『龍が如く』キーマンインタビュー。『8』のサブタイトルは!? 『維新!極』でアンリアルエンジンを採用した意図は?
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9月14日の“State of Play”と9月15日~9月18日の“東京ゲームショウ 2022”で3タイトルに関する発表が行われた『龍が如く』シリーズ。
その詳細を、“龍が如くスタジオ”代表の横山昌義氏と『龍が如く』シリーズチーフプロデューサーの阪本寛之氏に伺いました。
『龍が如く維新! 極』は海外にとっては完全新作
──9月14日のState of playや“RGG SUMMIT 2022/龍が如くスタジオ 新作発表会”の反響を聞かせてください
横山昌義氏(以下、敬称略):日本の反響もさることながら、海外の反応が大きかったですね。これまでも『龍が如く』シリーズは、大きな発表会を設けてきましたが、それらと比べても今回の一連の発表で『龍が如く』の新情報に触れた人の数はけた違いです。
──それだけここ数年で海外の『龍が如く』ファンが増えてきたということでしょうか?
阪本寛之氏(以下、敬称略):それもありますが、今までの当たり前が変わってきたとも感じています。今までは日本で情報が発信されると、その情報が海外に伝わるまでに時差がありました。ですが、今回の発表会は4言語同時通訳で日本語も合わせると5言語同時発信。そのぶん一次情報に触れる人が増えているといったところです。
──それでは個々のタイトルの話に移りたいと思うのですが、まず初のスピンオフ作品の『極』化となると、『龍が如く見参!』を予想した方も少なからずいると思いますが、今回『龍が如く維新!』を選んだ理由をお聞かせください。
横山:まず、熱心なファンならご存じのとおり『龍が如く維新!』は日本でしか発売されていません。そのため、海外の方から『龍が如く維新!』を遊びたいという声がこの9年間、年々強くなっていってたんですよ。それだけ望んでくれているなら……というのが『龍が如く維新! 極』を作るきっかけのひとつです。
で、『龍が如く見参!』を望むファンの声はというと、これがまったく聞こえてこなかったんですよ。『見参!』というキーワード自体この9年間ほとんど聞いていません。
ところが「『維新! 極』です」と発表したら急に「『見参!』はどうした?」という声があがってきたんです。
──では『龍が如く維新! 極』を出すからといって『龍が如く見参!』を今後リメイクしないわけではないですよね?
横山:そうですね。ただ、個人的には『龍が如く見参!』を新しくするならかなり手をいれなければいけないと考えています。ストーリー、ムービーの長さ、バトルの設計などなど。PS3時代のゲームですから、今にマッチした作りにするには変えなければいけないところがたくさんあります。作り直すくらいなら、イチから作ったほうがいいくらいですね。
実際に制作するとなったら『龍が如く見参! 極』という言葉から想像するような作品よりも、さらに大きな変化を遂げたものになるでしょう。
──当時PS4版があったとはいえ、『龍が如く維新!』は9年前のタイトルになります。『極』化にあたってなにを意識しましたか?
横山:最初に考えたのはまず『龍が如く維新!』をローカライズできるかです。
阪本:舞台が幕末なうえに、尊王攘夷なんて言葉が出てきますからね。
横山:そう。しかも、日本人なら「幕末で、主人公は坂本龍馬です」と言うだけである程度の共通認識が得られますが、海外の方に同等の共通認識を求めるのは無理があります。『極』ではない『龍が如く維新!』を日本だけでリリースしたのも、こういった日本なら通じる文脈を海外の人に伝えるビジョンが見えなかったからなんですよ。
ですが、今回ローカライズスタッフに相談してみたら「『龍が如く維新!』のローカライズは問題なくできる」と言うんです。
──お話を聞くと、逆に本当に海外の方に伝わるのかが疑問に思えます。
横山:ちょっと考えてみてほしいのですが『龍が如く維新!』の物語をアメリカを舞台に例えるなら、独立戦争や南北戦争で将校に付き従っていた部下を中心としたものです。リンカーンのような有名な歴史上の人物ならまだしも、その部下に日本人の誰もが下地になる知識があるとは到底いえません。
ですが、そんな海外の知らない人物が戦争中に仲間と交流を深め、敵と戦う作品を娯楽として楽しめないかといったらそうではなく、下地がなくても作品単体として楽しめますよね。
──つまり、幕末の坂本龍馬を知らなくても『龍が如く維新!極』は作品単体で楽しめると。
横山:そうなんですよ。この点に気が付かずに『龍が如く維新!』を日本だけでリリースしたのは、我々の反省点でもありますね。
──『龍が如く維新!極』でドラゴンエンジンではなくアンリアルエンジンを採用したことへの影響はどんなものがありますか?
