『鉄拳8』原田勝弘氏&池田幸平(ナカツ)氏インタビュー。アーケードクエストが生まれたわけやカスタマイズと競技シーンのバランスなどを聞く

電撃オンライン
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 2024年1月26日発売予定のPS5/Xbox Series X|S/PC(Steam)用3D対戦格闘ゲーム『鉄拳8』。

 本作を含めた鉄拳プロジェクトのゲームディレクター/開発プロデューサー池田幸平(ナカツ)氏とエグゼグティブプロデューサー/ディレクター原田勝弘氏にお話を伺いました。

インフルエンサーとして作られたアズセナが現実でインフルエンサーに⁉

──まず比較的最近発表されたキャラクターについて聞かせてください。とくに麗奈が三島流喧嘩空手を使っている点が気になっています。

池田(ナカツ)氏(以下、敬称略):麗奈が三島流喧嘩空手を使えるのは……なぜかですね(笑)。

原田勝弘氏(以下、敬称略):麗奈の流派は一応“?”なんですよ。ですから、奈落払いなどに非常によく似た技を使っていますが、偶然運動神経がよくて偶然三島流喧嘩空手によく似た技を使えているだけかもしれません(笑)。

ナカツ:この“?”が一体なんなのか、というのはストーリーでしだいに明らかになっていきます。

原田:麗奈は流派を含めたミステリアスさに加えて二面性もキーワードになっています。トレーラーではかなり強気な口調でしゃべっていますが、まるで違う雰囲気を感じさせるようなシーンもストーリーで見られますね。

 あと、珍しくシルエットに特徴がないことも麗奈の特徴です。『鉄拳』シリーズは、さすがに現実にいることはないだろうというキャラクターが多いタイトルですが、麗奈はもしかすると都内を歩いていたらいるかもしれない。そのくらい『鉄拳』にしては割と控えめなビジュアルなキャラクターです。トレーラーの時点でかなりファンが多く、珍しく性格推しなユーザーさんが多いですね。

ナカツ:ビジュアルも人気ですよ。

原田:その点は時代の変化でしょうね。我々のような「横から見たときに尖ったパーツが欲しい」など髪形や服、色、シルエットを重要視していた世代とは違い、若い世代はリッチなコンテンツで育ったおかげで微妙なところを感じ取れるいい感性を持っていると感じています。

──自分も初代『鉄拳』をアーケードで触れていた世代なので、『鉄拳』と言えばシルエットで個性が出るような奇抜なビジュアルの印象の方が強いですね。

原田:あの頃のポリゴン数の制限ですと、丸くするために多くのポリゴンを消費することに抵抗感があり、しかも丸くしたらシルエットに特徴がなくなってしまいます。

 そういうことに苦労した世代ということもあって、麗奈のビジュアルはこれでよいのかという不安もありました。ですが、ふたを開けてみたら気に入られているので、今のユーザーさんは繊細なところを感じ取れるのだと感心しています。

──続いてアズセナについてお聞きできますか?

原田:アズセナは、南米の『鉄拳』コミュニティを意識して作ったキャラクターです。とくに強豪プレイヤーが多いペルーを出身地にするなど、外枠から作ってそれからファイトスタイルを決めていきました。

ナカツ:ペルー出身の女性キャラクターで、底抜けに明るくて前向きな性格にしよう。ペルーはコーヒーが有名だからコーヒー農園を経営しているキャラはどうか。そういったキャラクター設定を作り込んでいき、今のような多彩な女性であるアズセナが完成しました。

 ファイトスタイルは、今まで『鉄拳』でフォーカスしていない打撃中心のMMAファイターを軸に、天賦の才で自然に身体が動き戦いを楽しんでいるというイメージです。そこにインカ式ボクシング“ルミ・マキ”の打撃感などをアニメーターとディスカッションして、ストライカー中心で勝手に相手の攻撃を避けながら楽しく踊っているかのように戦う、今のアズセナのファイトスタイルが完成しました。

原田:開発が楽しんだ作ったキャラクターですね。

ナカツ:インフルエンサーとして活動しているという今風の味付けもしており、ゲーム中ではニューヨークのような街並みのステージに広告を出していたり、レイジアーツでKOするとCM風の演出になっていたりしています。

