サブスクのApple Arcadeを選択した理由とは。育成レースゲーム『JET DRAGON』を手掛けた石井浩一氏へインタビュー

セスタス原川
公開日時

 月額600円でゲームが遊び放題のサービス“Apple Arcade”では、ドラゴンと共にレースを行う育成シミュレーションゲーム『JET DRAGON』が配信されています。

 今回は『JET DRAGON』を手掛けた株式会社グレッゾの代表・石井浩一さんにメールインタビューを行いました。石井さんは、以前までスクウェア・エニックスで『ファイナルファンタジー』シリーズや『聖剣伝説』を手掛けてきたゲームクリエイターです。

 インタビューでは、サブスクでの配信を決めた経緯やゲームのオススメの進め方などについて語っています。“Apple Arcade”に登録すれば課金も不要で誰でもすぐに遊べるので、ぜひ石井さんのお話を参考にゲームをプレイしてみてください。

『JET DRAGON』の開発経緯。サブスク配信のメリットは?

――『JET DRAGON』開発の経緯をお聞かせください。

石井さん:ドラゴンに乗って速さを競うスタイリッシュなエアレース、という題材を中心とした、ドラゴン育成シミュレーションを作ろうというのが企画の始まりでした。

 その後、社内で小チームを組織してレース部のデザインからスタート。当初は2Dキャラクターを使って、サイドビュー、4~6人までの通信対戦前提で基礎設計を行い、これならレース自体が面白くなりそうだ、という手応えを感じるプロトタイプを約1年半かけて作り上げました。

 弊社は開発会社ですから、そのプロトタイプを基に、プロデュースまたはプラットフォームを提供してくださる相手先を探すこととなります。Apple Arcadeと出会うまで更に1年。その間、並行して社内ではレースの3D化や、ドラゴン育成、チーム運営要素などの肉付け、シナリオと背景世界の設計等を進めていました。

 そして提供がApple Arcadeに決まって改めてスタンドアローンタイプのレースドラゴン育成シミュレーションゲームとして再企画化、本格的に開発を開始してそこから更に2年、現在の形の『JET DRAGON』の形に落ち着けたというわけです。

――本作の制作においてインスピレーションを受けたモノや作品、社会的流行はありますか?

石井さん:RED BULLのエアレース・ワールドチャンピオンシップ(2003-2019)です。

――本作はApple Arcadeでの配信ですが、この配信方法のメリットを教えてください。

石井さん:Apple Arcadeは、Appleより提供される定額ゲームサービスです。月額600円のサブスクリプション登録を行うことで、オリジナルタイトルを含む200余りのゲームを追加課金なしですべてプレイすることができます。本作『JET DRAGON』も、このApple Arcadeオリジナルタイトルになります。

 本作は、新規性の高い、悪く言えば耳馴染みの薄いゲームデザインであるからこそ、気軽に試遊してもらったうえで、気に入った人には遊び続けてもらえるようなゲームにしたい、という開発意図が根底にありました。

 そのためには、基本無料の運営型アプリにするか、サブスクリプションの契約範囲で、追加課金なく遊べる(今回Grezzoが選択した)Apple Arcadeのような配信形式が望ましかったわけです。

 前者の課題については主に次の質問で答えますが、それとは別に、後者、Apple Arcadeでの配信にはこのゲームにとって非常に相性の良いメリットがありました。それは、月額契約さえしていただいていれば、本作のように遊び始めるのに若干の敷居の高さを感じるゲームであっても、基本無料の運営アプリと同様にとりあえず触ってみることができます。

 同時に以降の追加課金がないことで、合わなければ気軽にやめることもできます。気軽にやめられるからこそ、より気軽に始められる、これは、実は十分な市場性を持ったサブスクリプションスタイルの隠れた強力なメリットだと考えます。

 そして運営型アプリとは異なり、最新の運営要素を追い続けなければならないという圧のようなものも薄く、ユーザーのペースで遊びやすいという点、ちゃんと満足感の伴った“終わり”のあるゲームを作りやすいという点も、『JET DRAGON』にとっては大きなメリットだと考えています。

――配信形式の都合で本作は課金要素が撤廃されていますが、それによるゲームシステムの影響はありますか?

石井さん:“運営型のゲーム(アプリ)としてリリースを行うならば、半月程度のサイクルで1~2体、新しい個性を持ったキャラクターの追加は必須、その観点からも、ドラゴンだけのレースではなく、様々なモンスターを主役とした、『モンスターレース』として作り直すべきではないか”と、これは各所にプロデュースを相談している際に親身にご助言いただいた話で、運営経験のないGrezzoとしても、それはとても納得感のある話でした。

 ただその一方で、そのように量産可能なモンスターを題材として、果たしてそれまでプロトタイピングで用意してきたレースの微妙な駆け引き(これは、ドラゴンの種族的な特徴とスキルのかみ合わせによってバランスされるゲームデザインです)要素が活かせるだろうか。

 仮に作り直すとして、それは、ユーザー視点でモンスター同士を戦わせるバトルのゲームより魅力的だろうか。レースというレギュレーション内で、増え続けるモンスターと競うことに納得感はあるだろうか。そして開発の原点に立ち返って、Grezzoは、自信を持ってそれをユーザーに届けられるものにできるだろうか。

 以上のような理由から、本作は根幹のゲームデザインゆえ課金要素やそれに伴う拡張には不向きで、それがためにApple Arcadeを公開する場として選択したという経緯となります。

――Twitterなどでは英語で情報発信をするなどグローバルなプロモーションが見られます。本作のターゲット層となる地域、年齢などはどこでしょうか?

