アニメ映画『ぼくらの7日間戦争』緒形壮馬役の鈴木達央さんにインタビュー。物作りへの思いがにじむ
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2019年12月13日に全国公開されるアニメ映画『ぼくらの7日間戦争』。本作で緒形壮馬役を担当する鈴木達央さんのインタビューをお届けします。
本作は、宗田理さん原作のベストセラー小説『ぼくらの七日間戦争』のスピリッツを受け継いだ新たな物語。中山ひとみたちが廃工場に立てこもって大人たちをやっつけた“七日間戦争”から約30年後、令和に生きる新たな“ぼくら”の活躍を描いたオリジナルの長編アニメ映画です。
今回お届けするのは、11月20日に都内で行われた完成報告会見後のインタビューとなっています。作品の見どころだけでなく、鈴木さんの物作りに携わる姿勢などもうかがえたので、ファンの方はぜひご一読ください。
――実写版『ぼくらの七日間戦争』に対する思い入れを聞かせていただけますか?
鈴木さん:道徳の時間に教室で見たのか劇場に見に行ったのかちょっとあやふやですけど、テレビをつけると夕方とか夜のロードショーでよく流れているなという印象でした。あまりにもよく流れているから図書室で原作小説を借りたこともあって、それぐらい刷り込まれていましたね。
ガッツリと入り込んで見るというよりは、この作品よく見るんだよなという感覚だったので、宮沢りえさんが世間的に話題になっていたとかもまったく知らなくて、すごくカワイイ子が出演しているなというのが気になっているくらい(笑)。でも、地方住まいの一介の小学生が見るってそういう感覚なのかな。
あまり真似してはいけないんですけど、当時この作品がきっかけでイタズラが流行りましたね。直接先生たちに何かをするわけではないのですが、友だちと学校のゴミ捨て場にある木材を活用して裏山に秘密基地を作ったり。
後々になって「お前らが秘密基地を作っていたのは全部知っているからな?」と言われたんですけどね(笑)。いい意味で子どもの羽が伸びるきっかけになっていた映画だったなというのは当時から憶えてました。
――今回の収録に臨むにあたって、改めて実写映画を見返したりされましたか?
鈴木さん:あえてしなかったですね。やはり今回の作品とは時代背景が違いますし、それ以上に脚本読ませていただいた時に今の子どもたちのお話だなと思ったので、今の子どもたちの心情をもっとリアルに知りたいなと思いました。
例えばSNSといったものを使って当たり前のように生活しているってどういう感覚なんだろうということをリサーチしたり。あまり良いことではないですけど、実際に裏掲示板と呼ばれるものがあって、昔だったら友だち同士の間だけで終わっているような、彼・彼女たちが何かを吐き出す場所が今だと形に残ってしまう。
その痛みだったり苦しさって、どうやって知ったらいいのかな? と。どうしても若い方たちが取り入れている文化を理解するまでに時間がかかったりしてしまいますので、そちらのほうに力を入れていました。
――どちらかというと、今の若者の文化に焦点をあてて作品に参加したと。
鈴木さん:そうですね。ただ、スタジオに入る時に中山ひとみ役の宮沢りえさんをお見かけする機会がありまして、その時は「うわ~! 本物の宮沢さんだ!!」って、一瞬少年に戻りましたね(笑)。
――今回演じた緒形壮馬という役は、ややデリケートな過去を背負っていますが、そういった繊細に演じなければいけないキャラクターとどのように向き合ったのでしょうか?
鈴木さん:壮馬に関しては、逆算でいろいろ考えていきました。周りから見ると充実している、イケてる部類の子だよねと思われるのですが、ふとした瞬間に彼のまだ抜け切れていない過去を引っ張っている部分があったので、まずは彼にとって伏せておきたい過去を大事にするようにしました。
たとえば大人たちに強く出られると強く動揺し、どもってしまう。そういった小さな予期せぬリアクションに、彼が背負った過去を滲ませたかった。だから、今回は物語の中盤から遡るように考えて組み立てていきました。
決められた尺の中で、初めて見る人でも分かるように壮馬の魅力を伝えつつも、繰り返し見た時に得られる「ああ、だからこういう反応だったのかな」という発見も映画ならではの楽しみだと思っているので、いろいろな見方で楽しんでもらえるアクセントにもしたいなと。
だからまずは壮馬として持っている弱点を大きなテーマとして、その上でどうやって弱点を覆い隠そうか? とか、どうやってベールを作ろうか? それは彼にとって自分を守る殻なのか? 本当は違うのか? というところで彼と向き合い始めました。
――特に印象深かったシーンを教えていただけますか?
