『グランツーリスモ7』スタジオツアー&山内氏インタビューで開発舞台裏が明らかに!
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シリーズ1作目の発売から25周年を迎える2022年12月、ポリフォニー・デジタル 東京スタジオにて行われたリアルドライビングシミュレーター『グランツーリスモ7(以下、GT7)』スタジオツアーのレポートをお届けします。
山内一典氏:“グランツーリスモ”シリーズ クリエイター。ポリフォニー・デジタル 代表取締役 プレジデント。
山内氏がシリーズ25年の歩みと開発手順を解説するプレゼンテーションで開幕
プレゼンテーションには山内氏が登壇し、1997年に発売された初代の『グランツ―リスモ(以下GT)』から最新作『GT7』への進化と、コースやクルマの制作過程についての説明が行われました。
コースの制作について、かつては徒歩で、スチールカメラを使って1コースあたり80,000枚くらい撮影していたが、その後、固定型、車載型、ドローンを使った空撮型のレーザースキャナーなどを併用するようになり、平均30,000枚以上に減ったとのこと。ちなみに最も精度の高い固定式のレーザースキャナーの誤差は0.2㎝と説明され、その精度の高さに驚きました。
クルマの制作に関しては、『GT』『GT2』のポリゴンモデルは250頂点、『GT3』『GT4』が2,000頂点、『GT7』では1,000,000頂点(曲面)くらいで、カメラとの距離や画角に応じてアダプティブにポリゴンの数が増減し、距離が近いほどポリゴンの数が増え、車体の曲面がよりリアルに表現される。
モデリングの制作日数は、『GT』『GT2』は3日、『GT3』『GT4』は30日、『GT5』『GT6』が180日、『GT7』では1人のカーモデラーが270日かけて制作。収録するクルマは、自動車デザインの傑作、レースの歴史、人間の歴史や文化に与えた影響、人気車種、これからの自動車史を拓くコンセプトカーから選定しているとのことです。
クルマのデータキャプチャリングは、自動車メーカーから提供してもらうCADデータ、カラーサンプル、内装アイコングラフィック、スペックデータ。社内で行う写真撮影、動画撮影、レーザースキャン、測色、サウンドのデータを集め、それらをもとに組み上げていく。
クルマのスキャンは、据え置き型レーザースキャナを使って行い、精度は0.015mm。内装はハンディ型レーザースキャナーを使い、こちらの精度は0.025mmとのことで、こちらもその精度の高さに驚きました。また“GT”シリーズでは、チーフモデラーによってボディの形状、環境光の映り込み、質感のチェックに時間を掛けるとのこと。
サウンドに関しては、サウンドレコーディングの拠点は、日本、北米、ヨーロッパの3カ所にあり、それぞれの場所に実車を持ち込んでエンジン音を収録している。
現在までに累計で約1800台のクルマをレコーディングした。多くのクルマは、シャーシダイナモ上、またはサーキット上で車載録音を行う。シリーズでは音楽をすごく大事にしていて、『GT7』ではクラシック、ジャズ、ラウンジ、ロックなど、350曲以上を収録、というお話も聞くことができました。
最上級の環境に整えられたスタッフルームをスタジオツアーでひと回り
山内氏のガイドでスタジオツアーがスタート。最初に案内されたのは会社のロビーであり、イベントスペースとしてもデザインされたホールで、巨大なスクリーンと、公式大会と同じ環境で12台の『GT7』が設置されたゲームプレイエリア、さらにバーカウンターやカフェも設置。ここはゲーム大会、各種イベント、パーティなどの会場になるため、バーカウンターの裏手には照明、映像、BGMをコントロールする機材も整えられていました。
続いて各所で説明を受けながら、ガラス張りの社長室/応接室、世界中のコースが番号の代わりにデザインされたオシャレな「PIT STOP(ロッカールーム)」、BGMの調整を行うサウンドルーム、福岡の開発スタジオと常時ビデオ通信で繋がる喫煙ルーム、和室風の打ち合わせスペース、身体を動かしたいときに使うジムを見学。
