『カリギュラ』山中拓也氏によるお悩み相談企画。ゲームのキャラに“行き過ぎた愛情”を抱いたとき
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- 電撃PlayStation
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『カリギュラ』シリーズなどを手がけてきた若手ゲームクリエイター・山中拓也氏。そんな山中氏によるお悩み相談企画“山中拓也のゲームセラピー”の第1回をお届けします。
山中拓也氏 プロフィール
代表作『カリギュラ』シリーズでは企画・シナリオ原案・ディレクター・プロデューサー等を務めているゲームクリエイター。学生時代は心理学を専攻し、心理士資格を取得している異色のクリエイター。本企画では読者の多彩なお悩みに対して、ゲームの知識と心理学、両方からアプローチしていく。
第1回:“他人の恋愛を楽しむ”という経験
はじめまして、山中拓也と申します。普段はゲームを作ったり、脚本を書いたりしております。
この度、電撃オンラインにて“皆様からのお悩み相談を頂戴して、悩みに答えつつ、オススメのゲームを提案する”という謎の企画をすることになりました。昨年夏にフリーランスとして活動を始めたのですが、僕が会社員の時代から電撃の担当さんが積極的に推してくれていた企画です。まぁ、ちょっと何言ってるかわからないとは思いますが、僕もよくわかってないのでまずやってみましょう。
では今回扱うお悩みはこちら。
私は現在、とあるソーシャルゲームのキャラクター(女性、仮にAとします)に対して複雑な心境を抱いています。Aがほかの女性キャラクターと絡むとその絡まれたキャラクターに嫉妬してしまうのです。明らかに推しを超越したような感情であり、自分でも引いています。
また、主人公(性別が選べる)にも嫉妬し、もうログインもできていない状況です。そして、Aを影から見守りたいという感情とその嫉妬が同居し、適切な精神的距離を保てずにいます。どうすればこの苦しみから解放されるのでしょうか。 ご回答の程よろしくお願いします。
(うなたまさん 女性 22歳)
うなたまさん、ありがとうございます。一発目からとっても深刻なお悩みで、内心焦っています。
しかし、うなたまさんのお気持ちを想像するとかなり辛い状態なんですよ。とても共感されづらい悩みです。話す相手によっては冗談かと思われたり、うわべだけの「わかる~」に傷ついたり、誰に明かしたら理解してもらえるのかがとても難しい話です。
「人によって地獄の形は違う」なんてセリフを作品で言わせたことがありますが、まさしく。こういう頓痴気な企画だからこそ、明かせる悩みなのかなと思うと早くも存在意義を感じ始めています。
さて、「自分でも引く」と仰っているように、うなたまさんのAちゃんに対する想いは、若干行き過ぎた愛情かもしれません。
仮に同じことを現実でやると、蛇蝎(だかつ)のごとく嫌われますよね。相手とすり合わせもせずに、自分の価値観の尺度を押し付けるというのは、コミュニケーションの地雷です。Wikipediaの地雷のページに載ってそうなくらいお手本の地雷です。うなたまさんは賢いので、それがわかっているからこそ悩まれているのだと推測します。
しかし、そういった感情を自由にぶつけることができるのは、創作物の良さでもあります。
ボーカロイドコンポーザーのピノキオピーさんの作品に“君が生きてなくてよかった”という楽曲があります。初音ミクという存在自体に宛てた曲で、「君は変な声で 奇妙な見た目で 時に気持ち悪いと言われてきた でも心臓が動いてないから 傷つくことはなかった」というちょっとビックリする歌詞から始まります。あらゆる誹謗中傷も、世間からの数奇な目も、初音ミクが生きていない存在、つまり“キャラクター”だからこそ傷つかなかった、と。
もし彼女が人間だったら悲しんでいたかもしれない、と。キャラクターを“生きていない”と、あえて切り離すことの優しさみたいなものを感じませんか。
さて、ちょっと厳しい話をすると、うなたまさんの好きなAちゃんも生きていません。だからこそ、うなたまさんが自分でも引いてしまう程の感情とうまく付き合ってくれるAちゃんを想像しても良いのです。
僕はAちゃんがどんな子か知らないので、もしかすると「そんな子じゃない!」と仰るかもしれません。
しかし逆に言えば、そんな子じゃないAちゃんが「そうなる」過程とストーリーを想像してもいいのです。Aちゃんへの想いが強いうなたまさんなら、できるんじゃないでしょうか。愛を抑えるのではなくより膨らませてしまうことで、うなたまさんもAちゃんも幸福な世界を創れるのではないでしょうか。
いくらでも想像で拡張できるのが創作物のメリット。そこのメリットを手放すのはオタクライフで育て上げたせっかくの想像力が勿体無いとは思いませんか。愛の対象は二次元。三次元にはできない自由な関係を築いたって良いのです。
もし、他人に「Aちゃんはそんなこといわない!」と文句を言われても気にしないでください。先に言ったように、生きた人間に自分の価値観の尺度を押し付けるのはコミュニケーションの地雷です。もちろんうなたまさんも、その方の思うAちゃんを否定しないことが大前提のルールですからね!
