街を“音”でコンテンツ化するとは? 大きな可能性を秘めた『にじめぐり』キーマンに魅力を聞いてみた
- 文
- セスタス原川
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月ノ美兎、樋口楓たちをはじめとする“にじさんじ”のメンバーが現実世界に飛び出して街を実況するアプリ『にじめぐり』。2019年12月1日~12月31日の期間限定で楽しめる本アプリは、実況を聞きながら街をめぐることで、メンバーと一緒に散策している気分が味わえるだけでなく、街の新しい魅力や楽しみ方を発見できます。
この記事では、『にじめぐり』のプロデューサーであり、聖地巡礼をより楽しくするアプリ『舞台めぐり』の仕掛人でもあるソニー・ミュージックソリューションズ デジタルビジネスカンパニー DMプランニング部 安彦剛志さんにインタビューを実施。『にじめぐり』のキーとなる位置情報と音を掛け合わせたサービスを提供する理由や、その魅力について語っていただきました。
※記事内に使用しているアプリの画像は、開発中の画面のため実際のものと異なる場合があります。
『にじめぐり』でVTuberたちと街を散策したいと思ったきっかけは?
――まず『にじめぐり』がどういったアプリなのか、ご説明をお願いしてよろしいでしょうか?
安彦さん:一言で表現するなら“音で街を楽しくするアプリ”です。『舞台めぐり』を知っていらっしゃる方にもっとわかりやすく言うなら、その進化版ですね。
――具体的に、『舞台めぐり』と違うポイントはどこでしょうか?
安彦さん:具体的に異なる部分は、ミニプレイヤー方式になっているところですね。『舞台めぐり』はマップ画面を立ち上げっぱなしにしないと音が出ない仕様になっていまして……。
『にじめぐり』では、ミニプレイヤーとして音声を再生可能にすることで、スタートしてしまえばあとはスタンバイモードでポケットに入れておくだけで、勝手に場所に応じて声が聞こえてくる仕組みです。
――立ち止まって画面を見るのではなく、音を聞いて、街を見ながら歩けるようになれば、より風景を楽しむことに集中できますね。
安彦さん:そうですね。そもそも『舞台めぐり』でもSound ARを採り入れて挑戦していたのは、“街中に音を張り巡らせる”ことなんです。その部分は通底しています。『にじめぐり』でより強く意識しているのは、一見何もない街中でもキャラクターがしゃべってくれることによって「あの子たちがしゃべってくれると、この街って楽しいじゃん!」と思ってもらえるようにということ。
これを体験できるものが、僕らがSound ARと呼んでいるものなんです。現実の世界に彼・彼女たちのトークが溢れることで、ある種その世界にトリップした感覚を味わえるものを作りたいと思って始めました。
――そもそも『舞台めぐり』や『にじめぐり』の場所によって反応して音声が流れるのは、どういった仕組みで行われているのでしょうか?
安彦さん:『にじめぐり』では、位置情報のGPSと室内に設置するビーコンの2つを利用しています。大まかに、お店などのピンポイントの場所はズレないようにビーコンを、それ以外はGPSを利用していて、反応する範囲を50mや100mと決めています。
『にじめぐり』のスポットは、秋葉原と“Virtual to LIVE in 両国国技館 2019”が行われる両国にあり、あわせて20カ所以上用意しています。
――GPSを利用した際にはズレが発生することもあると思いますが、そういった問題点はどのようにクリアしているのでしょうか?
安彦さん:GPSを利用するにあたって、100mもズレていれば見える景色は変わってしまうので、そこの差分を補うために会話で工夫をしています。“この近くで話してるであろう会話”をイメージしていて、ピンポイントにここから見たあの景色がどんな形っていう細かい内容にはしていません。「~~が見えてきたよ!」「あれって〇〇じゃない!?」みたいな、あえて距離感に幅を持たせた会話を作ることで、その近辺に入ったことを楽しんでもらえるようにしています。
――なるほど。そうした形で誤差による影響をなくしていると。
安彦さん:より精度を高めるのであれば、あらゆる場所にビーコンを設置するのが一番なんですけどね。後々サービスとして展開していく際に、すべての場所に機器を設置できるわけはないよなと(笑)。
――では、やはり今後も同じようなサービスを提供する際には、基本的にはGPSを利用することになるということですね。
安彦さん:はい。ただ、そうなると今度は端末の機能差による影響も出てきてしまいますので難しいところです。どうやって全員に同じ体験をしてもらうかと考えたとき、その誤差をどこまで許容できるかを試行錯誤することになりますね。そのために今回『にじめぐり』にはアンケートなどを用意しているので、体験をしてもらった上でそのフィードバックを今後に活かそうというところです。
――収録されている会話をお聞きしましたが、自分に語り掛けてくるタイプとVTuber同士が掛け合う2つのタイプの会話がありましたよね。ここに狙いはあるのでしょうか?
