“東南の風”は諸葛瑾のおかげ!? 兄の言葉が孔明に閃きを与える!【三国志 英傑群像出張版#17-1】

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 三国志に造詣の深い“KOBE鉄人三国志ギャラリー”館長・岡本伸也氏による、三国志コラム。数多くの書籍が存在するなか、“民間伝承”にスポットを当てて紹介しています。



 今月も呉の人物の民間伝承を紹介したいと思います。

 今回は、“諸葛瑾(しょかつきん)”。諸葛亮(孔明)の兄です。呉の孫権に仕えて絶大な信頼を得た腹心です。

 三国志演義では蜀の劉備との間で外交官として行き来する姿しかほとんど出ないのでその人となりを知ることがあまりできませんね。史実では大将軍にまでなっています。(意外と武官)

 そんな兄弟の逸話です。

諸葛瑾が諸葛亮を助ける

 劉備軍の軍師・諸葛亮(孔明)が呉と連携し曹操に対抗する「赤壁の戦い」の際、諸葛亮の兄の諸葛瑾(しょかつきん)は呉に仕えていた。

 しかしちょうど不在で諸葛亮とは未だに会っていない。ようやく諸葛瑾が戻り、弟が「東南の風」を吹かせることに苦労していることを知り、諸葛亮のもとを訪れた。

 久々の再開に、兄弟ともに大変喜んだ。諸葛亮の部屋にある大量な書籍を見て、諸葛瑾が笑いながら「場所が変わっても、やっていることが変わらないねえ。勉強家だなあ」と話し出した。

 諸葛亮は頭を振り、「兄上、褒めないでください。私は普段勉強していないから、今となって、焦って書籍や古い資料ばかり探っているのです。」と返す。

 そして、“東の風”の予測がなかなか成功しないことを改めて説明した。

 諸葛瑾が諸葛亮の肩に手を伸ばし、「弟よ、急ぎ過ぎてかえて上手くいかない時がある。さあ、兄が絵をあげるから、暫し休んだらどうか?」と言いながら、諸葛亮の机にある紙を広げ、描き始めた。

 まず一枚目の紙に、【大きな月と月の横で踊る嫦娥(月の女神)】、二枚目の紙に、【小舟に藁の羽織と帽子の老漁師】を描いた。

 そして、一枚目の紙に追加で【嫦娥娥(月の女神)を見るなら月の宮殿へ】、二枚目の紙には【老漁師は風雨と共にいる】と書いた。

 書き終えて、筆を置きながら諸葛亮に「弟よ、昔から書籍には書籍の意味があり、絵には絵の味があるという伝えがある。これから疲れたら兄の絵をみなさい」と話しかけた。しばらく雑談して、諸葛瑾は諸葛亮の所を後にした。

 諸葛亮は兄が絵を送ったのはきっと何か考えがあるに違いないと思い、二つの絵を見ながら考え始めた。すぐには意図がわからなかったが、考え続けていると突然、閃いた。

 1つ目の絵と文の意味は、【昔の伝えでは、月に雲がかかると、翌日の正午は風が出る】、2つ目の絵と文の意味は、【老漁師が一年中船生活の為、風にも雨にも熟知している】に違いないと。

 ようやく兄の真意を悟った諸葛亮は、兄への感謝とともに、「部屋に閉じこもらず、外で見聞きするべきだ」と翌朝、さっそく川の漁場を訪ねた。魚を買いに来た諸葛亮を見て、漁場の老漁師たちが自分の箱を開け、諸葛亮に元気な魚を選ばせた。

 諸葛亮はニコニコしながら諸葛亮はこう言った「今日は悪戯好きで、優しくて、風雨を知らせてくれる魚を買いにきたんだ」。「もちろんありますよ」と老漁師の一人が声をあげ「白鰱(はくれん)、フナ、エビ、スッポン、ドジョウを探しているのでしょう?」と続ける。

 さらに昔からの言い伝えを詠え始めた。

 春、白鰱(はくれん)が活発になれば、風雨到来の前兆♪
 夏、エビが水面に出ると、午後は雨が降る♪
 秋、暴雨が来る前、フナやスッポンは泡を出す♪
 冬、夜にドジョウが激しく動けば、明け方は東風が止む♪

 言い伝えを語り終えた老漁師が、さらに続けて「これらの魚は悪戯好きで、優しく風雨を知らせてくれる」と言った。

 諸葛亮が興奮して拍手しながら、「そう、そう。その魚たちだ。ドジョウだけ買います」と答えた。

 諸葛亮は魚を買うついでに、魚場の老人たちと雑談をし始めた。「昔から、月に雲がかかると翌日の正午は風が出るというそうですが、この話を知っていますか?」と話題を投げかけた。老漁師は、「知っていますよ。その続きがあります。」と詠い始めた。

 月の周りに雲がかかると、 西風が半日吹く♪
 月が隠れると、      北風が長く吹く♪
 月影が見えると、     南風がやってくる♪
 月に雲が掛かり星がでると、東風が強く吹く♪

 「良いぞ、良いぞ!」諸葛亮は老人の話を聞いて、思わず声を上げた。その後わずかばかりの金を漁師に渡し漁場をあとにした。

 帰ってきた諸葛亮は、早速川のそばに高台(七星壇)を作るよう命じた。毎日そこで寝泊りし三食は持ってきてもらった。

 周辺の人には、「風を吹かせる儀式の為、側近以外の立入を禁じる。」と説明していたが、実は真相が周瑜にばれる事を恐れている為の偽装だったのだ。

 高台の諸葛亮は、昼間ドジョウの動きを観察し、夜は月の様子を窺っていた。ようやく風が吹く日時が推測でき、“赤壁の戦い”を大成功に導いた。

 “赤壁の戦い”のあと、多くの人は諸葛亮が高台(七星壇)で祈って天から東風を借りたと信じている。しかし兄の諸葛瑾が陰から手助けした結果とは誰も知らない。

 いかがだったでしょうか?

 この孔明が「東南の風」を吹かせた事については史実にはありませんが、三国志演義の中では呪術師・孔明として本当に風を呼びます。

 作家・吉川英治は不可思議要素を極力減らしたいためか、孔明は貿易風がこの時期吹くことを知識として知っていたとしました。

 この風について、ドジョウの動きを見て孔明が知るという民間伝承は結構複数あります。おそらく、実際漁師はそういう事を知っていたのでしょう。それと孔明の“東南の風”の話が合わさったのかもしれません。

 しかしこの話だけからすると漁師はこの時期に風が起きるとは言っておらず、ドジョウや月の様子をいくら見ても“東南の風”が吹かない時は現象もおきません。すべてが孔明や周瑜たちの計算ずくならさすがといったところですが、実はラッキーだったのかもしれませんね。

 次回は呉の武官No.1「甘寧(かんねい)」を取り上げます。

 お楽しみに!


岡本伸也:英傑群像代表。「KOBE鉄人三国志ギャラリー」館長。元「KOBE三国志ガーデン」館長。三国志や古代中華系のお仕事で20年以上活動中。三国志雑誌・コラム等執筆。三国志エンタメサイトや三国志グッズを取り扱うサイトを運営。「三国志祭」などイベント企画。漫画家「横山光輝」氏の故郷&関帝廟(関羽を祀る)のある神戸で町おこし活動中!



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