レビュー:現実のような夏の夢は、優しく切ない。『シャンハイサマー』は救いと赦しを描くノベルゲーム

まさん
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 中国のインディゲームデベロッパー・FUTU Studioが開発、Astrolabe Gamesが、PC(Steam)/Nintendo Switch/PS5/PS4で2月8日に発売の『シャンハイサマー(Shanghai Summer)』。本作は、2Dで表現された上海の街で12日を過ごし、交錯する記憶に隠された真実を探るノベルゲームです。

 恐怖感のあるホラーゲームではなく、特定のキャラクターと仲良くする恋愛アドベンチャーでもありません。何気ない日常を通して周囲の人々に関わり、ちょっとだけ運命に干渉して良い方向へ進ませる。ノスタルジックで優しく、穏やかな雰囲気の作品です。

 過去を追い、青春のほろ苦さを味わう展開ながらも、希望を感じられるシナリオ。どこか切ないけれど前向きになれる爽やかな読後感。そんなステキな魅力を持つ作品の見どころを、担当ライターがプッシュしていきます。

※本記事はAstrolabe Gamesの提供でお送りします。

“最後の質問”に答えて現実世界へ戻るため、夢のような世界で日常を過ごす

 物語の主人公は、大学を卒業してから本屋で働いている屠 百川(と びゃくせん)。彼は、ある日夢の中で不思議な黒猫に出会います。そこで告げられたのは、自分が生活している世界が“現実”ではなく意識の境目であり、夢のような場所であるという事実でした。

 無数の夢が始まり、終わる場所に捕らわれてしまったという百川。黒猫は、彼が現実へ戻るためには「手がかりを集めて“最後の質問”に答える必要がある」と教えてくれます。

 しかし、そのために必要な記憶は、何者かの干渉を受けて思い出せない状態。重要な手掛かりに繋がる女の子の名前を聞いても「■■■■■」と、そこだけ聞こえなくなってしまうのです。

 謎を解くカギは、百川のなかにある知らない記憶。果たして、最後の質問とは? なぜ、思い出せないのか? ここは、本当に夢の世界なのか? 現実にしか見えない世界で12日間を過ごしたとき、すべての真実が明らかに……。遊び終えたとき、きっと優しい気持ちになれるはず。そんなゲームです。

  • ▲時折、明晰夢のように高校時代を思い出す百川。なぜか、自分の身に覚えがない不可思議な記憶も……?

 システムとしては、好きなタイミングのイベントに飛べるフローチャートが特徴。失敗を繰り返しながら正しい選択肢を選び、フローチャートを駆使して日付を進めていきます。

 むしろ、フローチャートがないと真実になんてたどり着けません! だって、百川は割とアッサリ意志が折れてしまうので。よいことがあっても悪いことがあっても、ちょっとしたことで謎を追うのを止めてしまいます。悪い人じゃないのですが、とても意志が弱い。

  • ▲大切な相手との約束をすっぽかして、家で寝ていたらバッドエンドに。黒猫も呆れる始末。

 だからこそ、役に立つのがフローチャートなのです。通過済みのイベントなら、いつでも好きなタイミングでやり直せます。バッドエンドになってしまったり、あの選択は間違ってたんじゃないかと思ってしまったり……そんなときは、フローチャートからやり直せばOK。

 もちろん、一度見たことがあるイベントなら、過去だけではなく未来にも飛べます。ちょっと気になって戻ってから、また最新のタイミングに戻るのも簡単。既読会話のスキップもあり、とても親切です。

 ボリュームとしては3時間から4時間程度でサクッと終わるゲームなのですが、こうした親切なシステムがあるので探索も苦になりません。

  • ▲収集要素としてのトレーディングカード集めなど、ちょっとしたオマケ要素も。

 ループ物の主人公になったような感覚でライトに遊べて、日常の穏やかな流れが心地よい感触。話も回り道せずに進んでいくので、展開がわずらわしく感じることもありません。正しい選択を選ばないと進行が止まる場所もありますが、やるべきことはすぐわかるはず。遊んでいて、詰まることはないと思います。

  • ▲物語の要所では、推理物のように単語を選んで思考をまとめる“質問”も。

もしもあの時、違う選択をしていたら……やり直すことで見える人の可能性

 脳裏に浮かぶ高校時代の記憶は、本当に自分の記憶なのか。今暮らしている場所は現実ではなく、夢でしかないのか。最後の質問の手がかりは、百川の記憶と日常で関わる人々のなかにあります。

 大学時代の後輩で、主人公と仲が良い女の子・蘇 静嫺(そ せいかん)。音楽で食べていく夢を捨てきれず、主人公にしょっちゅうお金を借りている友人・若 奉一(じゃく ほういつ)。頭はいいけれど、父親に反発してグレた高校生・呉 小波(ご しょうは)。近所の小学生・楊 成程(よう せいてい)など、百川が出会う人々は何かしらの悩みを抱えている模様。

 そうした人々が、後悔しないような選択ができるようにちょっとだけ背中を押してあげる。主人公にできるのは日常のなかで、彼らの日々が良くなるように交流することです。出会った人々と深くかかわって、なにか大きな事件を解決するみたいな話はいっさいなし。それだけなのですが、それがいいんですよ。

 選択を間違ってしまった場合はフローチャートからやり直せるので、よりよい選択を選んで人々に寄り添っていきましょう。すべては、最後の質問を答えるために必要なことなのです。

 過去の記憶には心苦しくなるイベントもありますが、現実は穏やか。寂しそうな小学生と一緒にピクニックに行ったり、友人の悩みを聞いてあげたり、あくまでも日常の延長上にある展開に癒されます。主人公の記憶を探すという大きな目的はありますが、日々の生活で人々と穏やかに過ごすことが、結果として百川自身にも返ってくる。優しい作品です。

 ただ、本作は夢と現実と記憶だけで構成される日常もの、というわけではありません。謎を追いかけていくと、違う世界としか思えない話が挟まったり、不思議な出来事が起きたり……。そこは現実の世界なのか。それとも、また別の夢なのか。謎を追いかけつつも、穏やかな日常が進行していく独特の雰囲気は、本作ならではの魅力だと思います。

  • ▲百川以外のキャラクターを操作する場面も。視点や世界、時間が複雑に交わりますが、テキストが読みやすくて理解はしやすいです。翻訳も問題なし!

 自分が好きなのは、百川が戻るべき現実を認識しながらも“ここで暮らしている人たち”を想って日常を続けていることですね。こうした作品だと焦って行動するか、謎を解くことが主人公の目的になるじゃないですか。夢の世界だからとおろそかにせず、あくまでも優先するべきは日常。そこにいる人たちを想いながら、日常を大切にしているところがいい……。

 その時点で交流できる(イベントが進む)キャラクターのアイコンが画面の右上に表示されるのですが、物語が進んでアイコンが出るとうれしくなっちゃいます。システムで示されていなくても、自然と探して交流したくなるくらいです。

 苦い青春の味がする過去の記憶は重めですが、優しい登場人物たちがいる現在が癒しとなり、先へ進める原動力になります。登場人物が他者を思いやっている気持ちが伝わってくるので、遊んでいて嫌な気持ちになりません。

  • ▲生意気な態度をとる近所の子どもに対しても、優しいお兄さんのような立ち位置。良い主人公です。

 夢のように浮かんでくる高校時代の苦く切ない記憶。穏やかにループする日常。交流することで見える人々の生活。本作の物語は夏の日のように鮮やかで、切なさもあるけれど気持ちよく読み終えられます。空いた時間に遊ぶ短編のアドベンチャーとしてもオススメなので、気になった方はぜひプレイしてください!

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