鈴木さん:監督さんたちが描く一点一点に彼の過去を思わせる、ポイントのところでちゃんとエッセンスを入れてくれていたので、そのコンテ割りに脱帽でした。
自分が変に入れ込まなくても、そういうのが欲しいというカットになっているので、たとえば食事のシーンで「クラスの中心で明るくて」というセリフを受けて思わず自嘲気味に笑ってしまうところもちゃんと映してくれているんです。
別の人物にフォーカスを移して大丈夫なはずなのに、あえて残していくところにもすべて連続した意味が込められていました。だから、そこに乗っかっていくことですべてが転がって行くみたいな。変な気負いもなくフィルムの中に入れました。あまり自分から作りすぎると菊田浩巳さん(音響監督)からダメ出しをもらったくらいでした。
――アフレコについてもお話を聞かせていただけますか?
鈴木さん:本作では、2日間にわたってみんなとアフレコに臨んでいましたが、それ以外に1人で収録している時間もあったんです。1人で録っている時がすごく辛かったイメージがありますね。
とくに北村(匠海)さんと芳根(京子)さんが醸し出す空気感って独特で、個性派と呼ばれる所以をまざまざと感じました。プロの声優ではなかなか出てこない空気感と言うか、流れている時間軸と言うか……。そういうものを感じることができたので、すごく大事な時間でした。1人で録っている時はリテイクしまくりでした。
――そんなに違ったんですか?
鈴木さん:もう空気感が全然違いましたね。あれは本当に悔しくて、1人での収録が終わった後に思わず「悔しかったです」と言ってしまいました。
――壮馬についても、冒頭からすごく丁寧に描かれていましたよね。
鈴木さん:そうなんですよ。ちょっとした音楽シーンとかでもちゃんと意味のある行動をみんながしてくれているから、この子ってこういう子なんだねとか、こういう意外性もあるんだねとか、もしかしたらこんなところもあるのかなというのが、実は全部見えているんですよ。
それがわざとらしく映るのではなくて、あるある! とかちょっと分かるとか、実生活にも合わせやすいシーンで見せていただいていたので、それも演技に入り込みやすいひとつの要因なのかなと思いましたね。
――壮馬というキャラクターのどういった部分に魅力を感じられましたか?
鈴木さん:明るさであったりコミュニケーション能力、輪の中に入って行きやすくするというのもひとつの魅力だと思うんですけれども、それ以上に人を受け入れられるところが一番の魅力かなと思っています。
本当に受け入れるのが早いんですよ。その割には、受け入れる前は意外と距離を持っていたり、自分で作っている壁と本来自分が持っている壁との差がすごいんですよ。
本来、彼が意識せずに持っている壁って薄いんですよ。他人との距離が近い。でも、彼自身はそういう自分が嫌いというか、過去の影響で、自分で意識して作った壁はすごく厚い。
だから、なにかひとつでも「いいな」と思ってしまうと、すぐに「お前もう仲間ね」といって自分の懐に受け入れる。そこまでの過程ではなく、結果でちゃんと受け入れてあげるのが早いというのが、彼の一番の魅力かと思いますね。
――鈴木さんご自身の物の見方や考え方というところで、壮馬と共感できるようなところはありますか?
鈴木さん:これを話していいのかどうか分からないのですが、村野監督から「そのまんま達央君だと思って描いてました」と言われました(笑)。
オーディションもあったので、村野監督のイメージにしっかりと応えられて良かったなと思っています。またそれ以上に、クリエイターとのコミュニケーションであったり、ブースの中のコミュニケーションだったりも大事にしたいなと、誰一人置いてけぼりにならないような物作りが一番いいなと思っているんですよ。
声優が担うパートというのは、物作りとしてはすごく限定的な作業になると思っているんです。その裏では、我々以上に大変な中で絵を描いてくださっている方々、本作で言えばアニメ制作の亜細亜堂をはじめ、本当に素敵なアニメーターの方たちが参加してくださっているので、そこにちゃんと投げ返せるものは、誰も置いてけぼりにせずにいくことじゃないかなと思っています。
収録した音声はフィルムに乗っていくんですけど、音としても乗らないような空気感というところを乗せるまでが、自分たちが一番クリエイトしなければいけない物なのではないかなと思っていて、そんなところは壮馬と似ているかも知れません。自分が入ったからには、なるべくいい雰囲気で仕事をしたいなんてところも似ている気がします。
――潤滑油的な存在になっていると?
