『死亡遊戯で飯を食う。』書評。これは不条理と理不尽あふれる世界で生き残るための処方箋【第18回MF文庫Jライトノベル新人賞《優秀賞》】

太田祥暉(TARKUS)
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 2022年11月25日に発売となった、MF文庫J『死亡遊戯で飯を食う。』(著者:鵜飼有志、イラスト:ねこめたる)は、新人賞受賞タイトルであることもさることながら、〈デスゲーム〉ジャンルに出現した注目すべき新星でもある。本作品の魅力を、ライターの太田祥暉氏のレビューで紹介する。

 デスゲームものというジャンルがある。

 古くはスティーヴン・キング『バトルランナー』などでも見られた、登場人物たちが死を伴う危険なゲームに巻き込まれる姿を描いた作品群だ。日本では高見広春『バトル・ロワイアル』を機に広がり、山田悠介『リアル鬼ごっこ』や金沢伸明『王様ゲーム』など人気作も多い。

 このジャンルの魅力と言えば、緊迫感のある不条理なゲームに身を投じた登場人物たちの心理にある。死にたくないというその一心で無理難題に挑んでいくその姿。そして、極限状態で考え抜いた先に、その身は保たれているのか、などなど、読者をハラハラドキドキさせる仕掛けが次々と描かれていく。

 ゲームのように何度でもコンティニューできるわけではなく、一度死んだらゲームオーバー。そのような状況だからこそ、人間の真に迫った感情が吐露されていく。そこで登場人物たちはどのように動くのかが、デスゲームものの肝になっているだろう。

 その大抵の作品は一つのデスゲームを切り抜けたら、物語の幕は閉じられる。もちろんその例外となる作品もあるが、基本的には一つのデスゲームを切り抜けることに盛り上がりが置かれているからだ。主人公が再びデスゲームに臨む場合、こなれていってしまうことで極限状態の緊迫感が薄れていくきらいもある。

 デスゲームを連戦していく作品を振り返ってみると、川原礫『ソードアート・オンライン』では、主人公がデスゲームと化したVRMMORPGにログインし、凄まじき強さを発揮して勝ち進んでいく“無双感”に主眼を置いている。また、福本伸行『賭博黙示録カイジ』シリーズも一種のデスゲームものだが、これはデスゲームのルールが変化していくところにも面白さがある。つまり、同じキャラクターが純粋に連戦していく作品を振り返ったとき、デスゲームものならではの緊迫感とは別の軸が必要になってくるのだ。

 さて、そこで本作、鵜飼有志『死亡遊戯で飯を食う。』である。

 主人公の幽鬼(ルビ:ユウキ)はデスゲーム連戦中の少女だ。彼女はデスゲームで得た賞金をもとに生活を行っており、幾度となく行われる特殊ルール下の不条理な戦いに身を投じていく。もちろんそこは、極限状態の少女たちがひしめき合う戦場だ。タッグを組んで戦った少女が、次のゲームでは敵になることもある。また、命を救った相手に刺されることもある。そんな場所で、幽鬼は連勝を目指すのだが……。

 先ほど述べたように、デスゲームで連戦していく物語を描く場合、極限状態での緊迫感とは別の軸が要される。無双なのか、それとも殺戮を楽しむシリアルキラー的なものなのか。そこで『死亡遊戯で飯を食う。』が選んだのは、ドライな少女が一歩引いた立場からデスゲームを俯瞰して勝ち進んでいく、という視点だった。

 そもそも、デスゲームとはフィクションの中にしか存在しない荒唐無稽なものである。もし唐突にそんな場所へ参加させられたとしても、すぐには信じることができないだろう。しかし、幽鬼は数十回もの参加を経て、徐々に冷静な目線でデスゲームを見ていくようになった。突然降りかかる不条理と理不尽が「当たり前」であり、そのゲームをクリアして生き残るためには、他の参加プレイヤーたちと協調することが必要になる。そこで幽鬼は一線を明確に引いた関係性を築くようになっていくのだ。

 かつて評論家の宇野常寛は著書『ゼロ年代の想像力』のなかで、前述の『バトル・ロワイアル』や大場つぐみ・小畑健『DEATH NOTE』など理不尽極まりない状況下でも攻略して生きていくことに主眼を置いた作品群を「サヴァイヴ系」と呼んだ。ルールを当たり前に受け入れ、そこから生き延びる術を探していく……というのがこの作品群の特徴だ。

 それでは『死亡遊戯で飯を食う。』はどうだろうか。確かにルールを当然のように受け入れて生き延びる術を探そうとしているが、一人で勝ち進んでいこうとはしていない。他のプレイヤーともときに協調し、ルールの穴も探していこうとする。そして、デスゲームを連戦していくことに対して、人を殺したいであるとか、そういった暴力的衝動はなくのめり込むわけでもない。

 しかし、デスゲームで勝ち続け、そこで得たお金で飯を食べることには一つの矜持がある。そんな幽鬼が降りかかるトラブルをも乗り越えて、サヴァイヴしていく姿にはデスゲームものの新たな緊迫感を感じられるだろう。

 本作は、デスゲームものでありながら新たな緊迫感を示すことに成功した、見事な一作である。

【ライター/太田祥暉(TARKUS)】

『死亡遊戯で飯を食う。』概要

著者:鵜飼有志
イラスト:ねこめたる

第18回MF文庫Jライトノベル新人賞《優秀賞》受賞作

あらすじ

目を覚ますと、私は見知らぬ洋館にいた。
メイド服を着せられて、豪華なベッドに寝かされていた。

寝室を出て、廊下を歩いた。
食堂の扉を開けると、そこには五人の人間がいた。
みな一様に、私と同じくメイド服を着せられていて、少女だった。

〈ゲーム〉の始まりだった。
吹き矢、丸鋸、密室に手錠、そして凶器の数々。人間をあの世にいざなうもので満ち満ちている、そこは〈ゴーストハウス〉。
館に仕掛けられたトラップのすべてをくぐり抜けて脱出するしか、私たちの生き残る道はなかった。絶望的な現実に、少女たちは顔色を悪くする――

――ただ一人、私だけを除いて。

なぜかって? そりゃあ――私はこれが初めてじゃないから。

プレイヤーネーム、幽鬼《ユウキ》。十七歳。
自分で言うのもなんだけど、殺人ゲームのプロフェッショナル。メイド服を着て死の館から脱出を図ったり、バニーガール姿でほかのプレイヤーと殺し合ったり、そんなことをして得た賞金で生活している人間。

どうかしてるとお思いですか?
私もそう思います。
だけど、そういう人間がこの世にはいるんですよ。
おととい励まし合った仲間が、今日は敵になる。
油断すれば後ろから刺され、万全を尽くしたとしても命を落とすことがある――
そんな、死亡遊戯で飯を食う、少女が。

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