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『即死チート』最終話感想：最後の最後まで最強だった夜霧のブレのなさ。久しぶりに“新しい”と思える感覚を思い出させてくれた作品（ネタバレあり）

文
米澤崇史
公開日時

　2024年3月21日(木)に放送されたTVアニメ『即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。』12話“自分の好きなように力を使えばいいんだよ”の感想記事をお届けします。

【注意】キービジュアルより先のテキストでは、『即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。』12話（最終話）の物語に関する記述が多々あります。そのため本編をご覧になってから読むことを強くオススメします。

因果応報の結末を迎えたシオン。とばっちりのヨウイチはさすがにかわいそう

　あらゆるものを即死させる最強の主人公・夜霧と知千佳の旅を描いてきた『即死チート』もついに最終話。

　11話のラストでは“ガンスリンガー”季世子が篠崎を倒すために生成した殲滅爆弾によって周囲のあらゆるものが消し飛んでしまいました。

　鳳のように、マナから運よく逃げれたクラスメートたちもいたかもしれませんが、この爆弾がトドメになって夜霧たち一行以外は全滅した可能性が高そう。おそらく夜霧たちが無事だったのは、爆弾が生む熱や風といったものをすべて殺すことで、知千佳たちを守ったのでしょうね。

　実は篠崎が、αΩ（夜霧）によって人類が絶滅したあと、人類という種を存続するための新しい人類だったことも判明しましたが、この世界の人類の思考、なかなかに末期のSFしている感があります（人格も含めほぼすべてが機械化された存在は、もう人類と言えるのか）。

　すでにクラスメートの中で生き残りの夜霧たちしかいなかったため、襲いかかって返り討ちにあってしまうものの、数秒の間とはいえ人格以外のユニットの存在が残っていたのは、これまであらゆる不死的な存在が呆気なく殺されていることを考えると、かなりすごいことなのが分かります。とはいえ、その対策が有効だという結果を送ることもできなかったので、これ以上の研究が進められることもなさそうですが。

　その後は当初の作戦通り、花川をオトリにして賢者シオンを誘い出すことに成功。一応知千佳は1話で会っているんですが、夜霧の方はシオンがバスに乗り込んでいた時は熟睡中だったので、最終話にして初めての対面になります。にも関わらず、出会い頭に容赦なく右足首を殺すのは完全に主人公のやることではありません。

　この時のシオンの、恐怖でも怒りでもなく、何が起こったのか純粋に理解できていない様子の堀江由衣さんの演技がまた最高でした。レベルアップによるシオンの自己回復能力も、夜霧の能力相手には当然のことながら機能しません。

　今まで夜霧の能力の大きな弱点は、“加減ができない”と“自分が視認してない殺意がない相手は攻撃できない”の2点だったと思いますが、第2門の解放でその両方が補われ、ほとんど手が付けられない状態になりました。とくにシオンの視界からヨウイチの手足を殺したのは本当にエゲツなく、知千佳ですらドン引きしていた気持ちがよく分かります。

　ヨウイチのためにシオンが夜霧に許しを請いに来たのは意外で、今まで散々サイコパスな面を見せてきたシオンも、本質はやっぱり人間だったんだなと。

　夜霧に完全敗北した後も、復讐心を抱いたり恐怖に震えるでもなく、自分の身体が満足に動かないにも関わらず、即座にヨウイチを助けに行こうとする様子にはちょっと心打たれました。せめて他の人間に対しても、ヨウイチへの10分の1くらいでも思いやる心をもっていれば、違う結末を迎えられていたかもしれませんが、今まで他の命を軽んじてきた報いを受けたというところでしょう。

　ただ、自業自得のシオンはともかく、ヨウイチに関してはほぼとばっちりなので、本作で一番気の毒なキャラクターだったかもしれないなと（シオンに加担していたので、まったく罪がないわけではないですが）。夜霧の能力で殺された以上は、今後二度と手足が動くようになることはないでしょうし、助けてくれるシオンもいないですからね。

　今まで最強として描かれていたシオンがギフトを無効化され、成すすべもなくマナに倒される展開はなかなかインパクトがありました。最後に夜霧の名前を口にしたのには、夜霧への復讐心とマナを止めたいという2つの考えが混じっていたんじゃないかなと。ここでマナが夜霧と出会ないままだった場合、下手するとこの世界全体が壊滅していたかもしれませんから、結果的には賢者としての務めを果たしてくれたのは良かったです。

　今まで好き放題にやってきた悪役だったにも関わらず、アイキャッチでヨウイチに寄り添うシオンの超絶美少女っぷりを見て、退場したことに悲しさを感じてしまうあたり、やっぱり見た目と声の補正ってあまりにも大きいんだなと。

