上座の習慣は諸葛亮から?! 【三国志 英傑群像出張版#15-1】

電撃オンライン
公開日時

 三国志に造詣の深い“KOBE鉄人三国志ギャラリー”館長・岡本伸也氏による、三国志コラム。数多くの書籍が存在するなか、“民間伝承”にスポットを当てて紹介しています。



 今月は、学期や年度など日本では期末を迎える3月ということで、三国志の物語で最後の方となる、諸葛亮(孔明)の北伐以降で選んでみました。

上座の習慣は諸葛亮から?!

 昔、宴会をするとき、机を壁際に置き、三方に人を座らせたため、今では周りに8人座れる机も昔は6人しか座れなかったという。

 その後、壁際に机を置くのをやめて、四方に人を座らせ、8人掛けテーブルとなったらしい。それは諸葛亮と関係があるといわれている。

 諸葛亮は「空城の計」で司馬懿の数千の兵を追い払い、歴史上前代未聞の戦いに勝利した。彼が漢中に戻ると、国中が帰還を喜び、誰もが彼を賞賛した。

 老齢のため早く休まなければならなかった趙雲に代わり、蜀の武将たち、鄧芝、関興、張苞、姜維、馬岱の五将は諸葛孔明の屋敷に行き順番に諸葛亮に祝辞を述べた。(魏延がなぜかいない……)

 五人の武将は順番に乾杯し、諸葛亮の知恵と能力を褒め、その功績を称えた。諸葛亮は、謙虚でお世辞を嫌う人で「一掌は音を立てず、一木は森を作らず(一度の手拍子で音楽を奏でることはできず、1つの木で森はできない)。司馬懿はあえて軽率な行動はとらなかった。蜀が団結しているのが怖かったのだ。」と言った。

 張苞は父親の張飛譲りに「そんなことを言わないでください! 命令を下し軍を率いる私たち抜きでは、いくら兵が多くてもただの有象無象に過ぎません。」と言う。

 関興は「確かに一人の将より千人の兵の方が良い。しかし今回あれだけの魏の兵を追い払うことができるのは丞相だけでしょう?」と言った。

 これを聞いた諸葛亮は、あまり喜ばない。関興や張苞のような若者は、戦いにかけては勇敢だがまだまだ未熟だと考えていた。

 その時、2人の小姓たちが酒と料理を運んできた。諸葛亮は思いつき、彼らにこう言った。「我々はちょうど「空城の計」の話をしていたのだ、将たちにその時の状況を伝えてはくれないだろうか?」と。

 諸葛亮に同行した二人の小姓は、事情をよく知っていたので、「あの時、司馬懿は無数の兵馬を連れてきて城を囲みました。我々は誰もいない空っぽの城に過ぎませんでした。」と返す。

 諸葛亮は首を横に振って、「いやいや空っぽの城と言ったが、本当に空っぽだっただろうか?」と言う。

 小姓「はい、まだ人がいます。とくに丞相は、楼閣で落ち着いて琴を弾いておられました。」

 諸葛亮「楼閣の下はどうであったか?」

 小姓「門は大きく開かれ、我々二人が向かい合い、一人は水を撒き、もう一人は床を掃き、緊張していましたが、顔に恐怖を見せないように努力していました。」

 諸葛亮「それはなぜかな?」

 小姓「恐怖を見せたら策がばれてしまいます! 丞相の空城計画も終わりです!」

 諸葛亮は「そのとおりだ」と笑って、「みんな聞いてくれ、小姓二人は大活躍してくれた。私たちは、お祝いの席で彼らを忘れてはならないのだ。お座りなさい。」と声をかけた。

 五将たちは理解したが、周りにはもう席がないのを見ると、恥ずかしくなった。張苞は思い付き、机を外側に移動し、壁際に椅子を2脚ふやして置いて小姓たちに言った。「最初の功績をあげたのだから、君たちが今回の主役だ。」

