『パラノマサイト』ネタバレ全開インタビュー前編。開発も意外だった並垣人気、口ひげがあった初期の津詰警部など開発秘話も
- 文
- まさん
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古今東西のミステリー・サスペンス・ホラー系コンテンツを幅広く紹介するコーナー“まり蔵探偵事務所(まり探)”。
今回は、スクウェア・エニックスの群像ホラーミステリーADV『パラノマサイト FILE23 本所七不思議』の開発者インタビューを2回にわたってお届けします。
本作は昭和後期の墨田区を舞台に、呪いの力を得た9人の男女が“蘇りの秘術”をめぐって呪い合い、巨大な事件の真相に迫る群像ホラーミステリーADVです。
発売以降、各ダウンロードサイトで高評価。口コミでも人気が広がり続けている本作のシナリオを手がけた石山貴也氏、プロデューサーの奥州一馬氏、そして魅力的なキャラクターデザインを描いた小林元氏にインタビューを行いました。
前編では、キャラクターの裏話や小林さんがイラストを手がけた時の開発秘話などを中心に聞いてみました。なお、今回は発売からしばらくたっているということで、終盤やネタバレにも踏み込んだ内容となっています。必ず、ゲームをクリアしてから読んでください。(※インタビュー中は敬称略)
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想定を超えた大ヒット! でも、続編を出すにはまだまだ数字が足りない!?
――『パラノマサイト』の発売以降、評価が高い状態が続いています。こうしたユーザーの反応を受けて、感想をお聞かせください。やはり、ここまでヒットすることを想定されていたのでしょうか?
石山:さすがにコレを想定していたらすごいのですが、思った以上に好評でした。が、まだ数字的には大成功だと手放しで喜べる状態ではないので、『パラノマサイト』をさらに広めていけるよう引き続き皆様のご支援、ご協力をいただけるとうれしいです。
――これだけヒットしていても、数字的にはまだ大成功じゃない、と。それは、やはり価格的に安いからですか?
石山:そこはやはり、少しでも多くの人に遊んでもらえるようにするためですので。なので、もし面白いと思ったならば「安いよ! 安いからやってね!」と、どんどん広めていただけると、むせび泣くほど喜びます。
――逆に、この価格に収めるためにはかなり苦労したと思うのですが、当初からこうした低価格路線で動き出されたのでしょうか。
奥州:そうです。価格はこの値段で行きましょうと決めていたので、そこに収まるように開発のスケジュールやメンバーを決めて動き出しました。
石山:その規模に合わせてこれはやろう、これはやめようと決めていました。ボイスもそのなかの1つで、最初は検討したのですが、やっぱり今回はナシで行こうと。
――今の評判ならシリーズ化も考えておられると思いますが、現状の手ごたえとしてはシリーズ化できそうですか?
石山:それは……新しい社長にも届くように、もっと言ってください!(笑)
奥州:メンバーとしては作りたいですが、さきほど言ったように数字や今後の見通しも含め、どうしていくかという話になるので、あまり明確に言える形ではないです。
――いちユーザーである石山作品ファンの自分としても、ユーザーの反応を見てもポジティブなものがいっぱいあるので、ぜひ続編を作ってほしいです!
石山:ネタはいろいろと考えてますので、その時がきたらおまかせください!
――ちなみに、本作はジー・モードさんのフィーチャーフォンアプリ復刻プロジェクト“G-MODEアーカイブス”で展開している『探偵・癸生川凌介事件譚(以下、癸生川)』シリーズともコラボしていますよね。これは、最初から動いていたのでしょうか?
小林:けっこう早めに動いていましたよね。
奥州:そもそも、クレジットに『癸生川』シリーズの名前を載せたいという話はしていました。
石山:当時の『癸生川』シリーズが好きだった人に、まずは知ってお届けしたいという気持ちで、自分の経歴として書いてもいいですかと。そこは、あてにしていたところはあります。
奥州:たまたま『癸生川』シリーズのほうでもセールがあって、石山が対談やインタビューをするということもあり、そこがきっかけで「じゃあ、せっかくだから何かやりましょう」ということで、今回のコラボが成立しました。
――小林さんが癸生川凌介と白鷺洲伊綱のイラストを描き下ろしているのはもちろん、それが動画として動いていたのには驚きました。
石山:ふふふ、驚いたでしょう! 自分もまさか、コバゲンさんが描く癸生川が見れる日が来るなんて思ってもいませんでした。長生きはするものですね。
――あの絵が動画で動いてしまったら、もうファンとしては『癸生川』シリーズの新作もスクエニで作ってほしいと思っちゃいますよ!
