女神転生シリーズの大司教による童話『いばら姫』超解釈ノベル『十三月のふたり姫』レビュー【電撃インディー#377】
- 文
- 信濃川あずき
- 公開日時
電撃オンラインが注目するインディーゲームを紹介する電撃インディー。
今回は、12月3日にSteam版が発売されたビジュアルノベル『十三月のふたり姫』のレビューをお届けします。
『十三月のふたり姫』は、『女神転生』シリーズの基礎となる悪魔合体や交渉の要素を導入した鈴木大司教こと鈴木一也さんが開発を手がけるノベルゲームです。音楽は、同じく『女神転生』シリーズなど多方面で活躍中の増子津可燦さん。イラストは、デジタルアートバトルでその名を轟かせたアオガチョウさんが担当しています。
実は本作、クラウドファンディングで支持を得て制作されたという経緯があり、何を隠そう筆者も出資者で、リワードの“クリエイターが気を込めたお守り”の到着を心待ちにしています。鈴木大司教が気を込めたお守りだとしたら、悪魔も祓う代物に違いありません。祓わずに呼び寄せるかもしれませんが……。
奇跡のクリエイターチームが送り出す本作は、童話「いばら姫」がベースとなっています。ただし、このクリエイター陣がただの「いばら姫」ゲーム化をするはずもなく……。さっそく、序盤のレビューをご覧ください!
なお、電撃オンラインは、尖っていてオリジナリティがあったり、作り手が作りたいゲームを形にしていたりと、インディースピリットを感じるゲームをインディーゲームと呼び、愛を持ってプッシュしていきます!
いばらに呑み込まれた15歳の姫
物語の舞台は小さな美しい王国。どの民も幸せに暮らしていましたが、王国にはたったひとつだけ悩み事がありました。王様と王妃様がなかなか子宝に恵まれなかったのです。
あるとき、森の祠に祀られた月の女神に祈りを捧げると、ようやく王妃様は懐妊。やがて待望の娘がうまれると、王様はたいそう喜んで大きな宴を開きます。宴には、月の女神の巫女も祝福に訪れました。
喜びに満ちあふれた宴の最中、突然空が荒れて辺りが暗くなります。現れたのは、13人目の月の巫女“ウルウヅキ(閏月)”です。
混乱する王様と王妃様。すると12人の巫女たちは、ウルウヅキの呪いは“真の愛”で打ち消されるはずだと言います。両親と民に愛されて育つ娘に呪いが効くはずがないと、胸をなで下ろす王様と王妃様でした。
あっという間に15年が経ち、姫は両親と民に愛されて優しく美しい女性に育ちます。しかし、運命の日は訪れてしまいました。
物語は、姫と城が眠りについてから本格的に動き出します。平和な時間は、本当にひとときのものでした……。
王子様候補は歴史上の人物たち
姫が眠ってから長い年月が過ぎました。姫と城は、なぜか呪いをかけた張本人と思われるウルウヅキが守り続けています。城の存在はおとぎ話として親から子に語られるような伝説となりますが、およそ100年に一度、城に辿り着く者が現れるのです。
上記以外にも城を訪れる人物たちがいるので、ぜひ実際にプレイして出会ってください。ところで、登場する人物の多くはその名に聞き覚えがあります。どうやら、実在の人物が元になっているようです。
また、城を訪れるほとんどの人物は、なぜか動物の姿で描かれているのが特徴です。童話がベースの物語を読んでいたはずなのに、気付けば実際の歴史と少しリンクしているような感覚が新鮮で、よりいっそう物語に引き込まれました。
城を覆ういばらが侵入を許した人物は、どうやら姫の目を覚ます王子様候補のようです。彼らのうち誰が、姫の瞳を見つめることができるのでしょうか。
また、物語を読み進めていくとウルウヅキへの印象が変わってくるはず。最初は姫を呪った悪い魔女という印象があったのですがずっと姫を大切に守り続けていますし、どうも事情がありそうです。
安心してください、混沌です
中盤までプレイを進めると、もはや童話「いばら姫」がどんな話だったか忘れてしまうほど刺激的なオリジナルの展開が進みます。その中には、『女神転生』シリーズに携わったクリエイター陣らしさが覗くことも。
城を訪れる人々の考えやウルウヅキの変化が気になって、どんどん先へ読み進めてしまいます。音楽やエフェクトのバランスもよく、気付けばびっくりするほど時間が経っていたというくらい没入していました。章ごとに、さまざまな感情の読後感を味わえるのも特徴です。
本作に携わるクリエイターのファンはもちろんのこと、ビジュアルノベルがお好きな方も高い満足度が得られるゲームだと確信しています。ゆっくり読み進めても、年末年始のお休み期間中にクリアできるほどよいボリュームだと思います。このお休みを、眠れる姫とともに過ごしてみてはいかがでしょうか。
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