『ベヨネッタ オリジンズ: セレッサと迷子の悪魔』プラチナゲームズ&任天堂の開発スタッフインタビュー完全版を公開!

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 『電撃Nintendo 2023年6月号』に掲載した『ベヨネッタ オリジンズ: セレッサと迷子の悪魔』のプラチナゲームズ&任天堂によるインタビュー完全版を公開!

 “セレッサとチェシャを別々に操る独特のシステムに隠された意図”“改めて語られる魔女とダンスの関係”など、衝撃の話題がたくさん。ゲームをプレイした人は理解が深まり、まだプレイしていない人もプレイしたくなる、必見の内容です。

  • ▲プラチナゲームズ ディレクター ティナリ・アビビ氏
  • ▲プラチナゲームズ プロデューサー 田中孝治氏
  • ▲プラチナゲームズ スーパーバイジングディレクター 神谷英樹氏
  • ▲任天堂 プロデューサー 岡崎真氏

ベヨネッタの幼少期を描くのは長年の夢だった

――まずは前作『ベヨネッタ 3』に関連する質問からお願いします。前作ではロダンの店で購入した本のカギを解除すると、本作の最初のほうが少しだけ遊べるようになっていました。当時はこれがDLCなのか何なのかがわからなかったわけですが、あえて『3』で先にチラ見せしたのはなぜでしょうか

岡崎真氏(以下、敬称略):実は『ベヨネッタ 3』と本作は同時並行で開発を進めていました。同じシリーズ作品を同時に開発することはあまりないことですので、この機会をいかして、何かおもしろい仕掛けを用意してお客様に喜んでいただけないかと考え、プラチナゲームズさんにご相談したことがきっかけです。そこからこのアイデアにつながりました。まずは、やはりシリーズファンの方々に「何かあるぞ?」「新作か?」と気づいてもらって、そのあとすぐに本作を発表することで、より喜んでいただけるのではないかと考えました。

 結果的にプラチナゲームズさんの力で、具体的な企画に落とし込んでくださり、『ベヨネッタ 3』の中にすごく良い形で入れていただけました。その結果、一部のファンの方々には期待どおりの反応もしていただけたので、うれしく思います。

――前作の『ベヨネッタ 3』はシリーズ最高傑作であると感じましたが、ゲーム内容もストーリーもハードだったこともあって、本作は個人的に“癒し”的な存在になりました。その理由の1つは、ベヨネッタやジャンヌの初々しさやかわいらしさをはじめ、背景やおまけ要素など、あちこちに感じられる作品への愛情にあると思っています。本作で幼少期のセレッサを描いたり、世界を作ったりするにあたって、どんなことを心掛けましたか?

神谷英樹氏(以下、敬称略):僕には皆さんがよく知るベヨネッタという強大な魔女が、そこに至るまでにどんな境遇を生き抜いてきたのか、そのルーツを描きたいという思いがずっとありました。実は最初の『ベヨネッタ』を制作したときから、「魔女の一族から拒絶されていたはずの彼女が、どのようにして魔導術を学んだのだろうか?」といったことも含めて、これまではぼんやりとバックグラウンドをイメージしながらシナリオを書いていたんです。

 そこで、今回はストーリーの核となるテーマをティナリたちと話し合いながら、“まだ形になっていない裏に隠れた設定”もしっかりと形にすることを目指しました。今作が発表されてから「どうやったらこんなにかわいいセレッサが、あんなに大胆に大暴れをするベヨネッタになるのか?」というような声をよく聞きましたが、ずっとベヨネッタを描いてきた僕にしてみれば、『ベヨネッタ』の1作目から、彼女はずっと変わらずかわいいし、優しく慈悲深い人なので、今回のセレッサのデザインもイメージどおりでした。

 みんな初見の強烈なインパクトのせいで、ベヨネッタは“不遜で強い女”というイメージを固めてしまったと思いますが、もう一度1作目から遊びなおしていただければ、強くもあり弱くもある、人間味のある一面がちゃんとあることがわかると思いますよ。

 そんなベヨネッタのルーツとなるセレッサの“少女らしさ”の表現は、シナリオを書く際に特に細心の注意をはらっています。ちょうど身内に同年代の女の子がいたので、彼女を注意深く観察して、思春期を迎えつつある少女の危うさ、未熟さ、心の揺れ動きのようなものをセレッサのキャラクター性に反映させていきました。

――セレッサの子供っぽさは本当にうまく表現されていると思いました。ところで本作のもう1人の主人公、ぬいぐるみに憑依した悪魔のチェシャは『ベヨネッタ 3』のチェシャと同じ個体なのでしょうか? もし同じ場合『ベヨネッタ 3』のヴィオラの魔舞太刀にチェシャが宿ることになった理由は何ですか?