石山:ですよねー!(笑) 作ってほしいですよね!そういう声は、どんどん上げていただけると何か起こるかもしれないですから言っていきましょう!
――小林さんとしては、描いてみてどうでした?
小林:最初はイラストを1枚描きましょうという話だったのですが、石山さんのほうから「パラノマのシステムがあるので、ゲームに組み込んだ形にしてみては」と言われ、同じフォーマットで絵を描く話になりました。
――コラボに出てくる癸生川探偵事務所の背景は、描き下ろしなのでしょうか。BGMも新作アレンジのように聞こえましたが……?
石山:背景に関しては、過去作で使った素材があったのでそれをお借りしています。音楽のアレンジは、過去に個人でこっそり作っていたものを流用しました。
――『パラノマサイト』の続編もほしいですし、あの絵やBGMでの『癸生川』シリーズ新作も期待したいですね。『パラノマサイト』の質問に戻りますが、本作は公式Twitterも活動的ですよね。たとえば、スキップの代わりに早送り機能を使った裏技のようなテクニックを載せていたり。
石山:すみません。スキップがないのは散々文句を言われたのですが、あれは本当に自分の判断ミスです。チャプターを細かく分けているので、そんなにスキップをしなくてもいい設計にしていたつもりでした。なので、7月に公開したパッチで早送り機能を実装しました。
――あのTwitterは、時々なかの人に石山さんが見えるような気がするのですが、広報さんが更新されているのでしょうか。
石山:あ、初期のやつは、だいたい自分が書いてます。
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――並垣祐太郎が言っていた「セール、終わっちゃうけど?」の辺りも、そういうノリを感じますね。
石山:あれはもう、コバゲンさんがノリノリで描いてくれました。
小林:並垣を出したいので、その代わり、石山さんに台詞だけは考えてくださいとお願いしています。
石山:いいですよね、並垣。彼は愛されてますよ。あいつはもう、本当にどうしようもないやつでね……(笑)。
――並垣は、最強に近い呪いを持っているのにメタ的な仕様で勝てない可哀想なキャラクターですよね。
石山:ほんと、可哀想なやつなんですよアイツ。
小林:でも、彼のルックスで買ってくれたという方もいますよ。お客さんを引っ張ってきてくれています。
石山:仕事してくれてますね、並垣のくせに。
奥州:ファンアートでも並垣を見かけることが多いのは、すごく意外でした。
石山:小物感が美味しい役どころだとは思っていたのですが、こうもみんなにイジってもらえるとは。
――並垣は美味しいキャラですよね。本来“足洗い屋敷”は最強の七不思議だと思うのですが、使いこなせない。
石山:もともと、そこら辺の町人や娘の呪いよりもダントツで足洗い屋敷は強いですからね。当たりを引いたはずなのにあのザマは、やっぱり日頃の行いが悪いせいでしょう。あいつな~。イキった真似をしなければな~。
――やはり、アレは強すぎる呪いだから並垣に渡る設定に変えたのですか? それとも、並垣というキャラクターがいたから割り振った形ですか?
