『ダークソウル』『ブラッドボーン』アクセサリー制作秘話。指輪、狩人証の新作情報、制作資料も【電撃PS】
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【11月25日記事更新】記事の下部に2019年11月22~24日まで開催されていた、東京コミコン2019の展示物の画像を追加しました。
『DARK SOULS(ダークソウル)』や『Bloodborne(ブラッドボーン)』のグッズ制作を行っている、TORCH TORCH(トーチトーチ)というブランドをご存知でしょうか。
ホビーショップ豆魚雷を経営する株式会社Ampusが持つブランドの1つであるTORCH TORCHは「愛のあるファンが、ファンのために作ったと感じられるようなアイテムを身に纏うことができる」をコンセプトにグッズ制作を行っています。本ブランドのグッズは、まさしくゲーム世界から抜け出してきたようであり、そして静かに存在感を示す、ファンに向けて作られた“マスターピース”。
ところでそれら傑作の数々は、いったい誰が、どのように制作しているのでしょうか。そこで今回、それらのアイテム制作のすべてに携わる、株式会社Ampusのディレクター・原田隼氏とアシスタントディレクター・橘高旭氏、TORCH TORCHブランドの多くの原型を手掛ける大畠雅人氏にお話をお聞きしました。
現在予約受付中の”緑花の指輪”(DARK SOULS)、”鴉の狩人証”と”剣の狩人証”(Bloodborne)、”妖精のブローチ”(Déraciné)の制作秘話や、モノづくりのこだわり、熱い思いなど、普段あまり触れることのない話題ばかりなので、ぜひご覧ください。
フロム・ソフトウェアからの厳しい修正指示は“うれしい”!
――TORCH TORCHのブランドを立ち上げてから、結構長い年月が経ちましたね。
原田氏(以下、敬称略):そうですね。この間、TORCH TORCHとしてグッズを展開し始めて丸3年が経ち、4年目に突入することが出来ました。とはいえ、まだ『DARK SOULS』のリングコレクションは9種類しかなくて(苦笑)。これでも小慣れて来たんですが。
――制作現場は相当な苦労があるのだろうなと、商品サンプルを見て常に思っています。
原田:毎回なにか困るポイントはありますね。“スズメバチの指輪”や“狼の指輪”では現実のシルバーにはありえない色味をどうやって再現するか、という点は苦労しました。でも、最初はゲームそっくりの形にたどり着くことすら難しかったんです。例えば第1弾の“銀猫の指輪”は、原型師さんの交代を含めてかなりのリテイクを重ねています。
――何回ぐらいリテイクされたのでしょうか。
原田:正確な数は忘れてしまいましたが、あわせて10回とかそれぐらいはリテイクしています。けっこう原型師さんの方でアレンジをしてくださったバージョンもありました。でもやはり、ゲームのものに近づけたほうがいいだろうと。
そういったやりとりを繰り返しているうちに最近は、ゲームのイラストそっくりのものを作るところまでは比較的たどりつきやすくなったのですが、なんと言えばいいのか、しっくり来ないことも多いんですね。造形物としてのカッコよさ、気持ちよさが足りないというか。
ゲームのイラストと出力されたサンプルを並べても、おそらくクレームにはならないだろうというレベルには到達しているのですが、身につけたときの満足度も追求していきたいと思っていて。アクセサリーとしての見栄え、ボリューム感をもっと出したかったんです。最近はようやくその次元に到達してきました。
――絵をどうやって立体物にしているのかということについて、個人的にはわからないことが多いのですが、その工程を教えていただけますか。
原田:「おそらくこうなっているのだろう」という草案のようなものは私たちの方で作って原型師さんにお渡しし、ラフで作った原型をフロム・ソフトウェアさんに確認していただいています。
“緑花の指輪”ですと、台座の裏側がどういうふうに作られているのかはわからなかったので、とりあえず仮で作ってフロム・ソフトウェアさんにお見せしました。そうしたら、台座の裏面の部分はとくに問題なかったのですが、表面の部分は「もっと絵に近く、いびつで不揃いにしてください」と。