神谷:どうなんでしょうか。これは現段階ではユーザーの皆さんにいろいろと想像してほしいと思います。今後、その間をつなぐエピソードもちゃんと描きたいですね。

1人で2人を操る独特の操作方法について

――本作の“戦わないセレッサ”と“戦うチェシャ”という組み合わせは、企画当初から決まっていたのでしょうか?

ティナリ・アビビ氏(以下、敬称略):セレッサは戦わないものの、何らかの形で戦闘や仕掛けの突破に貢献する、ということは最初の企画草案から決まっていました。といっても、セレッサが具体的に何をしてどのように貢献するのかは、試行錯誤や数々の迷走もあって、決まるまでには何年もかかりましたね。時間や重力を操ったり、物を運んで投げたり、セレッサ自身が属性の力を使ったりするなど……試した能力はたくさんありましたが、最終的にセレッサが戦闘で主に使う能力は、敵を拘束する魔導術”イバラバインド”になりました。

 そもそもアクションゲームにおいて“敵の動きを止める”ことは非常に強い能力であって、普通はひんぱんに使わせるものではないんですね。ただ、今回は2人を同時に操作していることもあって、相性がとてもよかったです。敵を止められれば考えるべきことが1つ減り、攻撃しているチェシャともすごく連携をしているように感じるので、これをセレッサのメインのアクションにしました。

  • ▲イバラバインドは敵以外にも使える。これは次々に現れる光の玉を攻撃して解く宝箱の仕掛けだ。

――ほかに検討した能力はどうなったのですか?

ティナリ:ここに至るまでに検証してきた能力の一部は、実はまだゲームに存在しています。ただ、もっとプレイしやすくするために、最終的にはイバラバインドに統合しました。

 たとえば開発途中ではセレッサが敵を拘束する魔導術に加え、別の魔導術で敵に印(しるし)をつけて、その敵にチェシャを飛び掛からせることもできていたんですよ。しかし、セレッサの魔導術を手動でいちいち切り替えるのはかなりのストレスで、ずっとプレイしてきた僕でも、ちゃんと使いこなすことができませんでした。製品版ではこの飛び掛かる攻撃は“バインドコンボ”になりました。つまり、セレッサのつける印の代わりに、拘束した敵にチェシャが飛び掛かれる、というルールに変えたのです。

 このように楽しい“できること”を残しつつ、出し方を工夫することで、操作をなるべくシンプルにしました。

――セレッサとチェシャを別々に扱う操作に、最初は混乱した方が多いと思います。ティナリさんが最後までこの方法を貫き通せたのには、操作の楽しさに対する何らかの確信があったからと推察しますが、それは何でしょうか? またどの時点でこの操作はイケると判断されましたか。

ティナリ:2人を同時に操作するアイデアは、いろいろな体験にインスパイアされて今の形に固まっていきました。発端はおそらく、以前制作に携わっていたゲーム『スターフォックス ガード』だと思います。

 これはかなりユニークなゲームで、Wii UのソフトのなかでもWii U GamePadを一番有効に使った作品と言っても過言ではないですね。知らない方のために簡単に説明すると、Game Padの画面には自分が守っている基地の俯瞰図と配置されている“12個の防衛カメラ”が表示されています。そして、右手で画面をタッチしていつでも好きなカメラをメインに切り替えることができます。

 選択したカメラの映像はTV画面の中央に表示されて操作可能になるので、左手のスティックでカメラを動かし、レーザーを撃って基地を襲ってくるロボットを撃退。またほかの場所から襲ってくるロボットを倒すためにカメラを切り替える……という、忙しくておもしろいゲームなんです。

 この作品は開発していた当時ずっとプレイしていて、左手でスティック操作、右手でタッチ操作と、ほかのゲームでは味わったことのない感覚がありました。最初はちょっと混乱しましたが、その独特の操作に慣れたら、うまく操作できたときの達成感が大きかったんですよ。

――確かに『スターフォックス ガード』は独特の操作が楽しめましたね。

ティナリ:ええ。それとは別に、数年後にもうひとつ印象的な体験がありました。僕はシューティングゲームが好きで、『斑鳩』(トレジャー)という有名なSTGの達人プレイ動画をちょこちょこ見ていたんですよ。ある日、1人で1Pと2Pの両方の戦闘機を同時に操作してプレイする動画を見つけました。おもしろいことに、戦闘機の動きが2人で普通にプレイするときとはまったく違っていたんです。通常、2人で一緒にプレイする場合は、それぞれが自分の動かしている戦闘機に集中して、画面のあちらこちらに動きますよね。

