レビュー:『Pentiment(ペンティメント)』は写本のような絵柄が魅力的。先の読めないマルチストーリーに背筋が震える!【電撃インディー#462】
- 文
- 柏又
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電撃オンラインが注目するインディーゲームを紹介する電撃インディー。今回は、Obsidian Entertainment開発、Xbox Game Studios発売のXbox Series X|S/PC(Steam)用アドベンチャーゲーム『Pentiment(ペンティメント)』をレビューします。
なお、電撃オンラインは、尖っていてオリジナリティがあったり、作り手が作りたいゲームを形にしていたりと、インディースピリットを感じるゲームをインディーゲームと呼び、愛を持ってプッシュしていきます!
Pentiment – Official Launch Trailer
手書きの写本のようなキャラが動く独特のグラフィックがすごい!
パッと見てわかる本作の特徴が手書き、とくにヨーロッパの写本を模したようなグラフィックでしょう。
上記のトレーラーを見るとわかりますが、これらのグラフィックは一枚絵ではなく、登場人物などがしっかりとしたアニメーションで動きます。
エチオピア教会の司祭は絵画のタッチがかわったり、老人だと劣化したようにかすれていたりと、細かいこだわりがすごいですね。
アニメーションパターンも、ただ歩いたり走ったりするだけではなく、畑仕事や細かい手作業のようす、はては猫や犬をなでてかわいがるなど多種多様。また、写本中の原稿や読んでいる本を背景にキャラクターが会話するシーンもあって、全体的な雰囲気がステキです。
さらに、プレイ画面は写本上の挿絵という体裁がとられていて、マップを表示したりゲームの進行を確認したりする際は、その上から別の書物が重なるように表示されるといった演出がかなり凝ってます。
現在の人が目にする中世ヨーロッパの情景といえば写本や版画で表現されたものでしょうから、それがそのまま動いて物語をつむぐというのは、リアル指向の映像表現とはまた別のおもしろさがあります。
また、個人的に本作で見逃せないところは食事描写です。本作の主人公は、昼と夜にそれぞれあちこちで食事をごちそうになるのですが、同席している人と会話しながら手元の料理から食べるものを選んでいきます。
食事中の会話は結構重要なのですが、食事を出してくれる場所によって料理のバリエーションがかなり変わってなかなか興味深いものがあります。
本作の舞台は16世紀初頭。ヨーロッパでは活版印刷が広まってきた時期ということで数年前まで紙の本の制作にかかわってきた筆者的にも興味深い時代です。
宗教改革と農民反乱の時代を描く世界背景がしぶい
1518年、神聖ローマ帝国バイエルン地方の農村タッシング。本作は、この地にあるキアサウ修道院で写本の仕事を請け負う芸術家のアンドレアス・マーラーを主人公に物語が始まります。
その前年の1517年は、マルティン・ルターが宗教改革の契機となる95か条の論題を発表します。そしてここから始まる時代の転換点の中で登場人物たちは翻弄されていきます。
本作の物語は3部構成となっていて、第2部ではルターに影響を受けたシュヴァーベン地方の農民が出した12か条の要求にならい、タッシングの住人たちが搾取側である修道院と対立する中、数年ぶりにこの地を訪れたアンドレアスが両者の間を立ち回る姿が描かれます。
そして第3部では、第2部の混乱が過去のできごとになりつつあるころ、当時子どもだった村人たちがタッシングの歴史を振り返る展開に。前の部で子どもだった人物が大人になり、結婚して新しい家庭をもうける流れがしっかり描かれていて通してプレイすると感慨深いものがあります。
また、歴史上のできごとを背景に、相反する立場の人々の姿をそのどちら側でもない芸術家のアンドレアス・マーラーの立場からプレイヤーに見せるという物語の描き方が非常に秀逸です。
物語で重要なキーワードは“宗教改革”と“ドイツ農民戦争”ですが、気になった単語や人名を手元で検索して調べられる環境で遊ぶともっと本作の世界に深く触れられると感じました。
主人公の出自で会話が変化! ロールプレイが楽しい
本作を開発するObsidian Entertainmentは、今年で創立20周年を迎える老舗で、過去には『Fallout: New Vegas』や『THE OUTER WORLDS』などを手がけています。彼らの制作するタイトルの魅力には、マルチストーリーもさることながらロールプレイ要素の強さが上げられるでしょう。
『Pentiment』の主人公は会話のなかで出自を選択することで以後の会話にそれを生かした選択肢が出てくるという、いかにもObsidian Entertainmentらしいシステムが用意されています。
ゲーム中にはフランス語やラテン語、イタリア語など複数の言語で記された書物が登場するので、選択によって読める本とそうでないものが出てくるあたりは顕著ですね。
このシステムはゲームの大筋に影響することはあまりないのですが、ゲームのリプレイ性が上がっていて、クリア後ももう一度ことなる出自で遊んでみたくなりますし、自分の選んだ主人公でプレイヤーが会話をしているというロールプレイ感を強く感じられて非常にいい感じ!
プレイヤーの推理で犯人を決めるマルチストーリーも◎
本作は3部構成という話を先にしましたが、第1部と2部の目的は殺人犯の捜査をアンドレアスが行います。捜査には期限があり、それまでに犯人と思われる人物をその証拠を見つけなくてはなりません。第1部では師であるピエロ修道士の無実を証明するため、2部では農民と修道院の衝突を避けるためにアンドレアスが走ります。
殺人の容疑のある人物は複数存在していて、彼らをより深く調べるためにはゲーム内の時間を使って捜査しなくてはなりません。設けられた期限までにすべての容疑者を調べることは不可能で、どうしてもプレイヤーの絞り込みが必要になるのです。事件について怪しい人物を調べる過程はしっかりとしたマルチストーリーになっていて、あとから別の容疑者を調べなおしてみたい欲がでてきますね。
第3部は壁画を描くにあたってタッシングとキアサウ修道院の歴史を調べていくのですが、こちらもどういった調べ方をするのか? 調査結果をどう壁画に反映させるか? という選択肢があってやり応えがあります。
歴史好きや良質のアドベンチャーを求めている人にオススメ!
ここまで紹介してきた『Pentiment』。発売から約半年後に日本語対応となりました。ストーリーや会話を楽しむには十分な翻訳で、筆者的にはかなり楽しめました。16世紀ヨーロッパの歴史に興味のある人のほか、とにかくおもしろいアドベンチャーゲームを探している人にオススメできます。
ストーリーをなぞるのではなく、登場人物の会話を通してプレイヤーの手で物語を進める手ごたえのあるタイトルとなっているのでぜひチェックしてほしいですね。
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