『FF14』“ミソロジー・オブ・エオルゼア”制作秘話を初公開アートとともに開発者に訊く!【インタビュー前編】
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2024年夏に、最新の拡張パッケージである『黄金レガシー』の発売を控えているオンラインRPG『ファイナルファンタジーXIV』(以下、『FFXIV』)。そのひとつ前の拡張パッケージである『暁月のフィナーレ』では、パッチ6.1(2022年4月)からパッチ6.5(2023年10月)にかけて、アライアンスレイドシリーズ"ミソロジー・オブ・エオルゼア"(以下、MoE)が展開されました。
このMoEの最大の特徴は、本作の世界設定において重要な位置を占める"エオルゼア十二神"にフォーカスしたコンテンツである、という点にあります。ゲーム開始時にプレイヤーキャラクターの守護神としても選択することになる十二神。
その姿が初めてゲーム内で描かれ、さらには神々とのバトルが繰り広げられるとあって、MoEは6.xシリーズの中でも注目度が非常に高く、壮大な物語や演出と相まって、多くのプレイヤーの心に残るコンテンツとなりました。
そこで今回はMoEの完結を記念して、BG(ステージや景観などのバックグラウンド)、キャラクターアート、3Dモデリングを手掛けた3名の開発者にインタビュー取材を実施。まず前編では、MoEの開発全般に関するお話や、第1弾"輝ける神域 アグライア"、第2弾"喜びの神域 エウプロシュネ"の各コンテンツに込めた想いを語っていただきました。また、あわせて今回が初公開となる設定画も公開していますので、そちらもご注目ください。
なお、"輝ける神域 アグライア"のBGについては、過去のインタビューでもさまざまなエピソードが公開されています。未読の方はぜひこちらもチェックしてください。
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【高梨佳樹(たかなし よしき)】
リードバックグラウンドアーティスト。MoEにおいてBG全体の監修を担当。
【糸長 凌太(いとなが りょうた)】
キャラクターアーティスト。ラールガーやエウロギアなどの3Dモデルを担当。
【大谷 万梨奈(おおたに まりな)】
キャラクターコンセプトアーティスト。ラールガー、サリャク、ハルオーネ、ニメーヤなどのキャラクターアートを担当。
十二神はそれぞれの個性を出しつつ、突出しないように
――まずは、今回が初のインタビューとなる大谷さんと糸長さんに、自己紹介を兼ねてこれまで手掛けたコンテンツなどをうかがえればと思います。
大谷:肩書きはキャラクターコンセプトアーティストで、本格的に仕事をするようになったのはパッチ5.0(『漆黒のヴィランズ』)からです。最近のものですと、"万魔殿パンデモニウム零式:煉獄編4"の後半フェーズのヘファイストス、"万魔殿パンデモニウム零式:天獄編4"の前半フェーズのパラスアテナ、それから"万魔殿パンデモニウム:辺獄編3"フェネクスや"希望の園エデン:再生編3"フェイトブレイカー、YoRHa: Dark Apocalypse"希望ノ砲台:「塔」"開花シタ神などのデザインを担当しました。
糸長:自分はキャラクターアーティストで、主にキャラクターやモンスターの3Dモデル、テクスチャの制作を担当しています。過去のコンテンツですと、"希望の園エデン:再生編2"の影の王、パッチ6.0(『暁月のフィナーレ』)以降ですと、インスタンスダンジョン"魔導神門 バブイルの塔"で戦う蛮神のアニマ、"万魔殿パンデモニウム:天獄編2"のパンデモニウム、"オルト・エウレカ"の闘神エクスカリバーなどのモデルを担当させていただきました。
――高梨さんにはこれまでにも何度かお話をうかがっていますが、今回もリードバックグランドアーティストとして、MoE全般のBGの監修をされたのでしょうか?