 しかし、その動画のプレイヤーは、1人の脳で2人ぶんの操作を処理できるように、基本的に2機を近い位置に配置して、無駄のない動かし方をしていました。2機の戦闘機がまるで1機のように動き、完全にシンクロしていて、ダンスフロアを踊っているペアのように動いていたんです。それを見てシンプルに美しいと感じました。

――『斑鳩』のダブルプレイ動画は私も見たことがあります。確かに無駄のない動きに驚きますね。

ティナリ:はい。そもそも『ベヨネッタ オリジンズ: セレッサと迷子の悪魔』は、神谷の執筆したプロットとキャラクター設定から始まったプロジェクトです。

 僕の最初の仕事は、そのストーリーと合致するゲームシステムを考えることでしたが、そういった体験があったためか2人を同時に操作する遊びが頭に浮かびました。右手と左手が新しい協調動作に慣れていくなかで、2体を同時に操作する達成感が得られるという要素に加え、その“右”と“左”には個性のあるキャラクターが紐づいている。そして2人の操作をうまくできるようになると、2人が連携をとって絆が生まれたように感じるし、それが直感的にストーリーの主題にもつながる。

 これが今作の中心にあるコンセプトです。

難度を下げるための工夫とは?
(『電撃Nintendo』未公開)

――操作方法を検討するなかで、『ベヨネッタ 3』のように“勝手に戦うチェシャ”を盛り込む予定はありましたか?

ティナリ:開発中に1人の操作を完全にオートにする機能も何回か検討しました。チームに新しいスタッフが加わったときには、操作にまだ慣れていない頃に、そういった機能を提案する人がいっぱいいたんですよ(笑)。しかし、本作のコンセプトは2人を操作することで2人の絆を感じることですから、あえて1人の操作を完全に手放す機能は入れないと決断しました。その代わりに、2人を操作していることが楽しくなるようなアクションを、簡単に気持ちよく使えるように心がけています。

 たとえば、セレッサは複数の種類の魔導術が使えますが、すべて1つのボタンで繰り出すことができるんです。開発中には、メニューを開いて手動で装備中の魔導術を切り替えていた時期もあったものの、ゲームのテンポが遅くなって、魔導術を使うのがとてもうっとうしくなってしまいましたね。最終的に魔導術は選択することなくワンボタンで出せるようにして、発動する種類は対象によって決まるようにしました。

 具体的には、対象が動いているものならイバラバインドで拘束し、魔力を注ぎ込める魔界の植物ならウィッチパルスで成長させる。このように1つの対象に複数の魔導術を使う必要がないようにデザインして、プレイヤーが余計な情報で迷ったり、手間取ったりしないよう、操作をできるだけシンプルにしました。

――おっしゃるとおり、同じボタン操作でも対象によって魔導術が変わるのは便利でした。

ティナリ:このように2人の基本アクションをなるべく簡単に使えるよう努力しましたが、プレイヤーによってゲームの経験や器用さは違いますから、それだけではまだ足りないと感じました。

 より幅広いプレイヤーにこのゲームに触れていただきたいと思って、もう1つ力を入れたのは、“遊びやすさ設定”です。先ほどお伝えしたように片方のキャラクターを完全オートにする設定はないのですが、戦闘中にあせらなくて済むよう、受けるダメージを下げる、あるいは受けないようにする設定や、チェシャが強い技を出すための“魔力を無限にする”設定などがあります。

 ダメージを受けないと聞くと驚く人もいるかと思いますけれど、これには考えがあるんですよ。たとえば昔のアーケードゲームは、ゲームオーバーになるたびにコインを投入するよううながす設計でしたので、ある程度の難度は必須でした。

――そうですね。

ティナリ:そして家庭用ゲームでも、不動の人気があるいわゆる“死にゲー”などは、何回も失敗させることで成功したときの達成感をより大きくするという狙いがあるため、そのジャンルも高難度がともなうものだと思っています。

 しかし、ゲームで作れる体験の幅はもっと広く、本作の場合は何回もゲームオーバーにさせることは必須ではないと考えています。何よりもプレイヤーにはセレッサとチェシャを操作することを楽しみながら、2人の冒険の物語を体験してもらいたいので、アクションの難しさで挫折しないよう、難度をより柔軟にカスタマイズできるようにしました。

――個人的には設定を替えなくても、難度はちょうどよく感じました。難度設定に関してはどんな考えをお持ちですか?

