【ひきこまり吸血姫の悶々×豚のレバーは加熱しろ】原作者が語る互いの作品の魅力と共通点。プライベートではあの有名お菓子を送る仲!?【対談・前編】

セスタス原川
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 現在、アニメ放送中の『ひきこまり吸血姫の悶々』と『豚のレバーは加熱しろ』。『ひきこまり吸血姫の悶々』原作者の小林湖底先生と『豚のレバーは加熱しろ』の原作者である逆井卓馬先生は、個人的にも交流のあるラノベ作家さんです。

 そこで今回は特別企画として、作品の枠を超えて2人の先生に対談インタビューを実施。交流や作家としてのスタイルから、お互いの作品も読んでいるからこその感想などを語り合っていただきました。

 前編では、お二人の作家経歴から交流、アニメ化される際の心境などが語られています。意外な作品のルールなども明らかになります。ぜひアニメと合わせてお楽しみください。

気になる2人の執筆風景とは?

――まずはお二人のプロフィールからお願いします。

小林先生:第11回“GA文庫大賞”で優秀賞をいただき、2020年の1月にデビューしました。

 大学生時代は文芸部員で歴史系や中国系の小説を書くことがありましたが、明確に作家になりたかったわけではなく、ライトノベルも友人から勧められて書くようになりました。

 『ひきこまり吸血姫の悶々(ひきこまり)』も卒論の息抜きに書いていたことが始まりで、当時は作品が優秀賞を受賞し、さらにアニメ化もされるなんて想像してなかったですね。

逆井先生:僕は2019年に行われた第26回“電撃小説大賞”での金賞受賞がスタートです。

 小説を書きだしたのは結構昔、小中学生ぐらいの頃からですね。『豚のレバーは加熱しろ(豚レバ)』を書いていたのは小林先生とほぼ同じ時期、大学3、4年あたりになります。

小林先生:最初にお会いしたのは電撃小説大賞の授賞式でしたよね。
(※)小林先生は第26回電撃小説大賞でも『少女願うに、この世界は壊すべき ~桃源郷崩落~』で《銀賞》を受賞されています。

逆井先生:そうですね。実は対面で会ったのはその時だけなんですよ。その後はコロナの時勢もあって直接会うのが難しく、当時の2019年から今日まで会えていませんでした。

小林先生:ほぼ4年ぶりになるわけですか。お久しぶりです。

逆井先生:お久しぶりです(笑)。ただ、SNSは交換していたので、そこでお互いの感想を言い合うなどの交流はありました。

――お二人は作家さんとよく交流されるタイプなのですか?

小林先生:僕の場合はGA文庫の同期の方と飲み会に行ったりしますが、先輩や後輩との繋がりはないですね。自分から話しかけるタイプでもないので交流は少ない方だと思います。

逆井先生:僕も電撃の同期以外ではあまり交流はないですね。小林先生は僕のくだらない話にも付き合ってくれるので、よくやり取りさせてもらっています。

小林先生:以前、原稿執筆の際のお供に『うまい棒』を大量に購入したのですが、500本買ったら思ったよりも賞味期限が早くて、同期の方や逆井先生にお送りして消費にご協力いただきました。

逆井先生:各種類4本ずつくらいでしたが、コーンポタージュ味だけかなり大量にくださいましたよね!

小林先生:好きと聞いていたので少し多めに(笑)。

逆井先生:ありがとうございます、最高でした。

――差し入れを送り合うくらいの仲なんですね。

逆井先生:実は僕が最近まで青森に住んでいまして、この間、東京に出てきたばかりですなんですよ。小林先生とも飲みどころかお茶もできていないですし、タイミング合わせて他の先生方ともお会いしたいですね。

小林先生:逆井先生はXでもよく絡んでくれて、僕が「花粉症辛い」と呟いたらスギ花粉の画像を送ってきたこともありました(笑)。そんなくだらないやり取りをするような間柄です。

逆井先生:あれは僕も花粉症なのでね! 気持ちがわかるわけですよ。

――お二人ともハマっている趣味などはありますか?