高梨:はい。制作物の監修もそうですが、スケジュール管理、制作進行なども担当していました。
――ではさっそく、MoEの開発についていろいろとうかがっていきたいと思います。まずはパッチ6.5でMoEが完結を迎えたことについて、現在の感想をお聞かせください。
高梨:いままでのアライアンスレイドは、どちらかというと何かとコラボする"クロスオーバーコンテンツ"であることが多かったのですが、MoEは完全に『FFXIV』オリジナルのコンテンツでした。それに加えて、これまで名前や彫像などでしか見ることができなかった十二神のキャラクターが実際に登場するということで、BG班としても気合いを入れて制作に取り組ませていただきました。
シリーズが完結したあとは、プレイヤーの方々が喜んでくださっている様子をSNSで拝見して、皆さんが投稿されたスクリーンショットなどを落ち着いて見られるようになったので、ようやくホッとした感じですね。
大谷:エオルゼア十二神は、まったく新規でデザインするものと違い、プレイヤーの皆さんの思い入れがある存在ですので、まずは見た目で不快になったり、皆さんの持っているイメージとは違うキャラクターになったりしないように、すごく気をつけてデザインしました。
結果、プレイした皆さんの「自分の守護神のことをさらに好きになった!」という意見を拝見して、安心と嬉しさでいっぱいです。
糸長:『FFXIV』では、最初のキャラクタークリエイトの時点で十二神を守護神として選ぶため、思い入れのあるプレイヤーの方も多いかと思います。そこでイラストから3Dに起こしたときに違和感が出ないように、顔の造形や服の素材感などはすごく細かく意識して作りました。自分も皆さんの意見を聞いてホッとした、というのが率直な感想ですね。
――やはり"これまでプレイヤーそれぞれがイメージしていた神様たち"ということで、開発時はかなり気を配った感じでしょうか。
糸長:はい。さらに十二神は神様でもあり、ボスエネミーでもあります。ですから怖すぎないように、威圧感を与えすぎないようにしつつも、威厳のある感じを表現しました。
それに加えて、プレイヤーの皆さんが持っているイメージとかけ離れたものにならないように、理想の神様の表情や佇まいを表現してモデルを作ることを意識しました。そこは通常のモンスターやボスエネミーとは違う部分だったかと思います。
高梨::BGセクションとしては、神様たちのそれぞれの神域をどう表現するのかについて、レイドの"万魔殿パンデモニウム"と同時進行で作成していたこともあり、そちらとどう対比させるかを意識しました。パンデモニウムは"暗い煉獄"というテーマでしたから、こちらは"天国"という感じでしょうか。
――十二神はそれぞれ属性などの設定がありましたので、ゼロから作るよりはデザインしやすかったのでしょうか?
高梨:世界設定本などに記載されている十二神の設定などをもとに、そこからBG班内で想像力を膨らませていきました。"どういうものにするのか"という方向性は明確だったので、その点ではやりやすかったですね。
――キャラクターアート的にはいかがでしたか?
大谷:ゲームコンテンツ班からは「十二神は全体的にギリシャの神々のような系統の服装をイメージして、統一感を持たせてください」という発注がありました。さらに、「すべての神が同レベルで、誰か一人が突出しないようにしてほしい」というオーダーもありました。
――"個性を出しつつ、誰かが突出して強そうに見えちゃいけない"というのは、なかなか難しいような……。
大谷:そうなんですよ……(苦笑)。突出はせず、だけど個々に"特別感"があるようにと気を付けてデザインしました。
――そういったオーダーに加えて、『旧FF14』から続く世界設定に沿った形で作る必要があったと思うのですが、その点はいかがでしたか?