――正直、かなり困難な修正指示だと思います。
原田:はい(笑)。でも私としてはそういった修正指示はうれしいんです。それだけ公式に近づくのもありますが、間違いなくクオリティは上がるんです。
それに、こう言っては何ですが、実際にゲームを作ってらっしゃる方々に意見をもらえるというのは、一般の方々だとまずあり得ないことですので、ファンとしてもつい興奮してしまいます(笑)。一発でOKをいただくよりは、NGをいただいた方が楽しいというか……。
――ちょっと“困難に挑み、克服する達成感”というゲームコンセプトに魅了されすぎている気もします(笑)。
原田:それは考えたこともなかった(笑)! やっぱりすごく尊敬している方々からのご意見なので、そこは素直にありがたいことで、誉れだなと思います。「ただのファンじゃん」って言われると「はい、そうです」ってうつむきながら答えるしかないのですが……。
――普通のファンの方々は、そこまで作り込むことはできないのではないでしょうか。
原田:いえいえ。ファンの方々の熱量はやはり凄くて。たとえば現在予約受付中の“剣の狩人証”、“鴉の狩人証”にしても、すでにファンの方がハイクオリティなものをハンドメイドで作っておられて、ネットで検索するとすぐに見つけることができます。そのため僕たちは「圧倒的なクオリティで仕上げなければならないね」とプレッシャーを感じているんですよ。
橘高氏(以下、敬称略):「ただ良い感じなんじゃなくて、圧倒的でないといけないね」とはしょっちゅう言っていました。
――最初期のリテイクの数から言っても、矜持を持って仕事に取り組んでらっしゃるんだなということは感じます。
原田:そうですね。矜持に自信があるといっては変ですが(苦笑)。でもこういう造形物って、基本は1度しか作るチャンスがないと思うんです。後からさらにバージョンアップされたものを発売しなおすというのは難しい。ですので、最初に発売するものが決定版でなければならないと思うんです。
そのため、納期とか発売時期といったビジネス的に重要な要素は、いろいろとぶっちぎってしまっていて……。そういう意味では、プロフェッショナルな技術を用いているのに、気持ち的にはファンメイド寄りなグッズになってしまっている、というのが本当のところかもしれません(苦笑)。
ただ幸いにして、ファンの皆様からも「愛を込めてグッズを作っているね」とおっしゃっていただけており、日々感謝しています。バージョンしだいですが、私たちが作っている途中段階のものを見て「これでOK、もう発売できるレベルだよ」という判断をされる方もいらっしゃるとは思うんです。でも、私たちはこだわって、より本物に近づけるために作り込んでいきたいんです。
本物らしさを志向し、業界の常識外の技法にもチャレンジする
――本物らしさというのはどういう点にあるのでしょうか。
原田:『DARK SOULS』の世界に実際に存在するように思えるかどうかですね。現代の技術ではなく、古代の技術で作られているように見えなくてはならないのではないかと。“手作り感”というのはひとつのポイントだと思います。たとえば“スズメバチの指輪”と“狼の指輪”ですと、立体化にあたり古代のコインを参考にしており、その鍛造技術も参考にしています。
古代から中世にかけてのコインは、過熱した金属を型で挟んで、ハンマーで叩いて制作していたらしいのですが、そうなると均等に圧力をかけるというのは、厳密にはできないので、コインに微妙な凹凸ができてしまうんです。そういうエッセンスを取り入れていますね。いびつ感とでも申しますか。
――わざと歪ませるというのはあまり聞いたことがないです。
原田:箱を開けた瞬間からもう古い……アクセサリー業界ではまずやらないことだと思います(笑)。
橘高:地金にシルバーを使用しているのに色が茶色い、という状況もまずないことです。
原田:今制作中の“静かに眠る竜印の指輪”は、原型の完成は早かったのですが、色味の調整はいろいろ実験を重ねているところで、かれこれ7カ月かかっており、しかもまだ完成していません……(苦笑)。
――今しれっと最新情報が出ましたが、7カ月のほうがインパクトが大きい……(笑)。
