これが『サマータイムレンダ』のゲーム作品としての最適解。『サマータイムレンダ Another Horizon』先行レビュー【冬のレビュー祭】

原常樹
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 MAGES.から1月26日に発売となるPS4/Nintendo Switch用ADV『サマータイムレンダ Another Horizon』のレビューをお届けします。

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コミック原作の名作アニメが満を持してゲーム化

 『サマータイムレンダ』は、「少年ジャンプ+」で連載されていた田中靖規氏の同名人気コミックを原作としたTVアニメ(2022年4月~9月放送)。和歌山県にある架空の離島・日都ヶ島を舞台にしたSFサスペンスです。

 そのディープな世界観で多くの視聴者を惹きつけた本作が、ついにコンシューマーゲーム化! ゲームオリジナルキャラクターや新たなシナリオを加え、タイムリープADV『サマータイムレンダ Another Horizon』として1月26日にリリースされます。

 『サマータイムレンダ』の物語は、主人公・網代慎平が、幼なじみである小舟潮の葬儀に参列するために日都ヶ島に戻る場面からスタート。海難事故で命を落としたという潮ですが、その死には不可解な点が多く、また時期を同じくして島では島民の失踪事件が相次いでいました。

 これらの一連の事件の背後に蠢いているのは、島に古くから伝わるという“影”の存在。目撃した人物が死を迎える──いわば、ドッペルゲンガーのようなもので、慎平も影との邂逅によって命を落とすことになります。

 しかし、彼は、自身の死をトリガーに意識が過去へと戻る、一種の“タイムリープ”の能力を身につけていました。悲劇的な結末を迎える島を救うべく、慎平は何度も死を迎えながら“影”に立ち向かっていきます。

 “離島”や“失踪事件”、“ドッペルゲンガー”、さらには“タイムリープ”とSF好きにはたまらない要素がてんこ盛りの本作ですが、コミック(全13巻)の連載は2021年に完結。見事な伏線回収が話題となっていたことを、コミックの連載をリアルタイムで追いかけていた自分もハッキリ覚えています。

原作未読・アニメ未見でも物語に没入できる!

 作品の魅力を語る上で外せないのが、やはり敵となる“影”の恐ろしさでしょう。いや、これがズルいんですよ……!

 膂力が人間を凌駕しているというのはもちろん、人間の姿や記憶をコピーできるというのがとんでもない。その対抗手段となるのが、主人公のタイムリープ能力なんですが、この作品では影たちがその存在をいち早く察知し、それに対する手を打ってくるというのがまた凶悪なんです……。

 主人公の慎平が頭脳戦でどうにかイーブンに持ち込み、人間サイドの死力を尽くした抵抗が始まるという展開も手に汗握るものがありました。

 そんな骨太な物語をゲームという形に落とし込んだのが『サマータイムレンダ Another Horizon』。基本がオーソドックスなビジュアルノベル形式なので、老若男女問わずに楽しむことができます。

 物語の基本軸となるシナリオも原作同様ですし、そもそも原作での主人公・網代慎平がモノローグ多めだったこともあって、そのままゲームという形に落とし込まれている感覚があります。

 逆に言えば、原作未読・アニメ未見であってもすんなりと物語に没入できるのではないかと

こだわりが詰まった用語集“TIPS”は必見!

 本作ならではのおすすめポイントが、ゲームの世界観に触れて物語を楽しむための用語集である“TIPS”がとにかく充実していること。作品ならではの用語はもちろん、“吉川線”などミステリーに登場するような用語にもしっかり解説が入っています。

 コミック連載時にも、しっかりと作り込まれた“設定資料”が掲載されることがあり、これを楽しみにしていた読者も多かったように思います。もちろん、筆者もそのひとり。TIPSはそのときのことを思い出して、うれしい気持ちになりますね。

 ワクワクする展開が多い一方で、時系列の移動が頻発し、専門用語も次から次へと登場するので、人によってはそこがハードルになっていたはず。TIPSはこのハードルを乗り越える一助となってくれそうな期待感があります。

 ちなみにTIPSの中には“キーTIPS”と呼ばれる重要な存在もあり、キーTIPSを所持していると自動的に展開が変化したり、新たな選択肢が解放されたりというギミックも盛り込まれています。

 キーTIPSを所持していないために選択肢が解放されていないという場面は、しっかり「???」という表示でマスキングされているので、のちのちやり直すべき場面として認識しやすいのもありがたいポイントかなと。

ADVではおなじみバッドエンドにも期待が高まる!?

