『機動戦士ガンダムNT』BD&DVDがまもなく発売! 吉沢俊一監督とヨナ役・榎木淳弥さんにインタビュー

hororo
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 国民的ロボットアニメ『機動戦士ガンダム』シリーズ。その中で“宇宙世紀”を舞台にし、2018年末に劇場公開された最新作『機動戦士ガンダムNT(ナラティブ)』のBlu-ray&DVDが、2019年5月24日に発売されます。

 『機動戦士ガンダムNT』は、2010年から順次OVAとしてアニメ化された『機動戦士ガンダムUC(ユニコーン)』の外伝的作品。3人の主人公を軸に、“ニュータイプ”という存在をめぐる闘争と人間ドラマが展開していきます。


 劇場公開版に追加修正を加えたBlu-ray&DVDには、スタッフ&キャストのオーディオコメンタリーなどの特典も付属されます。またBlu-rayには通常版の他に特装限定版および豪華版があり、特装限定版にはドラマCD・本編原画集・設定資料集など多彩な特典が同梱。豪華版にはさらに4K ULTRA HD Blu-ray(本編のみ収録)や、食玩フィギュアシリーズ『FW GUNDAM CONVERGE』から劇中に登場した『ナラティブガンダム B装備』の限定カラーが付属します。

  • ▲Blu-ray特装限定版

  • ▲Blu-ray豪華版

『機動戦士ガンダムNT』Blu-ray特典ドラマCD“獅子の帰還”試聴音源


 そんな本作のBlu-ray/DVD発売記念として、監督を務めた吉沢俊一さんと、主人公のヨナ・バシュタを演じる榎木淳弥さんの対談インタビューをお届けします。なお、対談中は本編のネタバレもありますので、未見の方はご注意ください。

――まずはじめに、お2人が初めて『ガンダム』シリーズと出会ったのはいつ、どの作品でしょうか?

吉沢俊一監督(以下、吉沢監督):小さいころから身近にあるものでしたね。リアルタイムで見たのは、小学校1~2年生くらいの時に見た『機動戦士Zガンダム(以下、Z)』なのですが、テレビで『機動戦士ガンダム(以下、ファーストガンダム)』の再放送が放映されていたりもしました。生まれた時からあった、そんな存在です。

――育っていくなかで、自然と目にしてきた感じですね。

吉沢監督:子どもの頃って、親戚のおじさんとかがおもちゃを買ってくれるじゃないですか。その中に意図せずあるんですよ、ガンダムのプラモデルが(笑)。

榎木淳弥さん(以下、榎木さん):僕も同じように、物心ついた頃からありました。懐かしの名場面特集みたいな番組があって、『ファーストガンダム』の名シーンを見たり、ビデオを借りてきたりとかで目にする機会は多かったですね。意識して『ガンダム』を見た初めての作品は、兄が借りてきた『機動新世紀ガンダムX(以下、X)』です。

――ロボットアニメ全般に興味を持ったのでしょうか? それとも『ガンダム』にガッツリハマったという感じでしたか?

吉沢監督:狙って見ていた感じですね。毎週土曜日が自分の中での“幸せテレビの日”だったんです。夕方5時半から『Z』を見て、戦隊もの、『まんが日本昔ばなし』と続いて『ドリフ』の下ネタで爆笑してから寝る……みたいな時間になっていて、そのなかで自然と見ていたという感じですね。

榎木さん:わかります。一週間のなかで『この日めっちゃ楽しみだ~!』っていう日、ありますよね。

――では、一番好きな『ガンダム』作品はどれでしょう?