橘高:1つにだけ色をつけるのは簡単なのですが、量産可能なようにする、という点を考慮しなければならないのも難しいところですね。
原田:“寵愛の指輪”以前は、シルバーの地金を活かしつつ、何工程もいぶしたりして独特の風味を作っていたのですが。“寵愛の指輪”以降は、指輪に色を塗りはじめたんです。そして、その塗装は私たちが行っています。
――この塗りムラのさじ加減は原田さんたちの手によるものだったのですね。
原田:独特の塗りムラは通常の工場ではできなかったんです。そのため、最終工程では、私と橘高の2人で、甲府市にある工房に入って色をつけています。1時間で2人あわせて20個ぐらいなので、何泊もしないといけなかったり。
橘高:希釈した塗料を筆塗りして、クロスや綿棒を使って微妙な力で拭きとるんです。そのあとシルバー磨きを使ってわざとメッキにダメージを与えて、使い込まれた風合いを出したりもします。
模型業界ではウォッシングと呼ばれるテクニックなのですが、アクセサリーの業界ではウォッシングってやらないんですよ。なので、工場の方々にウォッシングのテクニックを伝授したところで、私たちのグッズにしか役に立たない。じゃあ自分たちで仕上げるしかないか、と(苦笑)。
その塗料も市販されているものでなく、シルバーに食いついて、肌に触れても問題ないものを、塗料業界にいる先輩に頼んで特別に作ってもらいました。
――尋常ではない情熱ですね。
橘高:やはり安いものではないですし、お客様の期待を裏切るわけにはいかないので。なるべく最高の状態のものを届けられるように毎回意識はしています。しかし色合いを追求した結果、見た目がシルバーからまったくかけ離れてしまい、値段の高い商品に見えなくなってしまうことがありまして……。
原田:その道に詳しい方からは評価をいただけているのですが、悩ましい部分ですね(苦笑)。
―― “鴉の狩人証”の黒い部分は、シルバーのいぶしによって表現されているのでしょうか。
橘高:そうですね。一度全体をいぶして、凸の部分を薄く磨いて色味を出していきます。これもすごいこだわりポイントで、職人さんには真っ黒にしていただくところまでを担当していただき、仕上げは私たちで行っています。
――お話を聞いていると、だんだん量産と呼べないのではないかという気がしてきました。
橘高:量産というよりはハンドメイドに近いかもしれません(笑)。工房の方にも「そんなやり方があるんだ」とおっしゃっていただけることもあります。
原田:シルバーの仕上げって、ある程度やり方が限られているのですが、私たちは絵に近づける、ということをやっているので、工房の方たちは、通常しないようなこともやらされていると言ったほうが正しいかもしれませんが(苦笑)。
橘高:フィギュアや模型の工程とアクセサリーの工程が融合しているので、製造工程で生み出される新たな技法も結構あるんですよ。いぶしや塗料など、いろいろなことを試しています。
原田:“静かに眠る竜印の指輪”は色分けが複雑なので、メガネのフレームなどに使われるプレシードという特殊な手法も試しました。ただ、質感がうまく出せなかったんです。
長く試していたのですがどうしてもうまく行かなかったので、今度は通常の黒でなく茶色くいぶす、という特殊な薬品を開発しはじめました(笑)。これも数か月やっていますが、量産が安定するレベルまではまだしばらくかかりそうで。
橘高:この指輪に関しては、結局は“ひとつひとつ丁寧に色付けをする”ということになりそうですね……。
――元が絵だと「これはどういう素材でできているんだ?」と頭を抱えることも多いと思いますが、まさに現在進行系で難題に取り組んでらっしゃるんですね。
原田:でも、フロム・ソフトウェアさんのイマジネーションはすごいなと思いますよ。アクセサリーの素材とか、ゲームを作る上では自由だし、考えなくてもいいですからね。
そういえば“鴉の狩人証”ですが、これは最初「どこが鴉なんだろう?」って思っていたんですよ(笑)。ずっと眺めているうちに、鴉が正面を向いて翼を広げている全身像だ、とだんだんわかってきたのですが、フロム・ソフトウェアさんのデザインはやっぱりすごいです。
アクセサリーの見栄えを意識したアレンジも、あくまで原作ありき
