『ティアムーン帝国物語』最終回(12話)感想。自身の経験ゆえのミーアの名言が深い…皆に愛された皇女の物語も大団円へ

米澤崇史
公開日時

 TVアニメ『ティアムーン帝国物語~断頭台から始まる、姫の転生逆転ストーリー~』の第12話“大事に育ててきたものの枯らさないために”の感想をお届けします。

【注意】キービジュアルより先のテキストでは、『ティアムーン帝国物語~断頭台から始まる、姫の転生逆転ストーリー~』12話の物語に関する記述が多々あります。そのため本編をご覧になってから読むことを強くオススメします。

TVアニメ『ティアムーン帝国物語~断頭台から始まる、姫の転生逆転ストーリー~』最終回(第12話)“大事に育ててきたものの枯らさないために”感想

失敗を通して成長したシオンは、もう一人の主人公

 毎週楽しみにしていた『ティアムーン帝国物語』も、いよいよ最終話。第11話でのミーアの決死の(?)演説によって、レムノ王国軍と革命派の争いは一旦落ち着き、キースウッドからもたらされた情報で、今回の革命をサンクランド王国の諜報部が裏で操っていたことも判明しました。

 すべてをミーアとアベル王子に明かし、あらゆる罰を受ける覚悟のシオン王子に対してミーアが告げた「人間は失敗する生き物だからこそ、やり直しの機会が必要」という台詞は、ミーア自身がされたことへの意趣返し的な意味もあるとはいえ、普通にジンとくる名言でした。

 やり直し前の世界でのシオンは、“一度も間違わない理想の君主”と評される一方、失敗という経験を積んでいなかったために、ミーアにやり直すチャンスを一切与えず処刑に踏み切った、多少浅はかな面があったのも事実。

 某有名スポーツ漫画にも、「“負けたことがある”というのがいつか大きな財産になる」という名言がありますが、やっぱり失敗したことって成功したことよりもずっと心に残り続けるんですよね。

 今振り返ると、レムノ王国に入ってからの一連エピソードは、シオンが失敗を知って成長するまでの物語でもあり、もう一人の主人公的な位置づけのキャラクターでもあったと気付かされました。

 一方、その後に罰としてミーアのキックを受けた時にはミーアからM疑惑をかけらてもいましたが、まさかミーアの真意が、前の世界で処刑されたことの腹いせだった……ということには誰も気づけないでしょうから、これがシオン以外だったとしても同じような結論に行き着く気がします。

 ミーアがめちゃくちゃいい台詞をいった直後に、こうしたコミカルなシーンが始まる振れ幅の大きさも、本作の魅力だなと感じました。

絶対絶命の窮地に陥ったミーアを救う二人の存在がエモい

 主であるシオンが敵に回ったことで風鴉のメンバーは戦意を喪失し、瞬く間に制圧される中、アンヌが持ってきてくれたシャンプーを見て、呑気に「戦いが終わったらお風呂に入りたい」とフラグを建ててしまうミーア。不運にも階段で足を滑らせ、黒幕であるジェムが隠れていた場所に転がり落ちしてしまいます。

 すでに部下のほとんどが降伏し、サンクランド王国からも見捨てられた状態のジェムがミーアを人質にとって抵抗することにはもうほぼ意味はないはずですが、なまじ“帝国の叡智”としての名声が高まりすぎたため、作戦が失敗した原因としてヘイトをすべて向けられることに。

 今まではミーアにとって都合のいい方向に転がっていた“勘違い”ですが、ここでは完全にマイナスに働いてしまいました。

 しかしそんな時に、これまで何度も登場していたアベル王子が贈ったウマ用のシャンプーが伏線で、ミーアの窮地を救うというのはなかなか予想外の展開でした。

 おそらくミーア自身はシャンプーが床を濡らしていることに気づいておらず、ただアンヌの言葉だけを信じての動きだったはず。11話の、アンヌの姿を見た瞬間に我慢していた感情が溢れ出してミーアが泣きじゃくってしまったシーンもそうですが、ミーアがアンヌに向けている絶対的な信頼が、終盤に来て一気に垣間見えるようになっているのがとても良いなと。

 加えて、今のミーアにとってもっとも大切な存在は、アベルとアンヌの二人だと思いますが、その二人が最後にミーアを救ってくれるという関係性もなかなかにエモい。

 ジェムを含めた面々を殺さないよう頼んだ時は、ミーアが慈悲の心に目覚めたかと勘違いしていましたが、さすがミーアというべきでしょうか。処刑を行った結果、自身のようにやり直しが発生し、せっかく掴んだハッピーエンドが別の誰かの手で変えられてしまう可能性を恐れての言葉でした。

 自分もこれまでいろいろなループやタイムリープ系作品に触れてきましたが、ただただ自分の保身のために悪役を許すという展開は、初めて見たかもしれません。けど、確かにミーアがやり直しができた理由や条件がまったく分かっていない以上、それを警戒するのはかなり納得できる理由なんですよね。

 風鴉は帝国崩壊の原因を作った存在でもあり、ミーアにとっては殺したいと思っても不思議ではない相手なのですが、一見ワガママなようで大事な場面では一切感情的にならず、未来を見据えて冷静な判断ができるのがミーアの凄いところだなと思います。

 ラストには、すべての騒動が治まったあと、仲間たちと共にゆったりとした時間を過ごし、“死にたくない”以上に、“今の世界が好き”ということにも気づくこともできました。世界がミーアを受け入れ、ミーア自身もその世界を受け入れるという、最終回に相応しい大団円だっと思います。

 TVアニメとしては一旦の結末を迎えた『ティアムーン帝国物語』ですが、とにかく全12話通して常にミーアが表情豊かでかわいかったのが素晴らしかったなと。

 とくに最終話の後半は、階段で足を滑らせた驚き顔、ジェムに人質にされた時のビビリ顔、やり直しの条件について考える時の真剣な顔、アベルと接する時のちょっと恥ずかしそうな顔など、もうあらゆるミーアの表情を見せようという気概を感じられたほどの全部盛りでした。

 なかでも桜が舞い散る中で映し出されるラストシーンの横顔はあまりにも美しく、「ミーアを魅力的に描きたい」という制作陣の想いがひしひしと伝わってきます。視聴者、制作陣、そして作中のありとあらゆるキャラクター達と、ここまであらゆる方面から愛される主人公というのはなかなかいないのではないでしょうか。

 ミーアの物語として、かなり綺麗にまとまっていた最終回でしたが、アニメ内でも言及されたジェムの背後にいると思われる黒幕たちの存在など、伏線らしき要素もまだ残されており、原作も第2部以降のエピソードが丸々残っていますから、アニメの続編にも期待したいところ。

 いつの日か、またミーア達に会える日が来るのを楽しみにしています。


©餅月望・TO ブックス/ティアムーン帝国物語製作委員会2023

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