榊一郎の新作『サマナーズウォー』レビュー。チートなし異世界転生なし、ハードな世界観が嬉しい正統派ファンタジー!

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 電撃文庫から11月10日に発売された小説『サマナーズウォー/召喚士大戦1 喚び出されしもの』(著者:榊一郎、イラスト:toi8、執筆協力:木尾寿久(Elephante Ltd.))のレビューをお届けします。

 本作は、2014年6月から配信されている、ターン制戦略MMO『サマナーズウォー』を原案として、オリジナルの物語を紡ぐノベライズ作品です。

 著者は、『ドラゴンズ・ウィル』でデビューし、アニメ化にもされた『アウトブレイク・カンパニー 萌える侵略者』や『棺姫のチャイカ』などを手掛ける、榊一郎さん。

 イラストは、『まおゆう魔王勇者』シリーズや、『ロータス戦記』シリーズ、『チェインクロニクル』のメインキャラクターデザインなどを務めるtoi8さんが担当されています。

 この記事では、『サマナーズウォー/召喚士大戦1 喚び出されしもの』について、実際に本作を読んだ筆者が注目ポイントをお届け。なお、レビューには若干のネタバレが含まれるので注意ください。

■『サマナーズウォー/召喚士大戦1 喚び出されしもの』


父親がラスボス? 主人公を取り巻く憎しみの渦

 本作の冒頭で明かされますが、この物語における巨悪は主人公の父親“オウマ・ヴァーンズ”で、端的に言うと彼は“最強の召喚士”です。以下で本作のあらすじを紹介します。

あらすじ

 召喚士としての素養に恵まれた少年――ユウゴ・ヴァーンズは、師のエミリア・アルマスから、その力を人前で使用することを止められていた。彼が強力な召喚士であり、フロドリックの町に災いをもたらしたオウマ・ヴァーンズの息子ゆえに。

 その災厄から十四年。人々の心に傷を残しながらも、平穏な毎日が戻ってきたと思われた時、フロドリックの町は再びオウマ率いる召喚士集団の襲撃を受ける。

 奮戦するユウゴは、その戦いの中で実父オウマと初めてまみえ、敗れた。そしてオウマは、悠々と、この町に保管されていた遺物を持ち去る……。ここから始まるユウゴ・ヴァーンズの冒険物語。

 ともに進むのはオウマに捨てられた召喚士・リゼルと、2人のお目付け役のモーガン、そしてユウゴとリゼルの召喚獣。一行は、最初の目的地として王都に向かう。“召喚士”たちの戦い“サマナーズウォー”が幕を開ける――。

 あらすじからわかるように、ユウゴの実父オウマは町に災いをもたらし、その風評がユウゴに向けられます。14年前にオウマが起こした災いによって、町には身内を失った人も存在します。

 街の人々からユウゴは、憎悪の対象であるオウマの息子であると認知されているため、周りからの視線はかなり厳しい環境にあります。

 そんな中、ユウゴの師匠“エミリア”は、かつてのオウマの弟子であり、召喚士が町にとって害のないものだと証明するために、人助けに奮闘します。

 父親が行ったことに対し、ユウゴは憎しみすら感じている様子。しかしエミリアを見て育ち、召喚士の在り方を学んできたユウゴは周囲の目に負けず、不屈の精神を持つ青年へと成長していきました。

 父親が残した憎しみと、エミリアが残した慈しみ。どちらもユウゴにとっては重要なポイントであり、本作の物語を形成するキモとなります。

 「自分の父親が町の人々を殺していたら……」、「その父親が再び自分の目の前に現れたら……」。想像を超える物語の展開は、読んでいるうちにどんどん引き込まれていくこと間違いなしです!

最強の魔術師“召喚士”が……戦わない?

 本作の世界には魔術が存在し、魔術を使用する人たちは“魔術師”と呼ばれます。魔術は努力によって身に着けることができ、そうして生まれた魔術師たちを管理する団体として“魔術師組合”が形成されています。

 しかし、本作における重要な要素である“召喚獣”や“召喚士”は少し事情が変わります。努力をすれば会得できる“魔術”とは違い、“召喚獣”を喚び出す“召喚士”は、生まれ持った才能がないとなることができません。そんな稀有な存在“召喚士”の1人として、本作の主人公“ユウゴ・ヴァーンズ”は冒険を繰り広げ、成長していきます。

 本作で扱われる“召喚獣”は常識から外れた存在で、圧倒的な力を持つことから、それを喚び出す“召喚士”は最強の魔術師として一般的に認知されています。

 しかしユウゴは、そんな強力な力を持ちながらも、その生い立ちから戦うことを第一としていません。召喚獣を道具ではなく家族や仲間のように扱ったり、その強力な力を人助けに使おうとたりと、この世界における一般的な召喚士とは異なる立ち位置にいるキャラクターです。

 また、戦闘経験の少なさから、いざ“召喚士”同士の戦闘になってしまった場合は、単純な力の勝負になると不利になってしまうユウゴ。そんな彼が、使役する“召喚獣”である“ヴァルキリー”の“カミラ”や仲間たちと、どうのように戦闘を切り抜けていくかが、本作の見どころの1つになっています。

ゲーム未プレイでも楽しめる完全オリジナルストーリー

 ゲームの世界観を踏襲しつつ、人気の召喚獣が多数登場する本作。しかし、物語は完全オリジナルで形成されているため、ゲームを未プレイでも楽しめるようになっています。

 ゲームにはユウゴやオウマは登場しませんし、故郷に災いが降りかかることもありません。そもそも、ゲームでは町のディティールも描かれていないため、小説ならではのディティールの深さは、未プレイ、既プレイに関係なく楽しめるでしょう。

 かといって、ゲームの要素がまったく含まれていないかというと、もちろんそんなことはありません。

 召喚獣は“ヴァルキリー”や“雷帝”など、人気のキャラクターが多数登場し、プレイヤーなら「おっ」と興味を惹かれるはず。さらに、小説ならではの表現で召喚獣のスキルが描写されていたり、ゲームでは細かく描かれることのない“一般人”と召喚士や召喚獣との関わりを描いたシーンなども榊一郎さんの手によって事細かに描写されています。

 独自要素が多く盛り込まれた物語になっていますが、ゲームのプレイヤーが読んでも、違和感なく楽しめるようになっています。

 原案であるゲームのファンもそうでない人も、どちらも楽しめるノベライズ作品となっているため、気になった人はぜひ手に取ってみてください。

 また、現在キミラノやカクヨムで試し読みの増量キャンペーンが実施されているので、まずはそちらを読んでみるのもおすすめです。

■『サマナーズウォー/召喚士大戦1 喚び出されしもの』


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