 主人公・慎平のタイムリープ能力は、アドベンチャーゲームとしての分岐にもしっかりと落とし込まれています。

 物語は選択肢による一般的な分岐のほかに、アクション分岐(画面に表示されたボタンを押すことでアクションを実行可能。タイミングはユーザーが任意で判断できる)も用意されているので、幾重にも枝分かれしています。

 これらのシナリオ分岐は“フローチャート”で確認可能ですが、もちろん、一部のシナリオはバッドエンドに直結。どうにもならない行き止まりに突き当たってしまうこともあります。

 もともと、敵となる“影”の存在が強大すぎるがゆえに、バッドエンドが多くのなるのは仕方ありません。無理に生き残って“敵”に生殺与奪の権利を奪われるよりも、わざと自分から死に向かうことで次のループに突入したほうがいい場面があるのも、なんとも本作らしいなと筆者は感じました。だからこそ、正解を探すのが楽しいんですけど!

 ちなみに視点が変化した場合は、“誰の視点”になったのかが即座に表示されるのもうれしい心配りです。

 フローチャートでやり直せるポイントはある程度決まっているので、既読シーンを読み直すことが多くなるのは少し気になりましたが、高速でのスキップが可能なのは高ポイント。既読部分にはしっかりチェックが入るので、視覚的にもわかりやすくなっています。このあたりは、さすがアドベンチャーゲームの雄・MAGES.さんの開発といったところでしょうか。

ゲームオリジナルキャラクターは現役アイドル!

 そして、『サマータイムレンダ』ファンにとって見逃せないのは、ゲームオリジナルのキャラクター・小弓場かおり(声優:小倉唯)。彼女は日都ヶ島出身の現役アイドルで、強い想いを持って島へと戻ってきました。

 キャラクターデザインが、原作の田中靖規氏の描き下ろしという点も見逃せません。

  • ▲小弓場かおり(声優:小倉唯)

 小弓場かおりは、主人公の慎平にとって新たな仲間であると同時に、その強すぎる影響力が“新たな惨劇”に繋がってしまう可能性があるというのも危惧すべきポイントです。

 どれぐらいの距離感を保って接するべきか、それを考えるのもまたゲーム『サマータイムレンダ Another Horizon』ならではの楽しみ方かなと。

ファン垂涎! 田中靖規氏による設定画を掲載

 もちろん、原作・アニメではなかったほかの登場人物のルートも用意されています。澪やかおりといったメインキャラクターのルートなどのほかに、三枚目のヘタレ駐在・凸村哲のルートなども用意されているので、いろいろな選択肢を試してみるとおもしろいかもしれません。

 原作を読破して「もっと違った終わり方もあったのかもしれない」、「あのヒロインとのその後が見てみたかった」と感じた方にはとくにオススメです。

 もともとタイトルの“レンダ”が、IT用語の“レンダリング”(数値データの演算により、画像を生成し表示させること。“影”の持つ能力も暗喩している)から来ていたり、原作でも“影”がドット交じりのノイズで視覚的に表現されていたり、ゲームという媒体とコンテンツの親和性はバッチリだと感じました。

 『サマータイムレンダ』ファンとして欲目を言うならば、能動的に自然豊かな日都ヶ島を歩き回ってみたかった……というのはありますが、自由を与えられても慎平みたいに頭脳的に戦える気はしないので、“老若男女問わずに安心して遊べるアドベンチャーゲーム”というのは最適解だったのかなと。

 作品をご存じないという方にとっては、入りやすく工夫されたコンテンツの入り口として、そして作品ファンにとっては新たな要素が楽しめる世界観の拡張ツールとして、多くの魅力が詰め込まれた『サマータイムレンダ Another Horizon』。ぜひとも一度触れてみてはいかがでしょうか?

©田中靖規/集英社・サマータイムレンダ製作委員会 ©MAGES.

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