安彦さん:そうですね。体験として狙っているものは大きく2つあります。1つは耳元で囁くような声を聞いて一緒に歩いてる感を味わってもらうこと。もう1つが“壁”ですね。
――“壁”ですか? どういうことでしょう?
安彦さん:これは、「自分が入っていくのではなく、その辺の壁になってキャラ同士の絡みを見ていたい!」という考え方です。キャラクターたちの会話を聞いているけど、自分は完全に赤の他人。その辺の壁になっているものとして扱ってもらいたいという思い。ただ彼ら・彼女らがワチャワチャしているのを見ていたいという気持ちです。語りかけてもらう場合と彼ら彼女らが話している会話を聞く場合。この2つをどちらも演出できるのがSound ARの強みですよね。
――では『にじめぐり』において苦労した部分はありましたか?
安彦さん:実は、そんなに苦労したかと言うとそうでもないんです。『舞台めぐり』でいっぱい苦労したので、そのおかげで『にじめぐり』に関しては苦労せずに進められているというのが正直なところですね(笑)。
ただ、こういった新しいサービスは魅力的なキャラクターたちが存在する強いIPがあって初めて認知が進む部分があります。そのようなIPのためのプラットフォームであればこれを前面に押し出して売っていくのも悪くないんですが、逆にIPが無いとなかなか広がりが作れないのも事実です。サービスとしてはIPが無いと成り立たないという形は現実かなり苦しいと思っています。
――将来的にはIPに頼らないサービスにしていきたいということでしょうか?
安彦さん:僕たちがこれから進めて行きたいものは、どちらかと言うと今のYouTubeみたいに自然にどんどんのサービスを活用しようと思うユーザーを増やして、自分たちが予想していない方向に進んで続いていく形のものです。今回は“にじさんじ”と一緒に『にじめぐり』という形でお届けしていますが、これ単発で終わらせることなく、将来的にはこれをキッカケにいろいろな業界に持っていきたいと思っているので、先を見据えた形作りを考えています。
――その目標の具体的な内容とはなんでしょう?
安彦さん:『舞台めぐり』は“現実の街の中で作品を表現すること”がテーマでしたが、『にじめぐり』はちょっと違っています。今回のテーマは“街実況”なんです。これは『にじめぐり』をお伝えする上で強く推したい部分であって、僕たちは“街実況”というジャンルを確立させたいと思っています。
街に声をあてる新ジャンル“街実況”とは?
――“街実況”ですか……。初めて聞く言葉です。
安彦さん:今では、ゲームを実況する“ゲーム実況”が流行っているじゃないですか。あれもゲームというコンテンツの中に自分の二次的な声を組み合わせることで、ゲームを見るだけの動画じゃない、新しいジャンルを作っているという部分があると思っていまして。それならば、街の中で普段は気に留めない場所にもいろいろなものがあって、その場所をあの人が解説してくれたらもっとおもしろいはず……という世界観を作りたいと考えたんです。
――最近は観光の様子を配信している人もいますよね。それを音声としてコンテンツ化させるということでしょうか?
安彦さん:まさにそれですね。どんな場所もコンテンツになる可能性があるし、人に限らずアニメなどのIPと組み合わせても悪くないと思います。ジャンルを確立できたら、ゆくゆくは今のYouTuberやインスタグラマーのように再生回数によって収益化できるようにしたりと、自動的にコンテンツが回っていくサイクルを作れるようになるかもしれません。
――その“街実況”の普及の一環として、今回は“にじさんじ”のVTuberが街に声をあてるということですね。
安彦さん:はい。今回は“にじさんじ”のVTuberさんに限っていますが、将来的には、アニメキャラクターや推しのライバーさんがアキバの街を解説してくれるとか。そうなると、その作品のファンや配信者のチャンネル登録者が「これは聞きに行かないと!」となり、街にも聞きに行ってもらうみたいな。いうなれば、クリエーターが自由にその街を実況できる場所っていうのを作っていきたいなって思っています。
――今回“にじさんじ”をアイコンとして起用した理由も関係しているのでしょうか?
