国内作品との違いは? 海外インディーゲームの魅力:SIE吉田修平氏インタビュー連載【電撃インディー#340】

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 PlayStationで“インディーゲーム”を推進するインディーズ イニシアチブの代表として、現在さまざまな活動を行っている吉田修平氏。ゲーム好きなら名前を聞いたことがある有名人で、ゲームシーンのいろいろな場所で見かけた方も多いだろう。

 この連載では、そんな吉田氏に電撃ゲームメディア総編集長の西岡美道が、インディーゲームに関するさまざまな質問を行い、吉田氏から見た世界のインディーゲーム事情や、今後“PlayStation”で発売予定の最新インディーゲームなど、ユーザーが気になる疑問やお得な情報を掲載していく予定だ。

 第2回は、吉田氏から見た海外のインディーゲーム市場と、オススメの海外タイトルについてうかがってみた。

  • ▲ソニー・インタラクティブエンタテインメント インディーズ イニシアチブ代表の吉田修平氏(文中は敬称略)

 なお、前回と同様にかなりのボリュームになってしまったので、3つの記事に分けて公開していく。2つ目以降の記事も近日中に公開予定なので、ぜひチェックして欲しい。

 この記事は2つ目の記事になるので、まだ1つ目の記事を読んでいなければ、そちらから読んでみて欲しい。

 また、3つ目の記事についても近日中に公開予定だ。

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PROFILE

吉田修平(よしだ しゅうへい)
ソニー・インタラクティブエンタテインメント
インディーズ イニシアチブ代表

 1986年ソニー株式会社に入社、1993年2月にソニー・コンピュータエンタテインメント(現ソニー・インタラクティブエンタテインメント)に参画。

 以降、“PlayStation”プラットフォーム向けに発売された数々のソフトウェアタイトルをプロデュースし、2008年よりゲーム制作部門であるSIE ワールドワイド・スタジオ プレジデントに就任。

 『ゴッド・オブ・ウォー』、『アンチャーテッド』各シリーズの制作などを担当。2016年10月に発売したバーチャルリアリティシステム『PlayStation VR』の開発にも携わる。

 2019年11月よりインディーズゲームを推進するインディーズ イニシアチブ代表に就任。

思想が強く反映されたものや反戦をテーマにした作品がある海外と、日本の違い

──海外のインディーゲームには、エンターテインメント性よりも強烈なメッセージ性や政治性、訴えたいことを前面に押し出したタイトルがありますよね。日本と比べて、こうした強烈なメッセージ性を持つ作品が多い理由は何かあるのでしょうか?

吉田:市場として成熟しているからだと思います。海外のインディーゲームはたくさんの人が作っていますし、ユーザーさんも投資家も含めて理解が深い。

 だから、いろいろなものが作れますし、多彩な表現ができるということでしょう。

 日本でも、市場が成熟して良い物がたくさん作れる市場になると、メッセージ性や政治性の強いものも生まれてくるようになると思います。

──日本だと、思想性が強いものや反戦をテーマにしたようなインディーゲームは、まだあまり見かけませんね。

吉田:日本はゲーム以外のほかのメディアでもそうかもしれません。

 もちろん、今の日本に課題がない訳ではなく、例えば海外に比べて日本は賃金が安いといった様な問題も実際にはあると思うのですが、海外に比べると強烈な社会問題への意識が少ないという環境もあるかもしれません。

──賃金が安いといった課題で言えば、マレーシアの『カンパニーマン 社畜の下剋上』(レオフル)のように、サラリーマンが会社に反逆する変わったゲームもありますね。

吉田:あれは、初代のPS時代を思い出すようなおもしろいゲームですね。日本のアニメのような絵作りも特徴的です。

  • ▲ブラックな社会人あるあるを題材にしたサラリーマンアクション『カンパニーマン 社畜の下剋上』

──サラリーマンを題材にしたゲームがあるくらいですし、日本でもゲームにできそうな題材はまだまだありそうですよね。

吉田:あると思います。やっぱり、海外の市場で成功するゲームとはなんだろうと考えると、その国・地域の人ならではのゲームが強いんですよ。

 ほかの国や地域の人では作れないので、有利です。例えば、7月にブラジルのゲームイベント“BIGFestival 2022”に行ったのですが、そこで見たゲームのひとつがブラジルならではの作品でした。

