電撃オンライン

感想:『豚のレバーは加熱しろ』って、どういうこと? そう思って原作小説を読んでみたらそこは沼地でした

ハチ
公開日時
最終更新

 現在、アニメ絶賛放送中の『豚のレバーは加熱しろ』。ここでは原作の小説『豚のレバーは加熱しろ』の感想をお届けします。

『豚のレバーは加熱しろ』とは?

 『豚のレバーは加熱しろ』は、第26回電撃小説大賞《金賞》を受賞した作品で、10月からテレビアニメの放送がスタートしました。著者は逆井卓馬さん、イラストは遠坂あさぎさんが担当しています。現在は8巻まで発売中です。

 この物語は、豚のレバーを生で食べたことで豚になってしまったメガネヒョロガリクソ童貞(自称)が、異世界で人の心を読むことができる天使のような少女・ジェスに出会うところから始まる、豚転生ファンタジーです。

豚に転生する作品がこれまであっただろうか……いや、ない!

 アニメ視聴に備えて読んでみたのですが、異世界転生もの、ということで、読み始める前は最強になるのかな? イケメンになるのかな? と思っていました。表紙の絵柄もカワイイですし、きっと女の子もたくさん出てきてハーレムになるんだろうなぁ……などと考えていたあの頃。「このかわいい豚は……ペット?」とか「豚のレバーは加熱しろ、ってどういうこと?」という疑問はありましたが(笑)。

 読み始めてまず驚いたのが、主人公が豚だったこと。イケメンでもなく、最強でもなく、モテ男でもなく、豚だったんです。しかも、何か超能力があるわけでも、身体能力が高いわけでもない……つぶらな瞳が素敵な豚さんです。そんな転生ものは初めてだったので、なんだか新鮮でした。

 豚になった経緯は生で豚のレバーを食べたからとのことですが、食中毒のリスクがあってかなり危険! 一体どこで食べたんでしょう……。つまりこのタイトル『豚のレバーは加熱しろ』は主人公からの注意喚起なのかな?

 人間だったときはメガネヒョロガリクソ童貞だったらしく、口調もめちゃめちゃオタク。平成のオタクである私としてはなんの違和感もないですし、懐かしさすら感じました(笑)。豚はどちらかというと令和のオタクではなく、平成のオタクという印象ですね! 令和のオタクって見た目も口調もオタクっぽさがないというか、みんなおしゃれでびっくりしませんか⁉ なんならオタクであることがプラスなような気さえしますよね。いい時代になったなぁ(しみじみ)。
 
●動画:松岡禎丞×楠木ともり『豚のレバーは加熱しろ』PV【電撃小説大賞《金賞》】

 そんな豚が出会ったのは、全オタク男子たちの理想をすべて詰め込んだような美少女・ジェス。美しい金髪とカワイイ顔、そして天使のような優しさを持ち合わせているんです。ジェスは人の心の声が聞こえる“イェスマ”という種族だそうで、領主の小間使いをしているらしい……こんな美少女に豚小屋の掃除をさせるなんて、一体どんな人なんでしょうか。でもそのおかげで豚は助かったので、よかったのかな? ナイス領主!

 ジェスは豚の「豚のよだれでベタベタにしたい」とか「スカートを短くしてほしいブヒブヒ」だとかの考えをわかってしまうのですが、それすら受け止めてくれるんです。それは優しいのか、はたまた小間使いとしてそれすら許容できるほどいろいろなことがあって、気にならないのか……。あまり自分の気持ちは語らないので、ジェスのことはなんだかミステリアスな女の子だなぁと思いました。優しいしマジ天使だけど、実際は何を考えているか掴めない女の子ですね。

 ちなみに、豚のセリフは括弧で括られているので、アニメ以上にビジュアル的にわかりやすかったです。この演出は小説ならではですよね。アニメの松岡さんたちの熱演を聞きながら小説を読むのも楽しいです。

 豚自身の気持ちもたくさん書かれているので、感情移入しまくりです。細かく感情や気持ちを読み込めるのは、小説のいい所。セリフだけでももちろん物語はわかるのですが、人の気持ちは他人にはわからないものなので、細かい描写を文字で読むことができるのがいいなと感じます。

 そういえばジェスは豚のことを“豚さん”と呼んでいますし、豚自身は自分のことを“メガネヒョロガリクソ童貞”と呼ぶので、じつは名前がわからないんです。主人公の名前がわからない作品って珍しいですよね。キャラクター紹介でも“豚”となっているので、本当の名前が分かる日がくるといいなぁ。きっとめちゃめちゃ普通な……あれ、でも、豚が日本人であるとも限らないし、漢字は違うけど本名が“ぶた”の可能性も拭えないのでは? う~ん、気になります。

豚と美少女の一人一豚五脚? な旅

 2人は豚を人間に戻すべく王都へ行くことになるのですが、表紙や冒頭の雰囲気から、勝手にほんわかした旅をするんだろうなと思っていました。ですが……人々から“イェスマ”への差別とも取れる扱いや、“イェスマ狩り”に命を狙われたり。あれれ、なんだかものすごく深い物語ではないですか⁉ 豚が異世界転生した世界は、平和な場所ではないのかもしれませんね。

 そんな世界であるにも関わらずジェスは人を信じやすく、本当に優しいんです。はじめはあまりの優しさに「もしかして裏があるんじゃないか」と(心が穢れている)私は思ったのですが、その本性はマジ天使でした。疑ってごめんねジェス! なにかアクシデントが起こった時には豚が頭脳と知識で助けてあげるのですが、どんどん豚がイケメン……ならぬイケトンに見えてくるから不思議。中身はオタクだし、見た目も豚なのに!

 もちろん、豚とジェスのほのぼのとした場面もたくさんあるのでほっこり。ですが、それだけじゃないのが『豚レバ』の魅力! 物語が進んでいくとジェス以外のイェスマが登場したり、世界の謎が深まったり、イケメンが現れて豚が大ピンチになったりと、さまざまな展開が待ち受けています。

 それは、楽しいことばかりではありませんが、それをジェスと豚がどう乗り越えていくのかをぜひ読んでいただきたい! はじめはなんで主人公が豚なの? と思っていましたが、もし主人公がただの豚でなければ、こんなに楽しくて切なくて楽しいけどつらいこの物語になっていなかったと思います。

 強いヒーローだったら……と思う場面もありましたが、自分の持つ知識を精一杯活かして頑張るただの豚をどんどん好きになっていき、豚が豚であることが大事なんだと感じる物語でした。これが沼か……。引っ張り込む力がすごいです。

 豚とジェスはずっと一緒にいられるのか……アニメを見て面白い! と思ったら原作で続きをぜひ。ここでは語れない、衝撃の展開もあります。

(C)Takuma Sakai 2020

本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります

関連する記事一覧はこちら