――フィギュアなどでよくあることだと思うのですが、絵の“ケレン味として成立していた部分”が、立体になると成立しなくなることがあるじゃないですか。その点、TORCH TORCHのアレンジはフィギュアに通じるところがあるなと思っています。
原田:たしかに、アレンジの仕方はフィギュアの原型師さんが抜群にうまいですね。
『DARK SOULS』リングコレクションは現在、大畠雅人という原型師さんにお願いしているのですが、彼の力量に助けられているところは多いですね。現在の若手トップクリエイターの1人だと思います。彼は『DARK SOULS』や『Bloodborne』が大好きで、世界設定の説明などをしなくても、アクセサリーの雰囲気を掴んでくれるんです。
――アンティーク感や使い込まれた感というのもこだわりポイントでしょうか。
原田:めちゃくちゃこだわってます! それがないと『DARK SOULS』や『Bloodborne』に登場するアイテムではなくなってしまいますからね。それはフロム・ソフトウェアさんも凄くおっしゃっています。”手入れされているけど使い込まれている感”というのは、私たちがモノを作っているときに頻繁に出るキーワードです。
そういえば最近、カメラマンさんに物撮りをお願いしたのですが、その際ゲーム画面を見せて「これと同じ角度で撮影してください」とお伝えしたんです。そしたら「この写真じゃダメなんですか?」と言われてしまって……。ゲーム画面を、既に物撮りされた我々の製品だと思ったんです。
――本物と見紛う再現度であるということですね(笑)。
原田:“スズメバチの指輪”の予約中、海外のECサイトさんがゲーム画像を商品画像として使っていたことがあって……。それもあって、最近はゲーム画像に”GAME GRAPHIC / THIS IS NOT PRODUCT”と表記するようにしました。弊社の商品ページでは、ゲーム画像と本物をセットで見られるようにしていますので、ぜひ見比べてみていただければ。
――再現度の高さももちろんなのですが、“キノコ人のペンダント”のようにオリジナルデザインのグッズも制作されていますよね。個人的にはかなり思い切ったグッズだと感じていたのですが、ちゃんと完売しているのはスゴいなと。
原田:“キノコ人のペンダント”はPalnart Pocさんにお願いしたグッズです。Palnart Pocさんは、柔らかい、温かみのある質感のアクセサリーを作るのがすごくお上手なんですよ。じつは何回か再生産もかかっておりまして、けっこう売れているんです。“キノコ人のペンダント”は“カタリナヘルムのピアス”ともども、完売するたびに販売希望が来るウチの人気商品ですね(笑)。
――“暗月の剣のペンダント”はいかがでしょうか。
原田:あれも人気商品です。“暗月の剣”というアイテムは、ゲーム内解説テキストにはペンダントだという記載があるのですが、じつはゲーム中にペンダントのチェーンと留め金具は描かれていないんです。
そのため、フロム・ソフトウェアさんにどうなっているのか確認したら、「こんな感じです」と返事が来まして。当然、再現しますよね(笑)。そのため、チェーンは特注品で、留め金具は大畠さんに造形してもらいました。
――一見すると優先度が低そうなところなのに、本当に一切の手抜きをしないんですね。
原田:あまり創作はしたくないんですよね。極力本物になるようにしたいなと。
――最初におっしゃっていた、カッコよさみたいなところと原作への忠実さへのこだわりは、最終的にどう落とし込んでいくのか、基準みたいなものはあるのでしょうか。
原田:まず、形がきちんと再現できている、フロム・ソフトウェアさんの方針と合致している、という前提があり、その上でカッコよさがあります。それは社内監修というか、私の判断によるところが大きいですね。たとえば“厚み”についてなどは、手にとったときの重厚感・高級感などのバランスを私が判断して、厚くすることもあります。
“鴉の狩人証”は、もっと薄いときもあったのですが、ちょっと安っぽく見えたんですね。やはり厚みをもたせたほうがそれらしい。このほか、もったりとして丸かったところの一部にエッジをかけて、シャープな印象にしています。