石山:あ、はい。あれはもう、並垣だから渡しました。本来、葉子は“置いてけ掘”じゃなくて“足洗い屋敷”を手に入れるべきだったんですよ。そこは彼女の大失敗ですね。並垣に取られちゃって。そういう意味では並垣グッジョブなのかもですけど。
――“置いてけ堀”も、かなり強い呪いだとは思います。使い勝手がよすぎて、日常生活で「こいつ呪い殺したいな」と思った相手を心の底で呪うごっこ遊びもしやすいですよね。あと、判定条件もかなり緩め。
石山:そこは、もともとの由来と、会話劇で表現できる条件ということで、ああなりました。
――“送り拍子木”も、外で煙草を吸って100円ライターを持っている人が多い時代だからこそ、令和よりも昭和のほうが強い呪いですよね。
小林:その辺は、時代背景を知っているか知らないかでも印象が変わってくると思いますね。
――呪いと言えば、あのなかで唯一“落葉なき椎”だけは使われていませんよね。
石山:使わないです。津詰徹生警部が、呪いを使うキャラクターになりませんでした。
――そもそも、津詰警部には蘇らせたい人がいないですからね。
石山:いろいろな理由で蘇りの秘術を追う人々がいるなかで、解決するために追いかける人が必要だったので、津詰警部に登場していただきました。でも、彼も心の奥底では蘇りを望んでいたところもあったわけですよね。呪われているので。
奥州:“本所七不思議”というテーマが決まり、それを呪いの力に変換してゲームを作っていこうと言われて、最初はどういう落とし込み方をするのかなと思っていたんですよ。そこはボクも結構楽しみにしていて。
足洗い屋敷も、急に家の中に足が落ちてきて「足を洗え」というだけの七不思議じゃないですか。これをどんな力に変換するのかというところは、本当に石山節。すごくおもしろい変化をつけてくれました。
――あれだけ強い呪いなのに、並垣が勝つエンディングはないですよね。仮に並垣編のルートがあるとしたら、どうなったと思いますか?
石山:どうなるんでしょうね……。じつは、主人公の視点になるキャラクターは全部ペアで考えているんです。興家彰吾と福永葉子。マダム(志岐間春恵)とプロタン(櫂利飛太)。津詰徹生と襟尾純。逆崎約子と黒鈴ミヲ。並垣祐太郎と灯野あやめ、という組み合わせ……だったのですが、並垣編は、まあ、いいかなって(笑)。
――割と早い段階で、あやめに見捨てられてますね。
石山:そうなんですよ。これは収まらないなと思ったので、並垣は噛ませイキリ眼鏡としての役割をまっとうしてもらおうと。
小林:キャラリストの段階からも、噛ませイキリ眼鏡みたいに書いていましたね。
石山:そういう風に生まれた人なので、きちんと自分の仕事を果たしてくれてうれしいです。
小林:そのキャラ付けで、自然とあのルックスも浮かんできました。それが受け入れられているようでよかったです。
奥州:きちんとハマりましたよね。
石山:並垣はもうね、いいキャラクターですよ。よかった、よかった。
――並垣は約子にやられる場面の選択肢もいい感じですよね。彼についていかなくても、律儀に待っててくれちゃう。
石山:「余裕があるんだぜ」というところを見せて、見栄を張っているんですよ。もう、あいつはすぐ見栄を張るんだから。
――俺は負けてないぞと。
石山:「俺の方が上だぞ、上位だぞ」という態度を取りますからね。並垣は、友だちがいないんだろうなあ……。
小林:キャラの解説にあるバターごはんのエピソードもいいですよね。
石山:どこかで「バターご飯メガネ」と呼ばれていたのは笑いました。あやめと2人でいる時に、並垣はどういう態度をされていたのかを考えると、もうね、可哀想で仕方ない。きっと、すごい塩対応をされてても見栄を張っていたんでしょうね。
小林さんが描いたキャラクターの見た目や表情から、台詞が作られていった
――個性的なキャラクターが揃っていますが、小林さんが描いていて一番お気に入りのキャラクターは誰でしたか?
小林:ボクは、マダムがすごくお気に入りです。キャラクター設定を見たときに「あ、これは今まで描いたことがないタイプだ」と思いましたし、思いっきり好きな要素を入れ込んでみようかなと楽しんで描きました。
石山:マダムは影がある感じでとお願いしたせいか未亡人と言われることが多いのですが、そんなことないですからね。旦那は生きてますよ! でも、あの目つきは素晴らしいですよね。
小林:ここまで表情で演技するようなものはこれまでなかったので、全体的にすごく楽しんで描いていました。
――キャラクターの表情に独特の色気がありますよね。とくに、蔑むような女性キャラクターの顏がよくて。
奥州:とくに、そこをどうこうしたつもりはないのですが、よく言われていますね。
石山:ちゃんと見た目に合わせて台詞を書いていますからね。表情を見て、そこから言葉を作っているので、うまくマッチした感じになっているんじゃないかと。
――小林さん自身は、どのような感情を想定してマダムの表情を描かれたのでしょうか。
小林:怒っている表情はインパクトがほしいという石山さんの指示があって、ビックリするくらい怒らせました。どこでどう使われるかはイメージしづらいので、石山さんからは細かい指示をもらっています。
――女性キャラクターの顔をあそこまで崩すのか、というくらい崩しますよね。
小林:顔芸と言われるまでは思っていなかったのですが……(笑)。今回は、せっかくイラストでキャラクターを実装するということだったので、口元などもひっくるめてイラストならではの表情のおもしろさを出そう、というのはすごく意識していました。
――思い返してみると、いわゆる専用の1枚絵。スチルに関してもないですよね?