鈴木さん:そうですね。今回もアフレコが始まる前に、潘めぐみさんと俺は、菊田さんとお会いする機会がありまして、その時に「できればそういう雰囲気づくりを担ってほしい」と直接言われたことはうれしかったですね。いい物を作るために力を貸してほしいとおっしゃっていただけたので。
北村さんや芳根さんも本当に魅力的で、ブースの向こう側もこちら側も、収録に携わったみんなが2人のファンになって帰るという不思議な時間が流れていましたね(笑)。本当にいい時間でした。
――潤滑油というのは主にコミュニケーションに限ったことですか? それとも、お芝居のテクニカルな部分も含めて?
鈴木さん:主に技術的なところですね。マイクワークと呼ばれるもので、多人数でアフレコしていて、演技を終えたあとに次の人が待機していたら抜けるなど。可能な限りマイクワークが起きないように動いてはいたのですが、どうしてもやらなければいけないところはありますので、そのやり方を教えたりしました。
他にも、実写とアニメの違いについてなどもあります。一番の違いは、実写であればロケーションやセットなど状況が目の前に広がっているんですね。ただアニメ収録の場合は画面の中にこそ状況は広がっているものの、実際のまわりは全部スタジオの風景なんですよ。
具体的に言うと、マイクが3~4本くらい立っていて、モニタが小さいのが3つ並んでいるくらい。大きな窓越しにスタッフに見られている状況で録っていると、ここが大自然なのかといったシチュエーションもなかなか想像しづらい。
実際にはスタジオだけど、作品ではこういった場所で、こういう感じでやっていますよと、彼らにエッセンスとして投げてしまえば絶対に演技が広がりますので、やったこととしては、ちょっとした調味料を加えることですね。
そこに何をプラスしたらフィルムの中にもっといい物が残るのであろうか? と疑問に思った時に、こうやるといいんだよという答えをそのまま言うのではなくて、こういうやり方もあると思うんです、こういう風に考えたりする時あるよね? とアドバイスする感じなんです。みんな好きな答えを出せるので、じゃあ「これでどうでしょう」という形で演技プランを固めていったりしましたね。
また、声優と俳優とでは、瞬発力的なところも違うんですよね。声優の現場ではいわゆる“気持ち待ち”はないので、「では録ります」というディレクションに対して数秒で気持ちを決めなければいけなかったりもします。
もちろん音響チームもそうした事情はわかっているので、考えている時は待ってくださったりもしますが、それが長くなってしまうとどうしても空気感が変わってしまうので、そうした時に「コレってもしかしたらこういうことかもしれないよね」という感じにみんなで支え合う。
みんなでどうやって乗り切るみたいなところのアイデアの出し合いみたいなところは、本作の収録における一番のエッセンスになっていたかも知れないですね。一言で言うとそれってコミュニケーションを取っているという言葉だけで終わっちゃうんですけど。詳しく言うと、これくらい内訳があるんです。
――声優として、今回のように場の雰囲気のコントロールをお願いされることは珍しいことなのでしょうか?
鈴木さん:人によると思いますけど、自分は言われがちですね(笑)。空気感が乗るような作品に恵まれたことも理由として大きいのかなと思っておりまして、そうした時に場作りを頼られることは、ほかの声優さんよりは多いのかなと思います。
――それはやはり鈴木さんが積んできたキャリアであったり、性格、人となりも大きいですよね。
鈴木さん:う~ん、どうなんでしょうね。たぶんキャリアとともに視野の広げ方であったり、そういった空気感も大事なんだなということ、それを現場でも体現したいなと意識を向けるようになったからかなとは思います。
作品によって違いますが、長ければ半年以上みんなで一緒にいるし、その前に合宿することもあります。そんな話を聞いたりすると、「なんてうらやましい作品だろう」と思うんですよね。その空気感って、絶対にフィルムに乗るものなんです。見ている側にしても、この出演陣は本当に仲がいいんだなって伝わるものもあるだろうし、個人的にはそういう雰囲気をすごく大事にしたいと考えています。考えてみると、そういう作品に関わることも多かったのかもしれませんね。
仲間との絆とか、仲間と何かをやるというのによく関わってきたりするので、そういったところも影響しているのかなと思ったりもしますね。ただ、久しぶりにお会いして、そういう作品を一緒にやってなかった方にいきなり「あと頼むね!」みたいに肩をたたかれると、ビックリしたりもするんですけど(笑)。
――村野監督から壮馬は鈴木さんご自身だと思って描いたというコメントがありましたが、これは声優として演じやすいのでしょうか? それともやりにくさなどあるのでしょうか?