 ブラジルの歴史で実際にあったことを題材にしたRPGなんですよ。昔、ブラジルではポルトガルの植民地政策の影響でアフリカから多くの人々が奴隷として連れてこられていました。

 人種の坩堝みたいになっていたのですが、その奴隷たちが自分たちの身分を解放するための戦いを起こしたという歴史があります。その時の話を題材にしているんです。

──それは、かなり熱いゲームですね。

吉田:見た目は8ビットや16ビット時代の2DRPGなのですが、システムが少し変わっていてサイコロを振って遊ぶような感じになっていました。

 ストーリーとセッティングが歴史に沿った形になっていて、地元のアワードを取っていましたね。タイトルは、『Mandinga - A Tale of Banzo』(Uruca Game Studio)というゲームで、Steamでも出ています。

  • ▲JRPGにインスパイアされたグラフィックと、ブラジルの史実をベースにした重いストーリーが特徴的な『Mandinga - A Tale of Banzo』

 もう少しほのぼのとしたゲームで私が注目しているのは、インドネシアで作られている『A Space For The Unbound』(Toge Productions)です。

 “東京ゲームショウ2020”のセンス・オブ・ワンダーナイトで賞を取った作品ですね。東京ゲームショウ2022では日本ゲーム大賞のフューチャー部門も受賞しました。

 横スクロールのアクションアドベンチャーで、見た目は新海誠監督の映画のように青い空が綺麗なドット絵のゲームですが、舞台がインドネシア。

 食べ物なども、インドネシアで食べられているものが出てくるんですよ。そういった文化やファッション、食べ物が出てくると特徴があって良いですよね。

 それから、昨年日本のPlayStation 4でも発売されたアクションゲーム『ラジィ 古の伝説』(Teyon Japan)も、その国ならではです。インド神話を舞台にしていて、音楽を含めて特徴的なゲームでした。

  • ▲ドゥルガー、ヴィシュヌ、シヴァの3神から授けられたご加護を駆使し、悪魔に立ち向かう少女の物語を描いたインド神話がベースのアクションアドベンチャー『ラジィ 古の伝説』

 ほかには、これも昨年のセンス・オブ・ワンダーナイトで出ていたのですが、ペルーで作られたモバイルゲームで『Arrog』(indienova)という作品があります。

 海外ではPlayStation 4でも出ているのですが、ペルーの神話を題材にしたゲームです。これも特徴的ですね。

 必ずしもヒットしたわけではないのですが、目立つという意味では目立ちます。

 あとは、フィリピンの食べ物を題材にした『Venba』(Visai Games)。まだ発売されていないのですが、これにも注目しています。

 ジャンルは、ナラティブクッキングゲームだそうです。

  • ▲フィリピンにあるさまざまな料理を作り、物語を進めていくという斬新なナラティブクッキングゲーム『Venba』

 日本の特徴を生かすなら、やはりアニメや漫画ですね。そういったジャンルの歴史が深いですし、その良さを生かした物が世界的には珍しく、貴重な物になると思います。

 それこそJRPGもそうですし、VRでもそうです。アニメの世界を追体験するような『ALTDEUS: Beyond Chronos』(MyDearest)を作ったMyDearestさんも、日本的なクリエイティビティをうまく生かして、VR市場の中でも目立った存在になりました。

 そうではなく、普通のアクションRPGで勝負するのも良いでしょう。とくに、最近の日本のインディーで成功しているのは、2DのアクションRPGですね。

 市場としてはグローバルですし、ローグライクなどもユーザー数が多いです。

 アートやドット絵の作り方は日本のゲームデベロッパーの得意分野だと思いますので、そうした面を生かすのが良いと思います。

──日本の特徴を生かすという意味では、海外から見た日本のインディーゲームの特徴はどういうところにあると思いますか?