これらはアクセサリーを作る上でのテクニックみたいなものですね。適度なボリューム感、メリハリ、首から下げたときの見栄え、というのはゲームのイラストに逸脱しない範囲でプラスアルファした、TORCH TORCHならではの演出です。
――厚くするとシンプルに原価が上がってしまうような気もするのですが……。
原田:そのとおりです(苦笑)。でもアクセサリーとはいえ、やっぱりゲームグッズでもあるので、そのあたりの値付けについてはなるべくゲームグッズの範囲内に収めようという努力はしています。
橘高:“緑花の指輪”は、ペリドットの数も工程も多いし、ふつうに作って値段をつけると5万円を軽く超えるんです。でも仕様については妥協せず、生産数を約束することでなんとか折り合いをつけることができました。それでもけっこう無茶な原価率ですよね。
原田:なので売れてくれないと困るんですけど(笑)、どうしてもこだわりを優先してしまいます。ペリドットは形が特殊なのでインドで磨っている特注品を使っていますが、「宝石を使わないで、エポキシ樹脂やエナメルを使えば原価を下げられるんじゃないですか?」と言われたこともありました。
でもそれらって『DARK SOULS』の世界にはおそらく存在しないじゃないですか。ペリドットだったら『DARK SOULS』の世界にあってもおかしくないなと。
――とはいえ、ここまでアンティーク感のある作り込みがなされていると、『DARK SOULS』などを知らない人が見ても「なにそれ、カッコいいね」と言われそうな気がします。
原田:そこは目指しているところです。ちゃんと普段遣いができて、ワンポイントで目を惹くようなものになるような。
――個人的には今回の“狩人証”はどちらもすごくほしいのですが、着けるところがなく……。
原田:あまり存在感がありすぎて目立つのもちょっと……という方のために、レギュラーサイズとレディースサイズの2種類をご用意しています!
――あまり見比べる機会がないので、じっくり拝見させていただきます。……やはりレディースサイズもしっかりディティールが作り込まれているんですね。
原田:レディースサイズがギリギリの大きさですね。それ以上小さくすると、なにかディティールを犠牲にしなければならなくなってしまいます。デジタルならではのメリットですね。手作業ではなかなか再現できないと思います。
原型師・大畠雅人が語る、ゲーム世界を現実世界に再現するために不可欠なポイント
――こういう仕事をしていると、原作へ忠実であればあるほど、逆に作家さんの作家性を奪ってしまっているな、と感じることもあるのでしょうか。
原田:案件にもよりますが、大畠さんとの仕事ではそういったことはないですね。2人とも原作に忠実に、という目標が一致しているからだと思います。オリジナルデザインの“カタリナヘルムのペンダント”なんかはPalnart Pocさんに「もっとかわいくして!」というオーダーをしましたが(笑)。
「今こういう印象なので、この印象を変えるにはこのディティールをこのように変えてください」というような具体的な指示ができるのは、自分は得意なのかもとひそかに自画自賛しています(笑)。
――原田さんと大畠さんとのお付き合いはどれぐらいに始まったのでしょうか。
原田:豆魚雷ではAmazing Artist Collectionという取り組み(※原型師や造形作家、フィニッシャーなどのアーティストが自らの手で制作した「完成品の状態の作品」を、「そのままお客様にお届け」しようという試み)をしているのですが、そのプログラムの中で大畠さんをご紹介したのが深いお付き合いのはじまりですね。
そこでのインタビューで、大畠さんが「『DARK SOULS』好きなんですよ」とおっしゃっていて。当時は“貪欲な銀の蛇の指輪”を作っていたのですが、じつはこの指輪、完成までに原型師さんが3人も変わっています。
完全に暗礁に乗り上げたと思っていたところにそんなお話を聞けたので、大畠さんにだめもとで頼んでみたところ、素晴らしいものが上がってきて完成にこぎつけたんですよ。それ以来、原型の大半は大畠さんにお願いしています。大畠さんとはSkypeでお話できるようにしていますので、よろしければお話してみませんか?