ティナリ:ゲームのRTA(リアルタイムアタック=ゲーム開始からエンディングまでの時間を競う遊び方)の動画を見るとわかりやすいですが、プレイヤーは好きなゲームがあれば、そのなかで自らいろいろなチャレンジや縛りプレイを考えるので、やろうと思えばどんなゲームでも自分で難しくすることが可能なんです。

 しかし、アクションが得意ではないプレイヤーが、ゲームを楽しめるかどうかを決定づける”最低難度”は、開発者にしか決めることができません。そのため、僕は今回のように幅広い設定を設け、あとは自由に遊んでいただけるデザインにしました。

 そうした工夫によって、本作は“2人を操作する”テーマを維持しつつ、誰でもプレイできるようにしています。本作のコンセプトを聞くと一瞬「え? 難しそう……」と思う人もいるかもしれませんけれど、躊躇せずに触ってみていただければ、驚くほどプレイしやすく感じるはずです。そしてちょっと慣れたら自分の脳の適応力にびっくりすると思いますよ(笑)。

  • ▲魔力に関する設定項目。ガンガン攻めるチェシャにしたい場合はここを設定しよう。

――だんだん操作に慣れてきていることは実感できますね。では、難度の調整で一番苦労された点はどこですか?

ティナリ:本作は開発時の調整しだいで、簡単に戦闘の難度を上げることができました。たとえば、敵がセレッサを狙う頻度を上げれば、チェシャの操作に集中しているときにダメージを受けやすくなりますし、セレッサは少女なので、やろうと思えば一発で死ぬというルールにしても絵的に違和感はないですよね。しかし、意図的に高難度にしないほうがよいと判断しました。

 本作の調整は挫折させないことを目的にしています。これまでの『ベヨネッタ』シリーズでは、各バースをクリアするときにかかった時間や受けたダメージなどの基準でランクが付けられていましたよね。このシステムがあれば何回もゲームオーバーになるような難度にしなくても、プレイヤーはより高いランクを目指して繰り返し遊ぶことができます。

――そうでしたね。

ティナリ:このシステムは僕個人も好きですし、『ベヨネッタ』のゲームデザインにも合致していますが、本作には入れないことに決めました。なぜなら、2人の操作に慣れていないうちから「あなたのプレイはイマイチ」とゲームに言われると、挫折するプレイヤーもいると思ったからです。

 そして「セレッサの体力がギリギリだったけれど最後にチェシャが敵を倒して助けた」とか「ボスから長い間逃げ回っていたけれど最終的に勇気を出して攻撃して倒した」など、ストーリーのテーマによく合っているプレイをしたのに、ランクシステムの基準で「よくないプレイだった」と言われるのはコンセプトにそぐわないと思ったんですね。

 その結果、本作はほかの『ベヨネッタ』シリーズのタイトルとくらべて難度はかなり低めに設定しています。とはいえ、2人の操作をうまくこなせば繰り出せるカッコいいコンボや、攻撃を敵に当てたときの気持ちいいリアクションなども相変わらず入れていますので、これまでのシリーズとはちょっと違うテイストではありますが、アクションも含めて楽しんでいただければと思います。

――先ほど挫折させないとおっしゃいましたが、そのために考えたことはありますか?

ティナリ:あります。ゲームオーバー画面には、実はいろいろな種類があって、セレッサの居た場所によって変化します。ゲームオーバーになっても新しいアートや「たられば」の結末の文章が楽しめれば、ポジティブな気持ちでもう1回トライできるのではないかと考えたんです。なので、なかなかゲームオーバーにならないコアゲーマーの方は、それぞれのステージに行ってわざとやられてみてください(笑)。

チェシャの4つの属性は最初から決まっていた

――チェシャに宿る力には、火、水、石、木の4種の属性があります。開発中に属性の種類や属性の力(スキル)でボツになったものがあれば教えてください。

ティナリ:プロトタイプ段階の企画書から今の4つの属性が載っていました。しかし、具体的な能力が決まるまでには紆余曲折がありました。例を挙げていくときりがないですけれど、印象に残っているのは“石の重さ”を使う仕掛けです。当時、石霊チェシャに変身したらステージからほかの石をかき集め、体をじょじょに大きく重くしていくことができました。それで天秤のようなギミックを使うステージを考えていたのですが「なんで悪魔を操作しているのにこんなソロバンみたいな作業をしているんだろう……」という違和感があったので、最終的にはストンプして高い場所に飛ぶ“ばねキノコ”や破壊できる床など、よりダイナミックで気持ちのいい仕掛けにしました(笑)。