安彦さん:“街実況”の先々の展開を見据えると、新しいものに興味を持ってくれる人や自分で実践しようと能動的に動いてくれそうな人たちに触れてもらいたくて。そういった人たちが多い層は一体どこなのかと考えました。そこで、こういった活力がある若い人たちが中心になっているコンテンツとして、VTuberに注目したわけです。勢いで見ても最近のコンテンツの中で伸び率は非常に高いんじゃないかなと。
――確かに。VTuberが好きな方々は常に新しいおもしろいものを発見する積極性があると思います。
安彦さん:そこに飛び込んでいる人たちであれば、僕らの狙いを理解するかどうかはともかく、まずやってみようと思ってくれるはず。そう思って、VTuberの中でもダントツで勢いを感じた“にじさんじ”に今回お声掛けしたという背景があります。
なにより、室内でこと足りてしまうコンテンツとは違って、“街実況”は外に出てもらわないと楽しんでもらえないんですよ。なので、熱量を持っている人たちにまず触れてもらう必要がある。そうしないと流行らせるのは難しいと思ったんです。
『にじめぐり』の狙いとしては、まずは新しいもの好きでVTuberを追いかけている人たちに触ってもらう。その後、新しく“街実況”に興味を持ってもらって体験してもらい、そこでの反響を集めて将来的なサービスに繋げていくことですね。
――“街実況”を活用したサービスの形などは考えているのでしょうか?
安彦さん:まだまだ構想の段階ですが、例えばアーティストが北海道でライブをやることになったとしましょう。するとファンも本人も、ライブ以外に現地観光をすることってあると思うんです。
そこで、アーティストが事前に歩いた場所に“声”を置いておいて、ファンがそれを聞きながら観光をするとか。もしこれができれば、通常の観光、本命のイベントに加えて、新しい第3の観光コースが作れますよね。
――おお、なんだか大きな可能性がありそうな話になってきましたね!
安彦さん:海外でも使えると思うんですよ。外国に旅行して、言語がわからず観光がままならないという経験をした人もいると思います。それを解決する手段にもなったりするかもしれませんよね。
一般の人が手軽に自分の声を残せるようになれば、いざその場所にいったときにイヤホンを付ければすぐにフォローしてもらえる……。そんなシステムを作れる可能性もあります。「この辺の街案内は俺に任せな!」みたいな(笑)。あくまで構想の域ですが、そんな風に旅行業界で活用してもらえたらビジネス的にも大成功ですよね。
――現在でも、音声によるナビゲートが利用されている場所はありますが、そういった部分も意識されているのでしょうか?
安彦さん:もちろん、ナビゲーションとしての有効活用もできると思っています。みなさん、博物館とかで通信機とイヤホンをレンタルして音声ナビゲートを聞いたことがあると思います。でも、今はもうみんな高性能なスマートフォンを持っている。ならばそれを使って、もっとナビゲートも新しい形に進化させられるんじゃないかと。
――なるほど、通信機を借りる代わりに、アプリをダウンロードしてそれを聞くってことでしょうか?
安彦さん:そうですね。実は、すでに活用された例がありまして、今年の夏に開催された“ソードアート・オンライン -エクスクロニクル-”で展示会用のSound ARのアプリを出しました。
今まで街という外の話をしていましたが、博物館や展示会のような屋内のイベントでも活用できる可能性もあって、場所を選ばないという点から、本当の意味で地球のどこでも活用できるサービスなのではないかと思います。
――お話を聞いていると確かに“街実況”は可能性が詰まっていると感じました。
安彦さん:もしこれがジャンルとして成立すれば、街を実況をする人、さらにそれを聞きに行く人たち、応援する人たちみたいにどんどん広がっていくはずです。何より街っていうコンテンツのポテンシャルがすごいですから。だって世界中に街はどこにでもあるんですからね。
現実を拡張して、地球をテーマパークにしたい
――そもそも“街実況”をジャンルとして確立させようと思ったキッカケはなんだったのでしょうか?
安彦さん:僕自身の根底にある目標は“地球丸ごとテーマパーク”というものです。実は最終的な目標は“街実況”も『舞台めぐり』も同じだったりします。
――“地球丸ごとテーマパーク”とは……?