――ぜひお願いいたします!
大畠氏(以下、敬称略):僕はもともとフィギュアの原型師なのですが、二次元のものを立体化するという点では、アクセサリーも作業はまったく同じなんです。とくにフロム・ソフトウェアさんのアクセサリー類で細かいキズなどを再現する工程は、二次元のイラストの服の模様などを再現するのと非常に似ているので、違和感なく作業させていただいています。
――では、“フロム・ソフトウェアさんのアクセサリー類の原型製作ならではのおもしろさ”みたいなものはあるのでしょうか。
大畠:大手のフィギュアメーカーさんとお仕事をしていると、ちょっとした絵の歪みみたいなものは調整する方向で作っていくことが普通なのですが、フロム・ソフトウェアさんのアイテムの場合は歪みを味として大事に出していくんですね。僕としては、そういうもののほうが“製品感”がなくて好きで、楽しませていただいています。
――TORCH TORCH関連のお仕事で印象に残っているエピソードなどはありますか?
大畠:じつは、あまりないんですよ(笑)。けっこう原田さんのチェックが的確で、厳しいのですが、そのチェックを反映したものはだいたいフロム・ソフトウェアさんの監修も通ることが多いんです。制作会社さんのチェックと、版権元さんのチェックとで、真逆のことを言われることも多いのですが、原田さんとのやり取りでそういったことはまったくないので、信用しています。
あとは……原田さんの指示書は手書きであることが多いのですが、そこにかわいいウサギの絵が描かれているので、僕も手書きでなにかイラストを描いて返すとか(笑)。原田さんはなにかありますか?
原田:大変ありがたいことをおっしゃっていただき、ありがとうございます(笑)。私も大畠さんの原型が上がってくるのをただただ楽しみに待っていることが多くて。大畠さんとのお仕事でありがたいのは、世界設定の説明が不要なところでしょうか。雰囲気や質感をすでに掴んでくださっているんです。
大畠:僕もフロム・ソフトウェアさんのゲームはこのお仕事をする前から好きでしたからね。
――大畠さんのなかで、フロム・ソフトウェアが手掛けるゲームの魅力はどこにあると感じてらっしゃいますか?