石山:本当は1枚絵も予定していたのですが間に合いませんでした。というか、スチル使っても結局目パチ口パク差分が必要になるので、だったらポーズ増やした方が汎用的でええやんってなりまして。
奥州:死体が出るシーンなど、スチルと呼ばれる1枚絵は2点だけありますね。
――あとは立ち絵の組み合わせで1枚絵のように見せている。かなり工夫されていますよね。構図に関しては、どのような指示があったのですか?
石山:その辺は『スクールガールストライカーズ(以下、スクスト)』のノウハウが生きました。こういうパターンがあれば、こういう絵が作れるなというのはだいたい想像できていたので、このポーズとこの表情をお願いしますというものをリストにして。
たとえば、今回はキャラクターが正面を向いている絵ってないんですよ。ちょっと斜めにして、かつフリップ(反転)をさせますよとお伝えしたうえでキャラクターデザインをしてもらえれば、左右と後ろ向き、横向きの組み合わせで絵が作れるなと。
これは昔僕がニンテンドーDSで作った『探偵・癸生川凌介事件譚 仮面幻影殺人事件』でも、同じことをやっていたんですけども。今回は3Dになってフィルターをかけたり、ぼかしを入れたりといったことができるようになったので、より臨場感が出ました。
開発初期に「今回作るものは『仮面幻影殺人事件』の正当進化版にしたい」とスタッフにも伝えていました。
――石山さんからのオーダーでリテイクもあったのですか? それとも、小林さんの出した指示通りに意思疎通がスムーズに行ったのでしょうか。
小林:「もうちょっとニュアンスをこうしてほしい」というリテイクはありましたが、比較的なかったですね。
石山:あまり強すぎる表情だと汎用性がなくなってしまって使いにくくなるので、ちょっと抑えてくださいとお願いして抑えてもらったのが現状です(笑)。この顏に合わせて台詞を書くとすごいことになっちゃうので、もうちょっと汎用的にしてくださいという感じで。
小林:まずオーバー目に入っていって……という感じで進めていたので、そういうのはありましたね。
――小林さんは、これまで『サガ』シリーズのDS版リメイクのようなデフォルメが効いたデザインもあれば、今回の『パラノマサイト』や『スクスト』といったリアル等身のデザインもあり、幅が広いイラストを手がけられていますよね。ご自身としては、どちらが得意なのでしょうか?
小林:もともとはけっこうリアルよりで、そこにデフォルメを加えた形でした。仕事ではアニメっぽいタッチをやることが多くて、そちらも慣れてはきたのですが、もともとの絵は今の『パラノマサイト』に近いタッチです。お仕事でやる機会はなかったのですが、今回はそこがハマりました。
――『パラノマサイト』自体、スクエニ作品のなかでも珍しいタッチですよね。ホラーなタッチは意識されたのですか?
小林:昭和っぽさをどう出すのか、というところで最終的に筆が粗めなタッチをザザっと入れたり、その辺の試行錯誤はありました。あとは、画面にフィルターをかけてノイズっぽさを出していたり、色ズレで古いテレビのような感じを出したりというのも、最初からそれを見込んだうえでのデザインです。その辺の効果もあると思います。
――ご自身で描かれた差分なども含めて、最終的にどれくらいの素材量になったのでしょうか?