 全員が納得したので小姓たちは席についた。それ以来、机は6人から8人掛けに変わり、最も尊敬される人が食卓の先頭に座るという方式が行われるようになったといわれている。

鄧艾、孔明を祀る

 魏の鄧艾(とうがい)は蜀攻めの際、摩天嶺から兵馬を布団で厚く包んで山頂から下降するという危険なルートを取った。結果、馬邈(ばじゅん)が降伏し江油関(こうゆかん)を取ることができた。

 鄧艾は軍を再編成した後、3日間歩き続けて梓潼(しとう)の山に進軍した。四川省北西部の主要な町である梓潼は重要拠点だ。

 断崖絶壁の山からの道はなく、鄧艾は兵を率いて道を作ることにした。木製の歩道が作られた。しかし岩に穴を開け、柱を立て、板を敷き、道路を作ったが、工事は難航した。

 悩む鄧艾に、部下が学者や村人に聞いてみたらどうかと助言した。地元の老人は、【朝陽洞】という場所があり、朝陽山から来た男がいて、有名な術師である管輅(かんろ)の弟子であることを告げた。【朝陽仙人】と呼ばれるらしい。

 翌朝、鄧艾は側近を引き連れ、朝陽洞に乗り込んだ。外には少年が待っており、彼らを歓迎した。鄧艾は洞窟に入ると、石に座った仙人がいて、「あなたの思いは既に知っている。書かれた事の通りにすればうまくいくだろう。」と言った。

 鄧艾が見ると、「諸葛亮を祭り、殺生をやめるべし」と書かれているのが目に入った。戻った彼らは、諸葛孔明の石版を掲げて、山の頂上に3つの供養塔を立てた。

 鄧艾が自ら儀式を執り行い、「私たちはこの地を奪うとき、罪のない人々を殺さないことを約束します」と読み上げた。すると道路づくりは順調に進んだ。

 その後、鄧艾は蜀を滅亡させることになる。この蜀攻めでの負傷者はこの地に残り、今も代々暮らしているといわれている。

直立して鎧を脱がされる鍾会

 魏の名将・鍾会(しょうかい)が10万の兵を率いて蜀を攻めてきた。いくつかの峠を突破してそのまま漢中に入り、陽平関(ようへいかん)近くの定軍山(ていぐんざん)に到着した。

 すると突然風が強く吹いて、砂や岩が飛び、空が見えなくなった。魏の兵士たちは唖然とし、中には怖気づいて退却する者もいた。風が通り過ぎ、空が明るくなると、目の前に諸葛亮の墓が見えた。

 鍾会は大胆な男だったが、風に吹かれて兵が乱れると不愉快になり、諸葛亮が自分を陥れようとしているのではと疑った。そして「墓を掘り起こし、死体に鞭を打って憎しみを晴らそう!」と言った。早速、三千人の兵を集め、墓を掘り始めた。

 しかし突然、兵士の道具は引き抜くことができなくなった。鍾会は、兵士たちの役立たずぶりを罵倒し、自分で仕事をしようと墓地に駆け込んだ。

 だが、鍾会の2本の足は木の杭のように直立し動かすことができない。それを見た兵士たちは、あえて前に出て助けようとはしなかった。

 慌てれば慌てるほど、誰かに足を引っ張られているような気がする。しばらくして、少し落ち着くことができた。

 よく見ると、目の前に石版があった。手で汚れを払うと、【魏は四川に入る。天地はそれを許さない。私の墓を奪う者は【直立して鎧を脱ぐだろう】と書いてあるのが見えた。

 下の碑文には【蜀の宰相・諸葛亮】とある。それを読んだ鍾会は「武侯(孔明)の神算は実にその名にふさわしい」と驚嘆した。

 そして鎧を脱ぎ捨てて全力を尽くして脱出しなければならなかった。それ以来、誰も武侯(こうめい)墓に手をだすものはいなくなったという。

 いかがだったでしょうか?