大畠:やはり世界設定、空気感だと思います。ゲームバランスとか、そういったゲームのシステム的な素晴らしさももちろんあると思うのですが、プレイしていてその世界に浸れる、引き込まれるのはフロム・ソフトウェアさんのゲームならではだと思います。
『DARK SOULS』も『Bloodborne』も、未だにプレイされてる方がいて、その世界が古びないと言うか、飽きが来ないというのは、本当に素晴らしいことだと思います。
――大畠さんが手がけられた現在予約受付中の3つのアイテムについて、それぞれコメントをお願いいたします。
大畠:“鴉の狩人証”は、絵が黒く潰れているところは割と自由演技でやらせていただいたところもありました。絵からは見えないところも、造形物になると確実にモノとして見えてきます。そういったディティールを楽しんでいただきたいですね。
“剣の狩人証”は、普通に細かくカッコいい造形に仕上げられたので、ゲームを知らない人でも興味を持ってもらえるものになっているんじゃないかなと思います。どちらもゲームをプレイしていて見えない部分や空気感を損なわない出来栄えになっていると思いますので、ぜひ実物を手にとってご覧いただけますと幸いです。
“緑花の指輪”では、僕は造形というより調整をしていたのがほとんどだったので、実際に苦労されたのは原田さんじゃないかなと思います(笑)。パーツや宝石など、非常に贅沢な使い方をしていて、スゴいですよね。
造形的なところとしては、やはり絵からは見えない部分、指輪と台座の付け根部分などは、うまく『DARK SOULS』の雰囲気を演出できる造形に仕上げられたと思います。また、リングの横についている小さな花はシルバーではなく真鍮なので、その風味なども楽しんでいただきたいですね。
いずれも造形物なので、やはり写真ではなく、実物を見ていただけるとありがたいです。豆魚雷さんの店舗で展示されていますので、ぜひご覧になってください。実際に見ると、また印象が変わると思いますので。
――ゲームファンのみなさんにひと言お願いいたします。
大畠:『DARK SOULS』、『Bloodborne』と、僕の好きなフロム・ソフトウェアさんの作るゲームのアクセサリーを作らせていただいたので、今後もフロム・ソフトウェアさんの作るゲームの、何かしらのグッズ制作に携わらせていただけるとありがたいと思っています。今後ともぜひよろしくお願いいたします。
原田:こちらこそぜひ。末永くお願いします(笑)。
“妖精のブローチ”では外箱も含めて世界観を表現
――『Déraciné(デラシネ)』の“妖精のブローチ”についても教えてください。
原田:造形は“キノコ人のペンダント”などと同じ、Palnart Pocさんにお願いしました。ゲーム内のテキストには「花と共に座る妖精のブローチ すり減って、手触りがとても柔らかい」とありましたのでお願いしたのですが、上がってきたものを見て「お願いしてよかったな」と思いました。あと見ていただきたいのは外箱ですね。
――あの外箱は、標本感もあり、ゲーム世界の空気感を非常に高いレベルで表現されていると思います。
原田:もちろんブローチなので身につけるものなのですが、飾るものとしても楽しんでもらいたいなと思いまして。『DARK SOULS』リングコレクションのような外箱でもいいとは思ったのですが、飾るとなったときに、箱まで含めてインテリアとかコレクション感を出すことができれば、身に付けない方でも手にとっていただけるかなと思いまして。そして箱は特注で、ニス塗りは私たちが行っています。
――この塗装も原田さんたちが!
原田:というか、この箱に関しては橘高が塗りますが(笑)。
橘高:ニュアンスが肝心なものかつ、コストも非常に掛かってしまうので、自分たちで吸収できる部分はカバーしようと……。あとこの箱は、飾る際にピンが邪魔をしないように、溝を作ってそこに置くことで、きれいに展示ができるようになっています。
――箱も内側に溝があって、きれいに蓋ができるようになっているのですね。ベロア生地の色合いも、非常に『Déraciné』らしいものになっていると感じます。
橘高:フロム・ソフトウェアさんらしい古びた感じを出したくて、生地はいろいろ買ってきて試しました(笑)。
原田:これは余談ですが、私たちが作った“妖精のブローチ”を見てくださって、それがきっかけで『Déraciné』をプレイしました、とおっしゃってくださった方がいたんです。とてもうれしくて、印象に残っています。
TORCH TORCH最新作は東京コミコンで発表!