鈴木さん:光栄であると同時に楽しく演じようと思います。今回に関してはうれしさのほうが勝っちゃいましたね。そのように思っていただけるのはすごくありがたいことです。いっそ監督ですら思いついていないような雰囲気だったりニュアンスというものを北村さんや芳根さんと一緒に作って「いや、この表現はちょっと想像していたものを超えていた」と思ってもらえるようなものを出してやろうみたいに、ちょっと野心的になっていました(笑)。
――実写映画版もご覧になっている鈴木さんから見て、本作はいかがでしたか?
鈴木さん:世代や立場によっていろいろな見方はあると思いますが、守や綾ちゃんたちに対して僕が共感できなかったら怖いなと、収録前に思ったんです。
青春時代の思い出ってその時は楽しいし、それを共有した人たちはあの時こうだったよなという語り合いができるじゃないですか。でも、他人の青春時代を見たり聞いたりして「ああそうだったんだね」って素直に喜べる瞬間って、たぶん歳を経れば経るほど少なくなっていくと思うんですよ。
他人のそういった話に聞く耳を持たないというか、「ああ、そんなこともあったんだ。へぇ」と、どこかシャットアウトしてしまう自分が多くなってきているなというのが、やはり年齢を重ねるとともに感じる機会も多くなりましたので……。
――普通に考えれば、仕方ない部分もありますよね。
鈴木さん:あたふたしながらもその子のために何とかしたいとか、面倒を見切れないから連れてきちゃったとか、そういうのって十代だからこそで、意味がないようで意味がある。
そんな理由と目的が混在しちゃって、どうなっているのかわからないという状況って、素敵だなと思うんですよね。歳を経ることで割り切って忘れてしまうようなことをすごく思い出させてくれる作品だなと。
お子さんがいらっしゃる方は、その子が幼かったら幼いだけ、一緒に見て欲しいですね。そういった物を見ることで何を感じるのかというところがすごく大きな作品です。『ぼくらの7日間戦争』って子どもたちが大人にちょっとした報復やイタズラで自分たちの主張を伝えながらも、そんな中で自分たちの何かを理解していくというひとつの成長物語だと思うので、それをすごく受け入れてあげる大人でいたいなと思いました。
――最後に、本作を楽しみにしている方へメッセージをお願いします。
鈴木さん:小学生のころに見ていた世代の方は、お子さんと一緒に見るのも楽しいのかなと思います。今回の作品を見ていただいた時に、どこか自分が日常の中に置いてけぼりにしてしまっているような、そんな感情をちょっと思い出せるような作品になっております。
時を超えたり戻ったりとか、特殊な力を持ったり異世界に行ったりとかはまったくありません。本当に素朴な子どもたちが集まって、ちょっとしたイタズラで大人に対して自分たちの主張を繰り返す。その上で、“自分たちの見たことのない自分”の姿をひとつだけつかむ。そんな映画になっています。
子どもたちには、僕たち、私たちにもそんなことがあるのかもしれないと感じ取っていただいたり、何も分からない状態で「ああ、空が綺麗」とか「絵が綺麗」とかだけでも全然いいと思うんです。
それもひとつのエンターテインメントだと思っておりますので、何かひとつ切り取っていただいて、皆さんの中に何かワクワクするような、それこそ空に昇ってゆくあの灯火のような暖かいものがポッと心に灯っていただいたらうれしいなと思っておりますので、ぜひ劇場に足を運んでいただけたら幸いです。
『ぼくらの7日間戦争』作品情報
スタッフ(敬称略)
原作:宗田理『ぼくらの七日間戦争』(角川つばさ文庫・角川文庫/KADOKAWA刊)
監督:村野佑太
脚本:大河内一楼
キャラクター原案:けーしん
キャラクターデザイン・総作画監督:清水洋
総作画監督:西岡夕樹
場面設計:関根昌之
美術監督:栗林大貴
色彩設計:広瀬いづみ
撮影監督:木村俊也
音響監督:菊田浩巳
音楽:市川淳
制作:亜細亜堂
配給:ギャガ KADOKAWA
ぼくらの7日間戦争製作委員会:KADOKAWA ギャガ 電通 ソニー・ミュージックソリューションズ グローバル・ソリューションズ 亜細亜堂 GYAO TBSラジオ ユニバーサル ミュージック 読売新聞社
キャスト(敬称略)
鈴原守:北村匠海
千代野綾:芳根京子
中山ひとみ:宮沢りえ(特別出演)
山咲香織:潘めぐみ
緒形壮馬:鈴木達央
本庄博人:大塚剛央
阿久津紗希:道井悠
マレット:小市眞琴
本多政彦:櫻井孝宏
©2019 宗田理・KADOKAWA/ぼくらの7日間戦争製作委員会
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