小林先生:最近は健康に気を使うようになりまして、ジム通いを始めました。体重が少し増えてきていると感じたので。これは趣味とは言えないですが……。

逆井先生:僕は元々一人旅が好きだったのですが、忙しくなってからは全然行けていないので、また時間を見つけて旅行とかしたいですね。あとは野鳥観察をしたり、その撮影をしたりでしょうか。

――せっかくの場ですので、お二人でこの際に話したいことや聞いてみたいことなどはありますか?

小林先生:僕は今回をきっかけに、ぜひ今後飲みに行ったり、ご飯行ったりしたいので、誘わせてもらおうかなと。

逆井先生:いいですね! 小林先生はたくさん本を出しているので、もし執筆するにあたってライフハックなどあれば教えてもらいたいです。

 先生は冊数で言ったら僕の倍近く出している方なのですごい作家さんですよ。切羽詰まるほど書けなくなるタイプなので参考にしたいです。

小林先生:あれはイラストレーターさんが素早く良い絵を描いてくれているのでなんとか間に合っているというか、むしろ僕が遅れて謝るべき側と言いますか……。

逆井先生:『豚レバ』も同じような状態ですね(笑)。毎回良くないなと思いつつ、本にする直前の2、3ヶ月は死にそうになりながら書いています。

 実は今も結構やばい時期でして……。僕らよりもベテランの先生方でも苦労しているのを見ると、自分なりに解決方法を見つけるしかないのかなと。

――今は何か解決方法があったりするのでしょうか?

逆井先生:体力以外にMPのようなパラメーターがあると思っていて、体力があってもそっちが無いと何もできないのですが、なかなかMPの方が回復しませんね。今はそれを他の人がどうしているのか聞いて回っています。

小林先生:やるときはやるけど、できないときはできない感じですよね。

逆井先生:自分の機嫌を取ろうとして美味しいものを食べる方向とかに行くと、今度は太ってしまうという……。

小林先生:僕はよく罰ゲーム方式でやっていますよ。どうしても書かなくちゃいけないときは、この日の目標を達成できなかったら友達に千円払うとかやっていました。

 やり始めたときは効果がありましたが、徐々に「千円くらいいいか」と思うようになってしまいまして(笑)。

――それはどんどん金額を増やさないといけないかもですね……。

小林先生:そうですね……。ゆくゆくは1万円くらいにしないと効果がなくなりそうです。

逆井先生:僕もやってみましょうかね。一時的になのでまずは編集さんに払う形とか……?

――ご褒美方式などをやっている方も多いという話を聞きます。

小林先生:ありかもしれないですね。

逆井先生:僕は一度試したことがあって、ご褒美というよりちょっと良いカフェに行って「ここに来たのにお前それしか書いてないのか?」と自責の念で作業をさせる方法をやったことがあります。

 でも、慣れてくるとただ良いケーキを食べつつ作業するだけになるなど、段々効果が薄れていくという……。

小林先生:うまく続けるには、常に何か考えないといけないですね。

――他の作家さんの話などを聞くと、本当に書くのが早い人は早いと聞きますよね。

逆井先生:書くスピードで言うと、噂を聞いているだけですが『とある魔術の禁書目録』の鎌池和馬先生や『物語シリーズ』の西尾維新先生は本当にすごいらしいですもんね。編集さんが何かいう前に書き終えているみたいな。

 神か化け物のどちらかなんじゃないかと勝手に想像しています。

小林先生:そういうすごい人たちの話を聞くと、レベルが違いすぎて参考にならないですね。

逆井先生:鎌池先生は伝説なんかもよく聞きますが、いろいろな人の話を聞くとそれが本当なことがわかりますね。しかも書いている内容が面白いって、どうなっているのでしょうかという感じです。

互いが感じる作品の魅力と共通点

――ではお互いの作品についてのお話をお願いします。まずは第一印象からお話をお伺いできればと。

小林先生:最初に『豚レバ』を読んだときは、豚が主人公ということですごく驚きましたね。しかも、それがただの豚という設定にも驚きです。ありがちなチート能力や特殊能力を付けず、あくまで豚は豚の範疇で活躍している物語の作りにすごいなと思いました。