――このほかにもまだまだ進行中のグッズはあるのでしょうか。
原田:はい、あります。引き続きフロム・ソフトウェアさんのタイトルで企画を進行させています。いくつかは東京コミコンで発表しますよ! 『DARK SOULS』からは先ほど言いました“静かに眠る竜印の指輪”、『Bloodborne』から“ノコギリの狩人証”、“車輪の狩人証”を展示しますので、よろしければぜひ遊びに来てみてください。
――日本では、ゲームグッズが増えてきたのって、つい最近のことですよね。
原田:そうですね。ゲームグッズって、ホビー業界では「売れない」と言われていたんです。でもここ数年で流れが変わってきていて、それにうまく乗れたな、という感じもしています。
――ファンの1人として、グッズ展開をしていただけるのは非常にありがたいことだと思っています。その上で、あえてちょっと失礼なことをお聞きするのですが、『DARK SOULS』や『Bloodborne』、『Déraciné』、いずれのタイトルも、ゲーム本編には今動きがないですよね。
ここまで作り込む工数のことも考えると、もっとほかの旬なゲームタイトルでグッズ展開をしたほうがよいのではないか、という意見も出てくるのではないかと思ってしまいます。なぜ、これらのタイトルで、ここまでこだわりを持ってグッズを作られるのでしょうか?
原田:誤解を恐れずに言うと、私たちがファンだからだと思います(苦笑)。逆にこういうやり方しかできないんです。まず、私たちが好きなタイトルのグッズを作りたいという気持ちがあって、そして好きなタイトルのグッズなのだから、妥協はできないんです。妥協してしまうとすごく気持ち悪いと言うか、後悔の残るようなものを作ってしまうと、自分にダメージが蓄積されていくんです。
ただ幸いなことに、どの商品もお客様にはとてもご好評いただいていて、想像以上の反響に私たちも驚いているんです。続けてみるもんだなと思いますね。おっしゃる通り、ビジネス的にはけっこう発端から間違えている部分が多い気がするのですが(苦笑)、結果的には成立してしまいました。本当にありがたいことです。
――たとえばそれは『Demon’s Souls(デモンズソウル)』でも、作ってみたいものがあるのでしょうか?
原田:現在の予定にはありませんが、チャンスがあればやってみたい題材です。ぜひ“しがみつく者の指輪”を作らせていただきたいです(笑)。
――個人的には、原田さんたちが手掛けるものは、もはやゲームグッズという域は超えているような気がします。そのため、あまり勝手なことは言えませんが、多少価格が高くても商品としては成立するんじゃないかな、とも少し思います。
原田:ありがとうございます(笑)。私が大学生の頃にすごく憧れていたアクセサリーメーカーさんに、JAP工房さんというところがありまして。エイリアンやスター・ウォーズ、スポーン、MARVELモノなどで、いわゆるキャラクターリングの先駆けのようなものを素晴らしいクオリティで、2万円前後の価格で作られていたんです。
今、私が手掛けている『DARK SOULS』や『Bloodborne』のシルバーなどに、また若い方々が憧れてくれるといいなぁ、と思っているところがあるんですよ。余談ですが、私たちとJAP工房さんとは現在協業しておりまして。エイリアンの“BIGCHAP SILVER RING”などの開発にご協力いただいています。
――では、原田さんをそこまで虜にしてしまう、フロム・ソフトウェア作品の魅力とはどこにあると思いますか?
原田:まずあるのは世界設定、空気感だと思いますが……イチイチいいんですよね。全部いい(笑)。なのでどこが魅力と聞かれても難しいです。何から何まで「自分が好きなものってこれだ!」ってところにスポッと入ってくる感じがあります。ゲームデザインやセリフの1つ1つ、全部気持ちいいですね。
――最後にフロム・ソフトウェアのゲームファンのみなさんならびに、御社のファンのみなさんへ向けてひと言お願いいたします。
原田:発表がとても遅くなってしまうのは申し訳ないのですが、締切に追われて半端なものを出して「あのときこうしておけばよかったなぁ……」と後悔するよりは、やっぱり私たちが納得の行くものを、みなさんにお届けしたいと思っています。これからも、裏切らないモノづくりを追求していきたいと思っていますので、引き続きよろしくお願いいたします。
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