 1つ目のお話。蜀の北伐メンバーがかなり出てくるうれしいお話でした。「空城の計」の直後が描かれるというのもいいですね。諸葛孔明の配慮や知恵にはいつもながら尊敬せざるをえないですね。

 2つ目のお話。山を越えて蜀を攻めた鄧艾の苦労がうかがわれる内容になっています。しかし、戦いの達人というより道路工事の達人ですね。

 3つ目のお話。三国志演義に鍾会が孔明の墓を参ると孔明の霊と出会うというシーンがあります。その後、孔明が民の安全を鍾会に約束させるというお話です。

 この話、2つ目の鄧艾の話と3つ目の鍾会の話をミックスしたもののように感じます。もしそういう成り立ちだとすると面白いですね。

 しかし、こういう話が残っているということは、間接的に諸葛孔明が地元の人たちに愛されているんだなあと感じざるを得ないです。死してなお、孔明に敵将たちはかなわないというのもすごいですね。

 ちなみに、【鄧艾が孔明墓で策により殺される】というお話もあったりしますが、トンデモ話なので今回は省きました。

 次回は、蜀滅亡時の皇帝である「劉禅」に注目したお話をご紹介したいと思います。お楽しみに!

KOBE鉄人三国志ギャラリー【春の三国志会】開催のお知らせ

 3月26日(日)11時~17時、三国志講座やイベントなどいろいろ行います。

 観覧無料。皆さんを無料でご招待します。もう10回目になります。春版のミニ三国志祭です。

第10回「春の三国志会」イベント予定

時間:11時~17時
場所:KOBE鉄人三国志ギャラリー内外
施設入場料:無料(入場制限有、要マスク)
※当日、先着順 各回定員になり次第締切

■イベント・講座
11時半 三国志の食 研究家・一条氏『三国時代の味について。「豉」を再考する』オンライン 25分
12時:孫子兵法研究家・菅澤博之先生「軍師の思考術解析」 45分
13時:講談師・天神堂梅崙氏 講談『十万本の矢』 20分
13時半:プロナレーター・樹リューリ氏 朗読『木枯らしが吹くように』郝昭 20分
14時:関西大学講師・桜木陽子先生『京劇のなかの曹操』 50分
15時:龍谷大学教授・竹内真彦先生『祁山はどこにあったのか?』50分
16時:横山光輝三国志ビンゴ大会(※売店500円以上購入者にシート配布)20分
16時半:新解釈「三国志」出演俳優・鎌倉太郎氏「入門紙芝居『二人の英雄』」動画上映 30分
17時:終了

■常時上映
・神戸電子専門学校声優タレント学科
 三国志演劇公演初上映「THE RISING 蒼龍天翔」
 第一部上映 1時間(11時、13時、15時)
 第二部上映 1時間(12時、14時、16時)

■出し物(有料)
・三国志プラモデル制作体験
・殷代甲骨ト占(占い師:須藤聡爾先生)
・三国志100問テスト 全7種類  
・三国志アナログゲーム
・三国志クロスワード

■展示
・横山光輝三国志 バイリンガル版発売記念 パネル展示

■景品提供
・ウニコ switchゲーム「神奏三国詩」ティッシュ(先着無料配布)
・LEVEL5「妖怪三国志」(ビンゴ大会)
・コーエーテクモゲームス『Wo Long: Fallen ynasty』(ビンゴ大会)

 スケジュールの詳細などはこちらのページでもご確認いただけます。


岡本伸也:英傑群像代表。「KOBE鉄人三国志ギャラリー」館長。元「KOBE三国志ガーデン」館長。三国志や古代中華系のお仕事で20年以上活動中。三国志雑誌・コラム等執筆。三国志エンタメサイトや三国志グッズを取り扱うサイトを運営。「三国志祭」などイベント企画。漫画家「横山光輝」氏の故郷&関帝廟(関羽を祀る)のある神戸で町おこし活動中!



本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります

関連する記事一覧はこちら