榎木さん:僕はシリーズをすべて追っているわけではないのですが、最後までしっかり見た『新機動戦記ガンダムW(以下、W)』と『X』には思い入れがあります。どちらかというと『X』への思い入れが強いかな……ヒロインがかわいかったので(笑)。主人公とヒロインの関係が好きだったんですよ。

吉沢監督:『W』の主人公とヒロインの関係はちょっと特殊な感じだからね(笑)。僕はこの歳になって、仕事もいろいろ経験させてもらったうえで振り返ると、好きな作品は『ファーストガンダム』と、劇場版の『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア(以下、逆襲のシャア)』、それと『∀ガンダム(以下、∀)』です。最終回など、いろいろ“心の傷”になっているのは『Z』ですね(苦笑)。

 作り手側になってみて、改めて『ファーストガンダム』と『∀』はすごいなと思いました。世界観を新しく作るというのと、今まで続いてきた『ガンダム』というシリーズを、作った本人が壊しているっていうのがね。本当に度胸がないとできないというか、そこまで振り切ることがでるのがものすごい。あとは圧倒的な物量である『逆襲のシャア』に関しては、あこがれの気持ちも大きいです。

――それらを受けて『ガンダムNT』を制作される時に、監督として意識したことなどはありましたか?

吉沢監督:どう絵を作っていくか、どういうフィルムにするかというのは、基本的には脚本の作業を通じて作っていくんですが、僕が一番寄せようと思ったのは、同じ劇場作品である『逆襲のシャア』です。世界観やSFの見せかたとか、空間をどう見せるかという部分では『逆襲のシャア』を一番意識しています。

――絵作りは脚本を通じて作っていくとのことですが、本作の脚本を手がけられた福井晴敏さんや、『ガンダム』シリーズの産みの親である富野由悠季監督などからの要望などはあったりしたのでしょうか?

吉沢監督:福井さんは、主役3人のドラマを通して“ニュータイプとは何か?”を描きたいということでした。本作のベースとなった『不死鳥狩り』という短編小説もありましたし、それが軸になっています。富野さんは本当に「好きにやりなさい」という感じで、気にしていませんでしたね(笑)。

――吉沢さんが監督として手がけた部分というのは、どういったところになるのでしょう?

吉沢監督:主役の3人をどう立ち回らせるか? 舞台をどう作るか? というところはけっこう意識しましたね。浜辺のシーンなんかは特にそうですが、どんなシチュエーションでモビルスーツ(以下、MS)の戦闘を描くかなどの部分もそうですね。

 大筋は福井さんの脚本があったので、それをどうビジョンとして紡いでいくかという部分がメインですね。ニュータイプのビジョンは福井さんの要望通りにやるので、こちらからは「物語の流れとしては主役3人の人間ドラマにしたい」ということを打ち合わせの際に福井さんにお願いしました。


――主役3人を決める際の、オーディションの際の印象をお聞かせください

吉沢監督:榎木さんはひたすら上手でしたね。すごくいい感じの好青年なんですけど、ちょっと陰りがあるというか。それが主役のヨナの感じにハマるなと思ったのが印象に残っています。

――ヨナ役は榎木さんにスムーズに決まったのでしょうか?

吉沢監督:すんなり決まりましたよ。福井さんやプロデューサーの小形さんにも好評でしたし。誰にするかモメるとかは全然ありませんでした。

榎木さん:よかった……! 「僕は別の人を推していたですけど……」とか言われたら、今日のインタビュー中ずっともやもやするとこでしたよ(一同笑)。

――オーディションを受けてみて、榎木さんはどのような印象を持ちましたか?

榎木さん:通常のアニメ作品では、テープオーディションを受けてからスタジオオーディションという形が多いんですが、『NT』では最初からスタジオだったんです。監督やスタッフの皆さんに直接見ていただけるならば、ディレクションとかも含めて意思疎通が図りやすいと思ったので、自分が台本を読んで感じたことを自分なりに打ち出していこうと思いました。そうでなければスタジオでやる意味がないと思いますし。

 オーディションの台本って、通常はなんとなく状況やセリフが書いてあることが多いんですが、今回は普通に完成した台本のようにト書きが書いてあったので、なるべくその状況を把握して演じるよう心がけましたね。結果、そんなに軌道修正もされなかったので、読みはなんとなく当たっていたのかなと。

