『バルダーズ・ゲート3』開発者インタビュー。世界で絶賛されるRPGに秘められたこだわりとは
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先日行われたPS5版『バルダーズ・ゲート3』のメディア向けハンズオンイベントにおいて、メディア合同のQ&Aセッションも同時に行われました。本作の開発に際してのこだわりや、TRPGの『ダンジョンズ&ドラゴンズ』(以下『D&D』)との関連性など、いくつかの項目について聞くことができたので、そのようすをお届けします。
なお質問に回答していただいたのは、本作を手掛けたLarian Studiosのリードシステムデザイナーを務めるNick Pechenin氏と、アソシエイトライティングリードのChrystal Ding氏、そしてリードシネマティックアーティストのGraham Ross氏の3名です。
『バルダーズ・ゲート3』開発者インタビュー
──本作で特にこだわった箇所、またはプレイヤーに注目してほしい箇所を教えてください
Chrystal Ding氏:プレイヤーに(自分のキャラクターの)アイデンティティーを形成し、何者であるかを創り上げるためのツールを提供することに多くの時間を費やしました。なのでプレイヤーに最も注目して欲しい箇所となれば「どのようにロールプレイするか(※)」ですね。ゲームを通じて、自分のキャラクターが置かれた状況を感じ取り、どのように自分のキャラクターを表現するかということです。
(※純粋な意味でのロールプレイ、言うなればキャラクターに「なりきる」という意味)
Nick Pechenin氏:システム・デザイン・チームにとって大きな焦点となったのは、『D&D』第5版(※)のルールをビデオゲームのフォーマットに適合させ、プレイヤーが直感で魅力的に感じられるようにすることでした。私たちは、『D&D』を象徴するクラスや呪文の強いファンタジー性を守りつつ、プレイヤーに代わって数字を計算し、ボーナスやダイスロールを記録し、プレイヤーが意思決定に集中できるよう、機械に力仕事をさせようと考えました。『D&D』やLarian Studiosのゲームをプレイしたことがあるかどうかにかかわらず、『バルダーズ・ゲート3』に安心して飛び込んできてほしいと思っていました。
(※『D&D』は一定期間ごとに版上げをして、ルールを刷新する。現在流通しているのが第5版となる)
Graham Ross氏:『D&D』やRPGの重要な部分は、プレイヤーが物語の可能性を探求できるようにすることです。だから、私のチーム(と関連するすべての部署)が時間をかけて集中したのは、ゲーム内のすべての瞬間をいかに重要なものに感じさせるかということでした。
とても小さなこと、取るに足らないことでさえも。プレイヤーに対してユニークなプレイ体験をしていると感じさせるために、一般的なプレイスルーでは「レアケース」と見なされるような瞬間にも、注意と配慮を払いながら開発を進めました。
──本作は『D&D』第5版のプレイフィールを徹底的に再現したものになっています。ここまでTPRGのプレイフィールにこだわった理由を教えてください
Nick Pechenin氏:呪文によって動物と話したり空を飛んだりなど、TRPGならではのコアな魅力の再現が重要だと考えたのです。まるでほかの人間といっしょに遊んでいるような感覚を覚えてもらうために個性豊かなコンパニオン(同行者)を揃えたので、同じようなプレイフィールを感じて頂けると思います。
Chrystal Ding氏:「いっしょに旅をしている」という感覚をどのように作り出すかという点こそが、私がライターとしてこだわった点です。また、思いもよらないことが起こったときに、それが自然にサイドクエストとして発生し、それ単独でも楽しんでもらえるものにしようと工夫を凝らしています。
──判定の際は20面体が表示されてTRPG的な演出がされている一方で、戦闘では一切ダイスが描写されませんが、何か理由があるのでしょうか?
