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レビュー:温かさと狂気の入り混じったビジュアルノベル『ghostpia シーズンワン』。2,300円でも十分なボリューム【電撃インディー#444】

セスタス原川
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最終更新

 電撃オンラインが注目するインディーゲームを紹介する電撃インディー。今回は、room6がNintendo Switchで3月23日にダウンロード版を配信した『ghostpia シーズンワン』のレビューをお届けします。

 本作は、読んで楽しむことに特化したビジュアルノベルと呼ばれる作品です。ゲームというよりは読み物に近く、ボタンやスティック操作による物語の読みやすさを重視して作られています。

 ストーリーはシーンごとの変化が激しく、少女たちの温かな会話が描かれたかと思いきや、血なまぐさい場面が描かれたりと、読んでいるプレイヤーの心に突き刺さるような内容です。

 電撃オンラインは、尖っていてオリジナリティがあったり、作り手が作りたいゲームを形にしていたりと、インディースピリットを感じるゲームをインディーゲームと呼び、愛を持ってプッシュしていきます!

不死身たちが暮らす町と不思議な少女の物語

 物語の舞台となるのは、不死身の人々が集まる幽霊の町。実際は幽霊ではなく、死んでも蘇り、夜に行動することから、自然と自分たちのことを幽霊と呼んでいます。

 そこで暮らす小夜子は、見た目は地味な女の子ですが、実はサイコパスな一面を持つ少女。周りの人が想像すらしない手段を思いつく狂った思考と、それを達成してしまう能力を持っています。

 そんな小夜子の住む町にやって来た不思議な子、ヨル。ひょんなことから小夜子は、ヨルとのルームシェアを開始します。

 友人のアーニャとパフィシカと過ごしながら、小夜子は記憶にもない故郷へ帰ることを目指します。すべては忘れていた“大事なこと”を思い出すため、止まっていた小夜子の時間が動き出します。

 ネタバレになるため詳細な部分の記述は避けますが、小夜子は町では“ニンジャ”と呼ばれており、彼女を恐れる人が多くいます。

 実際、彼女は躊躇なく人に暴力を振るうことがあります。しかし、それは理不尽なものではなく、正当防衛だったり、ある目的を達成するためだったりします。ただ、その解決に至るまでの道のりで、普通の人とは違う手段を選んでしまうだけなのです。

 ……というのが、筆者が最初に感じた小夜子への印象ですが、不死身の住人たちが暮らす、時が止まったようなこの幽霊の町では、それが異質なのかどうかすらもわかりません。実際、そんな行いをする彼女にも友人はいますし、彼女自身もそれを顔色1つ変えずに実行してしまいます。

 プレイヤーは、全く文化の異なる外国に急に放り出されたような気分。この世界で異質なのは、自分の常識なのか、小夜子の感覚なのか、最初はその世界観と自分の認識の擦り合わせをすることになるでしょう。

 それをしているうちに、徐々に本作の世界観に溶け込んでいき、気が付けば小夜子の行動に違和感を感じなくなります。その感覚はまるで洗脳を受けているかのようで、読み終えて現実に戻った際、ゾクゾクとした恐怖を感じました。

 いろいろな意味で引き込まれる小夜子の物語。彼女にはどんな過去があるのか、幽霊の町の秘密とは、謎の少女ヨルの正体とは? さまざまな謎が少しずつ明らかになっていきます。

操作性に特化したプレイではなく“読む”ゲーム

 本作はビジュアルノベルゲームで、プレイヤーが“読む”ことに特化した作品です。選択肢やQTEもなく、操作関係はプレイヤーが読むことを重視したものになっています。

 実際に読んでいて嬉しかったポイントは、スティック操作による簡単な巻き戻し。よくあるノベルゲームでは、過ぎた場面を読み直す際にはもう一度ロードし直すか、味気ないログ画面で読み返すか、どうしても面倒な作業や時間を要する作業になってしまいます。

 本作は、スティックですぐに前のシーンまでゲームを戻すことが可能。物語の世界観に入り込んでいる状態を途切れさせることなく、シーンを巻き戻して再確認することが可能です。

  • ▲含みのある表現が多いので「これは何を示しているのか?」と、読み返して確認することは何度もありました。

 物語の構成も、1話、2話とアニメのように区切られており「今日は1話分だけ読もうかな」とプレイしやすいです。1話あたりのボリュームは、さっと読み進めて30から40分程度。少しずつ読み進めたい人にも嬉しい、ちょうどいいボリューム感です。

 作中は1枚絵を中心に、漫画のコマ割りのような演出から、コマ送りのアニメーションなど、さまざまな見せ方でプレイヤーを楽しませてくれます。さらに、作中はイラストに加え、さまざまな凝った要素が物語を面白くしています。

  • ▲イラストは多種多様なコミカルな表現が満載。読むだけでなく、見ていても飽きない作りです。

 まずは、レトロ感満載の画面演出。まるでブラウン管のテレビを見ているようなグリッチやノイズが走っており、作中の町のさびれた雰囲気を、文字とイラスト以外でも表現しています。

 また、読み進めるごとにハードからの振動があり、本を1ページずつめくっているような感覚を味わえます。これにより、ボタンを押してページを進める作業感ではなく、次のページでどんな展開が待つのかワクワクする、初めて読む小説のページをめくる感覚を味わえるのです。

 物語について言及するとネタバレになるので、ここでは“ぜひ読んで欲しい”ということしか言えませんが……、読んでいるうちに、普段は我々が全く気に止めないようなことに気付かされる、そんなストーリーが展開されます。

 値段は2,300円とリーズナブルなのにも関わらず、ボリューム感や読み応えは十分。通勤通学の際、寝る前の読書代わりに、ぜひプレイしてみてはいかがでしょうか?

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