安彦さん:地球上にはたくさんの場所あるけれど、見える景色って見たら終わりじゃないですか。でも、そこに音や物語、ARがあることによって、景色がより楽しめるようになるし、何もない場所でも鮮やかな景色が見えてくることもあると思うんですよ。画面の中の世界観と現実が重なる拡張現実感を利用して、まるでテーマパークに行ったかのような錯覚を感じることができる……そんな場所を地球上に作っていきたいという目標です。
『舞台めぐり』の場合は、それをアニメというIPを使っていろいろな土地に用意しているし、今回の『にじめぐり』では“にじさんじ”の子たちが自分の近くでしゃべってくれている世界観を楽しめるようになる。そういったおもしろいサービスを続けて行くと世界中がテーマパークになる……と言うとソニー的にも何かいい雰囲気しません?(笑)
――確かに響きがいい言葉ですね(笑)。意地悪な質問ですが、サービスを提供する側になっても、やはりメーカーのハードウェアを推したいという気持ちあるのでしょうか?
安彦さん:ソニーはハードウェアを作っているという面が強いですが、エンタメを提供する会社でもあるんですよ。このご時世、ただ自社のハードウェアを売るというのではなく、まずはおもしろいサービスを提供することが第一だと考えています。その上で「それをもっと楽しめるデバイスもありますよ~」というスタンスで僕らはやっています。
今回の『にじめぐり』だったら、おもしろい体験をみなさんに届けたうえで、音声を楽しみながら街を歩くならオープンイヤーのイヤホンを使ってもらうともっと楽しく過ごせるよ! とオススメしています。
――今回は“にじさんじ”とコラボしたオープンイヤーヘッドセットも販売されますよね。
安彦さん:そうなんです。今年、Bluetoothの首掛け式のものが発売されまして、そのモデルの中の1つを“にじさんじ”コラボとして発売することにしました。『にじめぐり』に行く際は、ぜひこちらも合わせて使っていただければと。
――ソニーといえばハードウェアのイメージが強いですが、今のお話でだいぶ印象が変わりました。
安彦さん:ソニーとしても、こうしてコンテンツとハードフェアをうまく組み合わせていければなと思っています。ソニーの強みは2つあって、1つはプロフェッショナルなデバイスを作って、よりコンテンツを楽しめるハードウェアを出して行けること。もう1つは、一応ワールドワイドに名が通っている会社なので、ソニーから世界的な展開も望めるということですね。
――今後の“街実況”は、どのような動きがありそうでしょうか?
安彦さん:うーん……そうですね。とりあえずそんなに遠くない将来的な目標としては、来年の流行語大賞に“街実況”がノミネートされるってことですかね(笑)。
――それはかなり大きな目標ですね!
安彦さん:でも、ゲーム実況っていうジャンルがここまで広まっているのであれば、あり得ない訳ではないと思うんですけどね。そのためにも、今回の『にじめぐり』の企画は単発で終わらせる気は全然なくて、将来的に“街実況”というジャンルが誰でも作れるようにして、ゲーム実況者に続く“街実況者”みたいなジャンルを誕生させたいと思ってます。
――最後に、読者のみなさんにメッセージをお願いします。
安彦さん:“にじさんじ”を知っている人なら、『にじめぐり』を絶対にやってください! 知らない人でも街の景色が声で変わるおもしろい体験だと感じてもらえるサービスですので、ぜひ挑戦してほしいです。このサービスは体験してみないとわからない部分もあります。きっと読んでくださった人の中にも、具体的なおもしろさがわからない人もいらっしゃると思うんですけど、体験すると一発で「なるほど!」と思ってもらえるんじゃないかと!
『にじめぐり』は12月1日からスタートして1カ月間、無料で利用できます。“にじさんじ”両国ライブのタイミングやクリスマス、コミケのタイミングなど、何かの機会にぜひ体験してもらいたいというのは率直な気持ちですね。ライブやコミケで遠征される方も多いと思いますので、遠方からの方も秋葉原と両国に立ち寄った際にはぜひお試しいただければと思います。自分の知っている街の景色が変わる様を体験してみてください。
――ありがとうございました。
※ Sound AR™ はソニー株式会社の商標です
※「舞台めぐり」は株式会社ソニー・ミュージックソリューションズの登録商標です。
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