　もっとも、基本サイコだけど恋する相手にだけは一途という要素も結構好みで、もしヒロイン格だったら多分最推しになっていた可能性は高そう。本作のなかでも一番印象に残ったキャラクターかもしれません。

“最初から最強”の主人公を最後まで貫いたのが本作のすごいところ

　Bパートでは、そのシオンすら飲み込んだマナが大暴れし、王都は壊滅状態に。以前に聖王を罠にハメていた大司教が不運にも夜霧と遭遇して即死させられていましたが、「放っておいたらベラベラと壮大なバックボーンを語りだしそう」という花川のツッコミは悪役あるある過ぎて爆笑しました。しかし賢者にしろ剣聖にしろ教会にしろ、この世界はトップに本当にロクなやつがいないですね……。

　そんな花川は花川で、マナと遭遇した際にリュートのときとは対象的に迷いなく夜霧を売って生き残ろうと画策。やっぱりリュートが特別だっただけで、花川自身の内面が成長していたわけではないというのは解釈一致です。マナはアニメに登場した敵の中で間違いなく最強の存在ですが、そんなマナであろうと夜霧の即死スキル相手にはどうしようもありません。

　思い返してみると、これまでの敵の中で夜霧を一番追い込んでいたのは事前に調査と対策をしっかりと重ねたレインで、強くなればなるほど「自分が死ぬはずがない」と無警戒になるので、あっさりと即死させられる傾向があるなと（シオンやマナが顕著ですが）。逆に諒子や花川といったためらいなく相手の強さを認めて土下座できるキャラは生き残っているので、やっぱり謙虚に生きるのって大事だよねと思わされます。

　最後はアグレッサーからもらった超万能ツールにより脱出に成功しましたが、このアグレッサーからもらった装備も影のMVP級の活躍をしていましたね。空を飛ぶのもそうですが、夜霧が苦手とする分野を的確にカバーしていて、これをアグレッサーからもらっていなかったら知千佳が危なかった場面は結構多かったんじゃないかと思います。

　飛行形態時のデザインは、おそらくマントに使った分身体を覆える面積が少なくなったんだと思いますが、いくらかはもこもこさんの趣味が含まれてそう。夜霧に抱きつかれた時の知千佳の悲鳴があまりに芯に迫りすぎいて、富田さんの演技力にも驚かされました。

　最終的には、王様が篠崎に殺された上、マナによって王都はほぼ壊滅、いろいろ問題行動はあるにしろ世界の秩序を維持していた賢者のリーダー格だったシオンは死亡、一緒に召喚されたクラスメートも一部を除いて全滅と、起こった出来事だけを見るとほぼバッドエンドなんですけど、実際の映像にそんな雰囲気は一切なく、むしろ清々しく終わったような気持ちよさがあるのが本作の面白いところ。

　この12話を通して、主人公たち含めてほぼすべてのキャラクターが内面的な成長をせず、主人公が最初から最後まで最強だったという点も含め、一切ブレていないのもすごいんですよね。普通なら、それだとドラマとして成り立たないので、色々なキャラとの出会いを通じて夜霧が成長したり、互角の力をもつ敵を出して多少苦戦する展開を作らざるを得なくなると思いますが、それを全部やらずにストーリーを成り立たせるのって、かなり難しいはず。

　“あらゆるものを即死させる最強の主人公”に似たような設定のアイディアを思いついたとしても、それを形にするのは間違いなく大変です。夜霧のような主人公が他の作品にほぼ存在しないのは、おそらくそういうことだと思うんです。

　本作は決して万人向けではなく、評価は結構分かれるタイプの作品ではあったと思うんですが、めちゃくちゃ独特で唯一無二の魅力をもっていたのは間違いないんじゃないかなと。

　これはオタクあるあるだと思うのですが、たくさん作品に触れれば触れるほど、“新鮮さ”を感じられる機会が減っていく悩みがあったので、「他で見たことがない」という感覚をいだけたのは結構久しぶりでした。とにかくサクサクとテンポよくストーリーが進んでいくのもあって、原作とはまた違った良さがあったかなと。

　エンディングでは、元の世界に帰還するための賢者の石の説明や、鳳の拉致、夜霧を危険視した聖王、新しく仲間に加わったリズリーと、今後の伏線も盛り沢山でした。原作のエピソードはまだまだ残ってますし、いっそ『花川のチートがエロすぎて異世界の娘たちとウッハウハでござる！』のスピンオフでも良いので、いつかアニメ第2期が見れる日が来ることに期待したいですね。

米澤崇史：ロボットアニメとRPG、ギャルゲーを愛するゲームライター。幼少期の勇者シリーズとSDガンダムとの出会いをきっかけに、ロボットアニメにのめり込む。今もっとも欲しいものは、プラモデルとフィギュアを飾るための専用のスペース。

©藤孝剛志/アース・スター エンターテイメント/即死チート製作委員会

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