「良いぞ良いぞ!」水鏡先生の人助け逸話集【三国志 英傑群像出張版#13-1】

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 三国志に造詣の深い“KOBE鉄人三国志ギャラリー”館長・岡本伸也氏による、三国志コラム。数多くの書籍が存在するなか、“民間伝承”にスポットを当てて紹介しています。



 遅ればせながら新年あけましておめでとうございます。

 このコーナーもおかげ様で1年を超えて続けさせて頂いております。ご覧頂いている皆さまに感謝します。またご感想などもお聞かせいただけるとうれしいです。

 さて、新年早々なので、なにか【良い話】のものを選びたいなと思い、今月は水鏡先生と馬良のお話(次回)を選びました。

 水鏡(すいきょう)先生こと司馬徽(しばき)。

 三国志の物語(三国志演義)で諸葛亮(孔明)と龐統(ほうとう)を名前を告げずに「伏龍(ふくりゅう)・鳳雛(ほうすう)のどちらか一人を得れば天下をとれる」と劉備に謎かけをしつつ紹介する人物。

 この伏線があって孔明と龐統が仲間になる事に重みがまし、話が魅力的になるので、そのインパクトで脇役ながらイメージとして強く残っている人も多いのではないでしょうか。

 しかし、「二人を得たのに天下をとれなかったじゃん!劉備」と突っ込んだ人は多かったかもしれません。予言者ではなく人材の能力分析に長けた人という事で理解したいところです。

 さて、過去に紹介した孔明編と徐庶編でも登場した水鏡先生ですが、彼の人助けのお話がいくつかあるのでご紹介します。

水鏡先生の人助け ①蚕編

 司馬徽(水鏡先生)は醜くて不器用だが、根は賢い男だった。

 蚕が繭を作ろうとする時期、近所の家族が蚕を十分に持っていなかったので、思わず水鏡の家に蚕を貰いに来たことがあった。

 蚕を貰いに来た人がいると聞いて、水鏡は「良いぞ良いぞ!」と答えながら、自分の蚕を隣の人にあげてしまった。

 その結果、水鏡の家族は蚕の巣がないために多くの生糸を得る機会を失ってしまった。

 妻は「誰かが何かを借りに来た時その人は緊急に必要で、私たちはしばらく必要ないから貸すものよ。でも今は私たちも必要なのよ。」と文句を言った。

 それを聞いた水鏡は、「困っている人がうちに物を借りに来るということは、私たちを信頼してくれている証拠だ。貸さなければ、相手に恥をかかせ、信頼を失うことになる。【口を開くのは閉じるより簡単だ!】ということわざがある。些細なことで人の信頼を失うわけにはいかないよ。」と笑顔で家族に説明した。

 妻や家族もしぶしぶ納得した。

水鏡先生の人助け ②牛車編

 ある晩、水鏡が日が暮れて村の外を散歩していると、大きな牛車を押して旅をしている老人を見かけた。

 夜遅くなってきたのを見て、老人は牛に2回ほど鞭を打ったが、疲れた老牛はそれ以上スピードを出そうとせず、首を振るばかりだった。

 老人は更に鞭を二度打った。すると牛の動きで車輪が大きな穴に落ち、車軸が壊れてしまった。「あ、なんてこった! ついてない」老人は何もできずため息をついた。

 それを見ていた水鏡が駆け寄って「おじいさん、心配することはない。もう遅いし、車軸も壊れているから、今夜は私の家に泊まりなさい。明日、私の荷車に乗って出発すればよいから。」と言う。

 そして水鏡は自分の荷車を家から持って来て、老人の壊れた荷車から自分の荷車に荷物を移し自宅まで運ぶのを手伝った。

 また家族には、老人の食事や宿泊の手配、牛の世話などをするように言った。翌日、彼は自ら老人を村まで案内して行き「よい旅を!」と言って別れて帰ってきた。

 家に帰ると妻が「あの方の名前は?」と聞いた。「知らないよ!」と水鏡は答える。

 「どこのご出身?」妻は再び尋ねた。「知らないよ!」と水鏡は答える。

 「彼はいつ荷車を戻すの?」と妻は迫った。「知らないよ!」と水鏡は答える。

 この3つの「知らない」に、妻や家族を本当に怒らせた。

 しかし、水鏡は笑顔で「災難を見た人間が、助けずにいられるわけがないじゃないか。相手が恩に報いないという事はない。もし恩を仇で返す人がいるとすれば、それはごく僅かだ。例えそうだとしても損失は荷車だけではないのか。どれくらいの価値があるというのだ。」という。それには家族全員、言葉を失った。

 1カ月、2カ月経っても男は荷車を持って戻ってこない。家族全員が自分たちが正しいかのように振る舞い、文句を言ったが水鏡は何事もなかったかのように振舞っていた。

 しかしなんと3カ月目に老人が真新しい荷車でやってきて水鏡に返却した。さらに「水鏡は人を照らす」と書かれた大きな金色の4文字の額を水鏡の家に持参してきた。

 水鏡はそれを拒んだが、彼はどうしてもという。それ以来、水鏡はこの話をよく子供たちに教育として聞かせている。

 いかがだったでしょうか? まさに教育者の”鏡”というべきお話。心洗われますね。

 このほかにも、隣人に豚を盗んだなと、言われなき罪をきせられて反論せずに豚を差し出した水鏡先生。あとで豚が別に見つかり隣人に謝罪されるも怒ることがなかった、という話などもあります。

 孔明・龐統・徐庶ほか、三国時代に志ある優秀な人材を多数輩出した塾長だけあって、時を経ても我々も学ばされるお話ばかりでした。

 次回は馬良の民間伝承を紹介します。


岡本伸也:英傑群像代表。「KOBE鉄人三国志ギャラリー」館長。元「KOBE三国志ガーデン」館長。三国志や古代中華系のお仕事で20年以上活動中。三国志雑誌・コラム等執筆。三国志エンタメサイトや三国志グッズを取り扱うサイトを運営。「三国志祭」などイベント企画。漫画家「横山光輝」氏の故郷&関帝廟(関羽を祀る)のある神戸で町おこし活動中!



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