Nick Pechenin氏:内部的にはすべての行為でダイスロールを行っています。これらすべてを見せようとするとダイスロールばかりのゲームになってしまうので、戦闘のようなテンポが必要な場面ではあえて映さないで処理を進めることにしました。
──日本では『D&D』の知名度は決して高いとは言えません。『D&D』未経験者でも本作を楽しめるでしょうか?
Nick Pechenin氏:ファンタジーを題材としたゲームはどこかで『D&D』とつながっています(※)。皆さんのよく知る『ドラゴンクエスト』や『ダークソウル』でもその片鱗は感じますし、きっと楽しめると思いますよ。私が親に説明するときは、ドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」に近いようなものだと言っています。
(※『D&D』はRPGの原典的な存在として認知されており、多くのファンタジーRPGに影響を与えている)
──本作は一見オールドスクールなCRPG(コンピュータRPG)であるにもかかわらず、中身はまったく新しい作品で、驚いています。商業的な成功を含め、どのようなマジックがあったとお考えですか?
Graham Ross氏:黒魔術(ダークマジック)かな(笑)。
Chrystal Ding氏:カットシーンやシネマティックの部分が進化した点が大きいのではないでしょうか。我々の前作『ディヴィニティ:オリジナル・シン 2』の会話シーンは、最大2人でしか会話をさせられませんでした。今回はシネマティック面を充実させることで、3人以上で会話させるストーリーテリングが可能になっています。
Nick Pechenin氏:我々としても、これほど大きな偉業を達成できるとは思っていませんでしたし、6年もかけてひとつのゲームを作ることになるのも予想外でした。長期間のアーリーアクセスでユーザーからのフィードバックをもらったからこそ、本作が完成したのだと思います。
──自由度の高さと映画的に奥深いストーリーの両立はとても難しい課題だと感じられますが、「バルダーズ・ゲート3」はこの限界も更新したように思えます。TRPGをプレイしているような自由度の高さと壮大な物語をどうやって両立させたのでしょうか?
Nick Pechenin氏:一番尊重しているのはプレイヤーの選択です。それがどんな行動であっても、そのあとの展開にしっかり反映されるように作っています。
Graham Ross氏:シネマティック部門は、ストーリーの分岐要素を通じてやりがいのある体験を構築するために、アートとナラティブに取り組むことに重点を置いていました。その体験を占める大きな部分は、プレイヤーがアバターで行う視覚的な選択を尊重するために、エンジン内のキャラクターメッシュとリグの基盤を構築することでした。
本作には身長や体型が異なる複数の種族が登場しますが、プレイヤーがそれらを選択する際には、可能な限り尊重したいと考えています。NPCがキャラクターのクラスや種族に反応するようなことは、数秒で終わってしまう小さなことかもしれません。しかし、「ゲームが自分の意見を聞いてくれている」と感じることに大きな意味があります。それを、驚くほど深く、変化に富んだシステム的なゲームプレイや戦闘と結びつけることで、美しく、ユニークで、人々が評価し、認める自由度の高いものを作り上げることができるのです。
──本作のようにTRPGが元となったCRPGの進化は、TRPGのプレイフィールを独自に解釈していくことで進んだ面が大きいと思います。例えば『サイバーパンク2077』や『スターフィールド』がその最先端だと思いますが、現状のCRPGのデザインはどう見えていますか?
Nick Pechenin氏:そういった進化は主にインディーゲームで始まっていて、大きな会社がそれを取り入れて大きなプロジェクトを作っていく傾向があるように思います。私も新しいTRPGやインディーゲームには着目していて、次の作品のインスピレーションを得たりしています。
──最近注目しているインディーゲームなどはありますか?