石井さん:本作はApple Arcadeのサービスが提供されているすべての国で、なるべくストレスなく遊んでもらいたいと考えております。

 ただ一方で、この『JET DRAGON』の世界観に入ってもらうため、またシミュレーションゲームとしてのルールの説明には、言語による説明が不可欠でもあります。

 そのため、ゲーム内の言語は17ヶ国語に対応、ゲーム外の情報発信では、さすがに随時全言語対応を行うのは時間的問題より厳しいため、プレイヤー人口が多く、かつ、翻訳機能により情報が適切に伝わりやすい英語発信を行うこととなりました。

 プレイヤーターゲットとしては、一応10代後半から50代(あるいはそれ以上)のゲーム好きを想定してはいますが、実はこれらのデモグラ(性別・年齢等の人口統計学的な属性)については、それほど重視はしていません。それよりも、独自性のあるファンタジー世界感と、ドラゴンという魅力的な架空生物に関心を寄せてくださる層に刺さることを強く意識しました。

 そのため、ゲーム内のレースでは簡単なアクション操作が求められますが、これは体験としてより深くゲーム内に入り込んでもらうための措置であり、アクション要素自体はごく簡単なものにとどめ、性別・年齢を問わず楽しめるようなデザインを心がけました。参考までに。開発内で本作すべてのレースを最も多くプレイし、調整を担当したのは50代後半のおじいちゃん開発者です。

優勝を目指すための育成・レースのコツは?

――ゲームを進めていくとレースを勝つのが難しくなりますが、育成のコツはありますか?

石井さん:大前提として、まずはドラゴンのレベルをあげ、スタミナ、速度といったパラメータを訓練で十分に高めましょう。

 次に、ドラゴンの能力が頭打ちと感じたら、次はライダーの能力に目を向けることも大切です。エレノアやケミのレベルやパラメータを上げることはもちろん、ライバルライダーたちも、雇用できるようになったら積極的に雇用して育成、レースの状況に応じて出走してもらいましょう。

 例えば、カーニャ。彼女の固有アビリティ“ナビゲーター”は、悪天候や夕方・夜間のレースではとても強力に働きます。こうした強力なアビリティを活かすため、同じクラスのレースでもあっても“勝てる”状況のレースを待つ、ということも重要な戦略となります。

 そして最後に、このゲームの育成には、“交配”によって強いドラゴンを作り出すことも含まれています。成長レベル上限が高いドラゴンを作り出したり、あるいは複数の有用なスキルを備えたドラゴン、特定状況で一時的に性能を高めるアビリティを備えたドラゴンなど、色々な面から“強い”ドラゴンを作り出してみてください。

――複数のドラゴンを同時に育成できますが、1体を万全に育てる方法、数種類を育ててシチュエーションで使い分ける方法、どちらがゲームを進めやすいですか?

石井さん:究極は1体の最強ドラゴンを育成することが目標にはなりますが、多くの場合、レースコースとの相性や、ライバルの特徴との相性が勝敗を分けることが多いでしょう。

 頂点を決めるGPに出走登録できるのは1体のみですから、複数体のドラゴンを使い分けるチーム運営を行いつつ、その中で最も自分にとって戦いやすい、勝ちやすいドラゴン(と、ライダー)を見つけ出しましょう。

――本作は1周するだけではなく何度も繰り返し遊べますが、周回することによるゲーム内のメリットはありますか? 最初の1周でゲームクリア(GPレース優勝)は難しいでしょうか?

石井さん:本作には、いわゆる、強くてニューゲーム的な要素はありません。何シーズンも重ねて、じっくり、強いドラゴンを作り上げて、Master GPの制覇を目指してください。

――育成要素も多く、レースも環境に応じた違いなど、かなり遊び甲斐のあるボリュームです。

石井さん:ありがとうございます。今後のバージョンアップでは、追加シナリオ(GP制覇後の物語)と、それに向けた強いドラゴンたちの活躍しがいのある、伝説的なドラゴン・ライダーたちとのチャレンジレースの追加などを予定しております。その後もシナリオやコンテンツの追加を予定しておりますので、長く遊んでいただければ幸いです。

――最後に読者に向けてメッセージをお願いします。

石井さん:本作はドラゴンレースをテーマにしていますが、ドラゴンの交配と育成、チームの運営を行うシミュレーションゲームです。

 繰り返しになりますが、レースにはアクション要素はあるものの、移動等の操作はなく、レースゲームでいうところのドリフト・ニトロを使うタイミングでボタンを使うだけの簡単な遊びになっています。

 「レースゲームが苦手だな」「ドラゴン育成やレースには興味あるんだけどな」という人にも、ぜひプレイしてみていただきたいですね。よろしくお願いいたします。

© 2023 GREZZO Co.,Ltd. All rights reserved.

本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります

関連する記事一覧はこちら