――チェシャが石で重くなっていくのはちょっと見たかったです(笑)。

ティナリ:このほかにも、一時は4つ以上の属性も検討していましたね。”属性の力”と言えばさまざまなアイデアがぽろぽろと出てきます。ただ、セレッサの魔導術と同様に、チェシャ側のアクションも複雑にはしたくなかったんですね。属性が5つ以上になると、その切り替えの操作やUIがどうしても複雑になってしまいます。4つに絞ったことで2人を操作するための最適な形にできたかなと。

  • ▲木の属性である木霊チェシャの能力で、橋を下そうとしているところ。

セレッサ、ジャンヌ、チェシャの性格や設定について

――セレッサは臆病で自信がなく、成人したセレッサ(ベヨネッタ)の性格とはだいぶかけ離れていて、そのギャップが楽しいと感じました。セレッサの性格設定は『ベヨネッタ』の1作目の頃から詳細に決まっていたのですか?

神谷:詳細に、というところまでは決めていませんでしたが、1作目の『ベヨネッタ』ですでに4歳前後を想定した幼女セレッサが登場しているので、その時点である程度のイメージは出来ています。今作では、そこからもう少し時間を進めて、ちょっと成長した姿を描いていますが、幼女セレッサからかけ離れない程度に自我を確立させる形で、キャラクターづくりをしていきました。

 確かに彼女は、母親を忘れることができない甘えんぼで、臆病かつ泣き虫な子供なのですが、シナリオを書くうえで心掛けたのは、その芯の部分に優しさはもちろん、好奇心、冒険心の強さや、大胆さ、そして負けん気といった、大人になったベヨネッタに受け継がれるものをちゃんと持っているところです。

 母を救う力のためなら、師匠の言いつけに反してでも、そしてたった1人でも(お気に入りのぬいぐるみは一緒ですが)不気味な森へと入っていきますし、恐ろしい化け物に襲われても最後まで絶対にあきらめません。その精神こそが、皆さんがよく知るベヨネッタらしさに繋がるものであり、アンブラの魔女としての資格を守って、彼女を物語のヒーローたらしめるのです。

 そんなことを考えながら、そこに子供らしい純真さを加えて、彼女のセリフや振る舞いを書き起こしていきました。

――本作には幼い頃のジャンヌも登場します。すでにこの時点での言動から、彼女の優秀さが垣間見えるのですが、幼い頃のセレッサとジャンヌはどのような関係だったのでしょうか?

神谷:ジャンヌもベヨネッタの物語には欠かせないキャラクターです。個人的にはむしろジャンヌのほうが好きなキャラクターかも知れません(笑)。彼女たちは幼い頃から固い絆で結ばれ、お互い親友同士でもあり、また良きライバルでもあった……というのは1作目の『ベヨネッタ』でも垣間見えるところです。

 今回はそこをさらに深堀りして、セレッサは気弱そうに見えて自由奔放で危なっかしいところがあり、お姉さん気質のジャンヌはそんなセレッサに気を揉みながらも世話焼き(?)をしていたんじゃないだろうか……と考えて、少ない出番ではありますが、そんな関係性を感じさせるような言葉を彼女のセリフに盛り込んでいきました。

 そのジャンヌが、なぜセレッサに心を許し、セレッサと同じくアンブラの魔女になることに執念を燃やしているのか? ……という深いところまではさすがに今作の中では描けなかったので、チャンスがあれば彼女のルーツもちゃんと物語にしてあげたいですね。

――楽しみにしています。そしてもう1人のキャラクター、チェシャは一見とっつきにくいようでいて、見た目がネコっぽい点や一応セレッサとちゃんと会話をする点、意外といい性格をしている点などから、魔獣のなかで一番親しみがわきました。制作スタッフ間でのチェシャ評があればお聞かせください。

岡崎:最初の魔獣らしい登場シーンも強く印象に残っているのですが、その後の物語では、ある意味セレッサの友達のような感覚で、人間味もあり、感情移入できる魔獣だなと、個人的には感じています。

田中孝治氏(以下、敬称略):今回はチェシャという魔獣を掘り下げて制作をしましたので、私としてもとても愛着のある魔獣ですね。戦っているときのチェシャは獰猛な印象ですが、やはりさまざまな所作にちりばめられているネコっぽさは、愛猫家の私にとってはたまらない要素でした。