原田:そんな風にアズセナのキャラクターを作っていったところ、ペルー大使館からスポンサードしてコラボなどを行いたいという連絡もあり、かなり注目されているとキャラクターだと感じています。

──物語上でインフルエンサーとしてキャラクターを作っていったら、現実でインフルエンサーになったというのはおもしろいですね。

ナカツ:ペルーは今、ペルーコーヒーを世界に売り出したいとのことで、ちょうどアズセナがゲーム中でやりたいことが現実世界でペルー大使館の人たちがやりたいことにマッチしていたようです。

──麗奈やアズセナと比べるとヴィクターはある意味で『鉄拳』らしいフィクションの要素が強めですが、彼やシリーズおなじみの吉光のようなキャラクターはどうやって作っていくのでしょう?

原田:吉光を作ったころはまだモーション作りの黎明期だったため、技をなるべく手間なく作るために全身を回転させたなどの事情はあります。

 一方で近年のキャラクターは、格闘技をしている方の監修が入ったりモーションキャプチャーをしていたりと、現実のファイターの方々の動きをベースにフィクションを加えてキャラクターを作っています。

ナカツ:ヴィクターの場合は現実のクローズドコンバットの動きを取り入れていますね。さらに銃を使うアクションも、プロの方にお話を聞いてモーションキャプチャーも行って制作したものです。そこにSF的な装置を使ってステルス移動するといったフィクションを加えています。

──個人的にはフィクションでは腕を伸ばして片手で銃を撃つシーンが多いなか、ヴィクターが腋をしめて両手で撃っているのが目を引きました。

原田:そもそも現実ですと、『鉄拳』のバトルの距離感で銃を使うことはあまりありません。そのなかで銃を使うとしたらプロは相手に手を伸ばすことはまずなく、ヴィクターのように銃を構えるそうです。地味な動きに見えますが、SNSでは本格的だと言っている人も見られましたね。

家庭用初だからこそゲームセンターを疑似体験できるアーケードクエストを作った

──アーケードスタイルで遊んだところ意外と苦戦したのですが、ストーリーの難度はどの程度を想定していますか?

原田:操作するキャラクターの知識がないままアーケードスタイルで遊ぼうとすると苦戦するかもしれないですね。スペシャルスタイルで遊べば初心者でも無理なく戦えるくらいを想定しています。

ナカツ:ストーリー上の一八や仁は強者として描かれているので、彼らを簡単に倒せてしまうと体験がそがれてしまいます。ですので、ある程度は激しいラッシュやコンボを狙ってくるようにしていますね。

原田:今も『鉄拳7』で遊んでいるという人はアーケードスタイルでも問題なく戦えますが、ほかのゲームモードで戦うCOMはしないような反撃の仕方もしているので、どれだけ慣れていても面食らうと思います。

──通常はしないと言えば、ストーリー上のバトルではQTEが入ってきていますが、なぜQTEに入ったのかがわからないほど非常に自然にバトルに組み込まれている印象を受けました。

ナカツ:QTEは入ってきますが、それが没入感をそがないように意識して組み込んでいます。

原田:格ゲーではこれまで没入感の高いQTEがなかったなか、うまく落とし込んでくれましたね。

──登場キャラクターは全員三島家にかかわってくるのでしょうか?

ナカツ:基本的には全員かかわってきますね。三島家の親子喧嘩……もう戦争ですが、あの戦いで一八につく人がいたり、一八に対抗する組織に入ったりといった形で全員がなにかしらの形で親子喧嘩にかかわって一本のストーリーになっています。

──例えば『鉄拳3』のリン・シャオユウは遊園地を作るという、メインストーリーとは外れた目的を持っていましたが、そういったキャラクターごとの物語はキャラクターエピソードで描かれるのでしょうか?

ナカツ:そうですね。個人がなにをしたいかやどんな目的で戦いに臨んでいるかといった内面の話はキャラクターエピソードで吸収しており、メインストーリーは三島家の親子喧嘩を中心に展開していきます。ただ、メインストーリーのなかでもキャラクターによって三島家を中心とした物語と自分の目的の比重が異なりますので、シリアスなシーンに自分の目的をねじ込もうとしてくるなどシリアスのみのストーリーにはなっていません。

原田:アズセナはメインストーリーでも結構我が道を行っていますね(笑)。

──キャラクターエピソードのボリューム感はどの程度になるのでしょう?