――ではオーディションのイメージのままアフレコに望まれたと。

榎木さん:オーディションの時は、台本をすべて読んでいるわけではありませんので、当然台本を全部読んでから改めて変える部分はあります。でもオーディションの段階から、ヨナという人物に鬱屈した、陰を抱えている感じはつかんでいたので、そこは僕なりに自分の中にある陰の部分を引き出すようなニュアンスで演じました。そういう陰の部分って、人間誰しも持っていると思うんです。そんな陰の部分をうまく混ぜようという気持ちでしたね。

――どこか陰があるという部分の他にも、ヨナを演じるうえで気を使った部分があれば教えてください。

榎木さん:作中では、実はあまりヨナ自身のことは語られないんですよね。過去の話がないわけではないんですが、どんな人間かというのはあまり描かれないので、ここを想像するのがけっこう大変でした。

 例えば、小さい頃にリタとミシェルとどういう会話をしていたのかとかですね。リタとの接し方はなんとなく想像つくんですが、ミシェルと気が合うのかとかが悩みどころで、そういう部分から立体的にキャラクターを組み立てていき、ただの舞台装置にならないように意識していました。ちゃんと1人の人間としての存在感を持ちつつ、結果的に物語の歯車になっていたらいいなと。

吉沢監督:確かにリタがいなかったら、ヨナとミシェルだけじゃ仲よくならなさそうだよね。

榎木さん:ヨナはミシェルのことを好きかというと、そんなでもないのかなって(笑)。3人だからこその仲の良さかなと思ったんです。そこはけっこう想像していて、空気感はかなり考えました。

吉沢監督:そういうのってリアルな人間関係でもありませんか?

榎木さん:3人でいると会話するのに、2人になったら会話がなくなるみたいな組み合わせ、ありますね。

吉沢監督:そういうリアルが作品に出ているんですよ。作業が終わって見返した時に、あの3人の生々しい青春の陰みたいなものを感じたんです。やっぱりそういう部分は意識していたし、皆さんの力もあって実現できているので、よかった部分だと思うと同時に、悲しい話だなとも思ってしまうんですが。

榎木さん:同じような話を村中さん(※ミシェル役の村中知さん)に言ったら、「ヒドイ!」って言ってましたよ。「私のことはどうでもいいんだ」って(笑)。

吉沢監督:どうでもいいってことはないんですけど、それは脚本の福井さんに言っていただく方向で(笑)。

――そういった3人の関係性というのは、収録時に役者さんたちには伝えていたのでしょうか?

吉沢監督:最初に「この作品はこういうイメージを持って作っています」とお話しさせてもらいます。でも、その後はもう脚本と未完成ながら絵があるので、ここから先は役者さんの世界だと思っているんです。あとはもうストーリーと映像が決めるというか。

榎木さん:そうですね。台本と映像があれば、そこから気持ちを読み取って作っていくことで、物語ができあがっていく感じはあります。

吉沢監督:演出の仕事をやっていていつも思うことがあって、僕らは画面に映るものしか作れないんです。でも役者さんの芝居は、画面にない部分すら感じさせるようなことをやってくれる。それが世界を作っていくんだって。これは富野さんの受け売りですけどね(笑)。

 過去にそれを感じることもありました。ぜんぜん違う作品の話ですが、声優の中村悠一さんが『ワンパンマン』という作品で、無免ライダーというキャラクターで出演されていたんです。正義感が強いんだけど、どうも空回ってしまうというヒーローなんですが、僕は彼を見て「妹がいるんじゃないかな?」って思わされたんですよ。そんなことは全然作中でも語られていませんし、実のところがどうなのかは知りません。ですが、中村さんの芝居を聞いていて“頑張っているおにいちゃんのイメージ”を感じたんです。

 何が言いたいのかというと、中村さんの演技が“受け手が勝手に想像してしまうような力を持った演技”だったんですね。先ほどもヨナはどういう人間か完全には描いていないという話がありましたが、“映っていない部分も想像させるようなところ”を、役者さんがイメージしてくれることで、キャラクターの味が滲んでくるのかなと思います。非常につかみどころのない話なんですが、そういうものを榎木さんの芝居からは感じますね。