 あとは、ヒロインがすごく可愛いです。アニメも見ましたが、自分の命よりも主人公が人間に戻れるのかを心配しているシーンがあって、すごく優しい子だなと。逆井先生はそういう“萌えるキャラ”を作るのが上手いと思って楽しませてもらっています。

逆井先生:僕はキャラを増やすことが得意ではないのもあって、『ひきこまり』は登場人物が多いうえにキャラも立っているのが魅力的だと感じています。

 コマリ様の地の文でも“一億年に一度の美少女”としれっと自称しちゃうとか、面白い表現が散りばめられていて読んでいて楽しいです。

小林先生:地の文は『豚レバ』も使い方が上手ですよ。豚の伝えようとしていることをカッコで表現していて、喋れない豚の心情をうまく小説ならではの方法で書いているなと思いました。

逆井先生:そのせいでアニメ化の際に苦労されたようで……。漫画は吹き出しを考えている風の形にするなど、媒体によって工夫してくださっているように思います。

 『ひきこまり』はアニメだとまだそこまでキャラが出てくる前の段階ですが、1人1人のエピソードが面白いのでアニメでも早く見たいです。

――両作品で似ていると感じる箇所はありますか?

逆井先生:ギャグっぽいところでシリアスな展開が発生する塩梅は、読んでいて同じ波長を感じます。

小林先生:僕もそこは同じですね、『豚レバ』は美少女と豚が旅をするというほんわかした印象ですが、設定には残酷さやグロさもあって、そこが『ひきこまり』のシリアス要素と共通点があるなと思っています。

――シリアスを書く際のコツなどはあるのでしょうか?

小林先生:第1巻については振り切ってギャグとシリアスを書いてみようと思い、急に100から0に雰囲気が変わるような緩急をつけるのを意識して執筆していました。

 『豚レバ』はシリアスな要素を徐々に出していた印象ですが、どうですか?

逆井先生:確かにそうかもしれませんね。『ひきこまり』のシリアスさは、生き返りの効かない神具の存在が出てきたタイミングで一気にピリッとしますよね。設定の内容と、それを出すタイミングがうまいなと思いました。

小林先生:昔のいじめっ子が登場して、そういう危ない武器を持ち出してくるタイミングでシリアス方面に持っていく……と当時は考えて執筆していたと思います。実際に書いたのが随分前なもので……記憶が曖昧なところもあります。

逆井先生:僕も第1巻を書いたのはだいぶ昔なので、書いていたときに何を考えていたのか半分も覚えてないかもですね……。

――お二人とも卒論と並行して執筆をしていたとのことですが、どんな内容の卒論だったんでしょうか?

小林先生:僕は中国哲学をやっていたので、墨子という思想家が唱えている鬼神というものがどういうモノなのかを研究していました。

逆井先生:『ひきこまり』には造語ですごくカッコいい言葉が登場しますし、もしかしたらそこは中国哲学の影響を受けてるんですかね?

小林先生:確かに漢文の意識があるかもしれません。

逆井先生:“烈”を「燃やす」とは普通読まないですよ。カッコ良い使い方だと思いました。

――逆井先生はいかがでしたか?

逆井先生:僕は卒業研究なのですが、植物生態学を学んでいました。この木の実をどんな鳥が食べに来るのかなどですね。『豚レバ』でも理系や生物学的な知識が出てくるのは、そこが影響しているのかなと思います。

小林先生:小説の内容も豚の生態にかなり詳しいところがすごいですよね。アニメでも出てきた“暗順応”とか、しっかり専門用語で説明していて、説得力があるなと思いました。

逆井先生:生物については執筆の際に資料で学ぶことも多いですね。

小林先生:僕は文系の人間なので、そういう理系の部分は真似できないところだなと思います。

逆井先生:逆に僕は今のお話を聞いて、ファンタジーを書くにあたって文系の歴史知識も必要だなと改めて思いました。8冊も既に書いておいて今更言うなという話ですが(笑)。

――学生時代に執筆していた当時と比べて現在はいかがでしょうか?