ナカツ:『鉄拳5』や『鉄拳6』と同等以上のものを用意しています。キャラクターごとの掛け合いの演出が豊富になっており、キャラクターエピソードを遊ぶだけでも関連するキャラクターが登場して、クリアすると期待しているものが見られると思います。これまでで最良の内容ですね。

──アーケードクエストは『鉄拳8』のなかに『鉄拳8』のプレイヤーがいる、ある種メタ的な構造にした理由をお聞かせください。

原田:根幹にあるのはまず『鉄拳8』はシリーズで初めて家庭用が最初にリリースされるということです。『鉄拳7』までは現実世界でゲームセンターで『鉄拳』を遊ぶという環境がありましたが、『鉄拳8』には我々が触れてきたようなアーケード体験がありません。

 そこにコロナ禍の影響や、そもそもアメリカでは20年以上前からゲームセンターがほとんどなくなっているという事情を踏まえて今のような枠組みになりました。

 また、アーケードクエストの構造はファイトラウンジにも大きな関係があります。今の購入層には親や兄弟がシリーズ作を遊んでいた『鉄拳』の最新作を自分が買うという世代交代が起きており、そういった世代の視点では、ゲームセンターは小さいころに連れていってもらっただけの場所だったり、下手をすると漠然とした憧れのスポットだったりしています。

 我々はゲームセンターやそのなかにあった自然にゲームを教えてくれる人がいくらでもいるコミュニティを知っています。それが失われた今の時代にバーチャルの世界にゲームセンターやコミュニティを作ろうとしたのがファイトラウンジです。

 一方で誰も教えてくれない環境ではチュートリアルが必要なのですが、チュートリアルという名前では誰も遊んでくれません。そこで、自然とゲームを楽しんでいたら、知らない間に『鉄拳』の遊び方を覚えているというものが必要だという話をナカツにしたんですよ。

 そうしたら、メインのストーリーモードとは別にもう1本ストーリーを作り始めまして。それが今のアーケードクエストですね。

──アーケードクエストのOrochiに対して一八のような独善的な印象を受けました。アーケードクエストに登場するキャラクターの位置づけとして『鉄拳8』本編のストーリーを意識した点はありますか?

ナカツ:とくに意識はしていないですね。三島を使える上級者で真剣勝負しか認めない、わかりやすく強くて倒すべき対象として作っていったら一八に寄っていきました。

原田:Orochiも一八も同じ『鉄拳』プロジェクトのチームが作っているので、悪役を作ったらある程度は似た雰囲気になると(笑)。

ナカツ:あとは、ゲームセンターにギリギリいたかもしれないガチの戦いしか認めないような人物も意識しましたね。

──続いてアーケードクエストにも登場するゴーストについてお聞きします。プレイヤーにはガードさせるために技を出すシチュエーションもありますが、攻撃はガードされるよりヒットした方がよいのは当然です。ゴーストはそういったガードさせるなど布石を目的とした技はどのように捕らえて学習するのでしょう?

ナカツ:ゴーストはプレイヤーの出した技単体だけでなく、その後の状況も含めてよい行動だったかを判断しています。ですので、特定の技をガードされたとしても、その後の二択で効果的にダメージを与えられているならよい行動と捕らえますね。

原田:よい悪いというよりもプレイヤーの行動自体を判断する方が近いですね。例えば攻撃をガードさせたあとに繰り出した下段攻撃が相手に届かなかったとしてもAIは届かない距離で下段攻撃を行うことも学習します。

 これはプレイヤー視点ではミスですが、しゃがみステータスの下段攻撃を空ぶったあとに相手が上段攻撃を空ぶり、そこに反撃をして相手にダメージを与えるというケースが増えたら、AIは攻撃をガードさせて下段攻撃が届かない距離でもフェイントとして打って、相手の上段攻撃に反撃をするところまで学習します。

 ですから、プレイヤーとしては下段攻撃が届かなかったという失敗の行動だったとしてもAIがそう判断するとは限りませんね。

ナカツ:一番重要視したのはプレイヤーらしさ。うまくなるよりもそのプレイヤーを再現することに注力しています。

原田:少しおもしろいエピソードとしては、自分はスペシャルスタイルを意図せず切り替えてしまうことがあるんですよ。それもAIが学習しているので私のゴーストはチラッチラッとスペシャルスタイルに切り替えて即戻すという行動をとるようになっています。

──と、いうことは立ち回りがうまいけれども最速風神拳だけはスペシャルスタイルに頼っているプレイヤーがいたとしたら?