榎木さん:そう言ってもらえるとありがたいですね。ですが演じる側としては、そういったものを滲ませようと意識して演じているわけではなくて、割と“自分が安心したいから”というのが理由なんです。心が入っていないというか、説得力のない言葉を言っているのってツライんですよ。想像が広がっていかない言葉って、しゃべっていても、言葉が生きていない感じがしてしまうんです。

 監督が言ってくださったようなことを出せなくてもいいから、事前にいろいろ考えておくと演じる時の核になるんです。ほかの役者さんも同じだと思いますが、そこが役者ならではの心構えなのかなと。逆に、絵からそういう広がりを感じる時もありますよ。「あ、こういう表情するんだ」とか。そこからヒントを得て芝居が変わっていくこともあるので、お互いいい感じで作用し合っているのかなと思います。

――本作でも、絵から着想を得た部分などはありましたか?

榎木さん:ヨナの表情が幼く見えた時がありましたね。過去のことを語っている時に感じたんですが、気持ちだけ昔に戻っちゃってるのかなとか。そのシーンの描かれ方が、本当にそのように意識されていたものかはわかりません。ただの僕の錯覚なのかもしれませんが、演技にはその錯覚が大事だなとも思っているんです。そこから、演技の手がかりがつかめたりもしますから。

――自宅などで練習することもあると思いますが、演技を組み立てていく時に、何か特別なことをしていたりするのでしょうか? 例えば、同じシリーズの作品を見るなどは?

榎木さん:どの作品でもそうですが、その役を演じるにあたって特定のもの見て参考にすることは、あまりないですね。普段からいろいろなものを見てインプットして、自分の中の引き出しを作っておくことは意識していますが。例えば『NT』をやるためにあの作品を見よう、とすると、元の作品に影響されすぎちゃう気がするんですよ。それもちょっと自由度がなくなっちゃうと思っていて、やるにあたって改めてチェックするというよりは、この作品をどう楽しくできるかなと考えて練習しています。

――自分の過去の体験を思い起こして、キャラクターの感情を作ってみたりすることはありますか?

榎木さん:それを元にふくらませていくこともあります。でも、僕は基本的に、自分がその役……今回であれば“自分がヨナとして生まれたらどうなるかな?”と想像していきます。そこにはあくまで“自分が”という感覚が入るんですよ。なので僕が演じる時は、自分の価値観がどこかに入りこんでいるのかもしれません。

吉沢監督:そういうことができるから役者さんはスゴイですよね。ただその人を演じるだけでなく、「自分だったらどうするか?」というフィルターが1枚入るので、その人の味が出る。

榎木さん:この役作りの方法は、たぶん役者さんによって違うと思いますけどね。僕の場合は、自分がその人に生まれて育ったらという視点で見ていることが多いですね。

――本作であれば、ヨナの過去のいきさつなど、詳細な設定が多いほうが役作りはしやすいものなのでしょうか?

榎木さん:完全になかったら困りますが、少しあればあとは全部自分の想像で構築していきます。その結果、監督たちに軌道修正していただく場合は、そのつど自分の中で組み上げたイメージをちょっと変えて調整していく感じです。

吉沢監督:想像力の力が大事なんですね。

榎木さん:そうですね、想像……妄想と言ってもいいかもしれません。妄想することは大事だと思います。例えば両親とはどんな接しかただったのかとか。ヨナだったら、たぶんけっこう優しい両親がいて、ご飯の時はちょっとボソボソっとしゃべったりしていそうだな、とか。両親も『ちょっと心配だわ~』みたいに言うくらいおとなしいんじゃないかとか。そういう妄想を広げて立体的にしていく感じですかね。

吉沢監督:そういうイメージを作っていたんですね。確かに、なんかにじみ出ているような気がします。

榎木さん:たぶん僕自身もそういう子だったかもしれないです(笑)。優しい両親に育てられて、あんまり家でもしゃべらず、みたいな。だから想像しやすかったのかなと。作品作る時とか、けっこう妄想しませんか?

