭で野菜を育てて料理を作ってバフをして刀を打つというのが基本の流れで、マイペースに進めていくゲームです。
でも背景世界としては、敵国と合戦が起こっていて悲劇もある。そんな世界でどんな刀鍛冶を目指すのかというのがメインストーリーです。死んだ師匠の鍛冶屋を受け継いだ主人公が、師匠がたどり着けなかった刀の意味を探すという導入から、「人を斬る最強の武器」、「人々を魅了する芸術」、「大量生産の兵器」、「村人達の要望のための道具」という4つの道のどれかに進むというシナリオになります。ゲーム的にはやりこみ要素としてすべてのパラメータが高い「究極の一振り」ルートもあったら良さそうですね。
小説として書くなら、「武器」と「芸術」のシナリオを同時に進めるものが良いかな。外交のカードにすらなった芸術品の刀で戦争を止めて、師匠でもたどり着けなかった刀の意味にたどり着く……色々妄想が湧いてきます。
芸術性ばかり上げて武器としての性能が低い場合のエンドが小説のラストでも良いかも知れません。停戦を反対する敵国の刺客に襲われ、芸術品の斬れない刀では勝てず刀をへし折られて主人公は死ぬ。しかし、折れても素晴らしい逸品だったことで、刀を受け取り仲裁するはずだった帝が激怒して敵国を滅ぼしてしまう。刀鍛冶は斬れない刀で一国30万の兵士を殺した。執念宿る斬れない刀によって主人公は師匠を超えた。というビターエンドなんてどうでしょう?
小説としてオチを付けつつ、ゲームなら別のハッピーエンドにもたどり着けるというなんてのも原案小説として良いんじゃないでしょうか。
──ご自身が考える、ゲーム作品を作るにあたって最も大事な要素とはなんでしょうか。そのことは、小説からゲームを生み出すという本プロジェクトにおいて、応募者はどのように意識をするとよいと思われますでしょうか?
ざっぽん:そうですね、ゲームにはいろんな要素がありデザイン思想によって何が大事かというのは変わるとは思うのですが、私が1つ選ぶとしたら空気感ですね。
ただし、まず前提として、魅力的なキャラクターが一番重要です。これはゲームだからというわけではなく、小説も漫画もアニメもゲームもキャラクターが魅力的であることが大切なのです。
ですが、魅力的なキャラクターだけでは良い創作物はできませんので、次にゲーム作品を作るにあたって大事な要素として私なら空気感を重視します。ゲームにおける空気感とは、プレイヤーがゲームをプレイした時に全体を通して感じるもののことです。
この空気感が小説でもしっかり意識して表現できていることが、面白いゲームの原案小説につながると思います。小説の空気感をどうゲームで表現し再現するというのがコンセプトになって、ゲームのデザインも決まっていくでしょう。
自分の物語がゲームという形になるのは楽しいです。その経験は、作家として、シナリオライターとして、ゲームクリエイターとして、目指す道がいずれにせよ次のステップにつながる経験になると思います。
皆さんの小説がどのようなゲームになるのか、私も楽しみです。
ゲーム原案となる小説を募集し、応募されたアイデアから次世代のインディーゲーム開発を目指す『ツクール×カクヨム ゲーム原案小説オーディション2022』は、2022年10月2日(日)までWeb小説サイト「カクヨム」で開催中です。
またファミ通.comでは、『殺戮の天使』真田まこと氏のインタビューが公開されています。あわせてお楽しみください。
(C)Zappon,Yasumo
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