阪本:大きいのは光の表現ですね。ドラゴンエンジンは夜のライティングは非常にきれいなのですが、自然光の表現が弱いんです。その自然光をきれいに表現してくれたのがアンリアルエンジン採用の理由になります。
横山:例えば、昔の日本家屋では窓枠に何本も縦に細い木をはめ込んだ連子窓(れんじまど)を設けていることがあります。あのような窓からの採光を表現する際に、ドラゴンエンジンでは連子窓の隙間ひとつひとつに個別に光源を設置する必要があるんですよ。
これをアンリアルエンジンで表現する場合、現実と同じように光源を用意すれば問題なしとまるで手間も光の差し方の自然さも違います。
『龍が如く維新!極』の制作にあたって、サンプルとして“池田屋”を作ってさまざまなエンジンを試したのですが、今挙げた連子窓からの光の差し方や屋内から屋外に出たときの少しまぶしさを感じるような明るさを見て、今回はアンリアルエンジンで行こうと決めました。
──では、シリーズがこれからアンリアルエンジンに舵を切っていくというわけではないのですね。
阪本:そうですね。アンリアルエンジンとドラゴンエンジンだけを比較してもそれぞれ長所があるので、作品に応じて適したエンジンを選んでいきます。
横山:実際『龍が如く7外伝』や『龍が如く8』はドラゴンエンジンで制作しています。さらにエンジンの違いはグラフィックだけに現れるわけではないので、総合的に判断して使うエンジンを決めています。グラフィックも処理も全部万能なエンジンがあったら、それに乗り換えるんですけどね(笑)。
──一部キャストの一新にも驚きました。
阪本:先ほどお話したとおり『龍が如く維新!』が海外で発売されていない以上、『龍が如く維新! 極』は海外の方にとっては完全新作です。そのため、『龍が如く維新!』のビジュアルだけを今のクオリティに高めたリマスターを提供したとしても楽しんでもらえます。
ですが、それだけでは『龍が如く維新!』シリーズを遊んだ日本のユーザーさんに向けた作品としては不十分です。そういった方々への新しい楽しみのひとつとして打ち出したのがキャストの変更ですね。
横山:ご存じのとおり『龍が如く維新!』の配役はただ適当にナンバリング作品の人物を当て込んだわけではなく、幕末の人々とナンバリング作品の登場人物の立ち位置や人間関係を踏まえてしっくりくるように配役しています。
そして『龍が如く維新!』の発売から今までナンバリング作品が増えたことで桐生を取り巻く人間関係も変化していますよね。そういった流れを踏まえて今、幕末を舞台に“龍が如くオールスター”を作るならどんな配役が適切かやおもしろいかを考えて一部キャストの変更に踏み切りました。
──キャスト変更の起点になったキャラクターはいるのでしょうか?
横山:最初は武市半平太ですね。『龍が如く維新!』以降のナンバリング作品の登場人物を考えていくと同じ“堂島の龍”である渋澤啓司がしっくりくるかなと。
『龍が如く0 誓いの場所』では最後まで打ち解けなかった桐生と渋澤ですが、時代や出会い方が変わっていれば共闘したかもしれない。そんな『龍が如く0』のもしもを頭に思い描き、武市半平太に渋澤をキャスティングしました。
阪本:そこから渋澤を出すなら三幹部は全員出演させたい、阿波野大樹は派手目な役どころの方がいいだろうと新しいキャスティングが決まっていきました。
──逆にあえて新キャスティングから外した人物はいますか?
阪本:春日一番ですね。彼は裏のない性格ということもあって『龍が如く維新!極』でしっくりくるキャラクターがいなかったんですよ。あと、中谷一博さんが岡田以蔵を演じているので一人二役になってしまうのも理由の1つですね。
──三幹部以外で注目のキャストはいますか?
阪本:『龍が如く0』のユキをキャスティングしたおりょうですかね。メインではないキャラクターからキャスティングするのは初めての試みなので注目してもらえればと思います。
横山:キャバクラ嬢からメインキャストですから大抜擢ですよ。シリーズ通しても類を見ない下克上かもしれません(笑)。
──山崎烝にハン・ジュンギをキャスティングされたのも驚きました。
横山:ハン・ジュンギ自体怪しい雰囲気のキャラクターですからね。今回の山崎烝もいい感じにミステリアスになっています。ただ、元の『龍が如く維新!』で釘原広志を演じていたのが神奈延年さんで、ハン・ジュンギを演じているのは中村悠一さん。ですから、怪しいながらもどちらも声がいいんですよ。
──あと1人、近藤勇についても聞かせてください。
横山:近藤勇は昼行燈で、締めるべきところはきっちり締めるある種おいしいところを持っていくキャラクターです。そこに『龍が如く7』の足立宏一と近しいものを感じて今回のキャスティングとなりました。
──キャスティングは変わりますが、ストーリーは『維新!』と同じと考えてよいのでしょうか?