吉沢監督:しますよ! でも、そっちに引きずられすぎちゃってという部分があって。自分が入りすぎてもいけないなと思うんです。

榎木さん:監督は全体を統括しないといけないですからね。僕たち役者は、個人の役に集中できますけど。

吉沢監督:そうなんです。監督だと俯瞰的に見ないといけない部分もあって。2、3歩下がったところから「こいつどうなのかな?」というのを見なきゃいけない。まさに今勉強中なんですが。

榎木さん:少しわかる気がします。自分の気持ちだけに寄っちゃうと、シーンの意味というか、作品全体の楽しさみたいなものが損なわれてしまう場合もあって。物を作る作業というのは総じて似ているのかもしれませんね。

――舞台挨拶などで、収録時に用意したお手紙を榎木さんだけもらえなかった、というようなエピソードがありましたが、その後どうなったのでしょうか?

榎木さん:そういえばあれ、どこにいっちゃったんでしょうね(笑)。

吉沢監督:手紙というより、木村さん(※音響監督の木村絵理子さん)と役者さんと僕とで共有するメモ書きみたいなものですね。当時忙しすぎて「木村さんや皆さんにお渡しするものをまとめなきゃ!」と、渡す前日に、なぐり書きみたいな勢いで書き上げて「お願いします!」と木村さんに渡しておいたんです。最初は、あえて渡さないという木村さんの狙いなのかなと思いました(笑)。

榎木さん:木村さんは「ぜんぜんそんな狙いはなかった!」っておっしゃっていましたよ(笑)。

――ちなみに、どんな内容だったのでしょうか?

吉沢監督:ヨナに関して書いたのは、“からっぽな人間で、振り回されつつもなんとなく生きていっちゃうようなしぶとさがある”というようなことを書いた気がします。けっこう前なのでうろ覚えですが……。

 『NT』の最後でヨナは、ミシェルもリタも死んでしまい、取り残されてしまう。バナージに励まされはするものの、結果的に何もいいことがないんですよね。最後にちょっときれいな光の軌跡みたいなものを見て、なにかこれからいいことがありそうな感じにも見えますが、実際のところヨナとしては「もう生きていくしかない」みたいな。

榎木さん:なるほど。そういうことを伝えようと思っていたんですね。でも現場で出したものがすべてですし、結果としてこれはこれでよかったのかなと思っていますが、監督はいかがでしょう?

吉沢監督:うん! 僕の想定よりもっとよかったですよ。いい方向に揺らぎがあるというか。ガチガチに僕の思い通りだったら、絶対つまらないと思います。

榎木さん:つまらないかどうかはわかりませんが、想像を越えてこないみたいな感じですかね。

吉沢監督:そう。こちらの予想外の演技だったとしても、役者さんと僕たち、つまりは作っている人間の見ている方向が同じなら大丈夫なんです。アニメーターさんも、僕の指示とぜんぜん違う感じでビームサーベルを振らせたりするんですよ(笑)。でも、想定外のアニメーションが、映像の流れをよくすることは本当によくある。方向性さえ同じであれば、思いっきり自分の表現でぶつかってくれたほうが絶対にいいと思います。

――吉沢さんは監督として、そのあたりは柔軟に受け止めると。

吉沢監督:そうですね。方向性が同じであるということが大前提ですが、皆さんプロなので、そこは汲んでくださいます。もちろんそれが飛び出しすぎたなという場合は相談することもありますけれど、固めすぎないことも大事かなと思っています。

――ではアフレコとかでも、あまり指示は出されないのでしょうか?