神谷:僕はどちらかというと、ユーザーにチェシャを愛してもらえるように苦心した側なので、その観点からこだわりポイントを述べさせていただきます。僕はシナリオを考える時、“チェシャはあくまでも悪魔である”という考えを守り、そう描くように心がけました。

 具体的には“セレッサとチェシャが一緒に冒険をして、お互いに少しずつ理解を深めていっても、人間の一方的な思いでチェシャを人間側に引き寄せるのではなく、セレッサは人間として、チェシャは悪魔として、それぞれ自分の立ち位置を守ったうえで振る舞う”という僕なりのルールを決めました。

 我々人間の目線でチェシャと心が通じたように感じる瞬間があったとしても、それはあくまでも人間の尺度ではかったものであって、もしかしたらチェシャは、まったく違う概念で行動をしているのかも知れない……。でもやっぱりそれが愛おしく感じる……という、ギリギリのところを攻めました。

ティナリ:セレッサ同様にチェシャも1人の主人公として、プレイヤーに愛されてほしいとずっと思っていますが、アクションを描く際の悪魔らしさは1ミリも譲らなかったですね。敵を“がぱり”と食べて真っ赤な牙で砕いたり、猛獣のように遠くから獲物に飛びかかったり、怒るときには低く唸り声を上げたりします。

 そういった悪魔要素に加えて、ネコ要素も意図的に入れていますね。世界中の、ネコを愛する人たちはわかってくれるはずですが、ネコという存在は謎に包まれている生き物です。イヌと違ってあまり飼い主の指示を聞くわけではなく、飼い主のやってほしいことがネコのやりたいこととたまたまかぶったらラッキーなんですよ。ネコが一緒にいてくれるのも「自己利益のためなのでは?」という疑いは常に脳裏にあります。何年も一緒に暮らしたネコでも、あくまでも“別のいきもの”です。

 しかし、そういった冷たくて遠い存在だからこそ“ご飯をもらったあとなのに膝に乗ってくれる”ときとか、“アゴの下を撫でたらゴロゴロ言ってくれる”ときとか、ネコなりの愛が垣間見えたように思える瞬間があるから愛嬌があります。

――なるほど……といいますかこんなにネコ愛が深い方だとは思いませんでした(笑)。

ティナリ:同じように、チェシャはあくまでも悪魔であって、セレッサとは違う存在です。しかし、そういったキャラクターだからこそ、セレッサのことを考えて、彼女のために行動するときには特別な意味を感じられて心に響くと思います。

背景で怖がらせるよりも成長物語を味わわせたい

――背景の森は見た目が幻想的ながら、不気味さよりもキレイさを感じることが多いのですが、キレイ寄りにデザインされたのはなぜですか?

ティナリ:セレッサの成長を描くために“恐怖を乗り越える”描写には特にこだわりました。実は開発当初の森は今よりも全体的に遥かに暗い雰囲気だったんですよ。しかし、プレイしていると陰鬱な気持ちになってメリハリに欠けるように感じました。そこでちょっと軌道修正をして“遊んでいる人が怯えて進むのが怖くなる”のではなく、“この状況にいるセレッサが怯えていると納得できる”ことが大事なので、それさえ守ることができればいい、と伝えて、アートディレクターの西井を中心にアーティストたちに自由にデザインしてもらいました。

 たとえば、セレッサがティルナノーグに近づくと周りの世界がいびつな状態になります。その不気味な空間に入ったセレッサは、怯えた声を出して震えながら歩くようになりますよね。プレイヤーはセレッサの恐怖に共感はできますけれど、実際に画面に映っているのは万華鏡のような多彩な色であって、メルヘンチックでキレイな映像です。

 このようにプレイヤー自身に恐怖を感じさせたいわけではなく、本のページを見下ろしているような感覚で、セレッサとチェシャの冒険のさまざまな展開を見届けて、2人の成長の物語を体験していただきたいと思っているんです。

――そんなキレイな森を探索していると、思い出のしおりが手に入りますよね。ここに登録されていく場面は、絶景が望める場所、移動途中の1シーンなどがありますが、どういった場面を優先的に選んだのでしょうか?