吉田:そもそも、これまで日本のインディーゲームはほとんど知られていませんでした。

 例えば、10年前の“GDC 2012”で、日本のデベロッパーさんが「日本のゲームについて、どう思いますか」という質問をしたんですよ。

 そうしたら、「クソですね(Your games just suck.)」と言われたことで、すごく大きな話題になりました。

 それを言ったPhil Fishというゲームデベロッパーさんは逆に批判を受けたのですが、聞いていた人たちは「そうだよな」と納得するところもあったと思います。

 ちょうど、そのときは日本のゲーム制作大手メーカーの勢いが落ちてきたと感じられた時期でした。

 ゲームの規模が大きくなり、3Dグラフィックスでより映画的な表現ができて、海外では『ゴッド・オブ・ウォー』や『アンチャーテッド』が生まれました。

 一方で、インディーゲームは個性的でクリエイティブなものがたくさん出てきている。

 そんな海外から見たら、日本のゲームは同じようなものをずっと作っているように見えて、日本の大手のゲーム作りに対しての批判をしたのだと思います。

 日本のインディーに対してもあまり存在を意識されていなかったのでしょう。最近は、グローバルでも評価される『天穂のサクナヒメ』(マーベラス)や『ENDER LILIES: Quietus of the Knights』(Binary Haze Interective)などの国産インディーゲームが出てきていますし、これからはもっと存在感が出てくるのかなという期待感があります。

日本のゲームに影響を受けた海外のインディーゲームが増えてきた

──やはり海外でも、日本に限らずどこの国・地域のデベロッパーが作ったのかを気にしたり、意識しているのでしょうか?

吉田:どうでしょう? でも、話題にはなっていますね。“Annapurna Interactive Showcase 2022”でも、世界地図で、どこの国・地域のデベロッパーが開発しているのかを見せていました。

 多彩な国や地域のクリエイターがいることや、ダイバーシティ(多様性)が注目されているということもあり、いろいろな声をゲーム市場に反映させたいという考え方があるので、ある程度の意識はあると思います。

 とくに、作り手が欧米の先進国以外であったりとか、クリエイターが黒人だけのチーム、女性だけのチームであったりとか、そういったところがあれば、より注目されるのではないかと思います。

 世界的・社会的マイノリティという意味ではむしろ、日本ではゲーム産業が世界に先駆けて発展していたので、アジア人だけのチームだとゲーム業界ではそこまで珍しくないのかもしれません。とはいえ、日本のゲームは最近再評価されています。

 『ペルソナ』シリーズや『ニーア オートマタ』など、日本でしか作れない物を作っていて、欧米の真似ではない作品が評価されていますね。

 アニプレックスさんの『鬼滅の刃』も売れたと思います。

──『ペルソナ』に影響を受けたと公言しているインディーゲームもありましたね。

吉田:『Eternights』(Studio Sai)ですね。デートゲームとアクションゲームが合体したようなゲームなのですが、海外では、こうした日本のようなゲームを作っているチームが増えています。

 このゲームも日本のアニメ的なキャラクターが出てきますし、デベロッパー自身が「ペルソナを遊んで、自分たちもそういうゲームを作りたくなった」と言っていますね。

  • ▲アポカリプス目前の世界で恋愛と戦いが発生するアクション『Eternights』

──台湾のデベロッパーが開発した『Dusk Diver 酉閃町 -ダスクダイバー ユウセンチョウ-』(JFI Games)もそうなのですが、すごく日本のゲームっぽい見た目の作品ってありますよね。こちらも、実際に日本のゲームやアニメが好きな開発者たちが作っていますし、日本の王道的なストーリーラインやアニメタッチを盛り込んでいるとか。

吉田:アジアだけではなく、欧米のチームでも日本の影響を受けたゲームは増えました。

 最近出たフランスのJRPG『Edge of Eternity』(Dear Villagers)も、ジャンルとしての“JRPG”をフランスのデベロッパーが作っています。

──今だと、海外の人が考えるジャンルとしてのJRPGは相当増えましたね。

吉田:良い意味で再評価されています。日本のチームが作らないから自分たちで作るんだという逆輸入が起きていますね。

 彼らは、日本のゲームを遊んで育っているんですよ。

 海外の若い30代くらいのゲーム制作者は、「子どものころから、ずっと日本のゲームをプレイして育ちました」という人が多いです。

 日本に対してのリスペクトであったり、自分たちがゲームを作るきっかけになったのは日本のゲーム業界のおかげだ、と言われたこともあります。


© 2022 Sony Interactive Entertainment Inc.
『カンパニーマン 社畜の下剋上』
© 2020 Forust Studio M Sdn Bhd. All Rights Reserved. Licensed to and published by Leoful.
『Mandinga - A Tale of Banzo』
Uruca Game Studio(R)
『ラジィ 古の伝説』
©2021 Nodding Heads Games and SUPER DOT COM LTD. Licensed to and published in Japan by Teyon Japan.
『Eternights』
Copyright © 2022, Studio Sai. All Rights Reserved.

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