吉沢監督:制作作業って、時間との戦いでもあるんですよ。それに、やればやるほどダレちゃうこともありますから。必要なことは初めに木村さんに伝えてありますし、TVシリーズのように長い時間をかけて固められるわけでもないので、その時のライブ感みたいなものを大事にしたいなと。

榎木さん:確かに、何回もやっていると疲弊してくる感じはありますね。逆に、疲れ切ったすえに出てくるものもあったりはしますが、ある程度は勢いも大事だと思います。

――演じる側としては、役者にある程度任せてもらえる時のほうが気楽ですか? それとも逆に緊張するのでしょうか?

榎木さん:僕はやりやすいタイプです。福井さんも収録現場にいらっしゃっていたので、セリフの意味なども聞ける環境ではあったのですが、あまり聞いちゃうとつまらないというのも感じていました。福井さんが思っていることと違うことをやっても、その誤差がおもしろい部分もあるでしょうし。

 そのあたりをお任せいただけたので、僕としてはやりやすく、気合の入る現場でした。とは言え今回は僕が座長となる現場だったので、例え縛られていてもそんなに気持ちは変わらなかったと思います。座長の僕が自信をなくしてしまったら、それがみんなに伝わっちゃうので、どれだけリテイクになっても動揺はしないようにしようと決めていました。この人なら大丈夫だと思ってもらえないと、みんな崩れちゃうので、とにかく平静でいようと意識しましたね。

吉沢監督:主役って感じがするなあ(笑)。

榎木さん:座長をやられるかたは、皆さんそうだと思いますよ。自分が自信なさげだと不安を与えかねないので。そういう意味で自分自身の演出みたいなものは考えていました。

吉沢監督:ちょっと個人的に気になるんですが、自由にやらせてもらえる現場と、ガチガチなほうな現場で得られる達成感って、気持ち的に違いますか?

榎木さん:僕はどちらでも同じですね。結局目標としてはいい仕事をしたいということなので、それはどの状況でも変わらないんじゃないかな。ガチガチに指示をされる場合でも、ちゃんと作りたいもののイメージがあって、そのために「絶対こうしてくれ」と言われた場合、僕は従います。

 監督の思い描いたものを作ることができて、みんなでいいものを作れるのなら、何も気になりません。作りたいものに対する熱意が伝われば、僕自身が納得できていなくても構わないかなと考えています。

吉沢監督:そのイメージが共有できているかは大事ですよね。今回は収録時間も短かったし、事前にディスカッションなどもできなかったので、そこが共有できていたのは本当によかったと思います。

――割と最初のほうから、現場の空気感みたいなものは共有できていた感じなんでしょうか

吉沢監督:僕はそんな気がしましたね。

榎木さん:脚本や絵を通して、監督たちがどういったことを伝えたいかが明確で熱がこもっていたので、各々が気合いを入れてきたんだと思います。

吉沢監督:それぞれが自由に動いて、こう来るならこう返すしかないよな、という空気が自然に醸されてくるのがベストな仕事という気がします。そうなることが決まっていたかのように事が運んで、形作られていくのがいいのではないかと。その過程で起きるトラブルも含めてね。

榎木さん:そうだと思います。熱意がある人たちが集まると、そういう空気も生まれやすい気がしますね。

――トラブルという言葉も出ましたが、収録時ではおもしろいエピソードなどはありましたか?

榎木さん:梅原くん(※ゾルタン・アッカネン役の梅原裕一郎さん)が生き生きしていたのが印象的でした。梅原君は外見も含め、非常にカッコイイ人なんですよ。あの顔が、ゾルタンのような醜いセリフを叫んでいる時にどういうふうに歪んでいるのか見てやろうと思ったんです。でも、横を見たら綺麗な彫刻のような顔をしていて、勝手に僕は敗北感を感じていました(笑)。

吉沢監督:そういえば、収録中に「あれ、なんかヨナ暗くなったな?」って……冗談です(笑)。

榎木さん:(笑)いや、本当にすごかったんですよ! ゾルタンとの会話シーンで、自分のセリフを言った後にチラッって見たんですよ。でも「あっ、変わってないな……」と思って、スッと自分の立ち位置に戻っていくまでを含めて、僕のなかで強烈に印象に残りましたね。

ゾルタン様の3分でわかる宇宙世紀!