小林先生:僕はデビューした頃は会社員と並行してやっていたのですが、徐々にそれが難しくなり、他の事情も相まって専業作家になりました。

 専業になってからは時間ができてしまって、小説を書いていないと社会に対して申し訳ない気持ちになってしまいますね。本当に頑張らなくてはと思っています。

逆井先生:僕は今年専業作家になったばかりですが、何かしなきゃと思いながら生活しています。下手すればニートにも見えてしまうので……。

――そんなことはないと思いますが……。

逆井先生:あとは人と話す機会が少なくなったと思います。でも、専業になって四六時中小説のことを考えていられるのは幸せですね。

アニメ化での一番の変化はまさかのエゴサーチ

――アニメが始まってからの変化はいかがでしょうか?

小林先生:アニメに付随する作業がそこまでなかったので、あまり変化は感じていません。

 特典小説を書いたり、原作スケジュールをアニメと合わせたり、デザインの確認をしたりしたくらいで、思っていたよりもアニメ化の作業はありませんでした。

 アニメはみなさんにお任せして、横で素晴らしい作品が出来上がるのを見ているだけの人……みたいな感じでした。

逆井先生:僕も同じスタンスで、執筆関係や脚本の確認などは関わりましたが、アニメには僕の労力はほとんど無く、作ってくださる方にお任せして、いち視聴者として楽しませてもらっています。

 変わったとすれば、僕は結構作品名でエゴサーチをするので、それを見るのが大変になったというのが一番の大きなところです。

小林先生:エゴサって心の方は大丈夫ですか……?

逆井先生:大丈夫です! それまでに鉄の心を作ってきたので(笑)。

――逆に小林先生は作品や名前で検索はされないのですね。

小林先生:小説が発売された当時はしていたのですが、最近は全くしてないですね。アニメ放送開始時にちょっとしましたが「あまり見ても仕方ないな……」と思って、それっきりですね。

――アニメ化が決定した当時の話を聞かせてください。

小林先生:アニメ化の話を聞いたのが原作の第4巻が発売された後だったのですが、いきなり編集さんから「この日空いていますか?」とLINEが来て「何の話ですか?」と聞いたら未読スルーされたのを覚えています。

 びくびくしながら向かったら、編集さん、編集長、ライツの方が来ていて「アニメ化します」と言われて拍手されたのですが、その時点でコミカライズの話すらなかったので、本当にするのかという驚きが強かったですね。

 最初は自分の作品がアニメ化される実感が無かったのですが、話が進んで顔合わせをしているうちに、実感が湧いてきて嬉しさがこみあげてきました。

――お話が来る前にある程度予想などはできたのでしょうか?

小林先生:もしかしたらアニメ化かもしれないという予感はありましたが、悪い知らせかもしれないとも思っていたので、実際に聞かされるまでは全く想像できませんでした。

逆井先生:僕たちの場合は「一体いつアニメ化されるんだ」みたいな雰囲気じゃなかったですよね。シリーズは続けられていて、アニメ化したらいいな……くらいの雰囲気で。

――逆井先生はどんな形でお話が来たのでしょうか?

逆井先生:僕は第4巻を出したあたりに話があって、ちょっと前置きがあってアニメ化の話をしてもらいました。

 話を聞くまではまさかアニメ化がされるとは思っておらず、驚きと嬉しさが混ざった感じでした。

 自分の実感が湧いたのは、東京に来て脚本の打ち合わせに参加したときですね。それまではメールでやり取りするだけだったので。

――放送は両作品同時期でしたが、発表の際はいかがでしたか?

逆井先生:放送は同じ時期ですが、確かアニメ化発表は少し差があったと覚えています。

小林先生:どっちが先でしたっけ?

逆井先生:そこまでは覚えていませんが……多分どちらかは自分もアニメ化されることを知りながら「いいなぁ~」っていう反応をしたことになりますね(笑)。


後編(11月18日公開予定)に続く

©小林湖底・SBクリエイティブ/ひきこまり製作委員会
©2023 逆井卓馬/KADOKAWA・アニプレックス・BS11

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