レビュー:少年とママ、涙なしには語れないアドベンチャー『RAKUEN』。新チャプター『サイトウさん』も心が温まる 【電撃インディー#441】
- 文
- まさん
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電撃オンラインが注目するインディーゲームを紹介する電撃インディー。今回は『To the Moon』の挿入歌などで知られるシンガーソングライター・鴫原ローラさんが手掛け、Nintendo Switch/Steamで配信中の『RAKUEN(ラクエン)』と、新チャプターの『Mr. Saitou(サイトウさん)』をご紹介します。
電撃オンラインでは、尖っていてオリジナリティがあったり、作り手が作りたいゲームを形にしていたりと、インディースピリットを感じるゲームをインディーゲームと呼び、愛を持ってプッシュしていきます!
日本人にとって忘れがたい災害やセンシティブなテーマをモチーフにした物語
本来であれば、すぐにゲームの話をするのですが、その前に1つだけ。本作はアドベンチャーということもあり、ストーリーに重きが置かれた作品です。
ネタバレされると面白さが半減するので、まずは何も知らずに遊んでください……と言いたいところなのですが、あえてネタバレの部分に触れることも踏まえて知っておいて欲しいことがあります。それは本作におけるモチーフ。
このゲームには、話のモチーフの1つとして“東日本大震災”を想起させる描写があります。そのほかにもセンシティブな問題に触れる部分があるのですが、序盤からそうした描写があるため、何も知らずに遊ぶとショックを受けてしまう人がいるかもしれません。
本作は翻訳も良く、プレイヤーの心に響く音楽と泣かせるストーリーが絡まり合い、優しく語る絵本のような力作です。インディーゲームは、時に重苦しいテーマや描写を美しいオブラートに包める分野でもあり、フィクションとしての癒しをもたらせるものでもあります。
辛い出来事を優しさに変換したり、あえてそのまま描くことで当事者以外にも考えるきっかけをもたらす。それもまた、インディーゲームという媒体だからできることでもあるのでしょう。
とはいえ、センシティブな部分はあくまでもモデルやモチーフとして使われているものであり、内容はファンタジーです。フィクションとしても、受け入れやすい作りになっていると思います。
入院生活を送っている少年とママの冒険。2つの世界を行き来して、人々の心に触れる『RAKUEN』
物語の主人公は、入院生活を送っている“男の子”。折り紙で折ったカブトが特徴的な少年は、ある日ママとともにお気に入りの絵本“RAKUEN”の世界へ足を踏み入れます。そこは、自分と同じ病院に入院している患者たちが絵本の世界の姿で暮らしている不思議な世界。
少年は、絵本と同じように願いを叶えてもらうため、森の守護神・モリゾラへ会いに行きます。しかし、モリゾラは眠り続けて目覚める気配はありません。守護神を起こして願いを叶えてもらうには、“森の心”と呼ばれる歌を覚えなければなりません。そのためには、困っている人を探し出して助けてあげる必要があるのです。
病院と絵本の世界。2つの世界を行き来しながら、少年は出会った人々の悩みを聞いていきます。少年が願いを叶えたとき何が起きるのか。最後まで見届けたとき、きっと温かいものが心に残る。本作は、そんなお話です。
ゲームは、オーソドックスな2D・RPG風の画面で操作するアドベンチャー。見た目はRPGですが、戦闘はありません。人々の願いを聞いて頼まれた素材を集めたり、イベントをこなしていくことで物語が進んでいきます。パズル要素もありますが、ヒントもあるので迷うことはないはず。
よくあるRPG風のアドベンチャーと大きく違うのは、ママと一緒に行動できることでしょう。少年や少女だけで冒険するゲームではなく、保護者同伴なのは珍しいパターンですね。
ママとお話するためのコマンドもあるので、積極的に話しかけると、より少年に感情移入できるかも。ママはヒントもくれるし、とても頼りになる大人です。
ツカイと呼ばれる恐ろしい存在もいますが、ママと一緒なら安心。少年とママは、力を合わせて冒険していきます。さまざまな困難を乗り越えて歌を集め、願いを叶えたときに何が起きるのか。ウィンストンさんやスー。病院の人たちが抱える悩みとは? 最後までしっかり見届けたくなるゲームです。でも、これ以上は、もうネタバレなので勘弁してください!
ちなみに、割とゆったりしたペースのゲームですが、誰もいない病院を歩く恐ろしげな場面や時間制限イベントなどもあります。とはいえ、そこまで難しくはないはず。ホラーではないものの、やや怖い場面もあって最初は戸惑うかもしれませんが……遊んで損はさせません。ママのヒントを聞きながら、最後まで頑張ってみてください!
サイトウさんとブランドンの心温まる冒険。新チャプター『サイトウさん』
Nintendo Switch版の発売と合わせて、Steamでも配信された『RAKUEN』の新チャプター『サイトウさん』。これは『RAKUEN』と同じ世界を舞台にした短編ストーリーとなっています。
プレイ時間は公式いわく3~4時間。自分はサクサク進めて1時間程度でクリアできたくらいの短編ゲームです。ストーリーも意地悪な内容ではなく心温まるお話となっており、涙なしには語れない『RAKUEN』とはまた違った味わいがあります。
Nintendo Switchの『RAKUEN:デラックスエディション』には最初から収録されていますが、Steam版では別売り。『RAKUEN』を遊ばなくても単体で楽しめる物語になっています。
とはいえ、世界観を把握するうえでも先に本編を遊んでおくのを推奨したいですね。『RAKUEN』に登場したキャラクターも出てくるので、本編を遊んでからのほうがニヤリとできるでしょう。
今回の主役は、会社員のサイトウさん。とある事故で入院していた彼は、同じ入院患者の少年・ブランドンと出会います。そして、物語は“RAKUEN”の世界へ移行します。
こちらの世界では、ラマミミズのサイトウさんが会社でこき使われていました。ウザイ同僚に絡まれ、行きたくない飲み会に参加させられる日々……そんななか、ラマミミズのサイトウさんもブランドンという子どもに出会います。
病院にいるサイトウさんとブランドン。“RAKUEN”の世界のサイトウさんたち。現実世界と同じ名前を持つ彼らが、力を合わせて洞窟を冒険する小規模だけど優しい物語が素敵です。
本編に比べると謎解きも少なく、時間制限もないのでバランスも優しめ。ヒントはあるものの、ところどころ悩みそうな『RAKUEN』とは違って、小学校の算数ができれば解けるはず。
独特なノリのキャラクターがクスっとくる話をしたり、ほんわかした優しい雰囲気は『RAKUEN』の世界そのもの。裏に重い話やテーマが見えるところもありますが、結末も含めてかなり穏やかです。
『RAKUEN』をプレイして涙が止まらなくなってしまったけど、まだまだ遊び足りたい。そんな人は、こちらを遊んでほっこりするといいですよ!
モチーフにした題材や、さまざまな苦しみや痛み。別れにまつわる描写。ハッピーではないけれど心に残り続ける絵本のように、悲しみのなかにも前向きなメッセージが込められた作品です。
美しい音楽と、穏やかで優しい世界を彩るグラフィック。インディーゲームらしい思い切った描写も含めたストーリー。それらが相まって紡がれる“RAKUEN”の物語は、きっと心に何かを残すはず。ぜひ、一度遊んでみてください。
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©Rakuen 2016-2023 Laura Shigihara
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