阪本:ほとんど同じですね。変わっているところとしては、9年前に許されていましたが今はちょっと……という表現を消したり差し替えたりしたくらいです。
横山:時代に合わないものを削るような編集はしていますが、大枠を変えるようなことはしていません。
敵も味方もスキルを使う!? 『龍が如く維新! 極』はバトルが大きく変化
──システム面での変化についても聞かせてください。
横山:大きいのはやはり“隊士スキル”が、バトルダンジョンだけでなくメインストーリーでも使えるようになったことですね。
──TGSで体験したところ、バトルのキモになってくるようシステムだと感じました。
阪本:TGS版は隊士スキルを楽しんでもらえるように、あえて強力なものを用意しました。いうなれば最終奥義の詰めあわせといったところですので、実際にあれだけの隊士スキルを揃えようとしたらものすごいやり込みが必要になります。
──隊士スキルを本編で使えるとなるとゲームバランスに影響も出ますよね。
横山:もちろんです。ですから、隊士スキルに関する部分はほとんどいちから作り直しています。あと、プレイヤーが隊士スキルを本編で使えるようになったのに伴い、敵も強力なスキルを使うようになりました。
阪本:正直なところバトルは別物ですね。
──バトルダンジョンは残っているのでしょうか?
阪本:武器錬成に関する要素があるので、もちろん残っています。ただ、そのままというわけではなく、巨大な敵が出てくるなどの変更点もありますね。
──アナザーライフやプレイスポットについて、今話せることはありますか?
阪本:アナザーライフは、『龍が如く維新!』と基本的には同じ内容ですね。ただ、入手できるアイテムのバランス調整はこれから行うところです。プレイスポットも数自体は増やさず、カラオケに新しい曲を追加するといった細かなボリュームアップにとどまっています。
横山:ひとつのタイトル内でユーザーさんが受け止められるサブコンテンツには限りがあります。今回『極』だからといって『龍が如く維新!』よりもプレイスポットを増やしてしまうと、日本のユーザーさんはともかく海外のユーザーさんがなにをしたらいいかわからなくなってしまうんですよ。
その結果、武器錬成や隊士スキル集めまで気が回らなくなってしまっては本末転倒ですよね。ですから、あえてプレイスポットの数は増やしていません。これもまた、『龍が如く維新! 極』が日本と海外で新作か否かの違いがあるからこその扱いですね。
──テーマ曲は新しいものになるのでしょうか?
横山:今まで『極』化したタイトルで、元と同じ楽曲を使ったことがないので今回も新しい楽曲を用意します。また、PVで『龍が如く4』のBGMが聞けたように、今回は楽曲も『龍が如く』オールスター的な試みを考えています。
『龍が如く8』のために『龍が如く7 外伝』が必要になった
──続いて『龍が如く7 外伝 名を消した男』についてお聞きします。電撃発表となった本作ですが、どういった経緯で企画が立ち上がったのでしょうか?
横山:『龍が如く8』を作っていく過程で、桐生のこれまでを描く必要が出てきたのがきっかけです。
──『龍が如く7』や新作の『龍が如く8』で描く選択肢もあったと思いますが、なぜこのタイミングでしかも外伝作品としての制作なのでしょう?
横山:まず『龍が如く7』は春日一番の物語です。そのなかで桐生と出会いましたが、ほかにも真島や冴島などこれまでのシリーズに登場したいろいろな人が春日に関わってきました。
そういったキャラクターの『龍が如く7』に至るまでを全員分掘り下げるのはさすがにくどい。そう考えて、あえて描くことはしませんでした。
主人公が変わる『龍が如く7』からシリーズに触れてくれる人が増えるであろうことも予測して、『龍が如く7』のタイミングで桐生たちの掘り下げを避けた理由ですね。
外伝にする理由も『龍が如く7』からシリーズに入ってきた人のことを考えてのものです。
『龍が如く7』であえて描かなかった桐生の過去を『龍が如く8』で描くというのも違うじゃないですか。桐生の過去は知りたい人に向けて切り分ける必要があると考えて、『龍が如く7 外伝』の制作を決めました。
──シリーズファンとしては舞台が気になりますね。
横山:表には出していないものも含めて既にシリーズの間で桐生がどこにいてなにをしていたかという設定はあるので、それほど突飛なものにはなりませんよ。
例えば、『龍が如く7』のあのシーンに居合わせたのですから、当然その前に大阪入りしている。そういった間の物語を提供していくので、ボリュームとしても『ジャッジアイズ』の『海藤正治の事件簿』よりも大きいけれども、ナンバリング1作分とはいえない。そのくらいのものを想定しています。
そこに桐生が訪れたロケーションやプレイスポットが加わるというイメージですね。
──“大道寺”の名前が出てきますが、やはり桐生は『6』後に大道寺一派の監視下にあった、ということでしょうか。
横山:PVでもお見せしていますが、大道寺一派のもとから始まると考えて問題ありません。
──アクションの手触りはどの作品に近いでしょうか?