高梨:先ほど"方向性が明確だった"とお話ししましたが、十二神の設定自体は、そこまで細かい部分が決まっていたわけではありませんでした。ですので、BG班では設定にあるキーワードや素材を見つつ、みんなでブレストをして好きなアイデアを出し合っていきました。"過去の設定に縛られる"という感じはほとんどなく、楽しく自由に作れたという印象ですね。
――たとえば"水をテーマにする"ということは決まっていても、具体的にどう表現するかは比較的自由に決められたということですね。
高梨:はい。そこはみんなでいろいろなアイデアを出して、そこからピックアップして「こういった"天国"を作ろう」といった感じで進めていきました。
ただ各担当のアイデア出し自体は、かなり大変だったと思います。水というテーマだけでも、いろいろな方向性がありますので……。そういった苦労の甲斐あって、最終的にはいろいろなアイデアが詰め込まれたマップになったのではないかと思います。
――MoEシリーズでは1つのダンジョンでもボスごとに背景の雰囲気がガラリと変わるのがすごく新鮮で、テンションが上がりました。今までのアライアンスレイドシリーズですと、ボスごとに多少は画の変化がありつつも雰囲気自体は統一されていたのですが、今回はボスごとにかなり異なっていましたね。
高梨:そのぶん、BG制作はすごく大変でした……。神様の属性が切り替わる場合、バトルエリアだけでなく道中もガラリと画を変えなきゃいけないので苦労しましたね。
――キャラクターアートに関しては、"当初からある設定を活かす"という部分で苦労されたことはありましたか?
大谷:彫像やカードイラストがある神様は、「これが正解」という指標があったので、描きやすくはありました。ただ、逆にそのイメージから外れないように、かつ特別感を出すというのがすごく難しくて……。
たとえばハルオーネですと、イシュガルドに建っている石像のイメージを保ちつつも、そのままだと特別感が足りないのでちょっとした金装飾の派手さをプラスしたり、髪の毛のシルエットを大きくしてカッコよさを出したりと、新たなエッセンスを加えています。
――ハルオーネやノフィカは、かねてから石像やイラストが存在する神様ですからね。逆に具体的なモチーフがない神様はどのように描かれたのでしょうか?
大谷:ゲームコンテンツ班の方からオーダーをいただいて、それを形にしていく感じですね。例えばニメーヤなら"白絹のベールをかぶり、糸車を象徴とした、たおやかな占い師風の妹"といったオーダーで、そこからいろいろと試行錯誤していまの形に落ち着いています。
――たしかに、どこか妹っぽい無邪気さを感じられますね。
大谷:髪をショートカットにしたり、フードを被らせたりして、幼い感じを出しています。ほかの神様は丈の長いスカートを穿いているのですが、占い師風ということでズボンにするとか……そういった調整はすごく苦労しましたね。ちなみにニメーヤは靴に、占星術師のAF4(ウェザード・スースセイヤー装備)を履いていたりします。
ミソロジー・オブ・エオルゼアならではの挑戦とは
――アライアンスレイドシリーズは、新しいアイデアが豊富に盛り込まれていて毎回驚かされるのですが、今回新たにチャレンジしたことや、こだわったポイントなどはありますか?
高梨:アライアンスレイドでは毎回、何かしらのチャレンジをしていますが、今回とくに挑戦となったのは、先ほどもお話しした"画変わり"の部分でしょうか。ボスごとにまったく違うバトルフィールドが展開するのはもちろんなのですが、今回はエリア全体としての見え方を今まで以上に意識する必要がありました。
とくにノフィカ戦のバトルステージは大変でしたね。というのも、プレイヤーが戦闘不能になってスタート地点に戻ったときに、その位置からも戦闘中のステージの変化が全部見えてしまうんですよ。今まではそういうことがなかったのですが、今回はスタート地点からも、バトルステージからも、どこから見ても違和感のないようにするのがすごく大変でした。
――たしかに、ノフィカ戦では技のたびにバトルフィールドの外側の風景も大きく変わりますからね。
高梨:苦労はしましたが、あそこは世界の変化をしっかり見せられたかなと思っています。
――キャラクターアートや3Dモデリング的には、どのような点にこだわり、苦労されましたか?