ここには山内さんがニュルブルクリンクのリアルレースに参戦した際、実車のブレーキは片足で120㎏を踏めないと止まらないということで、身体作りのために鍛えていたトレーニングマシンもありました。
次に訪れたライブラリーには、クルマ関連の書籍、雑誌のバックナンバー、映像ソフト、ゲームソフト、まだ自動車関連のデータが業界的にもデジタルデータ化されていなかった25年前に一部、参考にしていたクルマのプラモデルや完成品の模型、塗料メーカーから取り寄せた車体のカラーサンプルなどの一部が保管され、閲覧できる状態に! 現在は多くのデータが電子化されているため、これらを利用する機会はないとのことなのですが、アーカイブとして飾られていました。スタッフルームということで張り詰めた空気を想像していましたが、リラックスした状態で作業ができる環境に整えられている印象を受けました。
山内氏に聞く! “グランツーリスモ”シリーズ25年の歩み
――『GT』を企画したきっかけについて教えてください。
山内氏:1つは自動車文化に対しての憧れ。それと物理シミュレーションに対するロマンがありました。最初の『GT』が登場した1997年当時というのは、初めてリアルタイムの3Dグラフィックスが登場した時期でもありますが、そういったことが『GT』の原点になっています。
――開発初期はどんな点に苦労しましたか?
山内氏:当時は実験的なタイトルだと思って作っていました。リアルなクルマとか、リアルな景観で走れるとか、そういったゲームは当時はありませんでしたので、マーケットは小さいかもしれないけど、実験的に作ってみたい。そういう想いでした。
問題になったのは「自動車メーカーの許諾をどうやって取るか?」でした。当時はクルマのゲームというと、架空の世界が舞台のものが中心でしたので、リアル志向の自動車ゲームを作るにあたって各自動車メーカーと契約を結ぶ必要がありましたが、なかなか難しかったんです。
というのも、まだプレイステーションの発売前でしたし、「リアルドライビングシミュレーターを作ります」と話をしても理解していただけないんです。なかなか契約が進まなかったんですけど、そんな中、最初に許諾をいただけたのがトヨタ自動車さんでした。そのおかげもありまして、トヨタさんに続いてたくさんの自動車メーカーさんから契約に賛同していただけたと。そういう歴史があります。
――25年間、1チームで1タイトルを作り続けてこられた理由についてどのように考えていますか?
山内氏:理由の1つは、さまざまな外部のエネルギーのポテンシャルを持った方々と一緒に仕事をしてきたというのがすごく大きいと思います。エネルギーって必ずある場所からある場所へ流れができます。流れができた時というのは、そこに最も効率のいい形として渦を作るんですね。銀河の渦だったり、川の流れだったり。そういった渦のような存在が『GT』だったんじゃないか? と思っています。
つまり『GT』は静止しているわけではなくて、常に流れがあり、流れの中である一定の形を保っているという。これが渦の特徴ですけど、そういう存在なのではないか? と思っています。
僕らは1997年に最初の『GT』をリリースしました。だいたいその4年くらい前から開発は始まっていましたが、現在に至るまで、スタッフの人数は増えはしましたがチーム自体は変わっていません。『GT』のときに中核メンバーだったスタッフは、今でも一線で活躍しています。ビデオゲーム業界において、恐らくそういうタイトルはほとんどないんじゃないかと思っています。
――“GT”シリーズが大切にしてきたものはどんなことでしょうか?
山内氏:“GT”シリーズは美しさを探求し、こだわってきたと思います。クルマ、景観、光、サウンド、音楽、グラフィックデザイン、物理シミュレーション、そういったことを僕らは結果的に追求してきたんだなっていうことをこの25年間振り返ってみると思いました。
――開発室のフロア設計で心がけていることはありますか?
