レビュー:ノベルゲーム『あの、素晴らしい  をもう一度/再装版HD』は未来の無い少女と歩むループ世界の物語【電撃インディー#455】

セスタス原川
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 電撃オンラインが注目するインディーゲームを紹介する電撃インディー。今回は、メビウスよりNintendo Switchで発売中の『あの、素晴らしい  をもう一度/再装版HD』を紹介します。

 本作は、各ルートで読んだ情報を分岐で使用して、新たな展開を発生させる独特なゲームシステムを採用したノベルゲームです。

 電撃オンラインでは、尖っていてオリジナリティがあったり、作り手が作りたいゲームを形にしていたりと、インディースピリットを感じるゲームをインディーゲームと呼び、愛を持ってプッシュしていきます!

未来のない少女と過去の無い男を待つ運命とは?

 本作のストーリーは、堕天使に立ち向かう勇者たち一行の物語。世界の脅威となる堕天使と戦ったライ、リト、フルスト、ミレイユ姫。彼らは堕天使との戦いの中で、決着をつける前に各地に散り散りに飛ばされてしまうのでした。

 目を覚ましたライには記憶がありませんでした。近くには共に戦ったという魔法使いの少女リトの姿があり、記憶の手がかりを集めるため、再び堕天使に対抗するために歩み始めます。

 しかし、リトも記憶に影響を受けていました。“くり返し病”と呼ばれる、1日ごとに記憶がリセットされてしまう状態に陥っていたのです。

 過去の無い男と、未来の無い少女。この2人の旅の終着点にはどのような結末が待っているのでしょうか?

 2人は歩みを進めます。この世界が、何度もやり直された“くり返しの世界”であることに気が付かないまま……。

 あらすじを見ていただければわかるように、本作はいわゆるループ系の物語です。ライとリトは繰り返される世界の中、それぞれの周回の中で得た手がかりを鍵として自分たちの進む道を切り開いていきます。

 今ではありがちな設定と感じる方もいるかもしれませんが、オリジナル版の発売当時はノベルゲームとして新しい概念の物語でした。今プレイしても非常に作り込まれていることがわかります。そして本作は、ただ物語を読んでいるだけでは全くストーリーは進みません。2つの機能を駆使して物語を進めていきます。

 1つ目の“ANOSシステム”は、ゲーム内でライがとあるアイテムを入手することで解放される機能。ここでは、その世界での過去の分岐点や特定の場面に瞬間的に移動できます。

 そして、もう1つの鍵となる機能が“記憶管理”。ここでは、ループする世界の壁を越えてライの記憶を別のループ世界へと持ち越せます。

 プレイヤーはこの2つを駆使して、特定の場面で別のループで得た記憶や情報を持ち越し、それを元に新たな真実と展開を見つけます。この繰り返しで1歩ずつ物語を進めていくのです。

 “記憶管理”で持ち越せる記憶は、場面ごとに1つまで。特定のタイミングでうまく記憶を切り替えて、その場の疑問に対しての確固たる証拠を提示しなければなりません。プレイしている感覚は推理ゲームに近く、ただ物語を読み進めるだけではない体験がノベルゲームとして珍しく感じました。

 少し選択肢を変えただけで得られる情報が変わるので、分岐ごとの世界を頭の中で重ねて、そこにある共通点や違和感を見つける必要があります。

 その際には、同時に異なる分岐の展開を比較する三次元的な考え方が求められるので、お世辞にも簡単とは言えないでしょう。この難題を乗り越えて先の展開を見られた際には、ノベルゲームで感じられるとは思わなかった達成感が得られました。

ループを重ねるごとに明らかになる真実

 本作を楽しんでいただく上でネタバレはクリティカルな問題になるので、ストーリーの展開については多く語れませんが「堕天使を倒してハッピーエンド!」というわけにはいかなさそうなのは、みなさん作品の雰囲気から何となく感じていただけるのではないでしょうか?

 本作は再装版HDということですが、筆者は今回が完全初プレイ。ゲーム性と物語に引き込まれてある程度プレイしたのですが、キャラクターのセリフ1つ1つに何か含みを感じる場面が多いことが印象的です。

 その伏線が後々回収された瞬間には、その真実と伏線の場面でのキャラクターの心情を想像してゾクゾクとしていましました。

 細かい部分までお伝えできないので、ここに関してはぜひプレイして物語を楽しんでいただきたいところ。先の展開と真実が気になる、でも知るのが怖い。そんな気分を味わえる物語です。

  • ▲“ANOSシステム”などの説明をしている際にはメタなセリフもあったりと遊び心も垣間見えます。ただ作業のようにゲームをしているだけでは面白くありませんよね。

 再装版HDでは、Nintendo Switch向けに操作環境が整えられており、プレイ中の各機能の使用、セーブなどは快適そのもの。年代を感じさせるタッチや演出はそのままに、プレイ面や文字の読みやすさなどに手が加えられています。

 ノベルゲームの名作と呼ばれる本作。筆者同様にまだプレイしたことがない、物語を知らない、という人にこそプレイしていただきた作品です。プレイすれば、あなたの心に何かしらの“跡”を残してくれること間違いなしですよ。

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