大谷:『FFXIV』ではボス1体ぶんのコストが細かく決められていて、人型であればそのキャラクター自身と、それに服を着せたらギリギリという感じなんです。そして今回の十二神も通常のボス1体ぶんのコストで作る必要があったのですが、神様はそれぞれ何かしら特徴的な武器を持っていて、発注の時点ですでにコストオーバーという状態で……。
そこで、服の一部分をこれまでのプレイヤー装備から持ってきたりすることで、コストを調整しています。そういった細かい調整の集大成が今回の十二神という感じですね。
糸長:3Dモデルやテクスチャの面では、十二神全体の統一感を出すことに苦労しました。BGのライティングによってもキャラクターの見えかたが変わるため、このシーンでは統一感があるように見えるけれど、別のカットを見ると全員がバラバラな印象で映ってしまう……ということがありました。
"どの場面で見ても十二神としての統一感が出るように"という部分は、今回挑戦したところでもあり、苦労したところでもあります。
また十二神はボスとして登場するものの、エオルゼアの人々から信仰されているアイドルのような存在でもあるので、デザインで特徴的なポイントがあれば、それがより魅力的に見えるようにモデル制作を行いました。
――物語中では、神様それぞれに話しかけることができるシーンもありましたよね。あそこで3Dモデルのアップが見られたのはすごくうれしかったです。
糸長:お見せできて嬉しい反面、内心ひやひやしていました(笑)。神様それぞれがすごくしゃべるシーンなので、違和感がないように気を使いましたね。
――先ほどライティングによって神様の見えかたが変わるというお話がありましたが、BG班としてはどういう流れで調整し、どういったことを意識されていましたか?
高梨:まずはBGにキャラクターを乗せたときに、BG班側でライティングを調整します。そのうえで、ライトの調整だけでは難しいときはキャラモデルを担当された方にテクスチャの調整をお願いする、という形で作業を進めていきました。
ライティングを調整するときに意識したのは、十二神という魅力的なキャラクターたちをよりカッコよく、きれいに見せることです。そのため、普段では設定しないようなライトを足すなど、MoE専用のライティングにしていたりします。
糸長:一方でキャラクター側は、BGがある程度できあがる段階まで待って、全体的なフィードバックをいただいてから最終調整を行っていきます。お互いのチームが何度も打ち合わせるというよりは、それぞれのセクションで自分たちがいいと思うものを作って、それを合体させてからすり合わせを行う感じですね。
――キャラクターについては、さらにシナリオ班や世界設定班ともすり合わせが重要だったかと思いますが、具体的にどのような流れでキャラクターを作っていったのでしょうか?
大谷:十二神の世界設定は当初からある状態だったので、最初からしっかりとした企画書ができあがっていました。そこには今回のストーリーや、神々がこういう性格でこういう武器を持っているといったオーダーがすべて書いてあり、まずはそれに沿ったデザインラフを考えていった形です。
そのラフをもとに3Dモデルやモーション担当の方とやり取りをして、「これだとコストがオーバーする」、「このままだと武器や装飾が身体を貫通してしまう」といった問題点のすり合わせを行ったあとに、清書してお渡しする感じですね。
――たとえばハルオーネですと"槍と盾を持たせるのはマストで"といったようなオーダーがあったのでしょうか。
大谷:ハルオーネは、"槍と盾を持っていて、かつ盾が変形する"というオーダーをいただいていました。実質、武器3本じゃん……と思いましたね(笑)。
――たしかにそうですね(笑)。
糸長:さらに実際の3Dモデルを作る際は、変形する時点で3本どころではなくて、倍くらいの制作量になっちゃうんです(笑)。
――ちなみに、衣装などのカラーリングはどのように決められたのでしょうか? それぞれの紋章などの色から採用した感じでしょうか?