ティナリ:絵本の好きなところの1つは、すべてのことを絵で伝える必要がなく、文章のなかの一番印象的な瞬間だけを描写できるところです。そのおかげで1枚1枚のイラストが本当に記憶に残るものになります。

 同じように、本作も2人が訪れるそれぞれの場所や展開が、ちゃんとプレイヤーの思い出になるようにしたいと思いました。それを実現させるために最初に考えたのは、よくあるフォトモードに代わる“絵本メーカー”という機能です。アイデアとしては、プレイヤーが気に入った場所に到着した時にその瞬間を画像にして、テキストを追加し、絵本の1ページとして保存できるイメージでした。

 いろいろな理由で今回はその仕様を実現できませんでしたが、同じような体験をしてもらうために、冒険の特定のタイミングで、プレイヤーが思い出のしおりを得られるようにしたんですよ。思い出のしおりが得られる場所については、美しい風景という基準だけではなく、冒険が終わったあとにこれまでを振り返って、なるべくストーリーの中の強い感情を呼び起こさせるような場所を選びました。

  • ▲あとでゲームを振り返ることにも使える”思い出のしおり”。

バトルでの役割分担と魔女とダンスの関係

――バトルでは、敵の足止めをするセレッサ、攻撃をするチェシャと役割がわかれています。一方でたとえば、フック付きの盾を持った敵から木属性のチェシャで盾をはがす、敵の周りを浮遊する岩のバリアを石属性チェシャのストンプで無効化するなど、属性をうまく使って戦うと楽になりますよね。

 かと思えば、属性が合っていなくてもある程度力押しで突破できるケースもあって、バトルに窮屈な印象がないのが良いなと感じました。このあたりの幅は意識されたのでしょうか?

ティナリ:本作では、プレイヤー自身に2人のキャラクターの操作をとおして成長を実感してもらうことを目指したため、ゲーム側が客観的に戦闘のうまさを評価する“ランクシステム”は導入していません。そのためさまざまなアクションは、“ランクが上がるから使う”のではなく、単純に敵のリアクションを楽しむために使っていただければと思います。

 たとえば、木霊チェシャは敵の盾を奪うだけではなく、何も持っていない敵でも、引っ張るとくるくる回転させたりできますし、石のストンプで敵をひっくり返したり、水で打ち上げて泡に閉じ込めたりすることもできます。また、セレッサは体力を回復するアイテムを調合することができますけれど、うまいプレイヤーは体力を回復する必要がないため、余っている素材でブラストカクテルを調合して、戦闘中に敵を吹っ飛ばすこともできます。

 大人のベヨネッタとくらべて、チェシャとセレッサは単体でできるアクションは少ないですが、2人のさまざまな力を組み合わせれば、敵をボコボコにする方法がたくさんあります! ゲームが発売されてから、ユーザーの方が投稿したオリジナルコンボ動画をTwitterで発見して、とてもうれしかったですね。2人の操作が上達した方には、ぜひそういった遊び方を楽しんでいただきたいです。

――スキルツリーの見た目がそのまま木になっているのがユニークです。花であるスキルはどのタイミングで開放されていくのでしょうか?

ティナリ:スキルはアヴァロンドロップやオニキスローゼスを使うと開放できますが、ストーリーの特定のタイミングではツリー自体が成長して新しい“芽”(開放可能スキル)が増えますね。ちなみに、成長は今作のコアにあるテーマなので、ゲーム中のさまざまな演出もストーリーの進行によって変わっていきます。スキルを開放する演出や、インフェルノフルーツとムーンパールを取得したときの演出も変わりますよ。ほかにも細かい変化がいろいろありますので、プレイするときにチェックしてみてくださいね。

――セレッサがスキルを修得するときに、なぜ踊る(バレエをする)のでしょうか? そもそもの話になってしまいますが、『ベヨネッタ』の世界観では、魔女とダンスに何か特別な関係がありそうなのですが、あるとすれば何でしょうか?

  • ▲森には自分の姿を写せるほどツルツルの岩や鏡があり、その前で踊るとスキルを習得できる。

神谷:『ベヨネッタ』シリーズにおける“踊り”は、単に華やかだからとか、ベヨネッタが楽しんでいるからという娯楽的な理由で描かれているものではありません。そこには設定上ちゃんと意味があるんですよ。まず、魔獣を召喚したり超人的な力を発揮したりする、“魔導術”を行使するための重要な構成要素として、“呪文”の詠唱があり、そして“踊り”があるのです。

 魔導術が高度なものになればなるほど、長い呪文と激しい踊りが必要になるわけで、逆に言えば、ベヨネッタが(エンドクレジットも含めて)踊っている時というのは、何らかの魔導術を行使しているときだと言えるでしょう。そう、たとえば “魅了(チャーム)”の魔法とか……。

 ちなみに、そもそもなぜ1作目の『ベヨネッタ』を制作する時に主人公にダンスを踊らせようと考えたのかは、記憶がありません……。

――これまでのシリーズ同様、本作のエンディング(スタッフロール)にもダンス……(今回はバレエをしていますが)があったので安心しました(笑)。これはやはり外せないポイントなのでしょうか? また本作でバレエを選んだ理由も教えてください。

神谷:バレエの歴史をたどると、その起源は15世紀のイタリアまでさかのぼるようです。そして設定上、セレッサやジャンヌが生まれたのも15世紀。バレエは、実はアンブラの魔女たちの魔導術の舞踏が発祥だったのかも……? と考えたらワクワクしませんか? 