小林:まず基本ポーズがあって、そこに手の差分が2種類あります。それ+専用ポーズが5種類くらいあって、あとは死体があるキャラクターや背面などがありますね。基本ポーズには表情が6種類あって、それぞれの専用ポーズにも表情があり、3パターンのアニメをして……というのがだいたい1キャラ分です。
石山:でも、そこまでフルで揃っているキャラクターは本当に1人か、2人くらいなんですよ。最大がそれくらいで、必要がない物はどんどん間引いて、できるだけ最低限のもので作っています。弓岡巧巳なんかは、もうポーズが棒立ちしかない(笑)。
小林:こちらは頑張って描いていたのですが、石山さんからは常に「素材が少ない」と言われましたね。
石山:もちろん多いに越したことはないですが、期間は限られてるので、最初に数を決めて、その中でこれだけあればこういう絵は作れる。こういうドラマを見せられる、と考えながら調整していったら、弓岡が直立ポーズだけになってしまいました。
――言われてみると、弓岡って死体のシーン以外は直立のポーズしかないですね。遊んでいるときは、まったく棒立ちだけのキャラクターという印象がなかったです。
石山:だからこその、独特の味も出たかなと思います。頑張りました。
奥州:そこはスゴイですよね。石山の演出力。
石山:『癸生川』や『スクスト』で、限られたリソースで表現するという技術は割と培われてきたので。ああいうキャラクターだったから許されたけれど、もうちょっと表情豊かなキャラクターだったらポーズが必要になっていたと思います。こいつなら、なんとかなるかなという感じだったので。
――弓岡は命までは取らないような態度を取っておきながら、最初に振り返るとおそらく撲殺してくるのも怖いですね。
石山:おっかないやつなんです。静かな男のほうが怖い。
小林:想像するとおもしろいですよね。振り返ったときの弓岡は、どんな表情や動きをしていたのか。
石山:形相を変えて殴っていたとしたら、すごく怖そう。あってもよかったかな。
――そういう意味では、途中で増やした表情やパターンもあったのですか?
石山:増やしたものもあります。たとえば、葉子さんは思ったよりも出番が多くなったからちょっと増やしました。それでも2ポーズですけども。
――水がない場所で溺死したときの顏なども独特の表現でしたよね。座り込んで溺死していて。
小林:溺死というのがハッキリあって、液体が流れているという指示がありました。それをハッキリ見せるには、ああいった感じで半分座っている形にする必要があったんです。
石山:倒れてしまっていると、下を向かないと見えないんですよ。振り向いたら見えるように座り込んだ形で、上を向いてインパクトが出るように死なせてもらえないですかとお願いしました。
――先ほど、キャラクターの見た目に合わせて台詞を作っているという話がありましたが、津詰警部は見た目とのギャップをある程度狙ったようなお茶目さがあっていいキャラですよね。
石山:いいですよね。あのオッサンは最高です。
小林:津詰警部は中身が可愛らしいオジサンなので、渋めにしました。
石山:最初は口ひげがついていたんですよ。それだと階級が1、2個上っぽい感じがしたので、取ってもらったほうがもうちょっと親しみやすくなるだろうと。
小林:最初はもう少しオジサンっぽくてスマートな感じではなかったのですが、そこはスマートにしてほしいという要望がありました。じゃあ、ダンディなカッコいい人なんだなという感じで描いています。
――ユーザーも、脳内ではイケボで再生しているだろうなと思える良キャラですね。
石山:今回のお話は、事実上津詰が主人公なんです。彼が全部の事柄に絡んで話の中心に関わっていくので、好かれるように、ちゃんと応援してもらえるように、愛着を持ってもらえるキャラクターにしなきゃと。でも、普通にこの顏で厳しい、いかついことを言っているオジサンじゃ何かおもしろくないなというところもあったので、襟尾に頑張って津詰警部をいじってもらいました。
――脅迫電話の時ですら反応がかわいいのでクスっときました。
石山:おもしろい場面ではあるのですが、ああいったシリアスな場面でふざけられるオッサンって僕はカッコいいと思って書いています。相手に自分のペースを掴ませないように人を食った態度のおじさんって、カッコいいですよね!