大谷:ハルオーネだったら氷、ラールガーだったら雷といったように、カラーリングは神様の持っている属性からイメージカラーを決めてデザインしていきました。
――ただBGもそのイメージカラーに寄せていく形でしょうから、同化しすぎないように調整するのが難しそうですね。
高梨:そこは苦労したポイントでしたね。とくにバトルステージは同系色にしてしまうとキャラクター自体が沈んでしまうので、ライティングで違いを出すのか、別の差し色を入れてキャラを浮き立たせるのかなどを、各担当スタッフがいろいろと考えました。
とにかく今回のアライアンスレイドは"十二神ありき"のところがあるので、どう美しく見せるかは各担当スタッフが一番考えた部分です。
――キャラクターの姿が決まって、それを3Dモデルに落とし込んでいく段階で、バトルギミックとのすり合わせもあったりするのでしょうか?
糸長:モデルを作る前段階では、バトル側からも「こういう技を出したい」、「こういう動きをさせたいからこのような作りにしてほしい」といった要望をもらってすり合わせを行うのですが、作ってみないとわからないこともかなりあって……。
たとえば体がバラバラに動くような激しい技の場合は、事前に話し合いはするものの、まずは"とりあえず作ってみよう"という感じですね。
――3Dモデルは、ただ立たせればいいのではなく、そこから動かすことを考えないといけないのが大変そうですね。
糸長:モーションをつけてくれる方の作業も後ろに控えていて、その方にもなるべく早い段階でお渡ししないといけないので、なかなか大変ですね……(苦笑)。
開発当初はラールガーのパンツが未実装だった?
――ここからは、各アライアンスレイドのフィールドやキャラクターの具体的なお話をうかがっていきます。まず"輝ける神域 アグライア"ですが、BGに関しては前回のインタビューでかなり詳しくうかがいましたので、今回はキャラクターに関して深掘りしていければと。
アグライアには十二神の中でビエルゴ、ラールガー、アーゼマ、ナルザルが登場しますが、大谷さんと糸長さんはラールガーを担当されたとうかがいました。
大谷:はい。十二神の中で最初にできあがったのがビエルゴだったのですが、ラールガーについてはそのビエルゴの"ギリシャの神々"に近いイメージを踏襲しつつ、すでにあったラールガーの石像をベースに装飾などをプラスしていきました。それに加えて、ゲームコンテンツ班からは「格闘家+魔法使いで、雷を扱う」といった発注もありました。
――ラールガーは隕石や輪のギミックも印象的でした。
大谷:輪から手が出てくるという要素も発注段階からあったので、"雷の神様の巨大な手が出てくる"イメージでデザインをしています。
――3Dモデリングに関してはいかがでしょうか?
糸長:自分が担当したこともあって、すごく思い入れのある1体ですね。大谷さんのお話にもあったように、魔法も使えるし、格闘攻撃もするしで、いろいろな設定が盛り込まれたキャラクターじゃないですか。さらに言えば、十二神でも唯一のおじいちゃんで。
――言われてみるとたしかにそうですね。
糸長:おじいちゃんなのにムキムキで、さらには魔法も使えて、万能な神様なんですよ。ただ、肉体が若々しすぎるとビエルゴと同じような見た目になってしまいますし、戦う順番的にも連続しているので、できるだけ差別化を図るように、筋肉のモデリングや顔の作りには気を使いました。
あとはパンツですね。じつはラールガーのモデルが完成した段階では、パンツを穿いていなくて……(笑)。
――ええ!?
糸長:当然と言えば当然なのですが、最初に設定をいただいたときに下着の項目がなかったんです。ところがモデルを作って実装したら思いのほか動くキャラクターで、技の詠唱中に下半身が露出してしまうんですよ。そこで「あ、しまった! 何も穿かせていない!」と気づいて……。
そこで急遽作ることになったのですが、神様の下着の資料などはなくて、すごく悩んだ結果、ボクサーパンツのような見た目になりました。これは僕自身の想いの力が具現化された形でありますが、僕が空手をやっていたので、格闘技で動きやすい服装やパンツを思い浮かべたときに、こういったボクサーパンツに近い形になるかなと。
さらにラールガーの性格も踏まえて、「たぶんこういう下着を穿いているだろう」と考えて作っていきました。結果、思いのほか皆さんがスクリーンショットでラールガーのパンチラを撮影してくれましたね(笑)。
一同:(爆笑)
糸長:こんなに喜んでいただけるなら、もう少しパンツにコストを割いて作り込んでおけばよかったなと(笑)。
――ラールガー以外にも、アグライア関連のキャラクターで印象的なエピソードなどがありましたら教えてください。
大谷:ナルザルは、合体するという設定は最初からあったのですが、基本は1体として制作が進行していたんです。でも途中で「やっぱり2体ぶんお願いします!」と追加されて、担当者が驚いていました。
――ちなみにキャラクターデザインは、大谷さんを含めて何人の方で十二神を描かれたのでしょうか?