――榎木さんは、ゾルタンのような奇想天外なキャラクターを演じてみたいと思いますか?

榎木さん:やってみたいです。自分の感情の赴くままに演じられるのって気持ちよさそうですし。ストレス発散になりそうですよね。

吉沢監督:僕も榎木さんの悪役見てみたいと思いました!

榎木さん:割と好青年の役が多いですからね。『ブギーポップは笑わない』では悪役をやらせていただきましたが、数えるほどしかないですね。悪役のお仕事、ぜひお待ちしています!(笑)

吉沢監督:『ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風』のパンナコッタ・フーゴも榎木さんですよね。フーゴも割と感情で振れ幅あるタイプですが、あれは演じていてスカっとしましたか?

榎木さん:フーゴは……喉が大変でした(笑)。全部低いトーンでやっているのと、ドスをきかせているので。力まない瞬間がないんですよ。

吉沢監督:なるほど。ドぎついビビッドな感じが魅力ですもんね。

榎木さん:その点『NT』は、ほどよく力を抜いてできました。叫ぶところは疲れましたけどね(笑)。

吉沢監督:ヨナは全体的に薄味な感じですからね。

――では改めてということになりますが、『NT(ナラティブ)』というタイトルに込められた意味について教えてください

榎木さん:確か福井さんの奥さんが考えたんですよね? NT……ニュータイプにかけられるいい単語ないかなって。

吉沢監督:なんかそんなこと言ってましたね。ダブルミーニングっていうか。

榎木さん:『ユニコーン』もそうですよね。“UC(宇宙世紀=ユニバーサル・センチュリー)”とかかっている。

吉沢監督:確かなことは福井さんでなければわかりませんが、最初に福井さんから「今回の作品のタイトルは『ガンダムNT(ナラティブ)』にします」と聞いた時から、違和感などは抱きませんでした。ナレーションとかの語源になっている、“物語る”ということに持っていきたいと言われた時、ナラティブっていう語感にはぜんぜん抵抗なく、すっと受け入れられました。

――BDやDVDで初めて本作に触れる方に、作品やヨナの魅力を伝えるなら、どんなところでしょうか?

榎木さん:ガンダムというと常に戦争しているイメージがあるかもしれませんが、『NT』は戦争とかではなく、主人公3人の人間ドラマが主軸にある作品です。そこにニュータイプの研究所などが絡んできて、一個のドラマが作られていくので、今までの『ガンダム』シリーズ……特に“宇宙世紀”と呼ばれる時代を舞台にした戦争の歴史を知らなくてもすんなり入っていけると思います。

 BDやDVDでは劇場版から修正されている部分もあり、後半部分の迫力がぐんと増していたので、迫力の戦闘シーンなども見どころです。とはいえ、基本的には人間ドラマだと思いますので、そこを楽しんでいただければ嬉しく思います。

吉沢監督:舞台挨拶でも言ったんですが、この作品は実はオカルトです。オカルトを前面に持ってきた『ガンダム』で、ガチガチのロボットものとしての『ガンダム』作品ではなく、フェネクスと主役3人が織り成すドラマということで、先入観なしに本作単体で観ても楽しんでもらえる作品です。『ガンダム』用語もそれほど多くないので、いろんな方に観ていただきたいです。

――特典としてオーディオコメンタリーが付くとのことですが、その聞きどころなどがあれば教えてください

榎木さん:オーディオコメンタリーって刹那的に話しているんで、実のところもう記憶が曖昧なんですが……プロデューサーの小形さんのトークが上手で、とても楽しく収録した記憶がありますね。

吉沢監督:小形さんがパンツの話をしだして大丈夫かなと思ったんですが、その後どうなったのだろうか……。

榎木さん:その部分はひょっとしたらカットされている可能性がありますが(笑)、そんな感じで、真面目に語るというよりは、笑える感じになっています。みんなでご飯を食べに行った時のような、楽しい空気の中で話していました。