原田:すぐにばれます(笑)。壁際できっちり最速風神拳を複数回コンボに組み込んでいると思ったら実はそこだけスペシャルスタイルに頼っていたなんてプレイヤーも出てくるかもしれません。

ナカツ:逆に言うと、特定のポイントでスペシャルスタイルを活用して相手を追い詰めたり大ダメージを与えたりしているゴーストがいれば、それを自分の立ち回りに取り込むという学びもありますね。

──本作のキャラクターカスタマイズは前作よりもさらにバリエーションが豊富になりました。一方でアクセサリーを身に着けられる範囲などに一定の制限をあえてかけているかと思われます。本作におけるカスタマイズの自由度と制限のバランスはどのように考えていますか?

ナカツ:前作以上の体験を提供したいと考えて、靴の追加やアクセサリーの位置と角度の変更機能などカスタマイズのバリエーションは増しています。一方で、競技シーンやランクマッチではカスタマイズの自由度が高すぎるとプレイの公平性が保てません。

 例えば大きなおかもちを手に付けたカスタマイズは、相手にとってリーチやモーションを見極めるのに不都合が生じるでしょう。そこのバランスを考えて、自由度を高めつつ、対戦で嫌がられないことを意識したのが『鉄拳8』のカスタマイズになります。

原田:技術的にも進歩していて、昔は黒を使うと見づらくなるということはありましたが今はシェーダーなどのおかげでカスタマイズ関連に黒を使いやすくなりましたね。

ナカツ:カスタマイズについてしばしばユーザーさんからあがる声として「相手のカスタマイズを自分の画面に反映しない機能が欲しい」というものがあります。ただ、これはカスタマイズという遊びを提供している側からすると本末転倒の話で、カスタマイズを楽しんでいるプレイヤーさんからしてもそれを相手に見てもらえなくてはカスタマイズへの魅力がそがれてしまいます。

 ですので、相手のカスタマイズを見えなくするといった試みは考えていませんし、むしろやりたくないものになります。

──今後大会が開かれた場合は、カスタマイズは反映されるのでしょうか?

原田:オンライン予選では自分のプレイヤーデータが反映されるので、カスタマイズも反映されます。ただ、会場でのオフライン大会はもともとプリセットで用意されているもののみ使用できるのでカスタマイズは反映されません。『鉄拳7』の競技シーンをご存じの方に言うなら前作と同様ですね。

──最後に発売を待つユーザーさんにメッセージをお願いします。

ナカツ:『鉄拳8』は、メインストーリーのボリュームにキャラクターエピソード、アーケードクエストやゴーストの新しい体験と非常に多くのチャレンジをしており、そのぶんボリュームに自信を持っています。また、アーケード中心ではなく家庭用発となったこともあり、CBTなどを通して世界中のプレイヤーさんが少しずつよくしていったという実感もあります。

 我々とみなさんで作り上げた『鉄拳8』をぜひ遊んでいただきたいですね。

原田:昨今タイムパフォーマンス(タイパ)を重視する人が増え、遊ぶゲームの選択肢が豊富ななかユーザーさんは『鉄拳8』にお金と時間をかけていいか見ていると思います。

 そんななか『鉄拳8』は極端な話、オンライン対戦をしない人でも満足してもらえるボリュームです。大会なども意識はしていますが、それ以前としてインターネットにつながなくてもパッケージゲーム単体としてフルプライスの価値があるかは常に意識して制作してきており、本当に買ってよかったと思えるものを完成したと思っています。

 少しでも興味持ったら買って遊んでみて欲しいですね。


TEKKEN™8 & ©Bandai Namco Entertainment Inc.

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