大谷:十二神のアートは、基本3人で担当していて、たまにヘルプでアートリーダーの茂木さん(リードアーティストの茂木雄介氏)に参加いただく感じでした。全体としては、だいたい1人で4体ほどを担当する形でしたね。
十二神という魅力的なキャラクターを引き立たせるために
――では続いて"喜びの神域 エウプロシュネ"についてうかがっていきます。先ほどはノフィカのステージのお話を高梨さんにうかがいましたが、ほかにもこだわった点や苦労された点はありますか?
高梨:ノフィカステージについてはもうひとつ。ノフィカを倒した後は地面が土の状態ではなく、麦畑の状態に戻るようになっています。これは、「ノフィカが消える直前に、ノフィカとプレイヤーが一緒の麦畑で佇んでいる場面を作りたい」という担当者の強いこだわりによるもので、じつは最後の最後でもうひとつフィールドの変化を足した形になります。
――麦畑はノフィカの"豊穣の神"のイメージからでしょうか。
高梨:そうですね。綺麗な麦畑の上にノフィカ様がいるというのが、皆さんが思うようなイメージにぴったりなのではないかと。
――麦畑といえば、スタート直後から見える風景が一面の麦畑で、今までのアライアスレイドにない広がりを感じられました。
高梨:普段ですと、BG的には道中にいろんなものを置きたくなってしまうので、あの広がりはたしかに今まであまりない風景ですね。そこは"中央に神様が立っているだけで絵になる"という、十二神のキャラクターの力によるものかと思います。
――キャラクターとしてのノフィカも、設定イラストが忠実に再現されていて驚きました。
大谷:ノフィカは長嶺さん(コンセプトアーティストの長嶺裕幸氏)が担当しています。イラストを忠実に再現しながらも、さらにキャラクターとして魅力的に描かれていて、さすがだなと思いました。
――ノフィカの次はアルジク&ニメーヤが登場します。こちらのステージも土天ではありますが、ノフィカとはBGが大きく変わりますよね。こちらはどのようなイメージで作られたのでしょうか?
高梨:あそこはまず"世界樹"と"地殻変動"というキーワードがあって、それをどう表現するかについて、いろいろな案を出していきました。最終的には樹の幹によってひとつひとつの地面がせり上がっているという方向性で制作していきました。
ここもノフィカのステージと同様に、ステージ外からも見えてしまうのが1番大変だったところですね。見えるのが1方向だけなら見えない部分を省略することもできるのですが、今回はそういったことができなくて、けっこう苦労しました。
――しかもキャラクターについては、アルジクとニメーヤが2体同時に登場するという……。
大谷:発注も同時期でしたね。ニメーヤは自分が担当したのですが、アルジクを担当していた塚本さん(キャラクターコンセプトアーティストの塚本哲氏)と「今どんなのを描いています?」といったやり取りをしながら作っていきました。
アルジクが紫を基調にしているからニメーヤのカラーにも紫を入れたり、服の模様を共有してもらってベールに同じ模様を入れたりと、一緒に話し合いながら作りました。
――ちなみにニメーヤについては、あのヤンデレ的なセリフもすごく話題になりましたよね。
大谷:自分も実装されるまでセリフは知らなかったんです。実際にプレイして初めて「こんなこと言うんだ!」って、ときめいちゃいました(笑)。
――セリフだけでなく顔からも、どことなくヤンデレっぽい雰囲気が伝わってきます。
大谷:自分がイラストを描くうえで、そういった雰囲気の女性が好きというのが影響しているのかもしれません。結果的にセリフとあわせて、プレイヤーの皆さんが話題に取り上げてくださってよかったです。
――ちなみに糸長さんは、エウプロシュネではどの部分に携わられていたのでしょうか?