横山:まだ詳しくはいえないですが、スタイルは用意しようと考えています。
実は9月14日に『龍が如く7 外伝』を発表したのも理由がありまして、発売日が一番近いのは『龍が如く維新!』で、発表会の前に『龍が如く8』の情報はかなりの量発表している。
ただ、ユーザーさんは『龍が如く8』の新情報が欲しいこともわかっている。だから現代を舞台にした『龍が如く』の情報として『龍が如く7 外伝』を発表したんですよ。
ですから、詳しい情報はまだこれからといったところですね。
──その『龍が如く8』ですが、まずサブタイトルは予定されているのでしょうか?
横山:今回はサブタイトルはありません。未定という意味ではなく、正式タイトルが『龍が如く8』になります。
阪本:『龍が如く4』からサブタイトルを付けていたので、久々にサブタイトルがない作品ですね。
横山:サブタイトルを付けないのにも理由はあるのですが、正直『龍が如く8』が発売されてから……いえ、エンディングを見て初めてかな。とにかく遊んでもらうとサブタイトルがない理由がわかります。
──『龍が如く8』はW主人公で桐生が過去を背負っているとのことですが、これまでのキャラクターも登場するのでしょうか?
阪本:まだ桐生が過去を背負ってるとは言っていないんですけどね(笑)。
──いわれてみれば“片方の主人公が過去を背負っている”としか語られていませんでした。
横山:まあ、想像つきますよね(笑)。それで過去の話になるのですが、まず過去が意味しているのは、登場人物ではなく業のようなものになります。極道社会やそれを必要悪として利用すること。共存関係のなかにいろいろな善と悪があると思うんですよ。そして『龍が如く』シリーズでは、そういったものを深く描いてきました。
そんな裏社会が『龍が如く7』では、東城会の衰退や極道の解散と勢いを失っていく面が見られましたよね。『龍が如く8』は『龍が如く7』と地続きの物語なので、引き続きそういった裏社会の浄化が描かれていきます。
では、『龍が如く7』の彼らはどういった道をたどることになるのか。今後物語については発表していきますが、そういった過去の業を描くからこそ主人公が2人必要だったんです。
──つまり、W主人公とはいってもセパレートな物語から最終的にはひとつの物語に集束していくのでしょうか?
阪本:そういうわけでもなく、あくまで『龍が如く8』春日一番の物語なんです。これ以上は、今は勘弁してください(笑)。
──ティザートレーラーの声だけでも登場人物の数がものすごいことになっていますが、ナンバたちの登場は?
横山:ナンバ、紗栄子、足立は引き続き登場します。
阪本:では桐生と行動をともにするのは? というのが気になるでしょうが、それは今後の発表を楽しみにしてください。
──新体制になって初めての大きな発表となった『龍が如く』シリーズについて、ユーザーさんにメッセージをお願いします。
阪本:新体制になって初めて我々がなにをしているかを告知しました。新しい挑戦や今までやらなかったことにワールドワイドで対応していくので、まずは『龍が如く維新! 極』をよろしくお願いします。
横山:『龍が如く7』が思った以上に世界で受け入れられたことが、今の基本的な考え方につながっています。
自分たちの作るもののユニークさが受けているのだから世界に近づくためになにかをするのではなく、作っているものをちゃんと伝える。それが新体制でまずやることだと考えています。9月14日の発表の感触もよく、まずは上々のスタートを切れたでしょう。
冒頭でお話したとおり、情報発信のあり方はここ数年で大きく変わってきました。そのため、今回は東京ゲームショウという場で発表しましたが、今後の発表は海外でのショーになる可能性も十分あります。
ワールドワイドな展開について語ると日本のファンががっかりすることもあるのは理解していますが、我々が『龍が如く』の情報を海外で発表したとしても、それは我々が海外にだけ目を向けたからという話ではありません。
地球上のどこで発信しようが、日本のファンにもダイレクトに情報が届く。海外を選んだのではなく、場所を選ぶ必要がないから海外で発信することもあると思ってもらえれば。
情報発信も含めてゲーム開発だと思っているので、今後も『龍が如く』シリーズの情報をチェックしてもらえれば幸いです。
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