 セレッサの衣装デザインを検討し始めたときから、“バレエ”というキーワードはすでに出ていて、実際にウィッチパルスを実装する初期段階でも、バレエをイメージした仮のアニメーションが取り入れられていました。ただ、僕はバレエにはまったくくわしくないのですけど、知人に長くバレエをしている人がいることもあって、普段から見る機会が多いんです。その程度の僕の目から見ても、仮とはいえそのアニメーションがちょっと心配になったので、「しっかりとクラシックバレエをやっているその道の人にお願いして、正しいバレリーナのモーションチャプチャーをしたほうがいい」とティナリに提案しました。

 その結果、国際コンクールのセミファイナリストにまでなられたバレエ講師の方にお願いすることになり、その生徒さん(ちょうどセレッサと同じくらいの年齢)と一緒に来ていただいてモーションチャプチャーを行いました。その関係がまるでモルガナとセレッサのようで、ゲームでもいい味わいが出たのではないかと思います。

ティナリ:神谷が謙遜をしているようですが、モーションキャプチャーのアクターになった生徒は神谷の娘さんですよ! 3歳のころからずっとバレエをしてきたそうです。おかげで僕たちが求めていた本格的なバレエのモーションを撮ることができましたが、セレッサと年齢や背格好が近いうえに、まだプロではないからこそ、セレッサが持っている子供らしさやちょっとした未熟さもちょうど持ち合わせていたんです。

最後に『ベヨネッタ』ファンへのメッセージ

――魔女見習いで少し臆病な性格のセレッサが、魔女ベヨネッタの大胆不敵な性格へと変わっていく過程には、まだまだ描かれていないエピソードがありそうです。『ベヨネッタ』シリーズのファンの皆様へのメッセージや、シリーズの今後についてのコメントがあればお願いします。

田中:正直なところ今後のシリーズ展開については何も決まっていません。ただ、今回の大事なテーマでもある絵本から連想するに、ここから本棚に新しい絵本が並んでいくような形で、セレッサという少女の成長の物語を広げていければと考えています。

岡崎:田中さんもおっしゃるように、今後の展開については、今は具体的にお話しできることはありませんが、『ベヨネッタ』シリーズの大きな魅力の1つはキャラクターだと思います。ベヨネッタ以外のキャラクターも個性が尖っていて、どのキャラクターのエピソードも、妄想がふくらみますし、個人的にも本当に展開が気になるところです。ファンの皆様の応援の声などを聞かせていただきながら、いろいろと検討していければと思っています。まずは本作をぜひ遊んでみてください!

神谷:あまり話すとティナリに怒られそうですが、「このゲームの続編があるとしたらどんなふうにしようか?」とティナリと雑談したときに、ティナリもおもしろそうなことをすでにいろいろと考えていたので、僕としてはぜひそれを実現したいと思いました。

 あとは皆さんの応援しだいですね。この作品を遊んで気に入っていただけたら、ぜひ周りの友達にもおすすめしてください。

ティナリ:本作はスピンオフ作品として、もちろん『ベヨネッタ』シリーズのファンにプレイしていただきたいですね。遊びのテイストはまったく新しいものですが、シリーズの世界やキャラクターへの深堀りができて、皆さんがよく知っているキャラクターの新しい一面を見ることもできますので、ベヨファンの方はぜひチェックしてみてください。

 なお、シリーズを知らないとプレイしづらいということは一切ありませんので『ベヨネッタ』を知らなくても今作の絵本のようなファンタジー世界や、2人を操作する遊びに興味がわいたらばぜひお試しください。無料体験版もありますよ!

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電撃Nintendo 2023年6月号

  • 発行: KADOKAWA Game Linkage
  • 発売: KADOKAWA
  • 仕様: AB判/68ページ+B2判ポスター/オールカラー
  • 発売日: 2023年4月21日
  • 特別定価: 880円(本体800円+税)

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