糸長:エウプロシュネに関しては、道中のエネミーを担当しています。道中についてはエネミー以上に、背景の変化が注目してほしいポイントですね。
高梨:道中はどこに力を入れるかに悩みましたね。目に見えるすべてを全力で作り込むというのは難しくて……。最終的には、それぞれの神々のテーマやゲームコンテンツ班からのオーダーなどを盛り込んだ結果、場面によってはギミックも多めになっています。
――氷の滑り台の場所はすごく印象的でした。
高梨:あの滑る場所はバトルとバトルのあいだの小休止のようなシーンですから、わりと担当者が好きに作っている部分でもあります。
――続いてハルオーネ戦とメネフィナ戦のBGに関してもうかがわせてください。氷というモチーフは、シヴァ討滅戦やIDのスノークローク大氷壁など、過去のコンテンツでも何度か登場しています。それとの差別化はどう図ったのでしょうか?
高梨:『FFXIV』には、環境の反射を入れることができる特殊なシェーダー(陰影処理のためのプログラム)があります。普段はエーテライトや背景の一部分にしか使用していないのですが、それを初めてマップ全体に対して使ってみたのが、今回のBGになります。
――画面が氷の結晶のようにキラキラしているのは、そのシェーダーによるものなのですね。
高梨:はい。過去のBGとは違った反射が入ったりしているので、今までよりもゴージャスに見えるかなと思います。
――ちなみにハルオーネ戦のバトルフィールドで月が大きくバックに映ってるのは、その次にメネフィナ戦が待っているということを印象付けるためですか?
高梨:じつは氷天全体のイメージとして、ボスの背景に大きい月を描きたかったんです。本当はメネフィナ戦でも月の表現を入れたかったのですが、ギミックで月が使われるため、それとの被りを避けて月はハルオーネ戦のBGで描く形になりました。
一方のメネフィナはかわいらしいキャラクターに寄せるように、BGにも小物を入れたり、一部のライティングでピンクを使ったりしています。ここはキャラクターに合わせて制作した感じですね。
たとえばプレイヤーの皆さんにもすでに気づいていただいていますが、バトルステージの窓の外に雪だるまが覗いていたりしているのも「こういうのがあったらかわいさが引き立つよね」と考えて配置していきました。
――"キャラクター性をより引き立たせるためのBG"というわけですね。
高梨:はい。今回はMoE全編にわたって、"背景を見せる"というよりは"キャラクターを見せる"方向性でBGを制作しています。
――ハルオーネは大谷さんが手掛けられたということですが、どういったことを意識されて描かれたのでしょうか?
大谷:ほかの神様と同様に、イシュガルドなどにある石像のイメージを大事にしながら、特別感を出すようにデザインしていきました。それに加えて先ほどお話ししたように、ゲームコンテンツ班から"武器に変形する盾"という発注があったので、それをコスト内でうまくやりくりをして、派手に変形を表現できるように意識しました。
具体的には盾の裏に剣を隠していて、それが回転して剣に変形するようにしていたのですが、それにあたり剣と盾の装飾を極限までシンプルにしたり、腕や脚をプレイヤー装備から流用したりして、コストを調整しています。
――そう考えると、エウプロシュネはさまざまな要素が盛りだくさんですよね。ひとつのバトルでアルジクとニメーヤが2体同時に出てきますし、ハルオーネの武器は変形しますし、さらに言えばメネフィナ戦もメネフィナとダラガブの2体が登場しますし……。
糸長:キャラ班殺しですね(笑)。
大谷:アート班殺しでもありました(笑)。
インタビュー後編に続く
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