――最後のほうにある娘との関係もいいエピソードですよね。
石山:そうですね。そんな津詰も、負い目もある娘には、てんで不器用なところも人間味があっていいなと。津詰と根島の会話も、すごく好きなんですよ。お互いに罵り合い、皮肉っぽいことを言い合っていて、すごくいいコンビ。津詰と襟尾のコンビばかりが注目されがちですが、津詰と根島の関係もいいですよ。
――根島は、津詰警部に見つかったときも飄々ととぼけていて悪い感じが出てますよね。
石山:あそこで襟尾が根島をビビらせるのもいいですよね。この2人を敵に回しちゃった根島が少し可哀想になる。
――あのあとの「危ねッ!!馬鹿!ホントに撃つんじゃねえッ!!」も、酷いエンディングのフラグではあるのですが笑っちゃいました。
石山:「ボスが責任を取るんでオレは大丈夫です!」と本気で言ってるのか、脅しで言っているのかわからないところが襟尾ですし、だからこそ根島もビビってこいつやべえぞとなる。あの橋の上のシーンは、みんなやばいやつばかりの名シーンですね。
――いいキャラが多いですよね。もしも『パラノマサイト』の続編があるとしたら、設定的にどこに転校しても使えるミヲは出るんじゃないかと思っています。ユーザーの人気もありますよね。
石山:続編についてはまったくの未定ですが、作るとしたら、発表したときに「こう来たか!」と思えるようにはしたいです。ただ、ミヲちゃんに関してはスピンオフでも通用するくらい人気のキャラクターになると思って作ったんでね! 何かしらはね!
奥州:それ、もうずっと言ってますね(笑)。
石山:だって、ミヲちゃんは人気出ますよと言ったら、周囲にすごく白い目で見られたんだもの!
――確かに、昭和なので女子の服装や髪型が地味になりがちですから、そこまで人気が出ると思わないのもわかるかも。そうした意味でも思いきっていますね。
小林:最初に時代設定を昭和にしようと決めていたので、ファッションや髪型はその当時のトレンドを意識して描きました。石山さんとは「地味だけど、大丈夫ですかね」という話もしています。
石山:うちのアートアドバイザーが「絵がうまいから大丈夫!」と言ってくれたので、じゃあ大丈夫だ。信じよう。画力で殴ってくれ。と言ったら、ああいう表情をいっぱい描いてくれたので、大成功です。
小林:オーバーリアクションなポーズや、構図が少し大げさ目になっているのも、キャラクターデザインがおとなしめな影響があるかもしれません。
ゲームを遊んでいない時や話している時まで含めたプレイ時間の在り方
――公式の想定ではプレイ時間が10時間程度という目安ですが、これって人によってバラバラですよね。なぜ、この長さになったのでしょうか。
石山:逆に、このくらいのほうが今の世の中は勧めやすいかなと。きっと大人のゲーマーも多いと思うので、時間もないだろうし、積んでるゲームもあると思います。
50時間、60時間かかるゲームを勧められても、なかなかプレイできないよという、あなたに! なんと2,000円以下で! 10時間前後で遊べるゲームですよ! と言えば、そこに刺さる人はわりといるんじゃないかと思ったんです。
スキマ時間じゃないですけど、これだけ評判がいいゲームが2,000円。10時間以内で遊べるならやってみたくないですか。どうですか?
――ボリュームとしてはフィーチャーフォンの『癸生川』シリーズほど短くはないですけど、10時間というのはコンパクトですね。
石山:むしろ、ボリュームはもっと短いつもりで。DS版の『仮面幻影殺人事件』が7、8時間くらいだったんで、それと同じくらいの想定でした。思ったよりも長くなっちゃったんです。
ただ、ゲームのプレイ時間と満足度はそんなに比例しないじゃないですか。僕は常々、ゲームの実機上のプレイ時間は目安でしかないと思っていまして。そのゲームについて考えている時間、たとえば電車に乗っているときに「あの設定はどうなっているんだろう」と思いを馳せている時間も、そのゲームのプレイ時間と言っていいのではなかろうか!と思っています。
要は、その値段で何時間分楽しめたか。ゲームを触っていないときも、装備のことを考えたり、検索して情報を集めたりするのが楽しかったら、それもそのゲームを買ったから得られたプレイ時間だと思っているので。ほかの人の感想を見たり、配信を見たりしている時間も楽しんで、それで暮らしが少し豊かになって幸せに貢献できればいいなという感じですので、そこまで含めた価値で判断していただけますとこちらも幸せです。
⇒ネタバレ全開の後編は明日8月5日公開です!
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