吉沢監督:本編がすごく悲しいお話なので、番外編は楽しい感じで聞いてもらえればと思います。

榎木さん:もしも初めてご覧になるようでしたら、先にちゃんと本編を見ることをオススメします。テンションの差がすごいので(笑)。

――では最後に、ファンの方々に向けてメッセージをお願いします

吉沢監督:映画館では一時停止したり戻してじっくり見たりできないですし、駆け抜けていくような作品でしたので、BDやDVDでゆっくりご鑑賞いただければと思います。自由に受け取って楽しんでいただければ、作った側としてはありがたいです。特典もいろいろ入って豪華なので、よろしくお願いします!

榎木さん:BDやDVDは、自分の好きなシーンを何度でも観られるのがいいところです。見ごたえのある名シーンがたくさんある作品だと思いますし、劇場版からさらに手直しされていてクオリティが上がってもいます。ぜひ何度も見ていただいて、『NT』の世界を楽しんでいただければと思います!



■『機動戦士ガンダムNT』Blu-ray特装限定版概要
【品番】BCXA-1432
【価格】9,800円+税
【仕様】
カラー
(予)173分[本編BD:約95分(本編約89分+映像特典約6分)+特典BD:約78分]
本編BD:DTS-HD Master Audio(5.1ch)・DTS(ステレオ)・一部リニアPCM(ステレオ)
AVC
BD50G
16:9<1080p High Definition>
日本語・英語音声収録
日本語・英語・仏語・韓国語・タイ語・中国語繁体字(台湾・香港)・中国語簡体字字幕付(ON・OFF可能)
【特典BD】
リニアPCM(ステレオ)
AVC
BD25G
16:9<1080i High Definition>・一部16:9<1080p High Definition>

■『機動戦士ガンダムNT』Blu-ray豪華版(4K ULTRA HD Blu-ray同梱)概要
【品番】BCXM-1433
【価格】12,800円+税
※通販サイト“ガンダムファンクラブ”、“バンダイビジュアルクラブ”、“プレミアムバンダイ”で限定販売。
【仕様】
カラー
(予)262分[本編BD:約95分(本編約89分+映像特典6分)+本編UHD BD:約89分+特典BD:約78分]
本編BD:DTS-HD Master Audio(5.1ch)・DTS(ステレオ)・一部リニアPCM(ステレオ)
AVC
BD50G
16:9<1080p High Definition>
日本語・英語音声収録
日本語・英語・仏語・韓国語・タイ語・中国語繁体字(台湾・香港)・中国語簡体字字幕付(ON・OFF可能)
本編UHD BD:DTS-HD Master Audio(5.1ch)・DTS(ステレオ)
HEVC
66G
16:9<2160p Ultra High Definition>
日本語・英語字幕付(ON・OFF可能)
【特典BD】
リニアPCM(ステレオ)
AVC
BD25G
16:9<1080i High Definition>・一部16:9<1080p High Definition>

■『機動戦士ガンダムNT』Blu-ray通常版概要
【品番】BCXA-1431
【価格】7,800円+税
【仕様】
カラー
(予)95分[本編約89分+映像特典約6分]
DTS-HD Master Audio(5.1ch)・DTS(ステレオ)・一部リニアPCM(ステレオ)
AVC
BD50G
16:9<1080p High Definition>
日本語・英語音声収録
日本語・英語・仏語・韓国語・タイ語・中国語繁体字(台湾・香港)・中国語簡体字字幕付(ON・OFF可能)

■『機動戦士ガンダムNT』DVD概要
【品番】BCBA-4948
【価格】6,800円+税
【仕様】
カラー
(予)95分[本編約89分+映像特典約6分]
ドルビーデジタル(5.1ch・ステレオ)
片面2層
16:9(スクイーズ)
ビスタサイズ
日本語・英語字幕付(ON・OFF可能)

(C)創通・サンライズ

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