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川原礫最新作『デモンズ・クレスト』レビュー。『SAO』など川原作品ファンの期待を裏切らず、想像を遥かに超える作品!

カワチ
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 『SAO』の著者である川原礫先生の最新作『デモンズ・クレスト1 現実∽侵食』(著者:川原礫先生、イラスト:堀口悠紀子先生)が、電撃文庫(KADOKAWA)から11月10日に発売されます。ここではそのレビューをお届けします。


川原作品ならではのワクワク感はそのままに予想できない展開に胸躍る

 『アクセル・ワールド』『ソードアート・オンライン』で知られる川原礫先生の最新作。レビューにあたり事前情報を入れずに読みましたが、驚きに満ち溢れた内容で一気に読み終えてしまいました。

 キャラクターたちが最新の全感覚没入型VRMMORPG《アクチュアル・マジック〈AM〉》をプレイするというところから事件がはじまる『デモンズ・クレスト』。

 『アクセル・ワールド』『ソードアート・オンライン』の川原先生だけあり、設定がこまかく作られているため、読んでいて説明不足だと感じるところなどはまったくないですし、《AM》をプレイしている情景が浮かびます。

 主人公の芦原佑馬は魔物使いという、戦士は魔法使いに比べるとマイナーなイメージのあるジョブですが、物語序盤で描かれる捕獲シーンや探索に能力を活用するシーンは“MMORPGあるある”が詰まっており、一気に世界観に引き込まれていきます。登場するスキルやパラメーターなども、まるで実在するゲーム。実際にこのゲームをプレイしたくなってしまうのは、ゲームライターとしては仕方がないところかなと(笑)。

 キャラクターや用語については公式サイトにて解説されているので、ぜひチェックを。小説だけでも問題なく理解できますが、イラスト付きで分かりやすいので頭に入ってきやすいです。

  • ▲公式サイトより
  • ▲公式サイトより

 なお、『デモンズ・クレスト』はアプリ『HykeComic』でWebtoon(縦読み漫画)も展開しています。こちらも同時にチェックするとより情景が浮かびやすくなるのでオススメです。

  • ▲Webtoon版の第1話より。

 個人的に小説を読んでいて好きだったのは呪文の詠唱。《属性詞》、《形態詞》、《発動詞》を順番に唱えることで発動するのですが、これがめちゃくちゃ厨二心をくすぐります。今後、どんな魔法とそれに伴う詠唱が登場するのか楽しみになります。

 さて、最初のほうこそ『ソードアート・オンライン』に近い作品なのかな? と思って楽しんで読んでいましたが、読み進めていくとかなり読み味が違います。それは、主人公たちが冒険する《AM》はゲームと現実が混じり合った世界であるからです。

 VR(仮想現実)、AR(拡張現実)に続くMR(複合現実)が題材ということですが、正直読む前は「そんなに違いがあるの?」といった感じかもしれません。ですが、川原先生はきちんとMRという舞台ならではの展開を描いてくれています。とある強敵を倒す際に、使う手段が……これ以上はネタバレになるので止めておきますが、「ああ、“複合”現実って……なるほど! そういう方法もあるよね、確かに」となりました。

 これらもネタバレになるので具体的に言えないのがもどかしい……。でも実際に小説を読んで驚いてもらいたいのですが、「そんなものをゲームのアイテムとして装備するの!?」「そんな方法でモンスターを倒すのか!」といったサプライズがあり新鮮に楽しめます。これは、もはやホラーなのでは? と思えるぐらい攻めた描写や設定があるのも魅力。キレッキレな筆力で描かれる物語は読んでいて実に刺激があります。

 また、『デモンズ・クレスト』ならではの魅力として、主人公たちが小学生であること、事件に巻き込まれるのが“クラスまるごと”となっているため登場人物が非常に多いことが挙げられます。シリーズものの第1巻であるため詳細についてはわからない部分もありますが、本作はデスゲームものの要素も含んでいます。

  • ▲冒頭に記載されているキャラクター一覧。こまかい設定が存在しており、現時点では明かされていない部分も多いです。

 第1巻でも人間同士で疑心暗鬼になったり、クラスで仲のよかったグループで徒党を組んだり、物資を確保して優位に立とうとしたりする描写があります。そして、第1巻にも関わらず次々に死亡者が……。

 筆者は楳図かずお先生の『漂流教室』が大好きですが、『漂流教室』が現代風にアップデートされたかのような雰囲気を感じて、とても胸が踊りました。また、デスゲームものの傑作といえば『バトル・ロワイアル』を思い浮かべる人も多いと思いますが、もちろん『バトル・ロワイアル』が好きな人にも刺さるかと。

 キャラクターたちが小学生であることも『デモンズ・クレスト』の特徴。感情移入できるかどうか不安でしたが、主人公の芦原佑馬をはじめ、しっかりした考えを持って行動しているので「なんでこうしないんだろう」という不満やストレスが生まれることはありません。むしろ、「その考えは思い浮かばなかった」と驚くぐらい機転が利きます。

 一方でちょっとしたことで照れたり怒ったりするシーンもあり、そこは思春期未満の子どもらしさを感じられて可愛らしいです。また、共闘や担任の先生を含めて、変なあだ名をつけて呼んでいるのも小学生らしいなと感じられて微笑ましいポイントでした。

 そして、そんな健気な小学生たちが死の隣合わせのデスゲームに挑むというシチュエーションがとてつもなくエグい! 川原先生が執筆する『ソードアート・オンライン』も死が身近にある作品ですが、『デモンズ・クレスト』はリアルにより近いことや、登場人物が多いこともあっていつ誰が死んでしまうのかわからない緊張感があり、これまで以上に先の読めない展開にハラハラします。

 序盤からショッキングな展開で引き込まれますし、《AM》のルールも違和感なく物語内で自然に語られていきます。第2巻以降に明かされるであろう伏線も垣間見れるので早くも続きが気になる作品になっています。

 『アクセル・ワールド』『ソードアート・オンライン』が好きな人が楽しめるのはもちろん、この機会に川原礫先生の作品に触れてみたいという人にもオススメできる作品になっています。文中でも触れたように、本作は、アプリ『HykeComic』でWebtoon(縦読み漫画)も同時展開しています。ぜひ読んでみてください!



『デモンズ・クレスト1 現実∽侵食』

  • 発行:電撃文庫(KADOKAWA)
  • 発売日:2022年11月10日
  • ページ数:328ページ
  • 定価:726円(税込)


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