僕は普段キャラクターを作る側の人間です。もちろん創作物だと感じさせないような、生きた人間を作るつもりで書いています。しかし産み出された彼らの生き様を見て、受け取った方がどう感じ、どう生活の糧にしていくかまでを強制するつもりは一切ありません。
創った人間にも、「こう思え!」という権利はなく、どう感じるのも受け手の自由なのです。だからうなたまさんのように思い悩むことを「間違っている!」ということはできません。
ただ、その中でも出来ることならば、忘れないで欲しいのは、この世のあらゆる創作物は、あなたのためにあるということ。どんな形でも、あなたの生活をよりよく幸福にするために使ってくれるといいなぁと思っています。というか祈っています。これはきっと、うなたまさんがプレイするソーシャルゲームを作った方たちもそう思っているのではないかなぁと思っています。
どんな出来事も“生きていない”からぶつからない。“生きていない”からどんなことも乗り越えて一緒にいられる。そう歌っているように僕は感じました。
これは二次元や、機械との付き合い方に対する本質をついた思考だと感じました。素晴らしい曲なので、一度聴いてみていただきたい。
さてさて、うなたまさんにオススメのゲームですが、『ファイアーエムブレムif』でいきたいと思います。別に『覚醒』でも、『聖戦の系譜』でもいいのですが、遊びやすさを重視してこちら。
今回着目したのはうなたまさんの“Aがほかの女性キャラクターと絡むとその絡まれたキャラクターに嫉妬してしまうのです。”という一文。Aちゃん以外のキャラクターで、“他人の恋愛を楽しむ”という経験をしてはどうかと思いました。
『ファイアーエムブレムif』では“結婚システム”というものが存在するのです。もちろん本編も最高に面白いのですが、こちらがまたオツなものでして。簡単に言うと、仲間キャラクターの男女を好きにくっつけることができるという画期的なシステムなのです。
現実でも“あの男子とあの女子、お似合いかも”とか“あの2人付き合ったら絶対面白いのになぁ”みたいなこと思いませんか? しかし、現実でなんとかなるのは自分のことだけ。
そこが『ファイアーエムブレムif』では(ほぼ)自由なのです! このゲームならではの遊びが本当に楽しい……自分事じゃないからこそワクワクしてドキドキして、ヒューヒューとなるのです。意外な組み合わせだからこそできる化学反応を見たときに、「名采配!」と自分を褒めたくなってしまいます。
この楽しさを経験した上で、Aちゃんに絡んでくるキャラクターのことを考えてみてください。そのキャラクターが接するからこそ出てくるAちゃんの化学反応が浮かんできませんか? そういう一面も最高じゃないですか? 嫉妬してしまう? ノーノー、先程言ったとおりあなたの中のAちゃんの心情はあなたの想像通りです。都合の悪いことは起きません。そのキャラクターすらあなたの世界の名脇役にして、より素敵な生活を送れるはずです。
さて、久々にそのゲームログインしてみませんか。少し寂しそうに俯く女の子が、パッと顔を上げて表情を和らげる……そんな瞬間が見られるはずです。
“山中拓也のゲームセラピー”では、お悩みを随時受付中!
本お悩み相談企画は、月1回を目処に更新していきます。お悩みの投稿は随時受け付けておりますので、下記よりご投稿ください。なお、次回掲載分までの受付は、5月21日(火)23:59まで。ぜひご投稿ください。
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