Nick Pechenin氏:『D&D』インスパイアのゲームを探して遊んでいることが多いのですが、最近では『Solasta: Crown of the Magister』と『Wartales』、『Cobalt Core』などですね。
──メインストーリーを進める以外の楽しみ方や、開発で仕込んだ遊び要素があれば教えてください
Nick Pechenin氏:ネタバレはしたくないので、詳細はぜひ実際に遊んでみて、ご自身で感じて頂きたいのですが……しいて言うならば「自分の思うまま、やりたいようにやること」です。それがそのまま、あなただけのストーリーになっていきます。
本作は一本道のゲームではありません。ですが、どのように遊んでいただいても最終的にストーリーに結び付くようになっているので、ゲームを信じて自分のやりたいように遊んでいただけると嬉しいです。
──オリジンキャラクターたちの個性の強さに驚いたのですが、こういったキャラクターを作り上げていく際に意識したことはありますか?
Chrystal Ding氏:物語中に何かが起こったとき、彼らがどう反応するかを考え抜いています。その結果キャラクター性が濃くなり、そんな彼らが集合することで、より濃密な物語が紡がれていくのだと思います。
──露骨な表現やプライベートな時間の表現をオフにしたときに、ストーリーやゲーム体験が大きく変わることはありますか?
Chrystal Ding氏:ロマンスのシステムは、「特定のクエストをクリアしたから好意的な感情がこちらに向く」といった単純なものではなく、ゲームを通して少しずつ育まれていくようになっています。つまり、表現がフィルタリングされたとしても、彼や彼女が抱いている感情は変わることはなく、物語にもなんら影響を与えるものではありません。
──ゲームシステムの理解度やキャラクターメイキングが重要で、難しいゲームだと感じたのですが、本作に触れる人へのアドバイスなどがあれば教えてください
Nick Pechenin氏:まず一番簡単なモードを選ぶことをおすすめします。キャラクタークリエイトに関しては、クラスごとに推奨される設定がされていますので、性能面はプリセットを使っていただき、最初は容姿のカスタマイズ程度に留めると遊びやすいでしょう。本当に困ったらバーバリアンがおすすめです。立ち回りが非常にシンプルで、“激怒”することでダメージの増加や被ダメージの減少ができるので、初心者向きかなと思います。
──オリジンキャラクターは、キャラクタークリエイトが難しいと思う人たちのためのプリセットキャラクター的な側面も持っていると思うのですが、初心者の方におすすめのオリジンキャラクターはいますか?
Graham Ross氏:本当におすすめしたいのは自分のキャラクターを作って、それで冒険をすることですが……オリジンキャラクターのなかから誰かを選ぶとすれば、ウィザードのゲイルです。彼にはこの世界に深くかかわるストーリーがありますから、世界観を味わうにはいいキャラクターだと思います。
Nick Pechenin氏:私もゲイルですね。魔法使いということで世界観に合っているのと、“イセカイ(日本語で発音)”というイメージと親和性が高いと思いますから。
Chrystal Ding氏:私にとっては全員が子供のようなものなので、誰かひとりを絞ることは難しいですね。ぜひカスタムキャラクターを作って、彼らと旅をしてみてほしいです。
──PC版を先行して開発されたと思いますが、コンソール版を開発するうえで工夫された点はありますか?
Nick Pechenin氏:今回はコンソール版を発売することを当初から想定していましたので、コントローラーで操作することを念頭に開発していました。PC版をコントローラーで操作したいという声も多いので、PCファーストという考え方はしておらず、コンソール版も並行して作っています。
PS5版では呪文を使うと、コントローラーの発光色が変わる仕組みなども入れています。コントローラー操作や画面分割のCo-opプレイに関しては『ディヴィニティ2』の経験が生きましたね。
──PC版も日本語が追加されるというアナウンスがありましたが、PS5版と同じテキストが使用されるのでしょうか? またPC版も日本語対応することに決定した経緯を教えてください
Nick Pechenin氏:同じものになるはずです。これまでの作品で日本にもLarian Studiosのファンが多くいると実感しましたし、ファンの熱意の高さも感じていますので、ぜひ本作もプレイしていただきたいと思いました。
『ディヴィニティ』が日本のショップに並んだときの光景が、とてもエキサイティングで忘れられない思い出なので、本作も日本語版を出したいなと考えていました。
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