山内氏:基本的には何をやっているかすべて社内に公開している会社です。開発ルームの脇に仕切りのない打ち合わせスペースがあったり、ガラス張りの会議室があったり、社長室もガラス張りですし。
会社の中にはいろんなチームがありますが、みんなが何をしているのか? 僕が誰と何を話しているのか? 基本的には全部公開するようにして、興味がありさえすればあらゆる情報にアクセスできるようになっています。何か決まったものが上から降ってくるような会社ではなく、そのプロセスも含めて全部わかるような設計にしています。
――25周年を迎えたお気持ちをお願いします。
山内氏:『GT』はすごく実験的なタイトルで、それは現在の『GT7』に至るまであまり変わらず、常に何かのチャレンジをしています。そういったタイトルが25年間も続いたのは、それを支えてくださったユーザーのみなさん、コミュニティのみなさん、メディアのみなさんがいてくださったからこそですので、みなさんには本当に感謝したいと思っています。
あとポリフォニー・デジタルのスタッフですね。もともと5人くらいから『GT』の制作はスタートしましたが、現在は250人になりました。25年間にわたって“GT”シリーズを作り続けてくれたスタッフのみんなにもすごく感謝の気持ちでいっぱいです。
――25年を振り返っていただいて、印象深い出来事は?
山内氏:とくにこれが、というのはないんですよ。“GT”シリーズの制作は毎回めちゃくちゃ大変で、命をかけて1タイトル1タイトルを作っていますのでそれぞれに思い入れはあるんですけど。
僕らの会社は常に未来に生きているところがあって、過去のことはどんどん忘れていくんです。今回もプレゼンテーションを作るにあたって振り返りましたが、25周年の節目の企画でなければ振り返らなかったと思いますね。
――ビギナー向けとして取り組んでいることはありますか?
山内氏:『GT7』自体もそれほど難易度の高いゲームではなく、最初のエンディングを見るまでの部分はそれほど苦労しないように調整しています。
あと『GT7』で初めて搭載した「ミュージックラリー」も、これは音楽を1曲聞き終えるまで単純に走ればいいというもので、言ってみれば子ども向けの企画でした。ただユーザーの進捗データを見ましたら、非常にコンプリート率が高くて。みなさん、遊んでいただいている印象で、作ってよかったと思いました。
――音楽の選定はどのように行われていますか?
山内氏:世の中には、こういういい音楽があるというものを僕らの基準で選んでいます。ユーザーはどんどん世代交代していきますから、100年後も残るいい音楽みたいなものはちゃんと紹介しておかないと次の世代に繋がっていかないと考えていまして、そういうところは気をつけていますね。
『GT7』だと、オープニングで使っているポール・モーリアの「蒼いノクターン」が大好きで、よくピアノでも弾いています。たとえばああいった名曲や、大ヒットした曲だったとしても、放っておくと忘れ去られて消えてしまうことが起きるんですよ。ですので、そういうものを紹介しているところもあります。
1970年代の曲ですけど、原曲そのままではなくて、すべてオーケストラでレコーディングし直しています。そういうところは、ちょっと文化事業的な側面もありますかね。
――シリーズのオープニングを飾る楽曲「Moon Over The Castle」は、山内さんにとってどんな曲ですか?
山内氏:やっぱり“GT”シリーズのソウルだと思います。ただどうしても作り手からすると、約30年、毎日“GT”を作っていますので、この曲が定番だと知りながらも新しい提案をしてみたくなる時が生まれるんです。それが、たまに「Moon Over The Castle」ではない曲がオープニングに使われる理由です。
でも、やっぱりユーザーのみなさんが「あの曲が流れないと『GT』じゃない」という気持ちになるのはすごくよくわかりますので、アレンジを変えながらも、なるべく「Moon Over The Castle」を使うようにしています。
おかげ様で、“グランツーリスモ”シリーズの全世界累計実売数が9,000万本を超えました。(※2022年11月16日時点)。ユーザーのみなさん、メディアのみなさんには、四半世紀にわたるサポートに感謝したいと思います。
――海外メディアに『GT』のPC版を研究・開発しているとお答えされたようですが、こちら本当でしょうか?
山内氏:あれは事実ではないです。PC版について僕は「(開発者として)すべての可能性を考えてないわけではない」と答えたんですよ。それは可能性が0ではないという意味で、ただ「具体的に何かしていますか?」と聞かれたら、何もしていません。お話しすることは、何もありません。
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