レビュー:『ドルドーニュ』はひと夏のおばあちゃんとの思い出が蘇る水彩画風デザインで描かれた心温まる物語【電撃インディー#463】
- 文
- セスタス原川
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電撃オンラインが注目するインディーゲームを紹介する電撃インディー。今回は、Nintendo Switch、PS5、PS4、Xbox Series X|S、Xbox One、PC(Steam)で配信中の『Dordogne(ドルドーニュ)』のレビューをお届けします。
『ドルドーニュ』は、夏休みを舞台にしたアドベンチャーゲーム。亡き祖母の家を訪れた主人公は、家の中や周辺を探索して過去の思い出に触れ、祖母と過ごした時間を思い起こしていきます。なお、本レビューはPC(Steam)版をプレイしたものになります。
なお、電撃オンラインは、尖っていてオリジナリティがあったり、作り手が作りたいゲームを形にしていたりと、インディースピリットを感じるゲームをインディーゲームと呼び、愛を持ってプッシュしていきます!
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亡き祖母との思い出を巡るアドベンチャー
本作の主人公はミミ。父と微妙な関係の生活を送るミミが、亡き祖母・ノーラの自宅を尋ねるところから始まります。
彼女の手元にあるのは祖母からミミ宛に届いた1通の手紙。彼女はそれを手がかりに、解体されてしまうという祖母の家を尋ねます。そこで蘇るのは、幼い頃に祖母と過ごした温かい日々の記憶。彼女は祖母の家で、現在と過去の記憶を行き来しながら思い出のピースを集めていきます。
ミミの家庭環境は複雑で、父と祖母の仲が悪くなり、祖母とミミはその影響で離れ離れになってしまっていました。彼女と祖母の思い出は幼い頃で止まったまま。大人になった彼女が当時を振り返ることで、幼い頃はわからなかったことに気付いていきます。
祖母とミミの関係性は、当時からずっと良かったわけではなく、初めて祖母と2人で過ごす時間の最初は口うるさい祖母に反発してばかりでした。しかし、次第にミミも祖母に対して心を開いていきます。孫と祖母の関係性に、プレイヤー自身を投影してしまう人も多いのではないでしょうか?
たまにしか会わず、ちょっと口うるさい祖母。子供ながらに面倒と思いつつ、たまに見せてくれる優しさに惹かれてしまう。みなさんそれぞれの祖母像があると思いますが、少なくとも自分とは一致するイメージで、幼い頃に帰省しては叱られていた幼少期を思い出してしまいました。
ミミの祖母も口うるさい一面はあるのですが、幼いミミを可愛がる面もたくさん見られます。そんな祖母の愛情と、無邪気に楽しむ幼いミミ。それを思い返して、現在のミミが懐かしみます。全ての要素が絡み合い、プレイヤーの心をほっこりとさせてくれますね。
しかし、その温かさがあるからこそ、過去の思い出のシーンから現代に戻る瞬間。生活感があり祖母の姿があった家から、誰もいない静かな家に戻る寂しさも倍増。この感情の揺らし幅も、プレイヤーの“胸が温かくなる”感覚を強調させることに一役買っています。
人との関わりや懐かしい思い出など、人間が本能的に求める要素を提供してくれる作品です。結果的に、ミミはノーラと過ごした当時の時間がかけがえのない時間だったことを思い出していきます。亡き祖母の想いとは。残された家族たちはどうなるのか。最後まで物語を見届けたくなります。
ゆっくり操作で物語を噛みしめながらプレイ
ゲームスタイルは、アイテムを集めることでゲームが進んでいくアドベンチャー。アイテムを集めてストーリーを進めると聞くと謎解きのようなゲーム性を想像するかもしれませんが、そういった要素は薄めです。
ゲームの進行としては、祖母との思い出のアイテムを見つけていく流れで、そこからミミの幼少期に場面が移り変わります。
操作方法は簡単なものが多く、プレイ中に困ることは無いでしょう。特徴といえば、1つ1つ丁寧な操作が必要になるのでゲームの進行ペースはゆっくりになることです。
例えば、鞄を開けるアクションの際には、1つ1つ留め具を外してから蓋を開けるといった操作が必要になります。ペンを開けるにも蓋を持ってくるくると回すアクションが求められるため、本当に自分の手でその物を触っているような感覚です。
最初はこのゆっくりなゲームスピードに慣れない部分もありましたが、ゲームをプレイするうちに本作が描く物語と、このスピード感がリンクしていることに気が付きます。
温かい思い出を1つ1つ遡るのであれば、早すぎるゲーム展開ではその感傷に浸る暇もありません。しかし、ゆったりと操作をしている間に「あの会話にはこんな意図があったのかな?」など、よりストーリーを噛みしめる時間が生まれるのです。
水彩画風のデザインをそのままフィールドに
作品の温かさを際立たせているのはストーリーだけでなく、水彩画のようなアートで描かれたビジュアルの影響もあります。
ディレクションを担当しているのはフランスのアーティストのCedric Babouche氏です。プレイして驚かされたのが、水彩画の持つ独特な曲線や奥行の表現が、そのままゲームのフィールドとして使用されていること。アナログとデジタルの融合という印象です。
プレイを進めていくと、幼少期のミミは祖母の宝物であるバインダーを譲り受けます。その後は、探索中に集めたワードを利用して詩を作ったり、撮影した写真やステッカーを貼ったりして自分のページを作成可能です。
ワードやステッカーを集めるコレクションとしてはもちろん、思い出深いシーンを記録しておく、セーブデータとは異なるもう1つの記録として保存できます。ただボタンを押して記録するのではなく、自分で文章を綴り、写真を取って作る記録は、それだけで価値を感じてしまうもの。
今ではこうして手作りの日記を付ける人は少ないかもしれませんが、こうしてゲームのコンテンツとして提示されると「やってみようかな」という気になりますね。
シナリオ、アート、機能までプレイヤーの心を包み込むような温かさのある本作。現代の言葉で言えば“エモい”と表現するのかもしれませんが、本作の温かさはその抽象的な表現で終わらせたくない、胸にじっくり染み込ませたくなる魅力があります。
ミミと同様に祖母との思い出を懐かしむ方。そうでなくても、大人になってからもたまに幼少期の輝いている記憶をふと思い出してしまう方。そういった方に、ミミとノーラの関係を見届けていただきたいです。
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